酉七八十

トリナハト。同性同士の恋愛小説。当面当座投げ銭方式で公開中。Twitter→ @tor…

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トリナハト。同性同士の恋愛小説。当面当座投げ銭方式で公開中。Twitter→ @tori7810

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他人様色

 改めて、オレンジ系のチークは合わないんだなというのが分かった。仕事休みのトイレ休憩、蛍光灯の灯りに照らされた私の顔は昭和のマネキンみたいに古臭い表情を見せていた。 「敷戸さん、またメイク変えた?」  隣で手を洗っていた松谷ルリが鏡の中で視線を合わせてきた。白い顔にピンクのほっぺた。ぱっつん前髪に原宿系?のガチャガチャした色合いの服。齢は私とそう変わらないらしいけど、外見だけなら10歳以上違って見える。 「まあ、はい」  曖昧な愛想笑いをして手に残った水気で適当に髪を撫で付け

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    • 峠の中華(3)

      ※第一話 https://note.mu/tori7810/n/n6b1873657189 ※第二話 https://note.mu/tori7810/n/nc1ea7e23e01f  デッキブラシでコンクリートのたたきを擦りながら、受話器を片手にはしゃぐ原町の不愉快な声をやり過ごす。  いや、原町の声が不愉快なのではない。まだここを離れていない自分に腹が立っているのだ。どうして昨夜のうちに、この町を離れなかったのか。長く居てもいいことなんて起こらないのは分かりきっているの

      • 死ぬのを待ってる志木の家(第一回)

        「もう、本っ当に、何もしたくない」  池袋北口の珈琲専門館・伯爵で水を飲みながら、鯵村マユミはその晩二十一回目の何もしたくない宣言を発した。向かいに座っているのはさっき近くのバーで初めて会った若い女だ。名前も素性もまだ知らない。  女は深夜二時だというのにドリアセットをもぐもぐ食べながら、鯵村の宣言におごそかに頷いた。これも二十一回目。  鯵村は今日付けで派遣の契約が継続されず無職になった。ついでに一緒に暮らしていた男に十条のアパートから追い出され、バカなのでヤケになり、最

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        • ばら色のあなた

           弓削の服を初めて脱がせたときはびっくりした。ミスフィッツのスカルTシャツとカーキのカーゴパンツを剥がしていくと、その下にはきらきらと輝くスリップを着ていたのだ。  胸元と裾に雪の結晶のようなレースが付いていて、手触りはつるつる。ピンクとベージュの中間のような色で、腰骨の位置までふんわりと広がっている。  思わず手を止めてベリーショートの金髪で唇の端にピアスが光る弓削の顔を見上げると、なんだか出来の悪いアイコラのような姿がそこにあった。ぽかんとしていると、弓削は怒ったような

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        • 峠の中華
          3本

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          峠の中華(2)

          ※第一話 https://note.mu/tori7810/n/n6b1873657189  五時半に合わせた目覚ましよりも早く目が覚めてしまい、高瀬は固い布団の上で長いため息を吐いた。  昨夜、半年以上ぶりに夢を見た。ひどい夢だった。淫夢というにはあまりに残虐な、後味の悪い嫌な夢だ。昨夜の男――コウを、手ひどく痛めつけながら犯していた。  あの男に関わってはいけないと、頭の中で警報が鳴る。あれは危ない。今まで数え切れないほどの女や男と遊んできた本能が、そう告げる。  獣の

          峠の中華(2)

          骨と脂

           どんなに痩せている女でも、裸を抱くとふわふわと柔らかい。よく伸びる水気のある皮膚と頼りない筋肉の下に、細い骨がある。  依子はとくに華奢な身体をしていた。今まで寝た女の中で一番細い。正直うらやましかったけど、病気がちなのだと告白されてからはそんな風には思えなくなった。 「あたし、あんまり長生きできねえと思うんだよなあ」  贅肉でせり出した私の腹を揉みながら依子が言う。 「どうする。そっちよりかなり早く死ぬかも」  他の女が言ったらちょっとめんどくさいと思ってしまうこんな

          峠の中華(1)

           ほんの一年前まで、愛や恋で飯を食っていた。もう、夢か悪い冗談にしか思えない。  いま高瀬亨の目の前にあるのは汚れた皿とぼろぼろのスポンジだけだ。昼飯時の混雑が一段落したあとの厨房は、油まみれの食器がうずたかく積みあがっている。その全てを一人で洗って拭くのが主な仕事。日給四千円で、三十八歳の肉体を朝の六時から深夜零時まで働かせる。  人気の無くなったドライブイン食堂の中には古いテレビのひび割れた音声だけが響いていた。何年か前にそこそこヒットしたゴールデンタイムの恋愛ドラマ

          峠の中華(1)

          動かじのメランコリア

          「じゃまでしょう、俺」  それが佐伯の口癖だった。そして実際佐伯は邪魔だった。187センチ102キロの肉体は18平方メートルのアパートに置いておくにはでかすぎて、便所に入らない限り部屋のどこに居ても視界をジャックし続ける。  白いTシャツの背中にマンガみたいな筋肉を浮かび上がらせながら、佐伯は俺の部屋で岩のようにじっとしていた。いつまでいんだよ、とは俺は言わなかった。佐伯は邪魔だったけど、邪魔な佐伯が部屋に転がっている状況がいやじゃなかったのだ。インテリアもくそもない寝るた

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          潮騒のドッペルゲンガー

           自分と同じ顔をした人間を目撃すると、数日後に死んでしまうという伝説がある。子供の頃に何かで読んで、それからずっと覚えていた。 「びっくりしたわ、妹さん。遺影とそっくりなんだもん」  玄関で私の頭に塩を振りながら、母が言った。 「だね。驚いた」 「え、あんた今まで会ったことなかったの」 「学年違うし。ていうか矢崎さんともそんなに仲良くなかったし」 「そういうこと言うもんじゃないよ」  何がそういうことなんだろう。薄紫の紙袋を靴箱の上に置き、私はパンプスを脱いで足の指を動かし

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          潮騒のドッペルゲンガー

          ただいま紹介にあずかりました自己です

          自己紹介的なエントリがあったほうがいいかな? と思ったので書いてみます。 筆名、酉七八十(とりなはと)と申します。職業は文筆業です。商業ルートでは主に王谷晶(おうたにあきら)名義で活動しています。ゲームのシナリオやノベライズ、オリジナル・企画小説、紹介記事など、ジャンルもレイティングもNGなし、ギャラさえいただければ無記名変名別名仮名なんでもウェルカムで手広くやらせてもらっとります。 で、ここnoteは自分がいちばん愛しているジャンル、同性同士の恋愛小説を発表する場として

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           僕にとって永山くんは憧れの人だった。  騒がしいこの男子校生活の中、同い年とは思えないくらい落ち着いていて、真面目だけどおっとりしている永山くんの存在は僕の「安らぎ」だった。  クラス、いや学年でも常にトップの成績を誇っていた彼。それを自慢したりはしなかったけれど、テストの順位が出る度にちょっとはにかんだように笑うその仕草は、どちらかというと体育会系なノリの学内ではけっこう浮いて見えた。そんな所も、僕の憧れだった。  その永山くんが卒業後、留学を考えていると知って僕は少

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          とりあえずアカウントを取ってみたぞ。ボツ原稿とか短編小説とかの放流場所にしたいなあ。

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