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大河「いだてん」の分析 【第10話の感想(前編)】 日本人選手の孤独

1話ずつ、5つの要素をとりあげて分析と感想を書いています。
今回の記事は【第10話 真夏の夜の夢】について。
前編・後編に分けました。

【後編】や他の回についてはこちら↓

あらすじ&画像 (NHK公式ホームページより)
ストックホルムに到着した四三(中村勘九郎)だが、夜になっても明るい白夜に苦しめられる。大森兵蔵(竹野内 豊)の体調が芳しくないため、四三は弥彦(生田斗真)と共に自分たちだけでトレーニングを開始。だが、外国人選手の多くが、監督の的確な指導のもと複数の選手で一緒になって練習に励む姿を見て、明らかな差と孤独に滅入っていく。ついに正気を失った弥彦がとんでもない行為に……。そのころ、「朝太」になった孝蔵も、円喬(松尾スズキ)の話術を必死に盗もうと取り組むが、そのすごさに圧倒される。

1、孤独との戦い

いだてんは、結構、“精神的・心理的な問題”にスポットライトを当てるなあと思う。
今回のテーマは「孤独」だ。

「孤独が一番の敵ナリ」。
四三は日記にそう残している。史実だろう。

もうすぐ大会本番が始まるというのに、監督が持病で床にふせってしまい、最後の練習に出てこられない。
四三と弥彦は競技が違うので、それぞれ別々に練習しないとならない。それぞれの孤独。

特にトラック競技選手の弥彦は、選手村の練習用トラックに出ると、欧米人に囲まれて練習をする事になる。
周りにいる各国選手団は、“チームで練習”をしており、仲間と切磋琢磨しながら、自分の限界点を仲間に引き上げられるような最終調整をしている。
そんな中、弥彦はひとりぼっちで走る。
アメリカチームが走りだすタイミングと合わせて走ってみたりする。

1912年というと世界情勢では「日露戦争後」で、日本という小国への注目が国際的に集まっている時期ではあるが、その“見る目”は、異国の珍しいものを見る興味本位の“目”で、“カラダがとても小さくて弱々しそうなのに、辺境の地の途上国からわざわざ、オリンピックに何をしにきたのか”と「小馬鹿にされている気分になる」と、弥彦は傷ついていく。

また、日本に居る時は「言わずと知れた通快男子、有名な天狗倶楽部のリーダー」の三島弥彦だが、ストックホルムでは弥彦を知る人はいない。練習でも10秒台11秒台がバンバン出る中、12秒台の弥彦のスコアは平凡。

それに対してまだ四三は、(正確なのかどうかはともかく)世界記録をたたき出したことがある異国人として、記者たちは四三の下に取材が集まる。
孤立を深める弥彦。

三島弥彦の“精神的なさみしさ”が描かれるのは二度目だ。
第7-8話で描かれたのは「オリンピック選手になることを家族から認めてもらえない」という孤独感であった。エリートであるがゆえの孤独。
三島弥彦という人物像の造詣は、“大胆不敵で先進的な西洋文化も兼ね備えている、オシャレで人気者の痛快男子”がベースであるが、同時に、人間味のある“弱い部分”が脚本家によって書き足されていく。
弥彦は日に日に思いつめていく。

2、孤立する背景、参加選手数2,437人のなかのたった2人

ストックホルムオリンピックは、近代オリンピックが再開されてから5回目の開催にあたる国際大会だ。

参加国は22カ国(地域数)で、参加選手数は2,437人。

その中で、たった2名だけの日本人選手。

しかも、加納治五郎が「アジア初のIOC委員長」という看板を持っている事でもわかるように、この時代、オリンピックに「アジア人としても初めて」の出場のようで(もっときちんと調べないと正確とは言えないが)、他にアジア人さえいないという点でも、余計に“珍しいもの”に欧米人からは映る。

ネットで「オリンピック歴代出場国リスト一覧」がないか調べてみたが、うまく見つけられなくて公式資料がきちんと出てこないが、この下記のサイトをみると、アジアの国が出場するのは12年後のパリ・オリンピック(1924年開催)からだ。

(正確な情報がわかる方はぜひ教えてください)

この時代、歴史上はまだアジアは“植民地”が多く独立国家が成立していない時代だろうから、実質どういう出場国選定になっているのかはわからないが、「アジア人がめずらしい存在」であることは確かだろう
きっと差別視線もあった事だろう。オリンピックの思想は、差別のないスポーツを通じた平等性ではあるはずだが、実際問題として。(作品内では直接的に人種差別的なことは一切描かれなかったので、推察として)

三島弥彦が、練習用トラックや選手更衣室で感じた孤独感は、こうした背景も影響していることが推察できる。

※下記のサイトで「オリンピック歴代選手数」をグラフでまとめている方がいたので引用させていただく。これを見ると、80年代〜90年代にかけて選手数が急速に増え、00年代にぴたりと抑制されているのがわかる。

引用元サイト


3、窓から飛び降りようとする三島、真夏の世の夢

練習をはじめて12日目、三島弥彦が部屋から出てこなくなる。

「体の大きな欧米人たちに揉まれて走る恥ずかしさ」「木の葉のような気分だよ」「もう限界だ」「期待されていないんだ」と弱音を吐く弥彦。
プライドがずたずたなのも大きいが、白夜のせいで眠れていない体調不良も大きそう。

「期待されていないんだったら、気楽じゃなかね?」と発破をかける四三。
しかし思いつめて窓から飛び降りようとする弥彦。抱きしめてそれを止める四三。
四三は叫ぶ、
「われらの一歩は、日本人の一歩ばい!」
「俺らの一歩は後世の日本人のためにも意味があるったい!」
すまない、と涙を流す弥彦。

この日を分岐点に、弥彦の練習に四三が参加するようになったり、監督の大森の体調が回復をみせてクラウチングスタートの練習が始まったり、チーム感がでてくる。
加納治五郎もついにストックホルムに到着し、チームに合流する。到着早々から各種指示を出したりリーダーシップがあり、心強い。

第10話ではこうしてあらためて“支えあう仲間がいることの重要性”が描かれた。

4、日本人を苦しめた「白夜」について

思いつめた三島弥彦の部屋に四三が飛び込むとカーテンやシーツですべての窓が覆われていた。「ドラキュラになった気分だよ」。

白夜で陽が沈まないせいで睡眠不足が続き、精神的にも体力的にもまいってしまっていたのである。これは、四三にとっても、監督の大森にとっても、過酷な環境であった。

この“白夜”については、別でまとめる。

5、道を間違える金栗四三

ストックホルムに着いた直後の「ジョギングの慣らし練習」の時に、さりげなく四三が“道を間違える”。

僕はそんなに“先の出来事”については調べないで『いだてん』の物語進捗に合わせてピュアに歴史を楽しんでいるのだが、金栗四三の“消えた日本人選手事件”のエピソードは有名なのでさすがにそこだけは認識している。

この“道を間違えた”シーンは、その伏線といえる。

今回の第10話のなかで、36分15秒のシーンでも、再度、四三は、“同じ分かれ道の場所で、コースを間違える”。

つまり、ここの“分かれ道”が、事件現場になるのだろう。

森に迷い込む妖精。「夏の夜の夢」である。

※他の回の分析はこちら↓



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