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ブリヂストンBS41スーパー修理戦記①〜火事で丸焼け!甦れ、バタバタの焼死体!

春のサンマル子。
この頃はまだ風防とか色々未装備だった

最終更新:2023.08.30
 
2023年春の晴れた休日。
筆者は愛車・サンマル子(ラビットS301)に乗って、よく行くパーツ屋さんに面白いジャンクバイクやパーツが入荷していないか…いわゆる「巡回」のため足を運びました。
 
傍目にはゴミの山かもしれませんが、バイク好きには宝の山です。
店長さんと旧車談義で盛り上がりつつ、店内外をぶらついてると…

サビサビの黒焦げ。まさにバイクの焼死体である。
しかも、これがバイクである事に気付けた人は少なかったらしい

火事で丸焼けになったカブと「自転車」が並んでいたのですが…
自転車の方をよく見ると

自転車に後付けするタイプのエンジン。
いわゆる「原動機付自転車(原付)」の語源となった代物だ

エンジンと燃料タンクがへばり付いていました。
 
所謂「バタバタ」と呼ばれていたエンジン付自転車。
まさに原動機付自転車そのものといえます…が、すごく焼けてます。
 
店長さん曰く
「どうしても買い取って欲しいって言われて買ったけど、ここまで焼け落ちてるから…選ばれし民しかこんなモン買わな…
 
あ、選ばれし民、目の前にいるじゃんワハハハハハハ!
 
という訳で、既に変態選ばれし民と認識されて久しい筆者は、古いエンジンの勉強も兼ねてこのバイクの焼死体をお迎えする事になりました。
サンマル子を遥かに凌ぐ酷い状態なので、流石に復活は厳しそうです。

ぼろ〜〜〜〜〜〜ん

で、やってきましたこの車輌。
エンジン部分と補器類・燃料タンクが「バイク担当」となっており、既存の自転車に装着する事で動力走行を可能にするのです。

ブリヂストン BS41
※画像はBS41。今回お迎えした個体は改良型の「スーパー」(1955)である

そして、この「バイク」は何とブリヂストン製!
今では世界的タイヤメーカーとして有名な同社ですが、かつてはバイクメーカーでもあったのです。
 
今回お迎えしたモデルは「BS41スーパー」という、ブリヂストン製の自転車用エンジンとしては完成形にあたる製品です。
本車輌(?)より前のモデルは自転車に搭載せずとも専用の鉄枠に固定し、クランク軸に紐を巻いて起動する事で汎用エンジンとしても使える仕様でしたが、BS41スーパーは完全なる自転車搭載専用モデルです。
(旧型にあたるBS31/41はオプションとして紐を巻くプーリーを装着可能でしたがスーパーでは廃止され、プーリー装着箇所には前期型だと孔の空いたプレート、筆者所有の後期型だと某ガンダムの地球連邦軍のようなエンブレムが装着され塞がれています)

エンジン駆動のゴムローラーを直接後輪リムの内側に押し付ける!という
ダイナミックな駆動機構。原始的だが確実かつシンプル

作業部屋で細かく状態をチェックすると、何とクランクが正常に回るのみならず圧縮すら健在でした。おまけに、駆動用ゴムローラーを後輪に押し付けるダイレクトドライブ機構の動き(スイング)もなめらかです。
 
これはエンジンだけでもワンチャン復活するか!?
 
ほのかな希望が、筆者の修理魂に火を点けました。

バイク担当部分を下ろし、これから修理に挑戦!

で、エンジンや燃料タンクや補器類を自転車から下ろしました。
原型こそ保ってはいますが、高熱に長時間さらされた精密機械です…正直言って、直る可能性は低いと書かざるを得ません。
しかし…
 
エンジンを状態チェックしていた時、この焼けたエンジンから「生きたい」という声が聞こえたような気がしました。
こうなっては、男ならやるしかありません。挑戦です!
 
一方で自転車(セキネ製)部分は損傷が酷く、要であるフレームが高熱で駄目になってしまっていたので…こちらは諦めて処分しました。
つまり、新たな自転車を入手する必要が生じたという事でもあります。

由布岳を快調に走るサンマル子。
このバイクとて、元は手の付けようのないバラバラ状態だったのだ

時は春。
サンマル子であちこち旅しながら不具合箇所の洗い出しを行う(デバッグモード)一方で、いよいよBS41スーパーの修理が本格的に始まりました。

なんだこのピストン!!!???

