見出し画像

「不動産情報デジタル化の作法」として無料電子書籍化しました

今まで「不動産 x IT」として書いてきたことをまとめて、電子書籍(EPUB)にして見よう、と思い立ちました。

単にやったことがないからやってみよう、というだけだったりします。「そこに山があるから登るんだ」、みたいな。

基本は「不動産情報デジタル標準化の覚書」をベースに、その中で「詳しくはこっちで書きました」みたいに追記して個別の記事に分散していた内容など関連する記事をすべて本文に取り込み、それを一つのEPUBで電子書籍化、みたいな感じです。(EPUB化の手順はここに書きました)

「不動産情報デジタル化の作法」と題し、直接は関連しない記事も「付録」にて全部入りにしています。全部で約15万文字。だいたい新書とかと同じぐらいでしょうか。なかなか大変でありました。

ソフトウェア開発的に言うと、これ、元プロジェクトからフォークして派生させて新たな奴を作るパターンですね。上手くやらないとあとあと変更の同期が面倒くさくなるやつです。とりあえず、何も考えていません(多分、力技)。

もし何か不備等がありましたら教えていただけると助かります。


iPhoneやiPadの「ブック」アプリなどでお読みになる事ができます。(Kindle版はこちらから)

最終更新日 2022年4月21日
v1.0.2.17

以下でも読むことが出来ます。(若干体裁が異なりますが)


不動産情報デジタル化の作法

デジタル社会における不動産業とITのありかた

はじめに

不動産業というと、紙とFAXというイメージで、デジタル化にもっとも遅れている業種、というイメージがあるかと思います。実際、そういう所も確かにあるのですが、現状を正確に把握してその課題を正しく理解している人間が皆無に近く、不正確で偏った情報ばかりが広まっている面もあります。

なぜなら、不動産業が分かる人はITに疎く、IT系の人は不動産業の実務と業界事情に疎いからです。それゆえ、当然ながら誰も現状の課題を正しく言葉に(言語化)することもできず、結果として前に進む事が出来ていない気がします。

また、ずっと業界の内側にいると、「不動産業とはそういうものだ」と考えがちで、そもそも問題を解決できる課題だと気がつくことが出来ない場合もあります。

悪い事に、不動産業のことが分かっている(風の)IT系の方達は、大抵不動産ITサービスを提供している利害関係のある当事者であります。おまけにIT系の人と言っても、プログラムを開発できる知識や経験があるような人とも限りません。そのような人達は、まず第一に自社サービスへの利益誘導を図る、という明確な目的と動機がありますので、自分達にとって都合の良いことしか言わないでしょう。

逆に、自社ITサービスの宣伝や利益にならないと思ったことには(例えそれが業界や消費者含めた全体の利益になることであったとしても)あえて触れないというだけでなく、裏で激しく抵抗するようなこともあるかも知れません。

しかし、メディアなどに取り上げられるのは、そのような営利目的のIT企業などに属する利害関係のある人の話しばかりで、不動産業界ならびに社会全体を見据えた、「本当に必要なこと」の指摘がすっぽりと抜け落ちてしまっています。

結果として、メディアの報道や官公庁での動きなども非常に歪められたものとなり、不動産業ならびに不動産物件の情報流通におけるIT化やデジタル技術標準化といった本当に重要なことが前に進まない現状があります。

自分はたまたま人生の奇妙な巡り合わせで、英語とプログラミングと宅建士というバックグラウンドを持つため、海外の状況、IT技術、不動産業界の内側、それぞれの視点を持って、なんの利害関係もなく客観的に見ることが出来ます。おそらく、こんな人間は日本にもそんなに居ないのではないでしょうか。

日本の不動産業界が少しでもデジタル化を図れるよう、本書の内容がその一助として参考になれば幸いです。

概要

本書の目的は、「不動産情報のデジタル技術標準化」により、情報流通の促進を図り、不動産業務と取引の効率化及び利便性を高め、ひいては一般消費者の利益に寄与する、というものであります。

「技術標準化」とは、不動産情報をデジタルのデータとして流通させる上で、異なるシステム間において、データを相互に効率的に処理できるようにするための「共通言語」となる技術標準(テクニカル・スタンダード)の仕様を策定する、という事です。

言い換えれば、不動産業界で広く通用するデジタル版のリンガフランカ(共通言語)とそれを使う際のプロトコル(手続き規定)を定めるということであります。

これは項目名などの「表記の統一」や「契約等の書式の標準化」のことではなく、「業務やシステムの標準化」でもありません。ましてや「レインズ」のことでもありません。不動産情報流通における「相互運用性(インターオペラビリティ)」の確保を目的とした技術標準化です。

日本の不動産業界においては、いまだにこの技術標準となる規格・仕様が存在しておらず、今後のさらなるデジタル化の取り組みに向けて大きな障害となっています。

この問題は、皆が全て同じ業務システムを使えば解決する、というものではありません。単一のシステムの利用を皆に強制することは結果として利用者の不利益となり、市場の独占にも繋がることで、回り回って業界の発展を損ねるものとなるでしょう。

ゆえに、特定の業務システムによる市場独占を防ぎつつ、より多くの業務システムやサービスが参入しやすいような環境を整え、健全なる競争を促すことによって不動産業界におけるITの発展を目指す事が重要なカギとなります。

つまり、不動産関連ITサービスや業務システム開発における自由な競争と、多様性を維持・促進しながら、異なるシステム間でのデータ流通を促進・効率化するために、不動産業界における技術標準(ドキュメントフォーマット、データ定義、および通信プロトコルの仕様一式)を策定する必要がある、ということであります。

このような標準化の作業は、当事者である不動産業を代表する業界団体が旗を振って動き、中立的な標準化組織などにおいて行う必要があります。

いままで、これを関係する方々に説明していく上で、まずは基本的な背景事情の説明をし、それぞれが具体的にどういうことを意味するのか様々な誤解を解いていく必要性があると感じました。

