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【おすすめの本】 デザインの次に来るもの/安西 洋之

この本を一言で言うと...

モノやコトの「意味」を転換するコトで、急進的なイノベーションを実現する「意味のイノベーション」の方法について学べる。

読むべき人は...

① これまでにないイノベーティブなサービスを作りたいデザイナー・PM・エンジニアなどのクリエイター

② デザイン思考の効果に疑問を持っている人

③ イノベーションを起こし、長期的に売上を伸ばしていきたい経営者(特に中小企業の)

読んで学んだことは...

① ユーザー中心主義の方法論を採用する「デザイン思考」は「急進的イノベーション」には向かない。

イノベーションは「漸進的イノベーション」と「急進的イノベーション」の2種類がある。

漸進的イノベーション…今までに存在するものの性能を改善する。緩やかな変化をもたらす。
急進的イノベーション…全く新しいものを生み出す。劇的な変化をもたらす。※いわゆるよく言うイノベーション。

ユーザー中心主義のようにユーザーに接近しすぎると、その考え方や習慣にとらわれ、改善すべきことなど漸進的イノベーションの種は多く得られても、全く新しい急進的イノベーションの種は得られづらい。

②「デザインドリブンイノベーション」はユーザー中心主義の対極にあり、専門家の洞察や解釈を活用することで「急進的イノベーション」を実現できる。

デザインドリブンイノベーションは「デザイン・ディスコース」と呼ばれる様々な分野の専門家たちが、社会や文化のあるべき姿を深く洞察し、解釈。ここからデザインすべき問題を見出して行く(ユーザーから距離を置き、問いの立て方自体を変えて行く)。

これにより、デザインドリブンイノベーションは「人がモノに与える意味」を劇的に変えることができ(意味のイノベーション)、これが急進的イノベーションにつながる。

③「意味のイノベーション」は経済的リスクが少なく、中小企業にイノベーションをもたらしやすい。

意味のイノベーションは「人がモノに与える意味」を転換し、新しい利用方法を提示することで購買動機を作り出すこと。例えば…

・照明としてのローソクを「ムードを感じるための道具」に転換する。
・急用があるときなどの行為である「走る」を、健康の維持や精神的な楽しみのある「ジョギング」に転換する
・自動車と比較して貧しい印象ある「自転車」を、「環境によく経済的にも優しい移動手段」に転換する

意味のイノベーションは、既存のコトやモノを活用するため低リスク低コストで実施でき、技術的なイノベーションも必要ない。なので、中小企業に急進的イノベーションを起こす方法として注目されている。デザインドリブンイノベーションは、この「意味のイノベーション」を実現する方法論である。

④ 意味のイノベーションを起こすプロセスでは「建設的な批判」が不可欠である。

意味のイノベーションの4つのステップは、個人・ペア・グループでビジョンの方向を考えて固め、その上で解釈者たち にコンセプトの妥当性を検証してもらうといった、使い勝手が良いプロセスになっている(デザイン思考のプロセスなどと比較すると)。

1. 個人の熟考…自分自身の考えを起点とする。他者の考えに惑わされず。深く掘り下げる。
2. ペアによる批判…信頼できる仲間で建設的に批判しあい、互いの考えを磨いていく。
3. グループでの批判…10人ほどのグループで更に厳しい批判にさらす。
4. 専門家による批判…新鮮な視点を持つ広範な専門家の批判にさらす。

読んで思ったことは...

① ユーザー中心主義とイノベーションは相性が悪いのではないか、ということについて。

ユーザー中心主義を採用するデザイン思考はイノベーションと相性が悪いのでは、という漠然とした疑問をこれまで持っていたが、この本がそれに回答してくれた。イノベーションには「漸進的イノベーション」と「急進的イノベーション」があり、デザイン思考のアプローチは「漸進的イノベーション」に向いている、という整理はとても腹落ちした。

② ユーザーに近づぎすぎるリスクについて。

ユーザーの声に耳を傾け、ユーザーの行動に目を凝らす。これはとても大事なことだが、そうしていれば素晴らしいアイデアが浮かぶわけではない。むしろ自身の思考の範囲がユーザーの言動の範囲に知らぬ間に制限され、想定内の平凡なアイデアしか浮かばなくなる。

あまりこのことについて語られないが、この本で明確にユーザーに近づきすぎることのリスクについて記載されていたので、自身の考えを強くすることができた。

もちろん、バランスが大事であって、ユーザーの言動のキャッチアップは当たり前にやるのだが、それに対する距離の取り方が重要。特に私たちのような凡人が何かを考えて企画するときは。凡人はすぐにユーザーに引っ張られて思考停止ぎみになるから。

③ デザイン・ディスコース(専門家ネットワーク)という考え方について。

意味のイノベーションの肝は、デザイン・ディスコース(専門家のネットワーク)から批判をもらい、洞察を得ることにある。これは、ユーザーの言動に頼らず「個人の熟考」からスタートする超企画ドリブンな手法をとる「意味のイノベーション」が、急進性と確実性を上げていくために必要不可欠なステップだと思う。

一方で、本書でもデザイン・ディスコースのつくり方については「イベントやSNSとかで何とかつくって」くらいにしか記載されておらず、片手落ち感あり。難易度が高く、汎用的な手法がある訳でもないからなのだが、だからこそデザイン・ディスコースを作り上げることの価値は高いと言える。

デザイン・ディスコース自体をサービス化できないか。意味合い的には、ユーザーリサーチツール(マクロミルやインテージのサービスのような)と並列で、あらゆる領域の専門家に意見を乞うサービスのイメージ。マクロミルもインテージも膨大なモニターを持っているわけだけど(これが価値の本質)、膨大な専門家のネットワークを独自に作り上げてサービス化するのはとても価値が高そう。



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