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命をつなぐ、胸のフィラメントを灯せ――『臓器移植法20年 提供病院の半数いまも「体制整わず」』

目次
1.臓器移植法の歴史
2.何故、国内の小児臓器移植の体制は整わないのか?
3.何故、子どもの心臓移植は海外でなければできないのか?
4.臓器提供は終末期医療における選択肢であり、子どもの権利のひとつ
5.あとがき

臓器移植法の歴史

(いちからわかる!)法施行から20年、臓器移植は増えたの?

日本の臓器移植は、海外に比べ未だに少ないと云われる。素人目には、いろんな議論が重なり、また新たな論点が浮上し…ということを繰り返してきた歴史のように見え、正直自分は未だよく分かっていなかったのでちょっと調べてみた。

表題、そして引用した記事はすべて昨年のものなので、一年のGAPはある。その前提ではあるが、これまでの歴史を大まかに捉えると下記のとおりになると考えた。

■“脳死”を人の死と認めることへの生命倫理的なジレンマ:臓器提供者の脳死判定や移植患者の選定などに一定のルールを設け、臓器移植法が施行(97年10月~).
■何を以て“脳死”とするかの基準の整備:法的脳死判定の実施においては議論が続く.親族の心情への配慮、生命倫理的な公正さ….
■国際移植学会のイスタンブール宣言「臓器提供の自給自足(国外患者への治療は、それによって自国民が受ける移植医療の機会が減少しない場合のみ許容される)」:他国からやってくる渡航移植患者の制限から、自国での臓器移植を推進する改正法が全面施行(2010年7月~).

厚生労働省:政策レポート(臓器移植法の改正について)

2010年7月に改正・施行された現在の臓器移植法の改正内容を、下記のように抜粋した。

○臓器摘出の要件の改正:移植術に使用するために臓器を摘出することができる場合を次の(1)又は(2)のいずれかの場合とする。
(1) 本人の書面による臓器提供の意思表示があった場合であって、遺族がこれを拒まないとき又は遺族がないとき(現行法での要件)。
(2) 本人の臓器提供の意思が不明の場合であって、遺族がこれを書面により承諾するとき。
○臓器摘出に係る脳死判定の要件の改正:臓器摘出に係る脳死判定を行うことができる場合を次の(1)又は(2)のいずれかの場合とする。
(1) 本人が A 書面により臓器提供の意思表示をし、かつ、
B 脳死判定の拒否の意思表示をしている場合以外の場合
であって、家族が脳死判定を拒まないとき又は家族がないとき。
(2) 本人について A 臓器提供の意思が不明であり、かつ、
B 脳死判定の拒否の意思表示をしている場合以外の場合
であって、家族が脳死判定を行うことを書面により承諾するとき。

親族への優先提供:臓器提供の意思表示に併せて、書面により親族への臓器の優先提供の意思を表示することができることとする(臓器の優先提供を認める)。
普及・啓発:国及び地方公共団体は、移植術に使用されるための臓器を死亡した後に提供する意思の有無を運転免許証及び医療保険の被保険者証等に記載することができることとする等、移植医療に関する啓発及び知識の普及に必要な施策を講ずるものとする。
検討(小児の取り扱い/被虐待児への対応):家族の書面による承諾により、15歳未満の方からの臓器提供が可能になる。ただし、虐待を受けて死亡した児童から臓器が提供されることのないよう適切に対応するものとする。

こうして見ると、小児事例数の少なさ(平成28年度 脳死臓器移植事例は15例)は依然あるだろうものの、臓器提供側・患者サイドの体制は徐々に作られてきていると感じる。

提供数の少なさを打破すべく取り組んできた普及・啓発には、全国中学校3年生向けパンフレット/医療機関の掲示ポスターの配布、運転免許証や健康保険証の裏面への意思表示・ドナーカードの普及、アウェアネスリボンであるグリーンリボン運動(例:東京タワーのライトアップ)などが挙げられる。

さらに今後は、オプトアウト(生前に「○○をしない」と宣言しない限り、原則的に潜在的な○○の候補となる仕組み)まで踏み込むかどうか、というような意思表明の在り方について議論が進むことだろう。

しかし、小児の臓器移植(特に脳死移植・被虐待児への対応)においては、未だに医療サイドの問題が残っているとされる。

何故、国内の小児臓器移植の体制は整わないのか?

臓器移植法20年 提供病院の半数いまも「体勢整わず」

■提供意志表明の手続きと医療機関における現場の困難さ:脳死下で臓器提供できる施設の半数以上が「体制が整っていない」と回答.家族から提供の申し出があったのに、病院側の体制が整わず提供できなかった例が12例(2013~2017年).臓器提供の選択肢を示すかどうかは現場の判断に任されており、小児では虐待の有無を判断するなど手続きがより複雑になる.