本書は、米国での事例を含めて、不動産情報の技術標準化が必要であるその背景と、現状の課題、技術要素と言ったことを一つ一つ整理し、それぞれ解説をした手引書としたものとなります。

長くなりますが、お付き合いくださればと思います。

デジタル化とは

「IT活用」、つまりパソコンやインターネットなど情報技術の活用はもうかれこれ数十年ほど前から言われていることであります。

一方、最近では「デジタル化」という言葉も広く使われるようになっています。

不動産に関する情報には、国の法務局が管理する登記簿や自治体の都市計画、それに不動産各社の物件情報などがありますが、同じ住所でも建物名や地番の表記が違うケースも多く、取り引きの際に確認に手間がかかり、デジタル化の妨げにもなっていると指摘されています。

2021年9月24日
NHKニュース
「不動産ID」導入へ 国交省が検討会 今年度中にガイドライン

本来、というか従来の「デジタル化」とは、紙やアナログテープなどの情報を「電子化」つまりデジタル情報に変換することを言っていました。というか基本はそれを指します。

言葉というのはある意味「生き物」であり、意味も変化していきます。「デジタル化」というのは特に専門用語という訳でもありませんし、「公的」な定義も存在しません。大多数の皆がどのように使っているのかという文脈から推察する他ないでしょう。

様々な用例を鑑みると、昨今言われるこの「デジタル化」とは、18 世紀にイギリスで起きた産業革命における「機械化」に相当する事を言っているようです。

「機械化」によってもたらされたのが「オートメーション」、つまりは省力化して自動的に色々と出来るようにすることです(結果として大量生産が可能になりました)。逆に言えばオートメーションや大量生産の前提は「機械化」であったわけです。なので機械化すれば便利になる、というのは言外に含まれていると言えるでしょう。

つまり、昨今の「デジタル化」というのは、デジタル情報を効率的に利用出来るようにすることにより、色々と無駄な手間も省けて自動的に出来るようになって便利になる、という事を想定・前提にして言っているのではないでしょうか。

デジタル化と相互運用性

「色々と手間が省けて自動的に出来るようになって便利になる」という「デジタル社会」を実現する為には、以下のステップが必要になります。

  1. 情報をデータにする

  2. データを標準化する

  3. データを相互に繋ぐ

原義的な意味においての「デジタル化」、つまり「情報をデジタルのデータにすること」だけが主眼になってしまっていると、データを相互に繋いで利用する際の「相互運用性」が欠けることになります。

これはつまり、単にデジタルのデータにしただけでは、それぞれが印刷向けのPDF、表示用のHTML、表計算のエクセル・・・、皆がてんでんバラバラのデータ形式にしてしまうため、それぞれ互換性が無く、相互にデータをうまく利活用できない状況になってしまうということです。

このような状況を、「相互運用性がない」、と言います。日本の行政がやってきたのはこれの典型であります。

(まぁデジタル庁も出来てなんとかすると言っていますが、どうなることやらというところです)

相互運用性とは何でしょうか?

データを活用したり連携するときに、データの型式がバラバラだったり、同じデータ名なのに違う内容だったりすると困りますよね。それを防ぐために相互運用性という考え方があります。

相互運用性というのは、単にデータ形式があっているかということではなく、そのルールや支援ツールも含み、運用するのに必要な条件がすべてそろっている状況を言います。例えば、データは機械的に交換できるけれど、利用規約が違うので使えないとか、受け取る側の組織にデータを活用する担当者がいないのでは円滑にデータを交換することができません。

2022年4月3日
デジタル庁データチーム
政府相互運用性フレームワーク(GIF)を公表しました

不動産業で言えば、物件データは各社それぞれ不動産業務システムで独自固有のデータベース形式などで管理されています。レインズも一種の独自固有のデータベースです。データになってはいても、それぞれのデータ形式も定義づけにも互換性はありませんから、相互運用性も無いということです。

結果、せっかくのデータも利活用が進みませんし、「デジタル化」が進まず皆が不便なまま、となってしまうのです。

相互運用性と標準化

相互運用性を確保するためには、皆の「共通言語」となるデータの仕様を、使う皆で決めることが必要となります。

これを「標準化」と言います。

日本の行政も、遅まきながらようやく気が付いたようです。

行政機関では多くのデータを管理していますが、そのデータは独自の形式である場合が多く、標準化されていません。そのため、データの再利用が困難であったり、外部とのデータ連携においても大きな障害になっています。また、データ形式が標準化されていないと、データ連携ができないだけでなく、データの整形に多くのリソースを割くことになり、分析にも支障をきたします。AIやビッグデータの活用が注目されていますが、そのインプットとなるデータが十分に整備されていなければ、目的の結果にたどり着くのが困難になります。

2022年3月31日
デジタル庁
コアデータモデル全体概要 - 政府相互運用性フレームワーク

つまり、標準化して初めてお互いにデータをやり取りする際の相互運用性が確保されるのです。

でないと、いちいち相手先の使う「言語(データ形式と定義)」を確認したうえで、それに合わせて「言語」を学習し、相手によっていちいち使い分けなければいけないという大変不便な状況ということです。

標準化とオープンスタンダード

「標準化(standardization)」ということばの意味は幅広く、様々な場面で使われています。日本では「業務の標準化」や「書式の標準化」などの場面で目にすることが多いことでしょう。

技術の世界、特にITなどの通信技術の分野では「標準化」というのは特別な意味を持ちます。なぜなら、FAXも含め、すべてが標準化された規格・仕様の上で成り立っているからです。

インターネットやその上で動くウェブ(World Wide Web)といったITの発展も、「標準化」という作業を関連業界を挙げて有志をはじめとした皆が協力して行い、「スタンダード(標準)」となる規格・仕様を策定し、皆が便利になる仕組みを皆で作り上げてきました。