で、挨拶がてらヘッドを開けたら、いきなりこのピストン形状です。
 
BS41スーパーはシンプルなピストンバルブ式空冷2ストエンジンなので、ヘッド部分にバルブ機構があるとかそういう訳でもないのに…この形状です。
 
しかも、何と燃焼室部分にまで激しく突出しています。
おまけにトンガリが前後非対称です。

当然、ヘッド側燃焼室も変な形状である

なんかピストンが首振ったらシリンダー内壁がえらい事になりそうな形状ですが、そこまでの耐久性を考えていなかったのでしょうか。
 
こういうピストン形状は同年代の外国製2ストバイクでもみられますが、恐らくは充填・燃焼・掃気効率を改善するためのアイデアだとは思われます。

吸排気ポート(え????)
インマニ・エキマニが一体、しかもエキパイ含めてアルミ製(え????)

流石は1950年代の簡易バイクだけあって、今の感覚だと正直あり得ない吸排気レイアウトが筆者の度肝を抜きました。
 
何と吸排気ポートが2階建て構成となっており、そこに連結するマニホールドは吸排気一体型(ガスケットも吸排気一体!)、しかもエキパイ込みでアルミ製
 
\とても(^o^)こわい/
 

ホンダ ピープル(1984)

後年登場した「バタバタ」の最末期モデルといえるホンダ・ピープルですらも、ここまで凄まじいメカニズムの割り切りはなされていませんでした。
(ピープルの大胆な割り切りメカもなかなか面白いぞ!)
 
とはいえ、BS41スーパーは昭和の日本を実際に走っていたバイクです。
きっとこれでも、それなりに走るのでしょう。時速15km/hくらいで…
余計に興味が湧いてきました…絶対に復活させてやる!

キャブレターをご開帳。なんかドロドロ

続いてキャブレターのフロート室を開けると、まだ洗ってもないのに液体が溜まっていました。恐らくは、消火作業の際か屋外放置時に後から水分が入り込んだのでしょう。
しかし、元々良い保管状態ではなかったようです。
 
このキャブは一応アマル製を謳っており、AMALの刻印が眩しいのですが…実はミクニのOEM製品です。
(だからアマル公式サイトにもパーツ等情報はありません)

エアクリーナー回り

エアクリーナーはキャブと一体化しており、チョーク機構はキャブ本体ではなくエアクリーナーケース内部に組み込まれていました。チョークワイヤーもエアクリーナーから生えています。
 
どうやら、キャブ・チョーク・エアクリーナーの三者セットでOEM供給されていたようです。

燃料コック。残念ながら破損変形が酷く、部屋のオブジェに…

ガラス製燃料カップが時代を感じさせる燃料コックは、燃料カップが熱で割れていたのみならずコック自体も熱変形・劣化が酷く、非常に魅力的な形状をしているので使いたいのですが今回は断念。
 
ここは現行の汎用コックで代用します。

キャブを全バラして洗浄し、各部を調整

キャブ回りも僅かながら熱の影響で変形しており、フロート室のシーリングが微妙に駄目になっていたので削って修正。
 
不幸中の幸い、フロートバルブは軽い修理と調整で動作してくれました。
ちなみにこのキャブにはエアスクリューがないので、スロー調整という概念はありません。アイドル回転数とニードルの調整で頑張ります。

高熱に晒されたパーツなので、いつもの修理とは感覚が違う。
とにかく熱変形と劣化に注意しまくる必要がある
熱変形の一例(インマニ・キャブ側)

今回特に大変だったのは「高熱による熱変形と劣化への対応」でした。
一見どういう事なさそうなパーツでも微妙に熱変形してシールができなくなっていたり、パーツの合いが悪くなっていたりなんてザラです。
それをコツコツと計測して削って合わせて調整していかねばなりません。
 
しかし、やります。

マフラーと強制空冷シュラウド

そして、大物であるマフラーと強制空冷シュラウドの修理にも掛かります。
ご覧の通り悲惨な状態ですが、樹脂製のエンブレムが奇跡的に残っていたのみならず、透明度すら保っていたのは嬉しい誤算です。
 
で、先ずはマフラーの修理ですが…

筆者激おこの瞬間

なんかマフラーの様子が変だな…と思ってはいましたが
錆びて穴の空いたマフラーの外側をFRPで覆い、木ネジ(!)でFRPのガワをマフラーごとブチ抜いて固定、更に針金でグルグル巻きに…という
とんでもなく酷い、バイク愛のカケラも感じられない素人修理
が施されていました。
 
