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昔あった4チャンネル・ステレオ・レコードを聴く

子供の頃からその存在を知っていつつも体験出来ていなかったオーディオの分野に4チャンネル・ステレオ(Quadraphonic)レコードがあった。40年近い歳月が過ぎ、ふとしたことから自分のパソコンとそれに繋がっている5.1chサラウンド・システムでそれを再生できることに気づき楽しんでいる。この1年弱の間、その様々な音源を聴いたのと、色々分かってきたこともあるのでノートしておきたいと思う。

※2019/11追記 SQ盤ないしQS/RM盤などのマトリクス方式の4チャンネルレコードのPCを使った再生方法に関して、元々はネット上にあったフリーのデコードソフトを使用した方法を記していましたが、それがネット上から削除されしまったため、別な方法の紹介に全面変更し、他の部分も少しだけ改訂しました。

4チャンネルステレオレコードとは

4チャンネル・ステレオ・レコードは、盤としては旧来のアナログレコードと同じなのだが(なので通常のレコードプレイヤーで再生できる)、そこに収録されている音は特殊処理されていて、四方にスピーカーを配置した専用の4ch再生装置で聴くと通常のステレオよりも広がりが出て、場合によっては、音が空間を飛び交ったりもする。サラウンドを一般に提供した先駆けといえるだろう。60年代末期に発表され、70年代前半に多くの4chレコードがリリースされ盛り上がるか、、、と思ったら70年代後半に入ったら瞬く間に廃れてしまった。理由としては、再生方式が各社で乱立して互換性がなかったのと(SQ,QS,RM,CD-4,EV,DY等・・悲劇的なまでの乱立ぶりであった・・・)、一般家庭では4つもスピーカーを置く場所が無い、というのが大きかったであろう。また、そんなに音が広がらなくても普通のステレオで十分、というのもあったろうと思う。調べてみると内外で非常に多くの4chレコードが70年代前半をピークにリリースされていたのが確認できる(こちらを参照)。2017年現在、中古で安価、容易に手に入る盤も多い。乱立した再生方式だが、位相シフトを応用したマトリクス方式(主なものでCBS系のSQ方式 とサンスイが主導したQS/RM方式がある)と、周波数シフトを応用したディスクリート方式(Victor系のCD-4方式など)の2つに大きくは分けられる。

マトリクス方式(SQとQS/RM方式)の音源ならPC環境で5.1chサラウンドシステムがあれば聴ける

パソコンによるPCオーディオ環境で、5.1chサラウンドシステムを組んでいて、かつ前者のマトリクス方式(SQ方式とQS/RM方式)であれば、そのレコード音をWaveファイルやMP3にしパソコンに取り込み、Wikiに記載されているSQ方式の4チャンネルデコード計算式ないしQS/RM方式のデコード計算式をPCにプログラムしたものでそれを信号処理させる方法(Cycling74社のMAX8を使用)でデコードし、4チャンネル再生させることが可能である。(後者のCD-4方式は、原理的に高いサンプリング周波数が必要で私のような48kHzのサンプリング周波数のPCオーディオ環境では残念ながら出来ない) と言うわけで既にパソコンで、5.1chサラウンドシステムを組んである私としては、SQ盤やQS/RM盤の音源があれば4ch再生できるはず、、、ということで家にあるライブラリからSQ盤を探し出し、実際やってみた所、音が広がってる~!(中には広がってるか??ってのもあるが・・) 音が飛び交う~!となったのである。

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その後、ヤフオクや近所のハードオフで漁ったSQ盤やQS盤(写真)を、4チャンネル再生して楽しんでいる。いずれも100~1000円、高くても1500円程度の盤だ。私のようにウインドウズPCで5.1chサラウンド・システムを組んでいれば無投資で再生できる。ご興味ある方がいれば参考になるかと再生方法を記しておく。

PCの5.1chサラウンド環境で聴く方法

ご注意!
以下の方法でWindowsでもMacでも可能な筈だが(私はWindowsでやっている)、デコード・プログラムが貴方の環境で必ず動作する保証はできません。この4チャンネル再生のためだけに新たに5.1chオーディオインターフェースやスピーカーシステムを導入されるのはお勧めしません。あくまで既にPCでDVDなどを5.1chで楽しんでいる方、あるいはこれから5.1chソフトをメイン楽しむ目的でシステムを新規導入される方を前提で以下方法を記します。動作しないなどの問題があっても筆者は対応できません

1、WindowsかMac PCで、5.1chサラウンドシステムを組む
必要なのは5.1対応オーディオインターフェースと、5.1chアンプ&スピーカー。筆者は5.1対応オーディオインターフェースをCreative Sound Blaster X-Fi Surround 5.1 Pro r25.1chアンプ&スピーカーをCreative 5.1ch マルチチャンネル PCスピーカー Inspire T6300、と双方合わせて1万5千円弱の最も安価なシステムを組んでいる。安いが必要十分な音質と感じている。Windowsデスクトップ機だと既に5.1ch出力が付いている機種もあるのでオーディオインターフェースを買う前に、ご自身のPCを確認されたし。