標準化された技術の規格・仕様がなかければ、ブラウザーでページを閲覧することも、メールを送受信することも出来ません。

これは、中立的な「標準化団体」という独立した組織を作って、そこで関連する人・組織・企業が集まって広く透明なプロセスで民主的に仕様やルール・ガイドラインといったものを決めてきたからこそ可能なのです。

もし特定の企業や国が実権を握るような団体が主導して決めたものだとしたら、インターネットやメールも世界中で使われることは無かったでしょう。

このような方法で、「皆んなが使う皆んなで決められる皆んなのもの」、という技術的な規格・仕様は、「オープンスタンダード(オープン標準)」と言われています。

特に欧米では、各種ビジネス業界でも同様に「標準化団体」を結成して、「標準規格」と言った仕様を「公共財」として皆で使うオープンスタンダードを作り上げて、業界の発展に寄与させています。

また、「デファクトスタンダード」といって、その分野において最も多く使われているため、一種の既成事実化したという実質的に標準となっているものも存在します。これは、その分野において選択の自由と適者生存という自由競争の中でもっとも良い仕様が選択され生き残って自然と収れんしていった結果であり、「デファクトスタンダード」も悪いものではありません。

しかしながら、原理上デファクトスタンダード化するまでの過程は混沌としたものであり、しばしば有力候補となるものが標準化団体での調整を経てオープンスタンダード化することも多いようです。

国際標準を目指す分野においては、日本においても標準化の重要性は特に認識されています。

標準化とは?
標準化とは、異なるメーカの製品間で相互運用を可能とするため、業界内で統一規格を作成する取組みです。モバイル通信の世界では、周波数、無線技術、通信手順や信号インターフェースなどを統一化する取組みが該当します。
その結果、世界中の端末が各国のネットワークに繋がり、モバイル通信が可能となります。また、同じ規格の製品が世界各国で採用される事で、端末や装置が共通化でき、価格が“低廉化”することが期待されます。

2021年9月24日
株式会社NTTドコモ
ドコモの標準化への取組み

しかしながら、ITの分野においてすら欧米の人達が中心となって策定した標準をそのまま利用しているケースがほとんどで、残念ながら日本においては標準化という活動自体がそれほど認知されておらず、一般化しているとは言い難い状況です。

・オープンスタンダードの重要性

ウェブの歴史を振り返ると「独占という悪」と「オープンスタンダード」の戦いの歴史でありました。

古くは、マイクロソフトのWindowsが市場を独占しつつあった頃、Windows既定ブラウザーであったIEも市場において寡占が進み、オープンスタンダードがないがしろにされつつ合った時代がありました。WindowsがOSとしての独占的立場を利用してプリインストールするIEがブラウザ市場を占有しはじめ、インターネットにまつわる規格「ウェブ標準」(HTMLやJavaScriptやCSS)までもが歪んでくる(ないがしろにされる)、という現象が起きていたのです。

当時は、IEでしか見れないページ、逆にIEでは観れない(崩れる、動かない)ページなどが非常に問題となっていました。逆にこれを利用して、IEのライバルを市場から排除しようとしていた、とも言えます(ブラウザ戦争)。結果としてウェブにまつわる技術の進歩も停滞し、IEのセキュリティ問題が噴出します。まさに「市場独占」の悪い理由がここにあります。

これではいけない、と、欧米を中心に、独占禁止法にまつわる米国での裁判、EU対マイクロソフト、という法定での戦いが始まり、さらには草の根の民間ではLinuxといった自由で開かれたオープンソースのOSや、Firefoxというブラウザーが登場します。同時に、「ウェブ標準」というスタンダードを尊重しよう、という流れが強まります。皆でいかにウェブ標準に正しく準拠しているかの競争をしよう、みたいな所もあり、健全なる競争が始まったのです。

種の存続と進化の為には種の多様性が不可欠、というのに似ていて、健全な市場には多様性と競争が必要だということを、皆が再認識をしたのです。当時、新しく登場したGoogleは、Do no evil(悪は行わない)を謳って一躍有名になりました。(今ではむしろ、そのGoogleがevilになりつつあるとの指摘もありますが)

ウェブの世界は改めて「独占の悪」と「オープンスタンダードの重要性」を認識したと言えます。

この現在にいたる「ウェブ標準」重視の流れのおかげで、インターネットの分断や大混乱は起きずに済み、ChromeやFirefoxやSafariといったブラウザーは、ウェブ標準をベースに種々の機能を開発し利便性を追求して、お互いに切磋琢磨しながら、より使い手にとってより便利なものとすることに注力することができるようになりました。

結果として、我々ユーザーは自分達の好きなブラウザーを自由に選んで使って問題なくウェブを閲覧することが出来るのです。

不動産業界がIT・デジタル化で遅れている本当の理由

昨今、ただでさえ「IT後進国」などと自嘲気味に語られることの多くなった日本ですが、その中でも特に遅れているのが不動産業界、なのかもしれません。

しかし、その原因というか理由が正しく伝わっていないと感じています。理由が分かっていないから解決策もトンチンカンなものになりがち、という気がするのです。

巷では、「ウェブカメラで画面越しに話してIT活用・デジタル化」、はたまた「VR・ARで物件を紹介してIT・デジタル化」、「スマートキーだの各種ガジェットなどIoTを使って云々」、という(いわゆる「日本的な不動産テック」)話題でもちきりです。

しかし、そうしたものが普及したとしても、不動産業におけるIT活用やデジタル化が進んだという風に言って良いものなのか、個人的には非常に強い違和感を感じます。現状それらはすべて表層的なものに過ぎないと思うからです。

(自分も2010年ぐらいからSkypeを使ってみたりとか、動画を使って色々遊んでましたが、そういうのは棚に上げておきまして・・・)

また、「不動産業界には古くからの属人的な業務プロセスが残っているため」、といった単純な説明がなされることがあります。それは、間違いではないのかもしれませんが、今や、どこも何かしらの不動産業務支援システム・サービスを導入しており、そうした「パッケージシステム」などを使うことによって、結果的に古くからの属人的なやりかたは解消されてきています。

