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大河「いだてん」の分析 【第19話の感想】 箱根駅伝と駅伝落語、伝承される情熱

第19話は第一回箱根駅伝の立ち上げ。現代に続くこの大イベントの立ち上げにからめて、クドカンは“駅伝落語”をパラレルで走らせる。どちらも完走できるか。(画像はすべてNHK公式サイトからの引用)

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第19話のあらすじ
フランスのクーベルタンから治五郎(役所広司)に届いた手紙には、ストックホルムから8年ぶりにアントワープオリンピックが開催されるニュースが書かれていた。新しい「箱根駅伝」の構想に力を注ぐ四三(中村勘九郎)だったが、やはりオリンピック開催こそ待ち望んだもの。遠い熊本で離れて子育てに励むスヤ(綾瀬はるか)を訪ね、次こそ金メダルをとって引退し、家族と暮らす約束をする。しかし実は、前回、死亡者を出したマラソンは正式種目に含まれていなかった。「箱根駅伝」がオリンピック代表選手の選考を兼ねて開催され、大盛り上がりを見せるなか、治五郎はクーベルタンにマラソンの復活を訴える。

1、次世代を育成する“箱根駅伝”

「第一回箱根駅伝の出場選手たち」の中には、金栗四三たちの“次世代を担う者たち”が散見できる。

東京高師の第10区の茂木善作(1893年生まれ)は、1920年のアントワープオリンピックのマラソン代表。
東京高師第5区の大浦留市(1896年生まれ)も、アントワープオリンピックの5000mと10000mの日本代表。
麻生武治(1899年生まれ)は早稲田の第9区、1928年サンモリッツオリンピックに日本人として冬季オリンピック初出場選手。
そして少し毛色は違うが、早稲田の第7区走者の河野一郎(1898年生まれ)は、1964年には副総理と東京オリンピック担当の国務大臣を担う大物政治家に。

つまり、箱根駅伝という“装置”は、こういった次世代を育成する機能を第1回大会から担っていたといえる。学生という若いうちから活躍できる大舞台があり、4年に一度の目標設定では長すぎるが、箱根があれば“年に1度の機会提供”を準備できる。
2019年に開催された箱根駅伝はなんと“第95回”だという。脈々と日本マラソン界の土台を担ってきた大会なのである。

2、“駅伝落語”も伝承が共通テーマ

単純に「こうして箱根駅伝がはじまりました」という紹介だけにとどまらないのが“いだてんらしさ”だ。

1919年が箱根駅伝なら、1963年は“駅伝落語”だと、時代を超えて“ふたつの物語”が“パラレルで走るシナリオ構造”に挑戦したのである。箱根の選手が1区・2区と走り抜ける、それを説明する落語家も第1走者・第2走者とたすきリレー。時代は目まぐるしく行ったり来たりするし次々と人も入れ替わり立ち替わり。
「いだてんは時代があっちにいったりこっちにいったりしてわかりにくい」とある層から不評だそうだが、その真骨頂!

箱根駅伝は前述したとおり、
四三たちによる“日本マラソン界をひっぱる次世代を創る”という思想が込められていた。
となれば、“駅伝落語”も、そうだ。
どちらの駅伝でもコンセプトは共通、
“次へつなぐ”である。

つまり、“志ん生が第一走者”となった時点で、
これに続くメンバー構成に飛び入りで“金原亭馬生”“古今亭志ん朝”というふたりの実の息子たちが続くのは必然であったといえる。

パラレル構造化したことによって、
よりくっきりと箱根駅伝が目指した目標も“伝承だったのだ”とより明確に打ち出されたといえる。

3、古今亭一門の各時代の年齢を整理

金原亭馬生と古今亭志ん朝を、志ん生の若い頃を演じている森山未來が3役でやってみせた。すごいとあちこちで大評判なのでここでは論じないが、とてもすごかった。特に馬生が雰囲気でてて良かった。

さて、この家族の各時代の年齢構成を見ておきましょう。
まず父親である古今亭志ん生が1890年生まれである。(四三とほぼ同い年)
長男の金原亭馬生が1928年生まれとのこと。つまり志ん生が38歳の時の子。現在の第一回箱根駅伝の舞台が1919年なのでこの頃はまだ志ん生は29歳で、ここから9年後に馬生は生まれる。
次男の古今亭志ん朝が1938年生まれなので、志ん生が48歳の時の子。長男とは10も離れているのだな。

そうして五りんたちと“駅伝落語”を演っている1963年の志ん生は、73歳である。馬生は35歳で、志ん朝は25歳。古今亭一門にとっては、実に“いい季節”である。

最後に。
この馬生と志ん朝を森山未來にキャスティングしてみせたのは、この第19話のメイン演出を担った大根監督がアイデアを出したようだ。公式ツイッターから引用させてもらう。

この回に孝蔵が出ていないので『森山未來はどうだろう』と。
未來は『マジかよ』でしたが、ポテンシャルを知っているので後は託しました。
ビートたけし さんに『本職の落語家さん?』と真顔で言われてガッツポーズでした。
(大根仁)

逆に、いまとなっては「森山未來の他に、どうしようとしてたんだろう」というほうが気になるほどである。

(おわり)

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