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『消費増税のポイント還元策』はうまくいくだろうか? 店舗側が乗ってくるか次第かも 【マーケティング戦略の観察】

消費増税のポイント還元、決済事業者の募集は3月20日まで』(2019.03.13付)という日経記事をとりあげる。
(画像: 経産省「キャッシュレス・消費者還元事業」特別専用サイトより引用)


1、【復習】 “消費増税のポイント還元”ってどんな制度?

経済産業省は、10月の消費税引き上げ時に実施するキャッシュレス決済へのポイント還元制度について「決済事業者の募集」を開始した。

仕組みの概要は添付画像のとおりだ。


これ、決済事業者にとってみると、
どれだけ“ビジネス的なうまみ”があるかはまだ不透明だが、もし競合他社が参加を決めて、差がついた時に目も当てられないのできっと各社が横並びで参加申請することになるだろう。

国としては「消費増税による景気の落ち込み抑止」と「キャッシュレス化の推進」が目的。

しかし、朝日新聞は3/14付の社説で『ポイント還元、見切り発車するのか』というタイトルで悲観的な見解を示してみせた。

2019年度予算の2798億円のうち、ポイントなどで消費者に還元されるのは1786億円。残りの1千億円強はコールセンターやポスターに使われるほか、加盟店の勧誘支援としてカード会社などにも渡る。
これだけの税金を使って、中小の小売店での支払いに占めるキャッシュレスの割合は、約14%から17%程度に上がるという想定にすぎない。
実施ありきで議論が進み、費用対効果の検討がおざなりではないか。財務省の査定責任も重い。


2、決済事業者は参加せずにはいられない?

ではまず、“決済事業者の視点”で分析してみよう。

・ポイントなどで消費者に還元されるのは1,786億円

この大きな金額が、自社による投資ではなく、補助金から賄われる形で“各決済手段におけるポイント流通額”に化ける。これはすごく大きい。
制度に参加するかしないかで、“この補助金が自社ポイントを通過するかどうか”が変わるので、競合状況をにらむと参画しない手はない。(ただし、複数社参加になればなるほど、総額は分散するのだが)

次に、『消費増税ポイント還元 JCBやLINEなど10社参加』(日経3/13付)を読むと、「ポイント還元事業を巡り、カード業界と経産省の調整は難航していた」とある。引用する。

理由の一つはシステム対応だ。カード会社のシステムは加盟店を店舗の規模などで識別していないため、今回の事業で対象になる中小店舗での決済だけに5%分を還元するには、システムの大幅な改修が必要だった。
経産省は中小店舗かどうかを識別するための共通システムをつくり、カード会社側の負担を軽減して理解を求めた。
もう一つの壁は手数料だった。カード会社が加盟店から受け取る手数料に3.25%の上限を設ける政府の方針に、カード業界が反発していた。(中略)
政府が手数料の上限設定を恒久措置にすることを見送り、期間限定とする選択も認めたことでカード業界は参加する方向に傾いた。
経産省は還元期間後に加盟店手数料を変更するカード会社に事前にその旨を店側に開示させるルールにした。

まだポイント決済導入をしていない「中小・小規模の店舗事業者」が、これを機に“自社の加盟店に登録”してもらえ、“自社の加盟店数の拡大”につながる恩恵がある。
導入に際する決済端末やシステム導入費にも補助金が使え、いまなら初期コストも少なくて済む

また、2019年10月1日~2020年6月末までの9カ月間の実施期間後は、特別期間として低く設定してあった手数料率も元に戻し、通常の加盟店として関係していける。

この加盟店数が増加するポテンシャルも、決済事業者側からみた参加するメリットであろう。


3、でも一方で、店舗側には参加に不安も多い?

ただし、課題は「新たにキャッシュレス対応にのりだす店舗が、本当にたくさん出てくるか」である。

前述の朝日新聞の社説より引用する。

還元方法や上限は、クレジットカード会社といった決済事業者ごとに決まる。
消費者は「対象の店はどこか」「還元率は5%か2%か」「自分のカードは使えるか」「ポイントか即時割引か、振り込みか」「上限額はいくらか」を見極めねばならない。
こんな複雑なしくみで、最大の目的のはずの増税後の消費の底上げに、つながるのか。
ある店主は、同時に始まる軽減税率の対応もあり、「困った客に質問されても、答えられない」と不安をみせる。(中略)これでは店主に負荷がかからないか。

日経の『消費増税ポイント還元 JCBやLINEなど10社参加』(前述)では、「手数料の不安」がぬぐえていないと指摘している。

今回のポイント還元事業によって、新たにキャッシュレス対応に乗り出す店舗が増えるかどうかは不透明だ。いずれ手数料負担が重くなると分かっていれば、導入を見送る店舗が多くなる可能性があるためだ。

ニワトリとタマゴではあるが、
店舗側も、この制度に乗っかることで“たくさんの利用者が送客されてきて、売上が増える”のであれば、
手数料の増加にも、制度の理解力を教育する努力にも、納得して取り組めるだろう。
しかし、大切なそこがまだ不透明である以上、補助金は出るものの先々の身銭も切る店舗側がもっとも導入リスクを感じているのではないか。
使える店がそもそも少なければ、この制度はすべて水の泡である。

4、最後に。

最後に。シンプルにまとめると、

「利用者の数・利用頻度 = 利用できる店舗の数 = 利用できるポイントの種類の数」

この3つのバランスが最適に高水準で運用できたならば、制度はドライブしていくだろう。
しばらく注目が必要だ。


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