望月あきらのデビュー作2

初出:図書の家の「この漫画を今日は読もう」/『漫画の手帖』63号 2012.6.10発行

 前回62号で「望月あきら先生のデビュー作の現物をお持ちの方、おられませんか」とおたずねしていた件ですが、なんと、現物が見つかりました!!! ひゃあ、やはり本気で聞いてみるものです(涙)。以下、この件で全面協力してくださった想田四さんからお聞きしたことを、皆さまにもご報告です。

■前号のあらすじ:1957年、大阪の日の丸文庫から貸本でデビューした望月あきら。彼のデビュー作のタイトル表記が揺れている。10年ほど前の本人証言によれば、正しい表記は総理大臣の「総」の「総明活殺剣(そうめいかっさつけん)」なのだが、これまでの出版資料では「聡明」「総明」「黎明」の順に多く使われている。調べていくほどに、貸本事情に詳しい人の間でもこの本の存在自体があやふやなことがわかる。ちょうど同社の倒産騒動もあった時期でもあり、果たして本当に出版されたのかという疑いまで生まれたのだが……。

 そしてこの後、私自身は何も情報をつかめていなかったのですが、4月下旬に想田四さんから一通のメールをいただきました。なんでも少し前に、日の丸文庫のコレクターの方からの伝聞で日の丸から出版されているとは聞いておられたそうなのですが、なんとその後、親しくされている貸本コレクターの成瀬正祐さんから「現物を見つけた」と、はるか北海道から(わざわざ)お電話があったと……すごい!!!  そしてこれがその書影です!!!(これまで私が目にした資料には、どこにも掲載されていません)

……なんと、望月先生のご記憶とは漢字が異なります。出版物は、『黎明活殺剣』になっております。うーむ。 成瀬さんによれば、書誌データは以下の通りです。

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黎明活殺剣 望月あきら著

日の丸まんが文庫234(あるいは231/背の傷み激しいため下一桁の数字判読不可/1か4であるのは確実)

B6判ハードカバー 128頁 定価130円

編集人/山田喜一 発行所/日の丸文庫 八興新社 (発行人の氏名無し)

表紙と本文扉の題名は同じ「黎明活殺剣」です。 口絵に「1957.1」のサインあり。 時は幕末。豊臣家の財宝を巡る勤王派と新撰組の争いに巻き込まれた少年・小太郎が主人公。白覆面の「青葉天狗」に、坂本竜馬・近藤勇も登場する娯楽時代劇。

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 そして更に、想田さんから当時の出版社事情を教えていただいたのですが、出版社の「日の丸文庫」こと「八興」が一度つぶれたのが1957年の2月か3月あたり。その後に「光映社」名義で『影』の復刊を果たすのが同年の8月か9月頃だったはず……ということから、この本にある〈八興新社〉という未知の社名(!)で出版された『黎明活殺剣』は57年の3月〜8月の間に出されたものと思われます。62号本文で「1957年日の丸文庫(光伸書房)からデビュー」としていましたが、光伸書房名義は、日の丸が東京に支社を作った昭和40年頃からのものだそうで、謹んでここに訂正させていただきます。  しかしそうであるなら、同年の5月下旬〜6月上旬に刊行されたとおぼしい少女漫画作品の『花つみ日記』(東京漫画出版社)とどちらが先なのかは、現時点では不明ということになりそうです。

 ということで、望月あきらデビュー作の謎についてはみごとに解決いたしました。ご協力いただいた、想田さん、成瀬さん、情報をくださった日の丸コレクターの方、ありがとうございました。

 しかし、そもそもこの調査は、マンガ研究者のヤマダトモコさんのお仕事の〈とある本〉のお手伝いなので、そちらもまたの機会にご紹介できればと思っています。ではでは。 


★この後、 このデビュー作のタイトル表記が揺れている件は、『ビランジ』24号(発行:竹内オサム/2009年)掲載のETさんの考察「わたなべまさこのふたご」の中で〝回想に頼る危険性〟としてすでに指摘があったと教えていただきました。さかのぼっては2004年京都精華大での公開座談会「少女マンガを語る会」にて望月先生ご本人にこの件を含めて質問され、望月先生から「時代物は一作しか描いていない」とご回答いただいたという話も(『季刊わいわいわい』13号(発行:わい3編集部/2005年))。実はこの2冊とも私は既読・所持していたんですが、すっかりその箇所を失念しており。ああ、この記述を覚えていたら去年秋にあんなに悩まずにすんだのに。とどめにETさんはブログにも去年書かれていたのに、当時検索で拾えなかったことも判明(残念ながらその研究ブログは6月末で閉鎖)。この一連のことでは、探している時にたどりつける情報だけがその全てなんだとしみじみと。日頃の記憶ストックが大事ですよね。でも、たどりついたところは一緒で良かったです。ご関係各位、ありがとうございました。(『漫画の手帖』64号 2012.12.10発行)



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以下は『まんだらけZENBU』44、46~50号掲載の成瀬正祐「護美之砦 東京漫画出版社 其の一~五、および補遺」を基に、想田さんが望月作品を抜粋してくれたリスト。

■「望月あきら東漫リスト」1957-59年の東京漫画出版社発行の貸本作品一覧

【東京漫画文庫】
203『花つみ日記』1957.5下旬-6上旬
244『母やまびこ』1957.9.10
257『姉妹(きょうだい)すみれ』1957.10.5
275『しあわせの曲』1957.11.10
292『雪国の歌』1957.12.10
314『悲しきめぐりあい』1958.1中旬-下旬
324『山の乙女歌』1958.2.10
335『涙の霧笛』1958.3上旬?
348『赤いスーツケース』1958.3下旬-4上旬
354『花のかんむり』1958.4.10
379『幽霊ホテル』1958.6.10

【スリラー劇場シリーズ】
3『毒牙』(望月よしあき名義)1958.9.10
4『幻殺人事件』(望月よしあき名義)1958.10.10

【少女シリーズ】
5『母よぶ灯台』1958.7.20(※望月よしあき名義)
40『星ふる小窓』1958.10(※望月よしあき名義)
44『まま母姉妹』1958.11(※望月よしあき名義)
54『銀座の少女』1958.12(※望月よしあき名義)
73『兄と妹』1959.2.(※望月まさあき名義?)
83『別れのことば』1959.3.(※望月まさあき名義?)
99『母さん許して』1959.4.15(発売予定日)(※望月まさあき名義?)
117『母椿』1959.5.30(※牧千恵子名義)
138『嘆きの家出母』1959.7.25(※牧千恵子名義)
156『母をさがして』1959.9.7(発売予定日)(※牧千恵子名義)

※「スリラー劇場シリーズ」と「少女シリーズ」は東漫の別シリーズ。

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