では不動産業におけるIT活用とデジタル化が遅れている、というのは「神話」なのか、というとそうでもない、と思うのです。

遅れているのは、これからの「デジタル社会」に対応するべく、データの「相互運用性」を図るための「標準化」をするといった、不動産業界全体としての「デジタル化」という、基礎的で本質的なレベルの部分であります。

これが出来ないと、全体としての底上げや今後の展望も望めません。

では、なぜそこが遅れてしまっているのか、という点なのですが、その背景には、以下のような不動産業界の特殊性が関係しているように思います。

不動産業の特殊性

不動産業というのは、「不動産」を扱うのですが、究極的には(語弊があるかもしれませんが)「人」を扱う仕事であります。

単に不動産の書類を右から左にやる仕事ではなく、第一に「接客業」であり「依頼を受けてその人の希望を叶える」という人に対する「サービス業」なのです。半端なく泥臭い仕事であります。

コンピューターを相手にするITの世界とはある意味、対極的なところにあります。

また、不動産というものは他に同じものが一つとして存在しないというユニークなものであり、同様に個人も人それぞれで事情も異なります。この両者を踏まえて人と人の間に入る不動産業の業務というのは、どうしても煩雑になりがちです。

不動産業の業務自体がそもそもITでシステム化しづらい属人的なものなのだ、と言っても良いかも知れません。

さらに、以下に挙げるような、他業界にはなかなか見ることのない特徴が存在します。

1.大多数を占めるのは個人レベルのプレーヤー

まず第一に押さえておきたい点は、不動産業界は他の業界と異なり、個人レベルのプレーヤーが多い、という事です。

他の業界、例えば、小売りや喫茶店は、もはや個人商店はどんどん淘汰され、軒並み大企業やチェーン店です。製造業でも、町工場的なのはもう本当に少なくなってきました。

不動産業界の場合、大企業も多く存在しますが、個人が宅建免許を取得して起業しやすい、という点から、従事者数4人以下の宅地建物取引業者が80%とも言われ、不動産業界を構成するのは、圧倒的に数の多い中小零細不動産会社です。いわゆる駅前にある「街の不動産屋」、つまり地元系不動産会社です。

この構図、他の業界とは想像を超えるレベルの違いがあります。

そもそも不動産業と言っても色々あり、賃貸と売買の違いは良いとしても、仲介、管理、投資系、開発(デベロッパー)系、などなど、色々な分野があり一般にはあまり馴染みのないことかもしれません。大手はやはり建設と販売などを手がけるところが多いですが、そういう話しは別の話しなのでちょっと横に置いておきます。

不動産業界を構成するのは個人レベルのプレーヤーが多い、ということ。

これ、極論すれば、看護師業でIT活用やデジタル化が大変、というようなものですが、実際は、看護師なら勤務先の医療機関が全て行うので導入するITシステムについて看護師は通常関知しません。

ところが、個人レベルのプレーヤーが多い不動産業界では、それが当人達の問題となります。システム導入に際し、適材適所の良し悪しを判断する難しさもありますが、コストの問題もあります。

これは実際なかなか大変なことであります。

・業界の人達のITリテラシー

不動産業界の人達のITリテラシーが~というのは、間違っているという訳では無いのですが、正確ではありません。なぜなら、個人プレーヤーが多い不動産業界は日本人の平均的なレベルの縮図であって、日本人の一般的なITリテラシーを表しているに過ぎないからです。

確かに色々な層の人達が不動産業界に入っていきます(不動産業、宅建業者といってもピンキリなので)。チャラいアレだった人達とか(笑)。しかし、若い人に限って言えば、不動産業務でパソコンを使うことが必須である以上、その内使うだけならある程度使えるようにはなります。

なので、パソコンを使わない他の業種よりはITリテラシーは高い、というかなんというか・・・。なんだかんだ言って、平均的なのではないでしょうか。

2.不動産業はベテランが主役

不動産業というのは、第一に接客業でありサービス業であり、不動産という「一点モノ」に関係して「人と人との間に入る仕事」、というのは前に述べた通りです。

必然的に、「街の不動産屋」の社長さんレベルになると、異様に人当りの良い、「人たらし」だったりします。逆に言うと、そういう人でないと出来ません。「一点モノ」を見極めるのは経験が物を言う場合があります。つまり、当然、人生経験や実務経験も長い人達です。(例外で、地主系の不動産会社とかフランチャイズ系のになるとまた全然別)

不動産業界で働く下っ端(自分も含めて)には様々な人間が居て、正直苦手な人達なのですが、そいう街の不動産屋の社長さんレベルの人は、人間的に凄いです。懐の深さから何からただただ凄い人達なので、尊敬しています。(一部に変なのも居ますが)

が、そういう「人たらし」に長けた人は、パソコン苦手です(笑)。しかも、元々日本の一定層以上の年齢層の人は、ITについて詳しい人を、パソコン「オタク」、と見なすようなステレオタイプを持つ人もまだ結構存在していたりします。でも、だからと言って、決してIT化に反対する訳ではありません。むしろ、楽になることだったら積極的に導入します。

日本の不動産業界に影響力を持つのは、実は、そういう社長さん達なのです。

結果的に、こういうキャラの立った人達の集まりである業界組織であるがゆえに、業界組織としてまとまって物事を決めて動かしていくのは非常に大変なことなのです。

おまけに、業界団体の役員なんて面倒で時間ばかり取られる事をやりたがる人は、目立ちたがりというか「オラがオラが」みたいな所もありがちで、業界内の力関係という政治的なパワーゲームのようなことばかりに興味があったりします。つまり「なりたがる人=適任者」とも限らず・・・。

