見出し画像

オーディオビジュアル徒然草 #5     映画鑑賞という時間をぜいたくに楽しめる特別な映画館109CINEMAS PREIMUM SHINJUKUに行ってきました


映画好きが求める極上の映画体験を提供したい

映画好きな人ならば「109CINEMAS PREMIUM SHINJUKU」のことを知っているだろう。あの「新宿ミラノ座」があった新宿東急文化会館(閉館当時の名称は新宿TOKYU MILANO)のあった場所に建てられた「東急歌舞伎町タワー」の9階と10階にある映画館だ。以前、とある映画館の設備や音響を体験しその印象を書かせてもらったことがあるが、その記事を読んだ109CINEMASの方からお誘いを受け、109CINEMAS PREMIUM SHINJUKUでの無料招待での映画館体験をレポートさせてもらった。

この映画館の一番の特徴は全席プレミアムシート、音楽家・坂本龍一氏が全シアターの音響を監修した「SAION -SR EDITION-」の優れた音響システムを採用したことなど、まさにプレミアムな映画館であること。鑑賞料金が6500円(CLASS S)、4500円(CLASS A)となっていることも話題になった。

鑑賞料金が高価だと感じる人が多いのは仕方がないところだろう。しかし、最近の映画館の多くはプレミアムシートを用意した映画館も増えていて、大ヒット作品のロードショー開始直後などの客席が満席となるような上映の場合にはプレミアムシートがまず先に予約が埋まってしまう傾向があると感じている。この理由は大好きな映画を見るとき、隣の席の人とのトラブルが少なからず起きているためというのもあるだろう。プレミアムシートは席と席の間の間隔が十分に保たれていて荷物などを置くスペースも十分あるので、隣席の人に迷惑をかけることもなくじっくりと映画に集中できる良さがある。こうしたプレミアムシートはどこも割増料金となるが周囲の人に煩わされることなく映画を楽しみたい人ならば料金を惜しまないという人は少なくないだろう。

そして、今の映画館ではIMAXやドルビーシネマといった最新鋭の映像と音響で映画を楽しめるシアターも増えてきていてIMAXやドルビーシネマは割増し料金となっているが、通常上映よりもIMAXやドルビーシネマでの鑑賞をする人の方が多い傾向があると感じている。これに合わせて、人気の高い映画館は音響装置や上映システムによりコストをかけ、より上質な映像と音を提供できるようにしたシアターが増えている。こうすることで他の映画館と差別化して集客を高めるわけだが、映画好きな人にはおおむね好意的に受け入れられているように思う。これに合わせて映画館内で飲み物などを購入すると考えると、案外映画館で映画を見るのにはお金がかかる。

こうした映画鑑賞という楽しみを特別なものにしたいという想いから、109CINEMAS PREMIUM SHINJUKUは生まれた。シアターだけでなく映画館を含めて世界中の映画館を調べて109CINEMASが目指す質の高い映画体験を提供できるものを追求した結果、他には例のない特別な映画館になったそうだ。

エントランスからして、普通の映画館とはひと味違う

109CINEMAS PREMIUM SHINJUKUのエントランス

東急歌舞伎町タワーに入り、目的のシアターがある10階に到着してちょっと戸惑った。映画館の気配がしない。どちらかというとホテルのエントランスのようだ。平日の午前11時からの上映なので人が少ないのは当然だが、あまりにも雰囲気が違う。落ち着いて周囲を見回すと、109CINEMASの名称もあるしチケット購入機などもある。

2台だけあるチケット購入機

109CINEMAS PREMIUM SHINJUKUでは、上映時間の1時間前からラウンジへ入場できる。入場するときには購入時にメールなどで送られる入場券のQRコードを使う。チケット購入機を使う必要は無い。上映までの時間を過ごせるラウンジはまさにホテルのラウンジのようで、落ち着いた雰囲気で映画が始まるまでのひとときを過ごせる。なお、ドリンクやポップコーンなどの軽食は無料(鑑賞料金に含まれている)。さらにはアルコール飲料や料理などを提供するバーもある(こちらは有料)。

