『フラワーズ』と『好きです、この少女まんが。』

初出:図書の家の「この漫画を今日は読もう」/『漫画の手帖 B録』04号 2012.1.22発行(折り冊子4P)

 2011年後半から新年にかけての少女漫画ですが、引き続き『フラワーズ』を毎月楽しんでおります。連載では田村由美「7SEEDS」が去年は強く響きました。緊迫したクライマックスを過ぎて新章がとても静かに始まったのですが、人の体温や生命の持つ力強さが沁みてくる美しい情景に深く感じ入ったことでした。また、さいとうちほ「アイスフォレスト」が佳境で、技を極めたフィギュア演技が毎号凄いです。美しさというものをここまで説得力を持って描けるものなのかということにあらためて感動。そして、12月号からようやく岩本ナオ「町でうわさの天狗の子」の物語が再開しました。姫ちゃんをはじめとする女子たちの本格的な恋愛指数の急上昇と、いつもクールな緑ちゃんがなりふりかまわず空を飛んで告白劇を展開するなど、非常に盛り上がっております。ナオ先生、バトル漫画を思わせるような激しさも多々はさんできて意表をつきます。恋する女子は、好きな男子が他の女子と一緒にいるのを見るだけで天地が傾くほどの衝撃なのだとかを、このところよく傾く構図で何度も主張してるのもかなり好みです。雑誌サイズで読む醍醐味ありすぎですよ。

 その一方でコミックスといえば、秋から年末にかけて講談社から出たアンソロジー全5巻『好きです、この少女まんが。』が心を打ちました。なんといっても、このシリーズのカバーは懐かしのおおやちき5連発の書き下ろしイラスト。それがまあ、綺麗で愛らしくてなんとも今風の洗練があって。予告で1巻の書影を見たときに、うわあって思えるほどにピンクでやさしくて、つかみは120%OK。そして中身も裏切らなかった! 全5巻は順に「恋愛」「家族」「感動」「幻想」「異彩」というテーマで、それぞれ6~9作品が少女漫画家85人からセレクトされているんですが、ラインアップが絶妙。

 まず3巻「感動」から手にとったんですが、冒頭に入っている海野つなみ「西園寺さんと山田くん」が3部作なんですね。アンソロジーなのに3部作の長編を入れるって普通ちょっとあまりしないのではないかなあ? それもこのつなみ作品、絵柄もそれぞれ話にあわせて変えている意欲作で、いきなり最初から読み応えありすぎなんですよ。というか、私は多忙な日々の憩いとして息抜きに読もうと思っていたので勝手に衝撃を受けたのでした。いえ、もちろんちゃんと最後に面白く読みましたが。しかもこの巻は、大矢ちき(漫画家筆名なので苗字は漢字)「雪割草」が収録。それも雑誌収録時の状態に新たに描きなおして!(簡単に言うと意味不明ですがとにかく貴重。未読の方、これはフィギュアスケート漫画の名作です)さらには津雲むつみ70年代の忘れがたい『セブンティーン』掲載のシリアス恋愛もの「いってしまった夏」ですよ。そのうえに、大和和紀に小椋冬美に深見じゅんとは! 濃い、濃いよ!3巻「感動」!!

 その次に買ったのが5巻「異彩」、これがまた、水野英子「にれ屋敷」(私は今回の収録がこれまでで一番良い読み方ができました。ここに入れてくれて本当に嬉しい!)から羽海野チカ「星のオペラ」(涙のSF)まで、とどめの締めが萩尾望都「半神」(16ページ、国宝)。この5巻はほかにも文月今日子「スー・セント・マリーの恋」から、よしまさこ、木原敏江、曽祢まさこ、樹村みのり、高野文子です。『漫画の手帖』読者さんだったら説明しなくてもおわかりでしょうが、この5巻など、まるで少女漫画の歴史を綴じて1冊にまとめたようなものですよねえ。

 このアンソロジーは、母と娘で読めるようにという企画意図もあるとのことで、装幀でもそんな安心感がふんわり出ています。中身と外側にきちんと連動があるんですね。紙の柔らかさや軽さも読み手の興を削がない配慮がされていて、作品に集中できます。さっき知ったのですが、この本のデザイナーは柳川価津夫さんという「ちはやふる」のコミックスの装幀を担当した方だったんですね(ああ、それは上手いわ~納得)。そしてなぜか単行本であるにもかかわらず、何でも載ってる「雑誌」のような間口の広さがあるんですね。いろんな時代の作品が混在しているのに、あまり作品差が気にならない。むしろそのざっくりした編集の感じが、居心地のよさを生んでいるかもしれません。それこそ少女漫画の豊かさが持つ包容力といったところでは?

 とにかく2011年の収穫と思いますので、どうぞお好きな巻からお手にとってみてください。各巻・税込930円は高くなかった。お薦めです。

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