不動産業界の団体で流通システムの運営に関わることになるのは、「オラがオラが」みたいな「ITに詳しい宅建業者の社長さん」、ということになるのですが、実質、「iPadを使えるんだぜ」というような感じの面々となります(あれは2011年頃の話しだったか)。インターネットを使わなかった前世代とは違うのだよ、という・・・。インターネットネイティブの世代に入れ替わるのはあと30年は必要でしょうか。

話しは逸れますが、将来はどうなるんでしょうかね。個人商店がどんどん潰れて、大企業のチェーン店だらけになるのが良い事なのかどうか、未来の事は、自分には良く分かりません。

街の不動産屋の社長さん達がプライドを持って「信義則」でやってきた中に、カタカナ名のチェーン店のようなチャラい店がやってきて、おとり広告だの中抜きだので浸食してきたりしているのを見ると、チェーン店にとっては「儲かれば何しても良い」みたいな所を感じて、あまり良い印象はありません。

3.不動産業は横の連携が必須

これは他の業界からは想像もつかない話しだと思いますが、不動産会社は、競合他社と協力しあう関係にあります。常日頃から、他社に物件情報を流して共有し合い、契約時も協力するのです。

このような業種は、他にちょっと思いつきません。多少の(地元行事の)協力関係とかいうレベルではないのです。同じ地域にある不動産業会社の営業同士や社長同士は競合でありながらも仕事仲間みたいな所も少しあり、お互いを良く知っています。

不動産業界が丸ごと一つのフランチャイズみたいなイメージを受けるかもしれませんが、ある意味、そういう側面もあります。こういった横の連携においては、明文化された決まりごとというものは無く、昔からの慣習的に行ってきたものです。

なので、一社が単独で「うち、今後はチャットだけで連絡を受け付けるんでよろしく!」といったとしても、他社との情報の連携に支障を来たすだけで、一種の自殺行為となります。

みんなで同じものを使わないと、意味がないのです。

ま、現状それは、皆さんの予想通り、電話とFAXなんですが・・・。ま、FAXと言っても、皆さんの自宅にあるようなFAXマシンではなく、複合機なので、それなりに信頼性はあります。

電話で元付け業者の担当営業に今の今の今の状況を直に確認して、FAXで図面を取り寄せて、届いたらそれをそのままお客さんに手渡せる、というもっとも確実で最速な・・電話とFAX・・・。

この横の連携で情報を流しあうのを「業者間流通」といい、後述するような幾つか流通経路はあります。

近年、様々な不動産IT系の企業が色々と業者間流通のサービスを提供しはじめていますが、私的企業の独自サービスではダメなのです。単なる(お互いに連携もしない)閉じたネットワークが複数乱立するだけで、逆に不動産業者間の連携と情報共有が阻害されてしまうことになるだけでです。また、もし不動産業界の業者間流通が一企業に一手に独占的に握られるようなことになったら、日本の不動産業も終わりです。

日本の不動産IT系の人達は、そこを分かってるのか、分かっていないのか・・・。そんなことには構わず自社サービスの宣伝に忙しいようです。

本来は、こういう時の為に、「標準化団体」というものを皆で作って、各々が自由に業務システムを選んで使いながら、システムの裏では共通の標準フォーマットをやり取りする、という形が定石となるのです。

日本は今まで、他国で標準化されてきたものにタダ乗りしてきたことが多いですが、不動産業においては法令や住環境が異なるので、他国の仕様にタダ乗りすることが出来ないので、日本の事情にあわせて日本人が独自にやる必要があります。

ただ、前述してきたように、日本では「標準化(作業)」というのにそもそも馴染みがないようで、なかなか前に進みません。

4.機微な情報を扱う不動産業

不動産を扱うと言っても、人に関するサービス業と述べた通りですが、それも特に個人に関する機微(センシティブ)な情報を扱う業種です。

申込時だけを取っても、免許証のような身分証明書、住所・氏名・年齢・学校・勤務先・年収・家族構成・・・。プライバシーに関わるプライベートで機密性の高い情報と言えます。契約時には住民票から場合によっては収入証明書。その他の業務においても、ローンの残債などなどから、親族間の揉め事まで・・・。

これだけまとまった個人情報を扱う業種はそうそうありません(融資を扱う銀行ぐらい?)。なので、不動産業に従事するものには、「守秘義務」、というのが課せられているのです。信用が第一です。保守的にならざるを得ません。

そういった情報を電子化した状態でインターネット上のサーバー(いわゆるクラウド)に置いておくことはセキュリティ上のリスクを飛躍的に高める事になります。24時間365日世界中から攻撃に晒されている状態ですから。物理的な環境に置き換えていえば、犯罪者が四六時中群がってドアをガンガン叩いている場所に保管しているようなもので・・・

今まで不動産業で個人情報漏洩やランサムウェアによる被害などが表に出てこなかったのは、このような情報を紙の書類のままでオンライン化せずに保管してきた所が多い、ということも理由の一つとして考えられます。ネットワークをファイアウォールで区切る、ゼロトラスト、そもそも物理的に内部ネットワークをインターネットから切り離す、というのはセキュリティ上重要な考えですが、そもそものそもそもで、電子化しない、というのは究極的なセキュリティとも言えます。

不動産業務システムをクラウドで、なんてのもしばらく前から広まってきていますが、漏洩などがニュースになっていない(気がする)のは、単に規模が小さくニュースバリューが無いだけだったり、公表してないだけ、または単に気が付いていないだけ、といった可能性も十分考えられます。電子契約で契約もオンラインで、なんてなってくると、今後は狙われることもあるのではないでしょうか。

「うちはセキュリティは万全です」なんて言っている所があったら、逆に不安になります。万全なシステムなんて存在しないからです。「うちはTRUSTeマーク認証(やらなんとかマーク)を受けているので安心です」、という所に限って大規模にやらかしてしまう、という笑えない話しも実際多いです。