10階ラウンジの一角。質の高い調度品が置かれている。
ラウンジのエリアごとに異なるデザインの空間となっている。
季節に合わせてクリスマスムードのデコレーションもあった。
アルコールも提供される「THE BAR」もある。

ラウンジ内に流れている落ち着いたムードの音楽は、坂本龍一氏によるもの。このほかに上映開始前のチャイムなども坂本龍一氏が手掛けているという。感心したのは、入場開始を告げるアナウンスなどがないこと。チャイムとともにラウンジ内の照明が暗くなり上映が行われるシアターの入り口がライトアップされる。場内放送などではなく照明と音楽で入場開始を告げる粋な演出だ。もちろん、ラウンジ内にある大型のディスプレイでは入場開始となるシアターの番号と場内地図がきちんと表示されるので、入場開始に気付かなかったということはない。

シアターの入り口付近。映画のチラシなどが置かれている。
シアター8の入り口付近。

シアター内の作りも上質。全席プレミアムシートの客席は壮観

シアター5の入り口。小さめのシアターで席数も少なめ。

チャイムとともにいよいよシアターに入場。今回はシアター5で「ボヘミアン・ラプソディ」を鑑賞させていただいた。109CINAMAS PREMIUM SHINJUKUには合計8つのシアターがあり、シアター1~4が9階、シアター5~10が10階となる。それぞれインテリアにも違いがあるラウンジがあるので何度も足を運ぶ楽しみもある。各シアターは大きさや席数にも違いがあり、シアター3はドルビーアトモス対応、シアター6は正面だけでなく左右の壁にもスクリーンがあるスクリーンX対応、シアター8は往年の映画ファンにはうれしい35mmフィルム上映にも対応となっている。

シアター5はそのなかでは小さめのもの。ラウンジ内もすでに静かだったがシアター内はさらに静かだ。一番乗りで誰もいなかったので両手をパチンと叩いてみると、残響は短め。多くの映画館と同じように残響時間は短く設計されていると思うが、録音用のスタジオ内のような緊張を強いる静けさではなく、居心地のよい静けさだ。まだ誰も居なかったので、拍手をしたり少し大きめに声を出してみたりしたが残響は短めで声が変に反響するような不自然さもない。

シアター5の座席を眺めたところ。シートが大きく間隔も広い。

ぼくはホームシアターのための機材の紹介をする仕事をしているので、よくできた映画館ではホームシアターの参考になることを探してしまうが、残響が短めなのに適度な快適さのある室内の響きはホームシアターのお手本になると思った。そんな気持ちのよい静かな空間を作っている理由のひとつが壁面の処理だ。壁面はほぼ吸音面でクッションのような少し柔らかい素材となっている。その上に仕上げ処理として10cmほどの間隔でひだをつくって折り返した生地が貼られている。そのため、壁面は平らではなくわずかではあるが波のような段差がある。これは面白い処理で生地だから吸音性がさらに高まるし、微妙な段差のおかげで音が拡散する効果も期待できる。見た目のデザインも優れているしなかなか機能的な吸音処理だ。シアター内を見ていて気付いたのはこれだけだが、詳しく見ていくともっといろいろな工夫があるように思う。

シアター5の壁面。ちょっとわかりにくいが生地を折ってひだを作っている。

なお、この壁の処理はすべてのシアターが共通ではなく、シアターによって異なる反射・拡散処理をしているところもあるようだ。

そして重要なのはプレミアムシート。クラスSのシートはシートごとに独立していてシートとシートの間に空間がある。また、隣の席が見えづらいように両サイドに壁のような仕切りもある。この仕切りは他のプレミアムシートでも見たことがあるが、席に着くと隣席の様子が遮蔽されて見えないので隣の人の動きが気になることもない。ただし、壁に囲まれているような状態でもあるので不要な音の反射が増えてしまうといった声もある。その点も抜かりはない。仕切りのための壁には厚手のクッション材が張られていて十分な吸音性がある。予告編が始まったときに壁より前に身を乗り出したり、シートに深く座ったりを繰り返して確認してみたが不要な音の反射が増えるようなことはなかった。仕切りとなる板の間隔も十分に広く、また席数も少ないので影響はほとんどない。

