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「金に成る」ことのできない歩兵たち

駅前のロータリーには溢れていた。人が。車が。建物が。

おしゃれな帽子やアクセサリーをした大学生のカップルが、手を絡めながら歩いている。怒ってるのか荒い声で電話をしている中年の中国人。ネクタイの結び目が汚いのは新社会人なのであろうか、上司らしき人に戸惑うような顔でついていく男性。ブロックの端に座る女性はスーツケースを脇に置いているが、どこからやってきたのだろう。

せわしなく動いている。都市のエネルギーは華やかで、そして、いびつだ。

そんな活気と様々な人に満ちた街の中で、異質な空間があった。


白髪頭で、汚ならしい格好をしたおじいちゃんが2人いた。

彼らはいわばホームレスなのであろう。おじいちゃん達は道路にダンボールを敷いて寝っ転がっていた

当然のことながら、ホームレスおじいちゃんの前を、彼らがこの世に存在しないかのように視界から消して女子大生やサラリーマンは過ぎていく。または時々蔑んだ目で一瞬チラ見した後、目を切って歩き過ぎる。

ふとすると、僕は心がムズムズしていた。

なんだか怖いと思った。なぜかはわからない振りをした。

・・・・・・・・・

なにも変われていない。前に進めない。グルグルしている。いつまでも同じところを行ったり来たりしている。

周りの友達や出会った人たちは、どんどん先に進んで次の世界に飛び込んでいるのに。取り残される。追いつける気がしない。がんばらないといけないのにいつまでここに立ち止まっているんだ。

平凡な人間になどなりたくないと節に思っていたのに、その「普通」にすら届かないのではないか。いやこのままだと確実にそうなる。

もしも自分が落ちぶれたとき、友達は今までと変わらずに僕に接してくれるのだろうか。

まるで生きていないような毎日を過ごしていくのだろうか。

怖い。

疲れ果てたサラリーマンや朽ちていく老人に怒りや悲しみを覚えてくるのは、僕の未来と重なって見えるから。そんなのは当の昔からわかっていたんだ。


僕はたまに無為に考え事をしながら街を歩き回る。できるだけ雑多な都会の街で。

今日も散々歩き回ったあげく、残ったのはやはり虚しさだけだった。

もう疲れた、帰ろう。

・・・・・・・・・

再び駅前にやってきた。

さっきのダンボールのおじいちゃんたちはそこにいた。

だか今度はおじいちゃん達は身体を起こして座り込んでいた。周りにはダンボールで壁を築かれていた。風への対策だろうか。

2人は互いに向き合って、背中を丸めている。なにかしているみたいだ。

何をしているのだろう?

遠くからのぞき込んでみると、信じられない光景があった。


将棋盤であった


手を顎に当て、真剣な表情で次の一手考え込んでいる。

おじいちゃん達は路上のダンボールの上で将棋をしていた。

彼らは一切笑ってはいなかった。通り過ぎる人々の視線など吹き飛ばすくらいに集中している。熱中している。おじいちゃん達はなんだか楽しそうに見えた。生きている実感があったように見えた。


きっと彼らの毎日な苦しい。もう救われることのないのに、生き続けなければならない、ただ生きていくというのはどんなに辛いことか。もしかしたら家族はいないかもしれない、もしくは友達に見捨てられているかもしれない。社会から無価値と言われてしまいそうな人間だ。

なのに、、

僕はなんだか急にもどかしくなってきた。

いつのまにか逃げるように早足で歩き出した。


避難先は目の前にあったセブンイレブンだった。棚にあるジュースを取る振りをしていたのだけど、ガラスケースに映った僕は泣きそうになっていた。



世界の盤の上で、僕らは一歩ずつしか進めない。

僕らは飛車角のような特別な存在になれなかった。

前に一歩ずつ進むことしかできない、歩兵だ。

そして、一歩ずつ進んでその努力が将来「金に成る」ことに繋がっていると信じている。「金に成る」というのは、「Gold」のように輝く存在になるということでも、現実的に「Moneyになる」ということでもある。

でも実際、そこまでたどり着けない人がたくさんいる。いつまでたっても輝けもしないしお金も手に入らない。

ホームレスのおじいちゃんは「金に成る」ことはできなかった歩兵たちなのであろう。

そんな捨て駒みたいな人生など悲しいと今までずっと思ってた。

だから負けないようにがんばろうと思ってきた。

だけども、

おじいちゃんたちは笑顔ではなかったけども、なんだ生きているよう実感のまだ残っているように見えたんだ。

「金に成る」ことができなくとも、それは不幸なことでもないように少しだけ思えたんだ少しだけ希望が持てたんだ。


だから、

もしこの先何度も失敗しようとも、ボロボロに朽ち果てそうになっても、社会に捨てられたとしても。

大丈夫。どんなになったとしてもきっと僕らは生きていける。恐れることなんてないんだ。

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