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引用

桂子は俗に言う「お高く止まっている」女の一種の如く見えるので、甘いものに蟻が集まってくるようにそのまわりに男が集まるとか男たちに「もてる」ということがない。
その男たちの誰かと付き合って簡単に恋愛関係に陥ったりする「愚行」とも縁がないのである。
つまり男に愛される「可愛い女」とは正反対の女であって、本人もそれでいいと思っている。
「自分に相応しくない下らない男にもてたところでどうなるか」というわけである。
喩えて言えば桂子は自分を高級品と心得て、心中で相当な金額の正札を付けている。
その自分の値打ちを正当に評価して、相応の金額で買ってくれる客になら自分を売ろうと考えている。
自分の値打ちがわかりそうもない客、高そうなことに劣等感を抱きながら物欲しげにうろうろしている客、金はありそうでも人品卑しい客、恋愛目当ての、つまりは冷やかしの客、これらに桂子は目もくれないでケースの中で毅然として輝いているわけである。

倉橋由美子『城の中の城』あとがきより

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