クラスSのシート。座席の両側に肘掛けを兼ねた広めのスペースがある。

シートのサイズは大柄な男性でも十分にゆったりと吸われる座面の大きなもので、厚手のクッションも適度な腰がありここちよく座れてしかもお尻が痛くなるようなこともない。かなり高級なシートだ。しかも両手を置くスペースは両側に十分な幅があるのでちょっとした小物を置いておくスペースとしても使える。そしてこのスペースの下部は荷物を収納することが可能。さらにクラスSのシートだけの装備として携帯電話などの充電ができるコンセントまである。

クラスAのシート。こちらの隣席との間隔は十分に広い。

クラスAのシートは隣の席と結合しているタイプだがシート自体のサイズはほぼ同じくらいで、両手を置くスペースも十分に確保されている。こちらはほんのわずかな仕切りの板があるが頭部まで伸びた大きなものではない。クラスSのものと比べれば違いはあるがクラスAの席も立派なプレミアムシートとして満足できるものだ。

最後に一番のポイントであるスピーカー。フロントスピーカーやセンタースピーカーはスクリーンの奥にあって見えず、両側の壁面の高めの位置にサラウンドスピーカー、シアターの奥の壁にサラウンドバックスピーカーがある。これらのスピーカーは、イースタンサウンドファクトリーというメーカーのものが統一して使用されている。シアター環境に合わせてカスタムメイドされているそうだ。さらにサウンドプロセッサーは「Q-sys」を採用し上映する作品に合わせて最適な調整を行っているという。

壁面にあるサラウンドスピーカー。室内が暗くピンボケ気味ですみません。

さらに坂本龍一氏監修によるSR EDITIONでは、スピーカーだけでなくLina Reserch社の最高品質のアンプ、特注のスピーカーケーブルなどを使用するなど徹底して音にこだわっている。冒頭でも触れたように音質にこだわったシアターはどんどん増えてきているが、それらのなかでももっとも高音質を目指したという意気込みにふさわしいものとなっている。

「ボヘミアン・ラプソディ」を見てみる。クリアーなサウンド、情報量の豊かさに驚いた

いよいよ上映だ。映画館だけでなく自宅でも何度となく見ている「ボヘミアン・ラプソディ」だが、さすがに格別な映画サウンドだった。一番の感想は耳元まで声が届くこと。ストーリーを理解するうえでもセリフは一番重要と言っていい。当然、一般的な映画館でも劇場内のどこに座っても声は聞こえる。だが、ここでの声(セリフや歌声)はBGMや効果音などのその他の音の要素よりもはっきりと聴こえるし、劇場内の中央やや後方寄りのクラスSの席まではっきりと届く。極端に言えば耳元でしゃべっているような実体感のある声がなのだ。

声が明瞭に届くから感情も伝わる。序盤のクイーン誕生の物語、工夫を凝らして自分たちの音を作り上げていった自主制作アルバムのレコーディング、そしてデビュー。彼らの物語が心に響く。

次に感じたのは細かな音やサラウンドによる音の空間感や音場などの再現が大きな劇場とは思えないくらい精密だったこと。たとえば自主制作アルバムのレコーディングでクライマックスでの長いシャウトを「ここは声を左右に振り分けよう」と言ってミキサーで調整する。きちんと高く伸びる声が右へ左へと移動するのがわかる。各地でのライブコンサートや車での移動など、場面が変わればその場の広さや狭さがきちんと感じ取れる。

正直言うと、こうした細かな音やサラウンドの空間再現などはホームシアターの方が得意とさえ思っている。劇場では広いサイズの空間のどこでもきちんと音が聴けるように調整するため、どうしても音のフォーカスは甘くなる。迫力のある大音量を出すため細かい音は埋もれて聴こえにくくなりがちだ。ホームシアターならば聴く人は一人か二人、数人といった規模なのでそのエリアに合わせてフォーカスを絞ることができる。だからサラウンドの空間感や音の移動もよくわかる。そして部屋は劇場のように大きくないのでスピーカーとの距離が近く大音量でなくても細かい音まできちんと聴こえる。劇場とホームシアターは部屋のサイズからして異なるが、そのぶんそれぞれ得意な分野も苦手な分野もあるのだ。

