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コーヒーのフレッシュのように

ブラックのコーヒーが苦手だった。今は、そこそこ飲める。自販機で冷えたものであれば、お茶代わりにと喉仏を鳴らしながら一口でたいそうな量を飲めるぐらいに。

「ミルクがないの飲めないの?まだまだ子どもね」

幼いころは、ミルクがないとコーヒーを飲むことができなかった。それはそれは苦いもので、自分の舌に乗せずに喉の奥に送り込む飲み方があるのなら誰かに教えて欲しかったぐらいだ。

だから、カフェオレのようなメニューのない喫茶店ではフレッシュを頻繁に使用した。アイスコーヒーならまだしも、ホットが出てきたときにはフレッシュがないと一切コーヒーを飲むことはできなかった。

「フレッシュって、知ってる?これの成分、ミルクじゃなくて、ただの油なんだよ。植物性油脂でできた、ニセモノなの」

もう30代も半ばになった。少しずつ味覚も変わってきたのだろうか。苦み、えぐみというものに耐性が付いた。むしろ、少しぐらいの苦みのある野菜や料理の方が物足りなさを感じずに豊かな匂いでもって食べられる食事のような気さえする。

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「フレッシュって、知ってる?この成分、ミルクじゃなくて、ただの油なんだよ。植物性油脂でできた、ニセモノなの」

大人は、そんなことをいう。でも、僕にとってはそんなことはどうでもいいのだ。ニセモノだってことぐらい、知っているし、分かってる。ことさら、そんなことをわざわざ云われなくても。

ニセモノだって、ニセモノなりの事情がある。それをニセモノだと分かっていながら飲み下す瞬間、それがまるで本物であるかのようなおいしさをおぼえたって、それはそれで良いじゃないか。

自分自身についてだって、そうだ。ニセモノである自分を誤魔化すつもりもないし、虚勢を張る気も失せてしまった。もう、どうでもよくなったのかもしれない。ごめんなさい。

それでも、フレッシュを混ぜて、苦いブラックのコーヒーを飲んで——飲めなかったものを、飲めるようにしてきたその時の自分自身には、それしか選び取れる現実はなかったのだ。

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佐藤 徹(Toru Sato)16g

こどもの医療機関でPR・Webサイト運営・ファンドレイジング(寄附あつめ)に従事. Living in PeaceこどもPJT(広報Gr).ほぼ日の塾4期生.

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その時々に、思ったこと、考えたことを。
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