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2、Cycling74社の音声信号処理プログラミング環境MAX(2019年現在はver.8)をダウンロードしてPCにインストールする。
https://cycling74.com/downloads
※今回のように開発されたプログラムパッチをOpenして信号処理するだけであればMAXはフリーで使える。パッチを開発するには有料。

3、次にこちらのzipファイルをダウンロード。


そしてまずその中にある、5_1Ch Output Test.maxpat と言うオーディオ・テストパッチをMAXでOpenし、お手持ちの5.1ch PCオーディオ環境でMAXが正しく動作しているかをテストする。詳細は同梱のreadme.pdfを参照。このテストがうまくいかない場合、残念ながらここであきらめて頂くことになる

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4、4ch SQ盤やQS/RM盤を手に入れる。中古ショップやネットで探す。手っ取り早いのはヤフオクで「4チャンネル SQ」などで検索を掛けてみると結構出てくる。盤も、安いものだと500円程度で手に入る。

5、そのSQ盤やQS/RM盤を普通のレコードプレイヤーで再生し、ICレコーダーやPCでライン録音して2chのWave/MP3オーディオファイルにする。或いは、項目4を飛ばして、YoutubeなどにuploadされているSQ盤レコードの音源を、Wave/MP3オーディオファイルにしたものでもよい。例えばYoutubeで「Quadraphonic SQ」で検索すると結構出てくる(なのでSQ盤やQS/RM盤やレコードプレイヤーがなくてもとりあえずOK)。当然だがちゃんとライン録音された音質の良いYoutube音源を選ぶ。

6、次に本命である4チャンネルデコードのプログラムパッチ(先にダウンロードしたZipファイルに同梱されている) Quadraphonic Decoder V1_0.maxpat をMAXでOpenする。詳細は同梱のreadme.pdfを参照。

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7、SQエンコードないしQS/RMエンコードされた音源のオーディオファイル(Wav / MP3)をOpenし、デコード方式をSQかQSどちらか適正な方を選び再生ボタンを押せば、4チャンネル再生される。4つのレベルメーターが振れて、かつ、四方のスピーカーから音が出てくればOK

テスト音源としては、YoutubeにあるSQ盤デモ・レコードの音源を上記方法で再生するのがベストと感じている↓

この音源では、初っ端から空間を飛び回るトランペットの音(4ch愛好家にはお馴染みのChaseの"Open Up Wide")があり、四方に歌手や楽器が配置されて演者に囲まれる形で聴こえてくる曲や、広がりのあるロック・バンドやオーケストラのサウンド、、、、といったサラウンド感満点のサンプルが収録されているので、それが確認できれば再生システムとして合格でないかと感じている。リア・スピーカーの置き場所や、自分自身のリスニングポイントを変えたりするのも広がりに影響するので色々試行錯誤すべし。私はいつもこの音源でテストしてから他の音源を聴いている。基本は5.1chと同じこのスピーカー配置→ http://bit.ly/1V9hLra でよいだろうが、私は、リア・スピーカーを自分寄りに置くのがサラウンド感が強く好きである。

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様々なマトリクス方式の4chレコードを聴いてみて

Youtubeものも含め色々聴きあさっているが、内容的には「通常ステレオよりは広がりがある」って程度のものから、積極的に音に囲まれているサラウンド感が演出されていたり、時に音が前後左右に飛びかうもの(ChaseのOpen Up Wide、Jeff Beck GroupのIce Cream Cake、Pink FloydのAtom Heart Mother、Walter CarlosのSwitched on Bachなど)まである。中でも秀逸なのがMiles DavisのBitches Brewの4チャンネル盤でディレイエフェクトの掛かったマイルスのトランペットが四方に飛び散ったり、降り注ぐ感じが味わえる。勿論他のプレイヤーの演奏も飛びまくったり空間配置感が強くでており、この作品の複雑なモビールを観ているような抽象的イメージが立体音響で更に際立つ感じで、実に素晴らしいMixである。

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SQ方式は、技術的に後方のチャンネル・セパレーションはそれほど良くないので(3dB程度だそう)、セパレーションが完璧な5.1chの音楽DVD作品に比べると大分不利なのだが、それでもこのマイルスの盤のように素晴らしい立体音響と感じる作品があるし、一方で、カタログを増やそうと手抜きで4chミックスしただけと思わしき大した広がりのない盤もある。因みにマイルスのBitches Brewの4chミックスは、近年SACD盤でもリイッシューされており手に入れて聴いてみたのだが、SACDだとその後方のチャンネルセパレーション問題も解決するので、SQ盤でもかなりな立体音響で楽しめたものの、マスターテープと同じ本来の4チャンネル音響で更なる感動があった。本当にサラウンドで聴くべき作品と感じている。

