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父の誕生日に思う

私の父はとても真面目な人だ。典型的な日本人サラリーマンで、新卒から定年まで同じ会社を勤め上げた。

部署移動で人事になり、リストラをしなければいけない立場になった時、鬱になった。

発病には、母が気が付いた。いつも家事を積極的に手伝い座る暇もないほど働き者の父が、急にテレビを見ながらソファーに横たわるだけになったからだ。
食も細りどんどん痩せていった。それでも父は会社に1日も休まず通い続けた。

私がフランスにいた2年間、父の鬱はかなり悪い状態だった。ただ早い段階で心療内科にかかったのが良かったのか、そこまで病気は長引かなかった。
帰国直前、「お父さんが、やっと薬なしでも生活できるようになった」と母から連絡がきた。

「あなたが帰る前にフランスに行くわ」と言って両親揃って遊びにきてくれた。1年半ぶりに見た父の顔は黄土色で、どれだけそれが壮絶な戦いだったのかが想像出来た。

父はとても優しい人だ。私は父ほど思いやりのある人をいまだかつて見た事がない。母もいつもこう言っている。「生まれ変わっても絶対にお父さんと結婚したい」ごくごく真面目な顔で。

とても穏やかで、怒ったところは一度だけしか見た事がない。その一度とは、子供の頃に妹と喧嘩をし「○○の馬鹿!死んじゃえ!」と私が罵声を浴びせた時だった。

若い頃、ストーカーに半年間毎日駅で待ち伏せされ、私の自転車に並走されていた時はその車を追いかけ、窓をバンバン叩き「うちの娘に何するんだ!」と言ってくれた。

海外に4年ほど一人で住みたいと両親に言った時、母に猛反対された。そんな時も父は言った。「好きなようにやらせてあげなさい。カナの人生なんだから」

昨日は父の誕生日だった。その日は一日忙しく、夜になってようやく父にLINEした。

「お父さん、お誕生日おめでとう。お父さんは私にとって世界で一番優しい人です」

書きながら思った。あと何回、誕生日にメッセージを送れるんだろう。

すぐに父から返事が返ってきた。

「有難う。でも、父親としては世界で2番目に優しい人になりたいです」

おめでとう、おとうさん。ずっとずっと長生きしてね。


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