小児の取り扱いにおける事項については、臓器移植ネットのマニュアルで詳細が確認できた。

臓器提供施設の手順書 - 日本臓器移植ネットワーク

“4.虐待を受けた児童への対応等に関する事項”を実践するにあたり、ある医療機関の移植コーディネーターからは「(虐待の疑いは)一点の曇りもない状態でないと、脳死下臓器提供はできない」という声も上がったと聞く。それだけ、虐待か否かの判断は困難であると思う。

そもそも児童虐待を医療機関全体で対応していくという取り組み自体、そこまで歴史が長い訳でもなく。臓器移植のみならず虐待対応の理解も侭ならない病院もあるだろう現状では、「体制が整っていない」と述べるのも分かる。

小児からの臓器提供に関する作業班│厚生労働省

昨今では、厚生労働省の審議会・研究会として「小児からの臓器提供に関する作業班」が立ち上がり、2018年3月9日まで議論がなされ、小児の臓器移植施設の現状と今後の施策について意見交換がなされた。今後、より個別具体的な問題解決のため、ガイドラインの整備を含めた体制整備が推進されることと思う。

何故、子どもの心臓移植は海外でなければできないのか?

小児脳死臓器移植はどうあるべきか|公益社団法人 日本小児科学会 JAPAN PEDIATRIC SOCIETY

小児科学会は、過去(2003年※改正臓器移植法より以前もの)に小児脳死臓器移植検討委員会での検討を経た提言をしている。その中「小児海外渡航心臓移植」という見出しの内容を抜粋・自分なりに見出しを付けた。

■心臓移植は脳死移植でなければできない:心臓移植は生体肝・腎・肺移植とは異なり生体ドナーからの移植は不可能.
■小さな身体の小児には小児からの臓器移植が望ましい:成人ドナーからの心臓移植はドナー・レシピエントの体重差が3倍以上となるため、概ね体重が20kg未満のレシピエントでは困難(※ただし、低体重児の小児脳死臓器心臓移植は不可能).
■小児の脳死臓器提供数は少ない:低体重児の小児脳死臓器心臓移植は不可能であり、かつ
15歳以上の脳死臓器提供数が少ない.
■海外渡航に耐えうる病状であるか/渡航できるだけの経済的余裕が有るか:心臓移植待機小児例のほとんどが機械的循環補助装置を必要とし、重篤な病状と経済的理由で海外渡航心臓移植が困難.

はたして、これだけの障がいを超えて心臓移植のできる子どもは何人いるんだろう。

子どもの心臓移植 自国で救えず海外頼み

実態としては、年間50人程度の子どもが、何らかの原因で心臓移植が必要になる。そのうち、海外に渡ったのは平均で年間5人・国内で移植を受けたのは年3名ほどとのこと。医療費は何とか準備できた、じゃあ渡航移植だ、といっても、ご家族は自国を離れ、言葉の通じない国で先の見えない生活を当分しなければならない。

トリオ・ジャパン(TRIO JAPAN) | 海外渡航移植を支援する非営利団体

TRIO(Transplant Recipients International Organization)は 1983年米国ペンシルバニア州ピッツバーグにおいて、移植を受けた人々 (レシピエント)の小さなグループとして始まりました。
創始者故ブライアン・リームスは心臓移植を受けようと待ち続けている間に、孤独と恐怖や不安にさいなまれた経験から、移植を待つ人、移植を受けた人、その家族の支援団体を作ろうと考えたのです。このグループの主な活動は、移植者自身やその家族が直面する様々な問題について、お互いに助け合おうというものでした。
トリオ・ジャパンはTRIOの日本支部として1991年2月9日に設立されたもので、胆道閉鎖症のために肝臓移植を待ちながらオーストラリア・ブリスベンで亡くなった水谷公香ちゃんの募金残金を「トリオ・ジャパン公香ちゃん基金」として出発しました

子どもの海外渡航移植を支援する団体であるトリオ・ジャパン。「国内威力が当たり前になりますように」――そう願う彼らの想いは、下記のとおり(現状の臓器移植医療について | 海外渡航移植を支援する非営利団体のトリオ・ジャパン(TRIO JAPAN)より抜粋)。

臓器移植に関心を持っていただいて理解を深めていただきたいと思います。その上で自分または家族が臓器を提供するか提供しないか、また臓器提供を受けるか、受けないか決めてもらいたいと思います。
日本で1,000人/年の臓器提供が行われれば5,000人の命が救われます。(一人の脳死者から平均5人が救われます。心臓・肺(2)・肝臓・腎臓(2)・膵臓・小腸)
日本で臓器移植が進まないことにより待機者の死亡、生体肝移植の増加、海外渡航移植、臓器売買への日本人の関与が起こっています。

