事業再生のプロは今どこに。プロを育てた歴史。
あきらは59歳
今、映画で話題の池井戸潤の『アキラとあきら』(リンクはamazon prime WOWOW版)の舞台は1989年からスタート。バブル崩壊後の貸し剥がしの時代がテーマになっています。
あきらは新卒入行後、当時3年目から物語は始まる設定です。あきらが実在するとすれば現在59歳。事業再生や不良債権処理に手慣れたプロが、すでに定年退職していたり、現場におらず子会社に居たり、出向、転職済となるのも無理はありません。事業再生業界に現存する人でも、第一線でやってきた人は70歳近い。事業再生の世界に人材が現存しなくても、これまた無理もありません。
今回は、事業再生人材が高齢化していること、事業再生のプロが育った歴史を述べていきたいと思います。
日本の事業再生の歴史
背景となる事象をピックアップすると、日本の1991年からの景気後退によるバブル崩壊を原因として、すぐさま不良債権は露見せず、埋伏の毒としてしばらく問題は表面化しませんでした。
しかし、1996年の住専処理、1997年の拓銀破綻と立て続けに問題がおこり、98年の金融監督庁設立、金融検査マニュアル、公的資金注入、2002年竹中プランと不良債権処理への対応が求められるようになりました。
1998年から2001年の4年間で45兆円が不良債権処理。金融機関は資本増強へ向け竹中プランの過程で融資残高が圧縮されました。中小企業融資は1997年3月348兆円から2005年の8年間で252兆円と27.5%近く減少する結果となりました。これを「貸しはがし」と表現される事が多いです。このとき減少した融資は96兆円に及びます。
こうした金融機関の危機と企業の危機により、事業再生に関わる人間は1998年以降不良債権処理の時代から増え、ノウハウを蓄積しました。2001年私的整理ガイドラインの成立、2003年産業再生機構、再生支援協議会設置、2008年のリーマンショックの頃までは、事業再生に関与する人材が多数生まれる環境がありました。
2009年金融円滑化法で事業再生のノウハウが一般化。一方で2014年頃には大型の事業再生案件は、ほぼ終わり金融機関の不良債権比率は低くなり不良債権処理は収束したと言われるようになりました。事実として不良債権処理の出口であるサービサーが事業を縮小したり、金融機関も事業再生の専門部署を閉じ、審査部に事業再生担当を置く程度の対応となりました。
小さい金融機関の場合、事業再生担当がわずかに1名~2名というのも不思議では無くなりました。そのような流れの象徴的な出来事としては、リスク管理を金融機関が独自にできるほどにシステミックリスクは無くなったとして、2019年に貸し剥がしの原因の一部にもなった金融検査マニュアルが廃止されました。
このような経緯の中、長らく事業再生を仕事にする人材は減少し、金融機関内ではノウハウが継承されず、事業再生コンサルタントも高齢化したり、転職するなど事業再生に詳しいプロが減りました。
コロナ禍における事業再生の人材不足
そして現在、コロナ禍に対応すべく関連融資は56兆に膨れ上がり、企業の負債が増大しています。2022年にコロナ禍の後始末が想定されてか、事業再生ガイドラインが成立、コロナ禍の後始末のために事業再生ができる人材が今、足下で急に必要とされはじめています。
2022年9月8日発表『中小企業活性化パッケージNEXT』(経済産業省・金融庁・財務職)によると、今回のテーマで指摘した『事業再生のプロがいない』という課題が認識されており“地域金融機関職員を再生支援のノウハウ習得のため中小企業活性化協議会に派遣するトレーニー制度の拡充。”と掲げられています。現場からも、活性化支援協議会や事業再生コンサルティング会社への出向のお話しを聞くようになっております。
鳥倉は現在43歳。事業再生の世界に手慣れたプレーヤーとしては、奇跡的に若いと思います。2006年24歳の時に事業再生の世界に飛び込んだので経験を積むチャンスがありました。
帝国データバンクの2022年7月倒産動向の発表によると
コロナ禍で保証協会・公庫・商工中金より対策としてゼロゼロ融資として貸し出されていた効果がストップし、倒産件数が増加しはじめました。コロナ禍を理由として問答無用で資金を供給し、抑えられていた倒産が一気に吹き出す危険があります。
お金を借りてもなお、資金が足らないので納税猶予や社会保険料の猶予により事業者は資金繰りを維持しようとします。税務署は猶予延件数で32万件、年金機構は事業所別で9万7千社としています。10万社近くは危険な状況にあると推計してもおかしくないと思われます。
今年の年末から来年にかけて長年のゾンビ企業問題は、コロナ禍をきっかけに隠しきれなくなり、事業再生の問題として露わになります。これに対応する人材が求められています。老兵を復帰させるのと共に、新たな事業再生のプロの育成が急務です。
従来の事業再生より難易度が増しています。経営者の高齢化・後継者難、物価高、人材不足、過剰債務、租税債権の滞納と案件によるかと思いますが、3重苦や5重苦の案件はめずらしくありません。事業再生のプロにはこのような局面にあっても心を挫けること無く、事業再生に向き合う心が何より大事です。困難な課題にファイトが湧く、新たな事業再生のプロの誕生を楽しみにしています。
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