昔あった4チャンネル・ステレオ・レコードを聴く

子供の頃からその存在を知っていつつも体験出来ていなかったオーディオの分野に4チャンネル・ステレオ(Quadraphonic)レコードがあった。40年近い歳月が過ぎ、ふとしたことから自分のパソコンとそれに繋がっている5.1chサラウンド・システムでそれを再生できることに気づき楽しんでいる。この1年弱の間、その様々な音源を聴いたのと、色々分かってきたこともあるのでノートしておきたいと思う。

4チャンネル・ステレオ・レコードは、盤としては旧来のアナログレコードと同じなのだが(なので通常のレコードプレイヤーで再生できる)、そこに収録されている音は特殊処理されていて、四方にスピーカーを配置した専用の4ch再生装置で聴くと通常のステレオよりも広がりが出て、場合によっては、音が空間を飛び交ったりもする。サラウンドを一般に提供した先駆けといえるだろう。60年代末期に発表され、70年代前半に多くの4chレコードがリリースされ盛り上がるか、、、と思ったら70年代後半に入ったら瞬く間に廃れてしまった。理由としては、再生方式が各社で乱立して互換性がなかったのと(SQ,QS,RM,CD-4,EV,DY等・・悲劇的なまでの乱立ぶりであった・・・)、一般家庭では4つもスピーカーを置く場所が無い、というのが大きかったであろう。また、そんなに音が広がらなくても普通のステレオで十分、というのもあったろうと思う。

調べてみると内外で非常に多くの4chレコードが70年代前半をピークにリリースされていたのが確認できる(こちらを参照)。2017年現在、中古で安価、容易に手に入る盤も多い。乱立した再生方式だが、CBS系のSQ方式(広義にはマトリクス方式)と、Victor系のCD-4方式(ディスクリート方式)の2つに大きくは分けられる。前者のSQ方式であれば、その音をパソコンに取り込んでWaveファイルにし、それをフリーのデコード・ソフトで4ch Waveファイルにすることができる(後者のCD-4方式は残念ながらPCではデコードが困難そう)。そしてパソコンで、5.1chサラウンドシステムを組んでいれば、その4ch WaveファイルをWindows Media Playerなどで4chで再生できる。既にパソコンで、5.1chサラウンドシステムを組んである私としては、SQ盤の音源があれば4ch再生できるはず、、、ということで家にあるライブラリからSQ盤を探し出し、実際やってみた所、音が広がってる~!(中には広がってるか??ってのもあるが・・) 音が飛び交う~!となったのである。

その後、ヤフオクや近所のハードオフで漁ったSQ盤(写真)を、4チャンネル再生して楽しんでいる’。いずれも100~1000円、高くても1500円程度の盤だ。私のようにウインドウズPCで5.1chサラウンド・システムを組んでいれば無投資で再生できる。そうでない場合は、投資は必要だが比較的安価にできるのと、DVDなどの5.1chシステムとして普通に使えるということもあるので、ご興味ある方がいれば参考になるかと再生方法を記しておく。

1、Windowsパソコンで、5.1chサラウンドシステムを組む
必要なのは5.1対応オーディオインターフェースと、5.1chアンプ&スピーカー。筆者は5.1対応オーディオインターフェースをこれ5.1chアンプ&スピーカーをこれ、と最も安価なシステムを組んでいる。安いが必要十分な音質と感じている。Windowsデスクトップ機だと既に5.1ch出力が付いている機種もあるのでオーディオインターフェースを買う前に、ご自身のPCを確認されたし。あとWindowsと言っているが、それは項目4で記すフリーのデコードソフトがMac版のものがあるか分からないからである。探せば出てくるかもしれない。

2、4ch SQ盤を手に入れる。中古ショップやネットで探す。手っ取り早いのはヤフオクで「4チャンネル SQ」で検索を掛けてみると結構出てくる。盤も、安いものだと500円程度で手に入る。

3、そのSQ盤を普通のレコードプレイヤーで再生し、ライン録音して2chのWaveファイル化する。或いは、項目2を飛ばして、YoutubeなどにuploadされているSQ盤レコードの音源を、2chのWaveファイルにしたものでもよい。Youtubeで「Quadraphonic SQ」で検索すると結構出てくる(なのでSQ盤やレコードプレイヤーがなくてもとりあえずOK)。当然だがちゃんとライン録音された音質の良いYoutube音源を選ぶ。

4、WindowsのSQデコーダーソフトSQDecodeをインストール。フリーで手に入る。http://bit.ly/2o5pe5A そして3で作成したwavファイルをこのソフトでデコードして4ch wavファイルにする。基本設定は下の画像の通り。デコードには少々時間が掛かる(LP片面分の長さだと10分程度)。


5、デコードした4ch wavファイルをWindows Media PlayerやVLC Media Playerなどの定番再生ソフトで再生する。当然ながら5.1chのうち、Front Middleとサブウーハ―からは音が出てこない(が、低音は普通に出ていると感じる)。