なので、なんでもかんでもオンライン上で気軽に、という訳には行きませんし、個人的にも、やるなら相当な覚悟が無い限りおススメしません。実際、医療や警察など内部ネットワークは外部インターネットと物理的に切り離してたりするのです(だから医療・警察とかの分野でも外部とのやりとりはやっぱりFAXになったりするのです)。

そういったセキュリティの事を考えていなかった、というのなら、安易にシステムをオンライン化するのは止めといたほうが良いです。殆どの場合、「セキュリティ」と「ITによる効率化や利便性」を天秤にかけたら、セキュリティの方が重要だからです。

5.実務の煩雑性

私がいた不動産会社は売買と賃貸の管理と仲介をやるという、幅広めな業務を行う会社でありました。(なので、自分も全部をやらされていました>良い修行)

不動産屋といっても本当に色々で、売買のみ、賃貸のみ、それも仲介のみ、管理だけ、またはどれかの組み合わせ、なんていうタイプの会社もありえます。売買だけとっても色々と細分化と専門化がされています。面白いことに、それぞれ営業さん達のノリや態度も違えば使う言葉までもちょっと違ったりするくらいです。

特に、売買と賃貸では、スピード感がまるで別の時空にいるかのように違います。売買は少しどっしりと腰を落ち着けてやりますが、賃貸の繁忙期はまるでお祭り騒ぎです。

賃貸の繁忙期とは、春の引っ越しシーズンのことであります。これは大学の多い東京の不動産屋限定の話しかもしれませんが、主に地方から東京の大学に進学する学生の一斉移動があります。米国のようにセメスター制で分散する国と違って、皆が一斉にしかも3月中旬に入居を希望しますから、この時期に賃貸の入退去が極端に集中するのです。

そうすると繁忙期の賃貸の仲介と管理は、ピークになると片手で携帯で喋りながら反対の手でパソコンでタイプしつつ肩で固定電話の受話器を支えながら電話を掛けている、みたいな状況が起きうるわけです。

一つの物件の入退去だけで、退去立会い、オーナーへの報告と交渉、リフォーム業者への見積もり・発注・確認、退去者への退去精算、新たな募集、新入居者の案内と申込み審査・契約、があります。これだけで、4者と交渉して話しを取りまとめつつ、非常に多くのタスクをこなしていかなければなりません。しかも契約に仲介業者が絡むと5者間の調整になりますね。そしてこの入退去が一日に何件も重なるわけで・・・。しかも、毎回まったく別の5者が絡む調整となるわけです。

これは入居日っていうタイムリミットもある契約ごとですので、いちいちメールなんかで相手の返信を待つ、なんて悠長なことはやっていられません。返事をくれる人かもどうかも分かりませんし、メールを送ってやったつもりになったまま忘れてしまう、なんてのがオチです。

電話を受けたら話しながらメモを走り書きするのが精一杯で(同業同士はこの時期みな単刀直入早口用件のみ)、受話器をおいた瞬間にまた別の電話が掛かってきます。しかも、電話中にお客さんが来店し、目の前に来るので無言のプレッシャーを受けるなんてこともしばしば(路面店の場合)。なので電話で受けた用件はその場でメモしないと忘れてしまいますので、気がついたら走り書きのメモの山となったりします。

つまり、アプリなどを使った「タスク管理」なんてしている余裕ねぇって話しです。いちいち「タスク管理」に入力している暇があったら、さっさと電話を掛けるなり動くなりしてその用件(タスク)を片付けろ、っていう・・・。でないと自分の業務が破綻します。

メールだけで済んでいた前職とはまるで違う世界。こういうのは実際に業務をやってみないことには分からないこと、だったりするんですよね。

こういった、信頼関係をベースに人と人の間に入って「交渉と調整、取りまとめと手配」をする、それも不特定多数と、という業務はとても煩雑なものとなります。

これはシステム開発をする身としても身にしみて分かるのですが、容易にシステム化、デジタル化できる話しではありません。

6.日本固有の法令・慣習による参入障壁

黒船というか外圧というか・・・。日本では、古来からそういうもので良くも悪くも変化、または進歩してきた所があります。

小売りにしてもAmazon、映画産業ではNetflix、音楽業界ではSpotify、などなど、便利なサービスが入ってきています。日本人ももっと頑張って欲しいと思いますが、便利なサービスが使えて良い事でもあります。

特に、金融や投資、株式市場の世界では市場開放という名の下に、そして海外勢からの投資を呼び込む必要性もあったために、関連法規や環境整備を行い、世界標準に合わせる努力をしてきました。

一方、日本の不動産業界は、不動産の投資などの分野では多少そういう面も少しもありますが、どちらかというと金融や証券の分野に近く、それは不動産業界のごくごくごく一部での話しであって、全体からすればほぼ影響のない話しと言えます。

海外の不動産関連サービスやソフトウェアは、法規だけでなく、住環境や慣習も異なるので、まったく使えません。日本では*DKとかですが、欧米では、ベットルーム単位だったりします。

完全なる鎖国状態と言っても過言ではありません。参入障壁だの、保護貿易主義だの、突っ込まれかねない話しではありますが、別にワザとやっているわけではないのであります。

結果として日本の不動産業界と不動産系IT業界は両方とも、恐らく気が付いていないだけで、お互い馴れ合いながらぬるま湯の中に居るとも言えます。

米国での事例

ここでは視点を変えて、米国での不動産情報デジタル標準化の事例をご紹介したいと思います。

米国における不動産のデジタル化事情には幾つかの要素が絡んでいますが、どれも全米リアルター協会(NAR)を抜きにして語ることは出来ません。

全米リアルター協会(NAR)

全米リアルター協会(NAR)公式サイトのトップページ

全米リアルター協会(National Association of Realtors)とは、米国最大の不動産業界団体で、略してNARと呼ばれます(以下、NAR)。

その歴史は、1908年に設立された、National Association of Real Estate Exchangesに始まり、1913年には倫理規定(Code of Ethics)を採択し、1916年にThe National Association of Real Estate Boards (NAREB)に名称変更、1972年に再度の名称変更を行い、現在のNARへと至るものです。

特徴は、NARが独自に定めた「厳格な倫理規定(Code of Ethics)」を遵守することを誓約するものに限り、会員としてリアルター(商標登録されたREALTOR®)と名乗ることが出来る、ということです。

これはつまり、単に免許を受けているだけの不動産エージェントの意味として「リアルター(REALTORS®)」という名称を「決して使ってはいけない」、ということになります。

A REALTOR® is a member of the National Association of REALTORS®. The term REALTOR® should never be used as a substitute for "real estate agent."

