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大河「いだてん」の分析 【第25話の感想①】 さらにスピードをあげた第2章の幕開け

第25話から第2章、後半戦の幕開け。
今回から主人公もバトンタッチして、金栗四三(中村勘九郎)から田畑政治(阿部サダヲ)に。
登場人物もガラッと変わりそうだし、大丈夫かなどうなるかなぁとちょっとドキドキしてたけど、すごく良かった。第25話の感想分析を、前後編、2つに分けて書きます。

〜あらすじ〜
いだてん後半の主人公がいよいよ登場! 四三(中村勘九郎)がまさかの3度目のオリンピックに出場し、負けて帰ってきた報告会で「負けちゃ意味がない」と息巻く若者が現れる。田畑政治(阿部サダヲ)である。30歳で死ぬと予言され、体の弱かった彼は、自分が生きている間に日本水泳を世界レベルに引き上げようと血気盛ん。朝日新聞に記者として入社し、政治家の大物・高橋是清(萩原健一)にも接触。震災不況でオリンピック参加に逃げ腰の治五郎(役所広司)や金に厳しい岸 清一(岩松 了)も驚く多額の資金援助をとりつけてみせる。

※他の回の分析感想はこちら↓


1、迎合せずに逆に“スピードをあげた”

メディアによっては視聴率がよくないので“第2章あたりからテコ入れがはいるのでは”とウワサ話してる記事をチラホラ見かけた。「テンポが早すぎてついていけない」とか「時代があっちいったりこっちいったりしてわかりにくい」とか理解力が高くない視聴者のコメントをひろってきては、視聴率回復には“万人にわかりやすく”という指摘がたくさん出回っていた。

それで今回から第2章がはじまって、どういうトーンでくるのかなと見守ってたら、第1章なんて比べ物にならないテンポで話がトントントーンと進むし、会話も対話もマシンガントークでまくしたてられるし、シーンが次々と目まぐるしく移り変わるし、ドラマの体感速度は数倍に増してて、ぼくも見ててしがみついてないと振り落とされそうなスピードで、つい笑ってしまった。チームいだてん、まるで世論に迎合するつもりはないのがよくわかった。いだてん最高。

2、阿部サダヲの“真骨頂”の怪演

阿部サダヲの真骨頂。
ぼくは特別熱心な大人計画のファンでもないので、一般的な範囲でしか阿部サダヲの活躍を知らないが、ぼくがはじめて阿部サダヲを観たのは『池袋ウエストゲートパーク(2000年)』だと思う。威勢が良くて破天荒でちょっと頭がおかしい巡査役。脇役なのだが、目立って仕方ない役者で、視聴者の目に留まった。それからも主要なクドカン作品である『タイガー&ドラゴン』とか『木更津キャッツアイ』とか『ぼくの魔法使い』とかで、はっちゃけた勢いがある脇役で騒ぎまくる役を歴任してきた。

ここ最近はすっかり映画にドラマにと主役にも抜擢されて活躍し、役どころも多様な演技で役者としての幅を見せ、アカデミー賞にブルーリボン賞にと受賞歴も華々しい。

でも、今回の阿部サダヲは、真骨頂。

お家芸、盟友クドカンが“阿部サダヲの良い所を最高に引き出すとすればこういう役”という、威勢が良くて破天荒でちょっと頭がおかしい役。
劇中、「台風のような男だったな」と面接にでかけた朝日新聞でも陰口をたたかれる。マシンガントークが止まらないし、口から泡飛ばし止める気もない。「違う!そう!そう!違う!」。
ただ、この役をこんなにキュートに自然にやりきってしまえるのは、阿部サダヲ以外にはいない。

「さあ暴れまわってくれ」という脚本家の声が聴こえてくるようだ。
強烈なスピードで登場人物たちは走り回るが、シナリオの構造はとてつもなく緻密で複雑な多重構造になっていて論理破綻なく重ねてある。大雑把だけど緻密。暴走しながら論理的。ワクワクする。

ただ、一般的なおじいさんおばあさんが、視聴者として戻ってくる感じはたしかにしないな。わはは。

3、田畑政治編は“昭和の物語”

物語は“ノリがいい”というだけではない。近代史がギュウギュウに詰め込まれていて、ひとつひとつ下調べしないと本質的には理解が追いつかない。

改元、大正から昭和へ。元号「光文」報道。高橋是清。立憲政友会。普通選挙法の原文。

そう、“改元”である。
第2章、田畑政治編は「昭和」の物語なのである。

ちなみに“明治から大正へ”と改元したのは、いだてん劇中でいうと第14話で、日本人初のオリンピックであるストックホルムに行って、帰国した時には大正になっていた。1912年である。
いだてんではその時のタイトルを「新世界」とし、新しい女性像の登場や、旧式の考え方の衰退(天狗倶楽部の解散、体協の体制変更等)などが描かれた。
下記の第14話の分析感想に書いた。


田畑政治(1898年生)と金栗四三(1891年生)は、年齢でいうと実は7つしか離れていない。

でもこうして振り返ってみると、金栗四三とは“明治・大正の人だったんだな”と感じる。
四三が若くして大成したこともあって、華々しい活躍、オリンピック出場や箱根駅伝創立や全国マラソン行脚などは“明治大正”の中につまっている。そして1924年、パリオリンピックの敗北で現役引退。

対して、田畑政治は、同じく1924年、都会の新聞社に入社。スーツを着てスクープを拾いに走り回る。ここからがスタート。

1924年を境に“入れ違い”するのである。
よくできている。
ふたりが醸し出す空気感は、大きく異なる。
「昭和」がはじまったのだ。

4、“時代は変る” ボブディランの名曲

今回の第25話サブタイトルは『時代は変る』だ。

いだてんのサブタイトルは小説タイトルから引っ張ってる印象があるけど、今回についてはボブディランだろう。(第2章は音楽タイトルからの引用なのかもしれない)

あらためてボブディランの『The Times They Are a-Changin’(時代は変る)』(1963年)を聴くと、歌詞にはこうあった。1番のラストだ。

And if your time to you is worth saving
Then you better start swimming or you’ll sink like a stone
For the times they are a-changing

君が自分の人生を大切にしたいんなら、
石のように沈んでしまう前に、泳ぎはじめよう。
時代が変わりつつあるから。

意訳すると、こんな感じか。

歌詞の中に「Then you better start swimming」を見つけてグッとくる。

“時代が変わりつつあるなら、さあ、泳ぎだそう”。
河童の田畑政治。
いだてんたちからのメッセージに聴こえる。


(前半おわり・後編も続けて読んでください↓)



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