テスト音源としては、YoutubeにあるSQ盤デモ・レコードの音源をデコードして再生するのがベストと感じている↓

この音源では、初っ端から空間を飛び回るトランペットの音があり、四方に歌手や楽器が配置されて演者に囲まれる形で聴こえてくる曲や、広がりのあるロック・バンドやオーケストラのサウンド、、、、といったサラウンド感満点のサンプルが収録されているので、それが確認できれば再生システムとして合格でないかと感じている。リア・スピーカーの置き場所や、自分自身のリスニングポイントを変えたりするのも広がりに影響するので色々試行錯誤すべし。私はいつもこの音源でテストしてから他の音源を聴いている。基本は5.1chと同じこのスピーカー配置→ http://bit.ly/1V9hLra でよいだろうが、私は、リア・スピーカーを自分寄りに置くのがサラウンド感が強く好きである。

Youtubeものも含め色々聴きあさっているが、内容的には「通常ステレオよりは広がりがある」って程度のものから、積極的に音に囲まれているサラウンド感が演出されていたり、時に音が前後左右に飛びかうもの(ChaseのOpen Up Wide、Jeff Beck GroupのIce Cream Cake、Pink FloydのAtom Heart Mother、Walter CarlosのSwitched on Bachなど)まである。SQ方式は、技術的に後方のチャンネル・セパレーションはそれほど良くないので(3dB程度だそう)、セパレーションが完璧な5.1chの音楽DVD作品に比べると大分不利なのだが、それでも頑張っていると感じる作品があるし、一方で、カタログを増やそうと手抜きで4chミックスしただけと思わしき大した広がりのない盤もある。またキャンディーズや山口百恵は、少年時代にTVで見聴きしたくらいで殆ど注目してなかったが、4ch切っ掛けで聴いてみて、特にキャンディーズはボーカルハーモニーやバックの編曲の凝り方が素晴らしく、それが4chで広がりあるサラウンドで聴けて楽しい。

また4ch盤のもう一つの楽しみとして、聴きなれたアルバムであれば、通常盤とMixが結構異なることに気付く場合がある。4ch向けに新たにMixしているので違うのは当然のことではあるが、時に通常Mixでは聴けなかったサウンドが確認できたり、フレーズが異なることがある。極端な場合、ギターソロが全く違う(Deep PurpleのMachine Headの4ch盤収録のMaybe I'm a Leo)、なんてこともある。

因みにこのSQ方式のレコード盤の数々は、通常の2chステレオで再生しても通常盤より少し広がりがある。というのも後方側に定位させる音を位相シフト処理でエンコードしているからで、それが2ch再生されて空間でミックスされるだけでもちょっとしたデコード的なことが起こり広がるのである(これを"位相が回っていて定位が気持ち悪い音"という人も中にはいる)。そんなこともあり、YMOは、1st国内版(米国版ではない)に収録の"Cosmic Surfin"の効果音や、2ndのRydeenの効果音(馬の走るような音)などに、サンスイのQS-1 4chエンコーダーを本来の目的とはちょっと異なる"空間定位エフェクタ―"として使っていたそうだ。上記2曲の音源を持っている方は、普通にステレオで再生しても効果音が広がっていることに着目して聴いてみてほしい。そして実際Cosmic Surfinをデコードして4chで聴いてみたところ、抜群に音が飛びまくっていた。詳細は、https://togetter.com/li/1062569

またYoutubeにアップされたSQ盤の音源でもデコードOKと書いた様に、SQ方式で処理された"音源"であれば媒体は、ステレオ・カセットテープやステレオFM放送でもOKなわけで、実際にSQ版カセットテープや、SQ処理された音源を流すFM番組もあったとのことである。そんな中、CDでもSQ処理された音源が収録されているものがある(4ch再生を売りにしているわけではないので、4chレコード向けにmixとエンコードされた音源がCDに収録されてしまっている、といったほうが良いだろう)。例えばPink Floydの"Works"というベストCDに収録されている楽曲Brain Damage~Eclipseは、SQエンコード処理された4ch Mixバージョンとのことで(wikiより)、買ってデコードして確認してみた所、広がりは勿論、シンセサイザーの音が飛び回ることが確認できた。また通常盤とMix自体結構異なっているので別バージョンとしても楽しむことができた。

今やごく限られた人たちしか聴いていないであろう4チャンネル・レコード。沢山の作品がリリースされたが、普及しなかったし、買った人もどれだけがそれを正しく再生していたかも微妙である(勝手がわからず4つのスピーカーを前方に置いて聴いてた、なんてユーザーも居たそうだ・・・)。そんな音源を、今、それなりに対応した環境で聴いて楽しんでいる。入手した音源からは当時の技術者や音楽製作者たちの新しい音響に対する熱意を感じることがあるし、40年以上の長い年月を置かれたのち「よく僕の耳に入ってきてくれたねぇ」という気持ちにもなる。

参考サイト
4チャンネルステレオ
4chステレオ戦争(元サンスイ開発社員、現オーディオ販売店店主の回想録より)
SQ(Stereo Quadraphonic)
Matrix Decoder技術解説
70年代の4chステレオの研究

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尾上祐一

69年東京生まれ。ギター等の既成楽器からリボンコントローラ、回擦胡などの自作楽器まで演奏。ハイテク~ローテク、古今東西の様々な音と音楽を探求。演奏活動、録音製作をソロからワナナバニ園、サンピンといったバンド・ユニットまで形態、ジャンル問わず盛んに行ってます。
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