またキャンディーズや山口百恵は、少年時代にTVで見聴きしたくらいで殆ど注目してなかったが、4ch切っ掛けで聴いてみて、特にキャンディーズはボーカルハーモニーやバックの編曲の凝り方が素晴らしく、それが4chで広がりあるサラウンドで聴けて楽しい。

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また4ch盤のもう一つの楽しみとして、聴きなれたアルバムであれば、通常盤とMixが結構異なることに気付く場合がある。4ch向けに新たにMixしているので違うのは当然のことではあるが、時に通常Mixでは聴けなかったサウンドが確認できたり、フレーズが異なることがある。極端な場合、ギターソロが全く違う(Deep PurpleのMachine Headの4ch盤収録のMaybe I'm a Leo)、なんてこともある。

4chエンコーダーを空間エフェクトとして利用した例

因みにこのSQやQS/RM方式のレコード盤の数々は、通常の2chステレオで再生しても通常盤より少し広がりがある。というのも後方側に定位させる音を位相シフト処理でエンコードしているからで、それが2ch再生されて空間でミックスされるだけでもちょっとしたデコード的なことが起こり広がるのである(これを"位相が回っていて定位が気持ち悪い音"という人も中にはいる)。そんなこともあり、YMOは、1st国内版(米国版ではない)に収録の"Cosmic Surfin"の効果音や、2ndのRydeenの効果音(馬の走るような音)などに、サンスイのQS-1 4chエンコーダーを本来の目的とはちょっと異なる"空間定位エフェクタ―"として使っていたそうだ。上記2曲の音源を持っている方は、普通にステレオで再生しても効果音が広がっていることに着目して聴いてみてほしい。そして実際Cosmic SurfinをQS/RMデコードして4chで聴いてみたところ、抜群に音が飛びまくっていた。詳細はこちらの、YMO1stアルバム(日本mix版)は隠し4chアルバムだった事を確認するを参照いただきたい。

マトリクスエンコード処理された音源であれば媒体は必ずしもレコードである必要は無い

またYoutubeにアップされたSQ盤の"音源"でもデコードOKと書いた様に、SQやQS/RMのマトリクス方式で処理された音源であれば媒体は、ステレオ・カセットテープやステレオFM放送でもOKなわけで、実際にSQ版やQS/RM版のカセットテープや、SQやQS/RM処理された音源を流すFM番組もあったとのことである(こちらを参照)。そんな中、CDでもSQやQS/RM処理された音源が収録されているものがある(こちらを参照。4ch再生を売りにしているわけではないので、4chレコード向けにミックスとエンコードされた音源がCDに収録されてしまっている、といったほうが良いだろう)。例えばPink Floydの"Works"というベストCDに収録されている楽曲Brain Damage~Eclipseは、SQエンコード処理された4ch Mixバージョンとのことで(wikiより)、買ってデコードして確認してみた所、広がりは勿論、シンセサイザーの音が飛び回ることが確認できた。また通常盤とMix自体結構異なっているので別バージョンとしても楽しむことができた。なお、このように通常CDで隠れた4ch盤である(となってしまっている)ケースは幾つか有るようで、こちらにそういった盤の紹介が纏められている。
「隠れ4ch」の定義について
鈴木茂「幻のハックルバック」音源が隠れ4chである事を確認する
Manuel Göttsching‎"Inventions For Electric Guitar"は隠れ4chアルバムである事を発見する


※YMO1stや他の隠れ4ch盤に関しては、上記togetterを纏めた中澤"元花牧スタジオ主人"邦明 様より多くの情報を頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。

最後に

今やごく限られた人たちしか聴いていないであろう4チャンネル・レコード。沢山の作品がリリースされたが、普及しなかったし、買った人もどれだけがそれを正しく再生していたかも微妙である(勝手がわからず4つのスピーカーを前方に置いて聴いてた、なんてユーザーも居たそうだ・・・)。そんな音源を、今、それなりに対応した環境で聴いて楽しんでいる。入手した音源からは当時の技術者や音楽製作者たちの新しい音響に対する熱意を感じることがあるし、40年以上の長い年月を置かれたのち「よく僕の耳に入ってきてくれたねぇ」という気持ちにもなる。

参考サイト

4チャンネルステレオ
4chステレオ戦争(元サンスイ開発社員、現オーディオ販売店店主の回想録より)
SQ(Stereo Quadraphonic) wikipedia
QS Regular Matrix wikipedia
Matrix Decoder技術解説
70年代の4chステレオの研究

Quadraphonic Discography - POPULAR RECORDINGS
Quadraphonic Discography - CLASSICAL RECORDINGS
Quadraphonic Popular Asian Market Recordings
Quadraphonic Compact Disc
Quadraphonic Radio Discography - QUADRAPHONIC BROADCASTS

4ちゃんねらーへの誘い
YMO1stアルバム(日本mix版)は隠し4chアルバムだった事を確認する
「隠れ4ch」の定義について
鈴木茂「幻のハックルバック」音源が隠れ4chである事を確認する
Manuel Göttsching‎"Inventions For Electric Guitar"は隠れ4chアルバムである事を発見する


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