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計算は速く、文章題は時間をかけて(算数・数学上達のコツ)

数学が苦手な人にもいろいろなタイプがありますが、類型化すると、計算力のない人は「計算が遅い」、文章題を解けない人は「じっくり考えられない」。

だから、同じ算数・数学でも、初歩の段階では、上達しようと思ったら分野によってやり方をがらっと変えないといけません。

計算問題は速く解く訓練をするほど力がつきます。

文章題(関数や図形の応用問題をふくむ)は逆に、時間をかけて解く人ほど着実に力をつけることができます。

★計算問題

計算は速くすればするほど集中力が増してミスが減ります。
人間の脳はそうなるようにできている。

また、速くしようと思えば、正しい計算のやり方をしないと速くはできませんから、速くしようとすればするほど自然に正しいやり方が身につきます。

百ます計算などが(計算力のアップに関しては)効果的なのは、この原理にのっとっているからです。

だから、家庭や塾で計算練習をするときは、「とにかく速く」を心がけなければいけません。
とりかかったら、中断したり休んだりしてはいけない。
おしゃべりなどはもってのほか、最後の問題をやり終わるまでは、とにかく速く、一気に突っ走る。

そして、ちょっと上達したら、速く計算をするためのテクニックを少しずつ身につけていく。

一番使えるのは「等式の性質」です。

例えば分数をふくむ計算。
計算力のない人ほど後生大事に分数を最後までかかえていく。
計算が速くて正確な人は、分数と見たらさっさと等式の性質を利用して両辺に公倍数をかけて、分数でなくしてから計算をします。

★文章題・応用問題

文章題・応用問題は計算問題とはまったく逆です。

できない人ほど速くしたがる。
どんな問題であっても、計算問題のようにさっさとするのが算数・数学だと思っているから、あるいは賢い人とはなんでもさっさとできる人だと思っているから、ぱっと見てすぐに解き方が思いうかばなかったらキイーッとなってしまう。

賢い人というのは、じっくりと時間をかけて問題を解決できる人のことです。
問題文を解きほぐして、問題を解くのに必要な部分を抽出して、それを式にすることができる人です。

ところで、『下手(へた)の考え、休むに似たり』ということわざがあります。
「下手(へた)な人(=アホな人)が考えている(と思っている)のは、実は考えているのではない、休んでいるのと一緒だ」という意味です。

「時間をかける」というのは、「じいっと考える」ということではありません。
考えるには「道具」が必要です。
何も道具を持たないで「じいっと考える」のは猿でもできる。
人間であれば道具を使って考えないといけません。

まず、問題文中の数値鉛筆囲んでおく
これだけで、応用問題を解けるようになる率は飛躍的に向上します。
人間の脳はそうなるようにできている。

何でも「可視化目に見える形に)」しないといけません。

関数のグラフの問題であれば、式と座標を必ず記入しておく。
図形の問題であれば、問題文に書いてある長さや角度は必ず図に転記しておく。書き込んだことからわかる長さや角度も図に記入する。

「時間をかける」というのは「じいっと考える」のではない、準備(考える道具を手に入れること)に時間をかけろという意味です。

★脳の回路をつなぐという観点から

イチローは、体の反応速度が他の人よりは格段に速いのだそうです。

目で見て、それを感覚神経が大脳に情報として伝えて、大脳が判断を下して、脊髄を経て、運動神経がその判断を筋肉に伝えて、筋肉が動いて体が動きます。
この過程は、情報が、次々と神経細胞のシナプス(神経細胞の結節点)を経て伝達される過程です。

普通の人がA→B→C→D→Eと情報を伝達しているとすると、イチローはA→BCD→Eであって、反応までに要する時間が他の人よりも相当短いのだそうです。
だから、他の人よりはボールがだいぶ自分のほうに近づくまで見極めて反応を始めても間に合うことができるらしい。
イチローがバットをボールにあてる能力に関してずば抜けている理由は、この反応速度の速さにあるのだそうです。

イチローの練習熱心なことは有名です。
人より練習をすることで、イチローはB→C→DをBCDに変えたわけです。

計算問題を解く練習をするときは、とにかく速くやらないといけない、速くやって量をこなさないといけないのは、B→C→DをBCDに変えるためです。

計算問題のA→B→C→D→Eは、簡単で、誰にでも共通です。だから後は、練習してどれだけ反応時間を短くするかが大事なわけです。

また、イチローが自分のバッティングに関して独自の哲学を持っていることは有名です。

「哲学をもっている」とは、最も有効なA→B→C→D→Eを、自分自身がこうすればできるという筋道を、自分の中に確立しているという意味です。

算数・数学の文章問題・応用問題を解くときのA→B→C→D→Eは、計算問題に比べるとずっと複雑で、必要なものが個人個人によって皆違います。

そして、回路A→B→C→D→Eができないうちは、どう頑張ろうと絶対に文章題・応用問題は解けません。

だから、まず最初に自分なりのA→B→C→D→Eを発見し、自分の中に自分のA→B→C→D→Eを確立しておかないといけないのです。

そのためには、あせらずに準備をした上で、じっくりと時間をかけて試行錯誤をしながら、文章題・応用問題を解くためのA→B→C→D→Eを自分の中に作り上げるしか方法はありません。

最初に述べた、一見矛盾しているように思える「計算問題は速く解く訓練をするほど力がつきます。」と、「文章題(関数や図形の応用問題をふくむ)は逆に、時間をかけて解く人ほど着実に力をつけることができます。」とは、決して矛盾してはいないのです。


俊英塾代表。「塾学(じゅくがく)」「学道(がくどう)」の追究がライフワーク。隔月刊誌『塾ジャーナル』に「永遠に未完の塾学」を執筆中。関西私塾教育連盟理事長。