例えるならば、アニメ版「風の谷のナウシカ」で全身にロケット弾やらフックやら刺されて流血していた王蟲の子供のような…
 
ハッキリ書いておきますが、筆者はそういう「修理」が大嫌いです。
上記のような付け焼き刃的加工を行っても、50ccエンジンとはいえマフラーに掛かる排圧はそれなりに高いので、木ネジ数本と針金で留めた程度のガワなんて簡単に抜けてしまい、たやすく排気漏れを起こします。
直すのなら、ちゃんと直す箇所の事を学んでから臨みたいものです。
 
…と、プンスカ怒ってても修理は進まないので次いきます。

駆動ローラー。今回の最難関パーツである

最大の問題はこれ。駆動用のゴムローラーです。
ご覧の通りボロボロなのですが、リアホイールリムを直接回す関係上ガッチリ接着されており、交換には難儀しそうです。
 
他にも色々調べたり試行錯誤しながら、BS41スーパーの修理作業は進んでいきました。

サンマル子「アーニャしんだ〜〜〜」

しかし!
6月上旬、いつもの南阿蘇ぶらぶら旅の帰りにサンマル子が一次圧縮抜けと軽い抱き付きを起こしリタイアしてしまい、緊急ドック入りとなった事で事態は急転します。
 
ツーリングの続きは筆者の暮らしの友・わび子(YB1)が再び担当してくれるので特に問題はありませんでしたが、筆者宅の狭い作業部屋でBS41スーパーとサンマル子を2台同時修理対応…となると、ちょっと窮屈になってしまいます。

ヤフオクで新しい車体ゲット!

このままでは修理作業スケジュールが逼迫してしまいかねないので、筆者はBS41スーパーを「カタチにする」事を最優先事項に定め、新しい自転車ボディをヤフオクで落札しました。
近県だった事もあり、レンタカーを借りて自らお迎え。
 
エンジンを載せる(バイク)にせよ、まだ載せない(自転車)にせよ、車輌としてのカタチがあれば、それなりに場所こそ食いますが作業は大いに捗ります。
 
あと、車体を決めないとカラーリングも決められず、タンクとかシュラウドとかを塗装できない…という大問題もありました。

新しい車体となった「ノーリツ号」。
一見普通のママチャリだが、古き良きガッチリした昭和のニッポンのチャリだ

そういう訳でやってきたのはノーリツ号
終戦直後の古い国産自転車といえば黒くてゴツい実用車(運搬車)が人気なのですが、筆者はBS41スーパーをちょっとオサレに乗りたいので、敢えてママチャリ型の赤い自転車をチョイス。
 
イマドキの軟弱な中国製ママチャリなど比較にならない堅牢な構成・構造で、これならエンジンや燃料タンクを積んでも耐えられそうです。

またまたヤフオク

ほぼ同時に、新しい車体を「バイクとして法適合させる」ための補器類のベースとすべく、昭和当時物のヘッドライトやテールランプも複数ゲットしておきました。
 
BS41スーパーが現役だった時代と令和の今とでは、当たり前ですが法律も道路事情もまるで違います。
しかも、BS41スーパーのエンジンは普通のバイクと異なり補器類を動かすための電力までは供給してくれない(ダイナモで発電した電力は全てエンジン点火に用いる。レーサーと同じ)ので、補器類は電源もスイッチ類も含め完全に新造する必要があります。

ブリブリ号改め、ブリ子

最高速20km/hも出ないであろう、それこそ漕いだ方が速いバイクにここまで手間を掛けるメリットなど、当然ありません。
1馬力出るか出ないかのパワーなのに排気量はちゃんと50ccあるので、燃費もそんなに期待できないでしょう。そもそも、あのピストンとポートを見て低燃費や経済性を期待する人などいないと思いますが。
 
それでも、筆者はこのBS41スーパーこと「ブリ子」復活への道を歩み続ける事にしました。
 
生きる意志を感じるバイクは生きるべき。それが筆者の信念です。
 
ノーリツ号という素敵な車体を得た今、ブリ子は再びバイクとして令和の公道を走る事ができるのか?
課題山積ですが、気長にやっていこうと思います。
 
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※付記※
BS41スーパーの「バイクとしての登録・運用」については福岡県警に随時相談しつつ、現行法を遵守する形で行うようにしています。

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