「後悔」五つの感情・その一 谷川俊太郎

あのときああすればよかったと

そんなやくざな仮定法があるばっかりに

言葉で過去を消そうとするけれど

目前の人っ子ひとりいない波打際は

目をつむっても消え去りはしない

せめて上手に後悔しようと

過去を苦い教訓に未来を夢見る事は

あの日のあなたのかけがえのない

こわれやすい愛らしさを裏切ることになる

くり返す波の教えるのは

ただの一度も本当のくり返しは無いという事

けもののように言葉をもたなかったら

このさびしい今のひろがりを

無心に吠えながら耐える事もできようものを

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