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極低出生体重児で産まれた我が子と、私がそれを受け入れられるようになるまで。

「おめでとうございます。赤ちゃんの体重は1469gです。」


手術台の上でこの言葉を聞いたとき、

(あぁ、やってしまった。)

という思いが頭の中で駆け巡った。


妊娠高血圧症候群による緊急帝王切開。赤ちゃんは重度の、子宮内胎児発育不全。

少しでも長くお腹で育てよう。正産期まであと4日!と意気込んだ矢先の突然の出産だった。

早産で産まれて来た娘は、想像していたよりもはるかに小さかった。


(これから私は、未熟児の母として生きていかなければならないんだ。)

(こんなに小さな子を産んでしまって、もう普通の生活は戻って来ない。)


頭の中は、赤ちゃんのことよりも、自分のことばかりだった。


小さなベッドに乗せられて、私のそばにやってきたチューブだらけの赤ちゃん。その顔を見る勇気が出ず、躊躇っているうちにNICUへと連れていかれてしまった。


翌日、赤ちゃんの面会に行くことになった。

帝王切開後の自分の身体はボロボロだった。腕には点滴、背中には麻酔の針、下半身には尿道カテーテル。こんな状態で、面会に行くなんてとてもできないと思った。

看護師さんに支えられてベッドから体を起こした途端、激しい頭痛と目眩で倒れ込んでしまった。とても立ち上がることなんてできない。この日は赤ちゃんの面会をキャンセルした。

代わりに旦那が面会に行き、赤ちゃんの写真を撮ってきてくれたが、私はその写真を見ることができなかった。


産後5日目。

帝王切開の傷の内側から大量出血してしまい、再手術をすることになった。手術中は相当な出血量で、輸血をしなければ命の危険もあったようだ。

このタイミングで赤ちゃんの心臓にも問題が見つかった。動脈管開存といって、産まれて数日で自然に閉じるはずの動脈管が、まだ閉じていないようだ。このままだと、心臓に負担がかかり、肺出血を起こしてしまう可能性があるという。あと2、3日待って動脈管が閉じなければ、週明けに心臓の手術をすることになった。


(どうして私たちばっかり、こんな目に遭うのだろう。友達はみんな、順調なマタニティライフを送り、無事に出産しているのに。)

どうして、なんで。という気持ちが大きくなり、病室で一人で泣いた。


産後7日目。初めて、NICUに赤ちゃんの面会に行った。

NICUの扉を開け、長い長い廊下を歩く。大型テレビのような心拍モニター。所狭しと並んだベビーベッド。高い音で鳴り響くアラーム。ここに、私が産んだ赤ちゃんがいるらしい。

(赤ちゃんを見るのが怖い。でも、見なければ…。)

意を決して、自分の名前が書かれたベビーベッドの中を覗き込んだ。

そこには、たくさんのチューブに繋がれた、赤黒い、鳥の雛のように小さな赤ちゃんがいた。手のひらにすっぽりとおさまってしまう小ささだ。赤ちゃんの目には、何故だか涙がいっぱい溜まっていた。

「さっきね、点滴の針を刺し替えたんですよ。泣けちゃったんだよね。」

看護師さんが赤ちゃんの身体をさすりながら教えてくれた。

オギャーと大きな声で泣きたくても、人工呼吸器が付いていて声が出せない。声が出せないから、涙だけがポロポロと頬にこぼれている。


頭をガツンと殴られたような衝撃だった。

(この子が太い点滴の針を、鉛筆みたいに細い足に刺して頑張っているのに、どうして私は面会にずっと行かなかったんだろう。)

(小さな子を産んでしまって恥ずかしいなんてどうして思っていたんだろう。こんなにも一生懸命、生きようとしているのに。)


私はこの時初めて、

(この子に生きていて欲しい。)

と強く思った。そして、面会になかなか行けなかったことを、赤ちゃんにひたすら謝った。



あれから一年が過ぎた。

幸い動脈管は自然に閉じ、赤ちゃんは2ヶ月でNICUを退院することができた。

周りの子に比べるとやはり小柄だが、よく泣き、よく食べ、元気いっぱいに歩き回っている。幸い今のところ大きな発達の遅れは見られない。


(この子は生きているだけでいい!)と思っていたのに、育児の悩みは尽きることはなく、

最近夜泣きをするようになって寝不足だとか、

旦那じゃなくて私に似たら可愛かったのになどど、

小さなことでまた悩んでいる。


そんな時はいつも思い出す。


初めて人工呼吸器が取れた日。

初めて目を開いた日。

初めて口から母乳が飲めた日。

初めて胃のチューブが取れた日。

そして、目に涙をいっぱい溜めて、泣きたくても声が出せなかったあの姿。


この子がこうして、私の腕の中で眠っているだけで奇跡なのだ。

当たり前の出産なんてない。NICUでの日々を思い出すたび、生かされたこの命を全力で守っていかなければ、と強く思うのだった。











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