望月あきらのデビュー作

初出:図書の家の「この漫画を今日は読もう」/『漫画の手帖』62号 2011.12.10発行

 いきなりですが、『漫画の手帖』読者のみなさまにおたずねです。望月あきらのデビュー作の現物をお持ちの方をご存じないでしょうか?

 望月先生といえば少女漫画「すきすきビッキ先生」(’64-66)、そして「サインはV!」(原作は神保史郎・’68-70)、その後は「ゆうひが丘の総理大臣」(’78-80)ほか少年、青年誌での代表作も多数あり。今さらデビュー作でなにか疑問が?っていうくらいの大先生ですが、1957年日の丸文庫(光伸書房)からデビューとなっている作品タイトルの表記が、実は3種類もありまして。

 ちなみに「聡明活殺剣(そうめいかっさつけん)」としている資料が7冊(※1)。また「黎明活殺剣」としているのが『現代漫画博物館』(’06)。そして90年代に望月先生が仏教マンガの絵を多数担当された、すずき出版の公式サイトでは、総理大臣の「総」表記の「総明活殺剣」。

 どれが正しいかというと、10年ほど前に行われた〈とある座談会〉でのご本人の証言によれば、すずき出版プロフィールで掲載されている「総明活殺剣」なのだそうです。これまで「聡明」表記が多いのは、日本漫画家協会が編纂に協力した『日本漫画家名鑑500』の内容が参照され続けたことに寄るのでしょうが、しかし、なぜこんなにいろんな表記があるままなのでしょうか。それで書影をしつこく探し続けたのですが、どの資料にも掲載無し。じゃあ現物をと思っても、国会図書館にも現代マンガ図書館にも大阪国際児童文学館にも所蔵無し。

 こういう手に余る状況の時に頼りになるのは、貸本コレクターである想田四さんなのですが、さっそく彼のご厚意で「日の丸文庫」を調べてもらったところ、信頼できる高木宏さんの貸本資料でも現物未確認的な記載とのことでした。更に、これまでの『まんだらけZENBU』に掲載された日の丸文庫の書影をざっと見てくださってもやっぱり無い。それで、望月先生とご縁の深い佐藤まさあき先生の自伝『「劇画の星」をめざして』(’96)をあたってくださったら、その記述から、望月先生が描き上げた1作目は、出版社の倒産騒動の渦中にあって本として出版されなかったかも?という疑惑が浮上したのでした。それが本当なら、その本はなるほど、参照できないのも道理です。という事情で、冒頭のおたずねとなりました。この幻の『総明活殺剣』の単行本をお持ちの方がいらしたら、ぜひとも『漫画の手帖』事務局さんにご一報くださいませんか。お願いいたします。

 で、なぜこんなに一所懸命に細かいことをいま調べているのかというと、この夏から本格的に〈とある本〉の制作を手伝っていまして、必要にせまられて、いわゆる黎明期に活躍された少女漫画家さんたちのデビュー作あたりの調査をしているのですね。だってせっかくならその本に、これまであまり目にふれることがなかった書影や図版を入れたいと思うのがファンの気持ちです。しかし、1960年以前の貸本や雑誌のデビュー作となると、探せる場所もとても限られていて、作品ひとつを探索するにも時間ばかり過ぎていきます。ふぅ……。

  ということで、あまりにも捜索の難易度が高いデビュー作はちょっと置いておき、望月先生が大阪から東京へ移られてからの作品を追いかけようとしましたが、望月あきら作品リストの存在も無し(既にどなたか作成されていたら、これもぜひ教えてください)。じゃあ自前で作るか?と、頑張ってみたものの、手持ちの資料やネット検索ではかなりの隙間だらけ。(※2)

 ……で、また当方の困った状況を見かねて、情け深い想田さん(以下同文)が更にお力を貸してくださり、東京漫画文庫をあたってくれました。すると、203番の『花つみ日記』(1957.5下旬-6上旬刊行)から379番『幽霊ホテル』(1958.6.10刊行)の12冊、そして同じ東漫の「少女シリーズ」として望月よしあき、牧千恵子名義で58年から59年にかけて10冊、望月よしあき名義の「スリラー劇場シリーズ」が58年に2冊ある、とほぼ判明いたしました。ありがたや。

 そして、掲載した図版は東漫292番『雪国の歌』(1957.12.10刊行)。貸本蔵書に定評のある「昭和漫画館青虫」(※3)の所蔵です(冬の閉館時期直前に連泊で行かれた青虫調査隊有志の皆さんに探してもらいました。ありがとう!)。この『雪国の歌』は、デビューの同じ年、上京してから発表した6冊目にあたるようです。絵柄はまだ固まってはいませんが、構図もタッチも若い感覚でポップでキュート。精力的に仕事している作家の勢いを感じます。

 望月先生は、その後60年代に入ると秋田書店の『ひとみ』や光文社の『少女』あたりで雑誌デビューと推測されるのですが、これも現時点では作品名が確定できず。60年代半ばには少女雑誌や学年誌での連載と同時に、貸本でも引き続いて活躍、作品数もかなり多いです。それにしても、望月先生の少女漫画は現在読むのが困難すぎる。私自身も物心ついたときに既にあった、望月あきら=『少フレ』の「サインはV!」という印象が強すぎて、その前にこんなに多くの望月作品があったなんて認識していませんでした。同じく青虫に所蔵があった『カンナの星』(佐藤プロ刊/もっちゃんシリーズ12)なんて、すごく可愛い。望月先生の最初期の少女漫画は、もう少しきちんと全貌が紹介されていてもいいのでは? 

 ……それにしてもこの調査はこれだけじゃ全然なく、先が長い。でも不明のピースが埋まっていく快感が堪えられないので調べるのは飽きません。天職?(いや、職にたどりついてないので天命?)こちらのこの項も報告を兼ねて、不定期に続けさせていただきたいです。

※1 「聡明活殺剣」表記は、『日本漫画家名鑑500』(’92)、『日本児童文学大辞典』(’93)、『ニッポン漫画家名鑑(長谷邦夫編)』(’94)、『別冊太陽・少年マンガの世界I』(’96)、『漫画家・アニメ作家人名事典』(’97)、『貸本マンガRETURNS』(’06)。ウィキペディアでは「聡明」と「黎明」2種類の記載がある(’11.11.5参照)。

※2 でも、「国会図書館のデジタル化資料」サイトでかなり判明しました。国会所蔵の登録された雑誌の目次検索が誰でもネットで可能。このサイトのオープンは素晴らしい。

※3 福島県只見町の「昭和漫画館青虫」は本を自由に手にとって読める開架式で、ランダムに探索が必要な貸本調査には本当に貴重な図書館です。今年は東日本大震災に続き7月末にも記録的な豪雨という災害に見舞われましたが、いずれも青虫は無事でした。しかし交通網が寸断され、橋の落ちた鉄道の復旧は未だ予定がたたず、只見町は原発からの放射線量は問題無いにもかかわらず風評被害が深刻です。それでも青虫は変わらずに夏期は開館していました。11月から4月末までは冬期休館ですが、5月にはまた元気に開館してくれるはず。詳細はHPで。

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