だが、このシアターで聴いた音はホームシアターとしてもかなり優秀なレベルで細かい音まで明瞭だし、サラウンドの空間感やライブステージの演奏と大勢の観客の熱狂が存分に味わえる。109CINEMASの好意でクラスSの席でしかもシアターの真ん中という最良の席を提供していただいたし、平日の午前中のため観客は自分を含めて数人だったため、より良好に感じたのかもしれない。しかしながら小さめといっても70席あるシアター5でここまで緻密な音を体験できるとは思わなかった。

肝心の音質は一般的なホームシアターとはひと味違う正統派のHiFi志向。低音はローエンドまでしっかりと出ているがどちらかと言えばタイトだ。アクション映画では迫力や力強さがやや足りないとも思ったがこれは作品に合わせた調整なのだろう。極上のオーディオ機器で聴いているような情報量豊かでクリアーなサウンドだ。映画というより純粋な音楽再生のために優れたステレオ再生の音を追求している人だと、映画館の音はあまりお手本にならないという人もいる。映画的な迫力のある音と原音忠実な音楽再生ではやや方向性は異なる。だが、この映画館の音はホームシアターにこだわる人だけでなくステレオ再生にこだわる人でもお手本になると感じた。上質かつ繊細だが映画の迫力あるエネルギーもしっかりと出すし、細かな音が埋もれない明瞭度とサラウンドの包囲感と空間の再現は見事。さすがは坂本龍一氏の監修だと思った。音楽家であり自らのコンサートなども行う一方で数多くの映画音楽も手掛けている坂本龍一氏だけに、音楽を聴くためのコンサートホールでの音、映画のための劇場の音、そのどちらもわかっているのだろう。両方をよく知っている人ならではの絶妙なバランスだと感じた。

この作品自体が音質の点でもかなり優秀だが、そのほぼすべてを満足できる映画館は決して多くはない。エネルギーたっぷりの大音量なのに耳が痛くならないとか、音量で疲れてしまうようなこともない。むしろずっと聴いていたくなるような心地良ささえある。この広い空間にきちんと音を届けつつ、ここまで上質に仕上げたのはまさに見事な仕事だ。

クライマックスのライブエイドのコンサートはまさに涙が出るほど感動的だ。クイーンの本物のメンバーかと勘違いするような演奏はもちろん、スタジアムを満たした観衆の熱狂まで伝わる。フレディとともに歌う観衆の合唱が前後左右からあふれるなか、演奏がくっきりと浮かび上がる様子もまさにスタジアムに居る感覚。まさに大満足のサウンドだった。

毎回通うのは無理でも、大事な映画はここで見たい。そう感じるプレミアムな映画体験

最初に紹介した通り、鑑賞料金は決して安くはない。ドリンクやポップコーン(こちらも美味)も価格も含まれていることなどを考えると、IMAXやドルビーシネマなどでプレミアムシートを選びドリンク類まで頼むことを考えるとさほど大きな出費ではないとも言えるのだが、映画好きな人でもそうそういつも通うわけにはいかないだろう。だが、自宅でもホームシアターで映画を見ているような人ならば一度は行ってみてほしい。きっといろいろなことが参考になるはず。ぼく自身も今後「これは!」と思える大好きな映画は109CINEMAS PREMIUM SHINJUKUで見ようと思っている。

あまりにもハイソサエティーな空間なので気後れしてしまう人もいるかもしれない。ご安心くださいドレスコードはありません。こういう高級な映画館はそれなりのお金持ちが恋人や奥様と行くのが普通で、一人で行く人なんていないかも。自分もそこが心配になって聞いてみたが、お客さんの半数くらいは一人で見に来る人だそうだ。決して自分には縁の無い上流社会などと思って気後れしてしまうことはない。映画を存分に楽しみたい人のための劇場だ。興味を持った人はぜひ一度体験してみてほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?