標準化が進まない日本〜理由は「自分が損をしてでも人の足を引っ張ろうとする日本人」?

一昨日の「バズワード化する「不動産ID」〜日経新聞の記事についての感想」、を書きながらちょっと思ったことがあったので、メモしておきたいと思います。

日本では、不動産IDにしろ、標準化にしろ、みんなで協力して社会を便利にしていこう、という動きに対して、必ずと言って良いほど「デマを広めたりする人達」や、「抵抗勢力」、というのが現れます。

そういう人達は、話せば分かるとかではなく、懇切丁寧に説明しても無駄です。アレやコレや理由を挙げますが、どれも根拠の無い話しです。次から次へとあることないこと理由を挙げて反対したりします。それも、表立って反対すればまだ分かりやすいですが、非協力という形で反対する人達が大多数です。

これは何故なのか。

業界に蔓延する誤解と、それをそのまま煽って逆に誤解を深めてしまうような日経新聞などを含めたメディアの報道なども一因だと思いますが、それだけではないようです。

私はIT業界の片隅にも関わって、ITの発展はかれこれ四半世紀に渡って直に見てきたわけですが、欧米では「標準化」という作業を有志をはじめとし業界を挙げて協力して行い、「スタンダード(標準)」となる仕様を策定し、皆が便利になる仕組みを作り上げてきました。インターネットとウェブそのものがその成果物です。また各種ビジネス業界でも「標準化団体」というものを結成して、「標準規格」と言った仕様を「公共財」として皆で使うものを作り上げて、業界の発展に寄与させています。

直近ですと、IntelとAMDとARMといった競合企業同士が協力しあってチップレットの標準化に動いているとかいうニュースもありましたね。これが欧米ではごくごく普通のことです。

IT業界と英語環境に片足を突っ込んで半分以上そういう文化圏に染まっている自分としては、それが半ば普通で当たり前の感覚なのですが、日本の状況はまったく異なります。

日本では「標準化」といった社会活動がまるで無いのです。というかそもそも概念すら一般には知られてもいない

唯一ともいえるのは、「やっぱ海外とビジネスやっていくには国際標準がカギ」と気が付いた分野で話題になる程度(金融やモバイル通信ぐらいか)。日本のIT業界ですら、単に欧米の標準をありがたがってそのまま使っているだけ。

余談ですが、しばらく前に、ウィキペディアの関連項目の編集に関連して日本語版のウィキペディア上で議論していたのですが、なんと「標準化」が理解出来ない人ばかりで唖然とした覚えがあります。自分にとってはカルチャーショックで引っくり返りそうになったのであります。「標準って何?分かりにくいから反対です。言い換えてください」とか言われて、テクノロジー系の記事なのに何を言っているんだ(呆然)、と。自分が無知だった事に対して勉強するでもなく、「自分が知らない概念は書くな」とか言ってくるw、ありえんだろ、とも思いましたが。

今回の不動産IDの仕様策定にしたって、当事者の不動産業界がみずから動くでもなく、お国のお上から言われて何十年もかかった挙げ句になんとかやっと国が思い腰を挙げて取りまとめたというレベル。

日経の記者さんも誤解しているようですが、コレ、本来は国が出てきてやるような話しでも無いのですよ。不動産業界団体が主体的に旗を振って人を集めて作業部会(ワーキンググループ)でも標準化団体でも作って透明なプロセスを経てさっさと仕様を決めて、とっとと皆で使っていれば良い話しであったのです。こういう事をするのが本来の「業界団体」の存在意義の一つでもあります。なぜに日経新聞は全宅連とかの不動産業界団体に取材して公式のコメントを取らなかったのでしょうかね。

不動産情報の業者間流通システムにしても、米国ではその意義を認めた同業者同士が協力しあって自らMLSを立ち上げて自分たちで運営している(参照>「米国の不動産業におけるMLS(multiple listing service)とは何か」)一方、日本では宅建業法で法的に設置を定められたレインズというクソサイトを法律上の義務としてイヤイヤながら使っているという体たらく(不動産ジャパンの大失敗はいわずもがな)。

不動産情報の標準化にしても、米国ではNARが1999年から動いている(参照>「不動産の標準化組織 RESO(Real Estate Standards Organization)とは」)一方、日本の不動産業界団体はピクリとも動かない私が2002年に全宅連に提案してからもう20年が経ちました)。

この差。

なぜ日本では皆がここまで無理解、非協力的なのか。なぜ日本では社会を便利にしようとすると、それに反対する人達が出てくるのか、なぜ協力が進まないのか。

そこでふと思い出したのが、ちょっと前に見掛けた記事。

日本人は他人の足を引っ張りたがる」という社会学的な研究結果があるとか。(個人的に、こういう社会学的な考察は研究者のさじ加減で結論どうにでもなる傾向があるので絶対というものではないと思っていますが)

「被験者に集団で公共財を作るゲームをしてもらったところ、日本人は米国人や中国人と比較して他人の足を引っ張る傾向が強いとの結果が得られた」

公共財に投資をすると自分はその利益を得られる一方、公共財であることから相手にも利益があるという状況を想定し、被験者がどのような行動を取るのか確かめるというもの」

「仮に相手が投資を行わなくても、自分が投資すれば自分は利益を得られますが、相手はその投資にタダ乗りしますから、何もせずに儲かることになります」

「相手がタダで利益を得ているといっても自分も儲かるので投資は行うという人と、相手がタダ乗りするのは許せないという感覚から、自分の利益が減っても、相手の利益をさらに減らそうとする人に分かれる」

「自分の利益が減っても相手を陥れようとする行為を学術的にはスパイト(悪意、意地悪)行動と呼びますが、似たような実験を日本人、米国人、中国人に対して実施し、その結果を比較したところ、相手の利益をさらに減らそうとするスパイト行動は日本人に特に顕著だったことが明らかとなりました」

これですね。

つまり、日経の記事で引用されている「不動産IDによって、これまで1日がかりで行政窓口を回っていた情報収集がシステム上で完結するならメリットは大きい。しかし、それが異業種も交えたデータ連携に発展して情報がガラス張りになるのは避けたいという防衛本能が働く」とかいう根拠のないデタラメな理屈で反対する輩がその典型ではないでしょうか。

「便利になるのは良いけれど、他社も便利になると自分が損だから」みたいな。

「これ不便だな〜」という時に、「便利になるように皆で改善しよう!」ではなく・・・「皆がもっと不便になるように妨害してやれ」なんだから、酷い話しです。

なんていうか、時代についていけなくて頑迷に旧来の不便な方法に固執する単なる「老害」、みたいな話しよりもずっとたちが悪くて、害の大きい問題のような気がしますね。ビジネス上の利害関係とか既得権とかいう以前の話し。

なんていうか、色々とウンザリしすぎて、頭が痛くなります・・・。さてはて、この障害はどうやったら乗り越えれば良いのやら。


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