臓器提供は終末期医療における選択肢であり、子どもの権利のひとつ

グリーフケア/サポート、在宅医療、家族療法(関係者との話し合い)…など。予後が厳しいという状況下で、本人含めたご家族の終末期のサポートは小児医療においても重要であることは間違いない。何故なら、そもそも子どもの死とは、不条理で、理不尽なものだからだ。

中には、最期のおわかれの準備に、こうした取り組みをしている医療機関もある。

○(感染対策・医療安全の観点から)きょうだい面会を禁止している施設が面会をOKにする
○散歩・旅行に少しでもいいから一緒に行く
○児の頭を洗う、身体を洗う、お化粧をする
○病衣/入院着ではなく普段着ている服や着たかった服に着せ替える
○家族みんな一緒の思い出の作品をつくる
○家族会・遺族会、グリーフケア/サポートの団体との連携

そんな中で、脳死に隣したお子さんを前に、臓器移植そのものをご家族の方から申し出るケースも有る(下記、第2回小児からの臓器提供に関する作業班議事録(2017年8月2日)より抜粋)。

私どもとしては、ドクターヘリ、ER、ICU、いわゆる、つながれた救命の連鎖と言いますが、こういうものをつなぎながら重症頭部外傷に対して全力をもって、行い得る全ての治療を実施するということを行いました。
残念ながら、この治療は功を奏さずそのまま頭蓋内圧がどんどん上がり続けて、残念ながら脳幹反射消失の脳波は平坦波、こういう病状を御家族に対して、適宜、説明してまいりましたが、無呼吸テストを含めた脳死判定を行い、治療の限界であるということをPICUの主治医とともに話をしたところ、御家族が申し上げられた言葉はこちらです。
「私たちにとっては臓器提供の選択が最高の延命治療です」と。はっきりお父さんは私の前で涙を流しながらおっしゃった。

この言葉を聞いたときに、私は非常にショックを受け動揺しました。かつて、どの親からもこういう言葉を聞いたことがなかったからです。
そのときに、私たちが机上で考えている、恐らく、親御さんたちはこのように考えるのではなかろうかというところよりも、はるかに遠く離れた高邁で高尚な意識を、若い親御さんたちは持ってきているのではないかということを気付かせていただいた経験でありました。
【埼玉医科大学の総合医療センター救命センター 荒木参考人】

脳死による臓器提供を考えるには、落ち着いて受容するには、全く以て早すぎる状況に、それでもその先にある未来に“どうあるべきか”を見出すということ、それ自体が選択肢になりえるのだと思う。

10代前半少女が臓器提供…遺族「頑張った娘のこと、知ってもらえたら」 

そして、子どもの権利という視点では、先述のオプトアウトとは真逆のオプトインの思想を小児科学会としては支持している(いわゆるB案.オプトインする子供の年齢を12歳に引き下げるというもの)。意思表示による自己決定の権利を保障する、という立場だ。しかし、知的障害や意思表示の困難さが認められるケースにおける線引き・基準の問題は残る。

理想的には、学会も提唱するように「いのちの授業」のような場をつくり、子ども自身が自分自身の人権を損なうことのないよう教育を通じてチャイルド・ドナーカードによる(オプトインの)自己意志表明を普及させることが望ましい。そして、小児専門移植コーディネーターなど小児の臓器移植における専門家の育成と医療機関における組織的な理解も同様に求められているのだろう。

あとがき

弊社でも、小児用補助人工心臓装置(VAD;Ventricular assist device)を2018年9月現在で4台運用している。こうした背景があっての小児心臓移植であることを知った上で、これからの仕事に従事したい。

また、今後「救う会」の取り組みを見た時、こうした背景に基づいた新たな角度の視点を持って、自分なりに支援できるところにできる限りの貢献を考えられたらと思う。

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貴重な時間のなか、拙文をお読みいただき 有り難う御座いました。戴いたサポートのお金はすべて、僕の親友の店(https://note.mu/toru0218/n/nfee56721684c)でのお食事に使います。叶えられた彼の夢が、ずっと続きますように。

有り難う御座います。これからの糧になります。
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佐藤 徹(Toru Sato)16g

こどもの医療機関でPR・Webサイト運営・ファンドレイジング(寄附あつめ)に従事. Living in PeaceこどもPJT(広報Gr).ほぼ日の塾4期生.

omoide

その時々に、思ったこと、考えたことを。
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