全米リアルター協会(NAR)
Top 5 Things You Need to Know About the REALTOR® Trademarks

因みに、"realtor"という言葉は造語で、1916年にCharles N. Chadbournという人が考案したものだとか。 "actor"、"creator"のように、「する人」みたいな意味で、"real (estate)"に"tor"をくっつけたと。

From real (in real estate) and -or. Coined by Charles N. Chadbourn in 1916, on the model of Latin agent nouns ending in -tor (such as actor, creator), to refer to real-estate professionals who are members of the National Association of Realtors, a trade association in the United States.

Wiktionary
realtor

NARの会員は、不動産のブローカーやエージェントだけに限定はしておらず、いわゆる不動産鑑定士やその他、「不動産業界で働くプロフェッショナル」で構成されています。

The term REALTOR® is a registered collective membership mark that identifies a real estate professional who is a member of the National Association of REALTORS® and subscribes to its strict Code of Ethics.

全米リアルター協会(NAR)
About NAR

NARは、その「使命」や「ビジョン」といったものも大きく掲げています。

使命
リアルター(REALTOR®)をエンパワーして、すべての人の不動産への権利を維持し、保護し、促進するものであります。

MISSION
To empower REALTORS® as they preserve, protect and advance the right to real property for all.

ビジョン
我々のビジョンは、信頼する同士となることであり、会員を常に進化し続ける不動産の市場・未来を導くことであります。

VISION
Our vision is to be a trusted ally, guiding our members and those they serve through the ever-evolving real estate landscape.

全米リアルター協会(NAR)
About NAR

発足以来、NARは様々なことをしてきましたが、その中でも不動産の技術的な発展の中心となって動いて来ました。

国ごとの事情や法律・慣習も違いまし、海外のシステムや技術をそっくりそのまま真似するのが良いとは思いません。しかし、NARのテクノロジーに対する姿勢は、十分参考になるばかりか、見習うべきことが多々あります。

以下、NARが特に重要な役割を果たしている「MLS」と「Multiple Listing Policy」、「Realtor.com」、「RETS」、そして「RESO」を順番にご紹介いたします。

MLS

MLS logo

米国には、Multiple Listing Service(MLS)という組織による、不動産物件情報データベースに基づく物件情報の共有・連携システムがあります。

これは、不動産業の特徴でも触れた互恵関係に基づく不動産業者の集まりによって、物件情報の流通を促進する為に設立され、自主的に運営されているものです。

米国における不動産情報流通の根幹とも言えるのがMLSですが、それを全米に普及させたのは、他ならぬNARであります。近年、カナダはもとより、アジア諸国といった諸外国にもMLSのシステムは普及しつつあります。

このMLSですが、残念ながら日本では様々な誤解が広まっており、非常に多くの間違った情報が出回っています。そのため、原典からの引用と翻訳を元に詳しく紹介していきたいと思います。

まずは、簡潔な説明が米国のMLSの一つ、Northwest MLS(NWMLS)のサイトにありましたので、引用して、翻訳してご紹介します。

マルチプル・リスティング・サービスとは、あらゆる不動産取引において、人々により良いサービスを提供するため、お互いに協力(コラボレーション)することに賛同した不動産業者たちによる組織です。

A multiple listing service is an organization of real estate brokerages who agree to collaborate to better serve the public in all real estate transactions.

Northwest MLS(NWMLS)
History of MLS

短くて分かりやすいですが、具体的にイメージするのが難しいですね。

もう少し詳しい英語版のウィキペディアのサイトでの説明を見てみましょう。(因みに、執筆時点では日本語版には本稿は存在していません)

マルチプル・リスティング・サービス(MLS)とは、不動産業者がお互いに仲介で協力したり価格査定を行えるようにするための情報を集めたり広めたりするための、一連のサービスを提供する組織のこと。マルチプル・リスティング・サービスが提供するデータベースとソフトウェアは不動産業界の不動産業者によって使われるもので、媒介契約のもとで売り主と契約した不動産業者はそこで物件情報を広く流通させ、買い主を代表する不動産業者と情報を共有する。マルチプル・リスティング・サービスに登録されている物件情報は売り主と媒介契約を結んだ不動産業者の専有物である。

A multiple listing service (MLS) is an organization with a suite of services that real estate brokers use to establish contractual offers of cooperation and compensation (among brokers) and accumulate and disseminate information to enable appraisals. A multiple listing service's database and software is used by real estate brokers in real estate (or in other industries, for example, aircraft brokers[1]), representing sellers under a listing contract to widely share information about properties with other brokers who may represent potential buyers or wish to work with a seller's broker in finding a buyer for the property or asset. The listing data stored in a multiple listing service's database is the proprietary information of the broker who has obtained a listing agreement with a property's seller.

Wikipedia
Multiple listing service

以下は、NARの公式サイト上からの引用と翻訳です。

マルチプル・リスティング・サービス(MLS)とは何か
Multiple Listing Service (MLS): What Is It

NAR会員であるリアルター(REALTORS® )は、MLSのみならず、その他の不動産技術にも、不動産取引を効率よく行う為の巨額の投資を行ってきました。MLSは元付のブローカーがプライベートに他のブローカーへ協力の依頼と手数料報酬をオファーする場であります。
REALTORS® have spent millions of dollars to develop Multiple Listing Services (MLS) and other real estate technologies that make the transaction more efficient. An MLS is a private offer of cooperation and compensation by listing brokers to other real estate brokers.

1800年代後半、不動産業者は近くの協会事務所に定期的に集まり、売りたい物件の情報を交換し合っていました。売るのに協力してくれた他の業者に報酬を分けることに同意がなされ、これを基本原則として初のMLSが生まれました。つまり、私の在庫を売るのを手伝ってください、私もあなたの在庫を売るのを手伝います、という不動産業界特有の関係です。
In the late 1800s, real estate brokers regularly gathered at the offices of their local associations to share information about properties they were trying to sell. They agreed to compensate other brokers who helped sell those properties, and the first MLS was born, based on a fundamental principal that's unique to organized real estate: Help me sell my inventory and I'll help you sell yours.

今日、800以上のMLSが存在し、業者は情報を共有し、他の業者と売却の協力を持ちかけています。売主は売り情報の流通露出というメリットがあり、買い手としては1業者からMLSに登録されている多くの情報を得ることが出来ます。
Today, through more than 800 MLSs, brokers share information on properties they have listed and invite other brokers to cooperate in their sale in exchange for compensation if they produce the buyer. Sellers benefit by increased exposure to their property. Buyers benefit because they can obtain information about all MLS-listed properties while working with only one broker.

不動産市場は、市場競争がありながら、成果を得るためには競合相手と協業するというユニークなものとなっています。MLSはその協力のシステムを提供します。
The real estate market is competitive, and the business is unique in that competitors must also cooperate with each other to ensure a successful transaction. MLS systems facilitate that cooperation.

MLSは、物件を売りたい顧客のいる業者が、協力業者を探すツールです。協力と報酬というものがなければ、MLSではなく、業者は好き勝手に独自の協力体制を作り、物件情報は断面化、分断し、フラグメンテーションを起こします。
The MLS is a tool to help listing brokers find cooperative brokers working with buyers to help sell their clients' homes. Without the collaborative incentive of the existing MLS, brokers would create their own separate systems of cooperation, fragmenting rather than consolidating property information.

MLSは競争において強みとなります。小さな街の不動産会社が、全国レベルの大企業と競合できるのです。売り手と買い手は、業者を選択し、その業者が確かな巨大マーケットにアクセスすることが出来るという安心を与えます。
MLSs are a powerful force for competition. They level the playing field so that the smallest brokerage in town can compete with the biggest multi-state firm. Buyers and sellers can work with the professional of their choice, confident that they have access to the largest pool of properties for sale in the marketplace.

インターネットにも不動産情報は公開できます。消費者は参加業者のサイト上で、公開可能な物件を閲覧することができます。
Real estate information on the Internet is readily available. Consumers can access and view all publicly available listing information on the Web site of their broker of choice.

MLSは、顧客たちの不動産を売買を円滑に行うための、プライベート(訳注:つまり閉じたクローズド)なデータベースで、不動産業者たちによって作られ・支払われ・維持運営されています。ほとんどの場合、物件広告の情報へのアクセスは参加している会員業者を通じて無料で提供されています。非公開にされる情報は売り手のプライバシーや安全を損なう情報です。たとえば、売り手のコンタクト情報や空室になる時期などです。
MLSs are private databases that are created, maintained and paid for by real estate professionals to help their clients buy and sell property. In most cases, access to information from MLS listings is provided to the public free-of-charge by participating brokers. Data that is not publicly accessible includes information that would endanger sellers' privacy or safety, such as seller contact information and times the home is vacant for showings.

NARは、ビジネスモデルの違いも含め不動産取引のイノベーションとコンペティションを推進します。(中略)
NAR encourages innovation and competition in real estate brokerage, including different business models. NAR members are affiliated with real estate brokerage firms that operate using various business models, including full service, limited service, fee-for-service, and discount (regardless of the level of service). Internet positioning in itself is not a business model - nearly 90 percent of REALTORS® report that their firm has a Web site for business use, according to the 2007 NAR Member Profile.

2007年の調査によると、3分の2の業者がウェブサイトを持ち、物件情報は多数のウェブサイトに掲載され、REALTOR.comや業者の自社ウェブサイト、地域の業界団体協会サイト、新聞紙のサイト、Yahoo、Google、クレイグリスト、ZillowやTruliaなどにも掲載されています。
According to the 2007 REALTOR® Technology Survey, two-thirds of all REALTORS® have Web sites, and REALTORS® report that their listings are displayed on any number of Web sites, including REALTOR.com, the REALTOR®'s own site, the local REALTOR® association's Web site, the local newspaper site, Yahoo, Google, CraigsList, Zillow and Trulia.

全米リアルター協会(NAR)
Multiple Listing Service (MLS): What Is It

起源については、そもそもの成り立ちからの分かりやすくて詳しい解説が米国一般消費者向けの物件検索サイトのリアルター・ドットコム(Realtor.com)にありましたので、こちらも引用して翻訳しご紹介します。

MLSとは何か?
What is the MLS?

MLSはまるで現代の発明のように思えますね。しかし、その背景となるおおまかなコンセプトと「マルチプル・リスティング」という用語自体は、1907年に発案されたものです。その当時、不動産のエージェント(訳注:日本であえていうと宅建士というか不動産営業)達は定期的にオフィスや会場に集まり、不動産の売り物件情報をお互いに交換しあっていました。エージェントのネットワークが物件の買い手を見つけるのに役立つという期待からです。「マルチプル・リスティング」という用語はその古き慣習に由来しています。1908年、NARの前身である「全米リアルエステイトエクスチェンジ協会」(National Association of Real Estate Exchanges )が、それを広く全てのエージェントに広げることを推奨したことにより、一歩々々段階を踏みつつ急速な発展をとげ、現在のモダンで様々な条件検索の出来るオンラインの情報システムとなりました。
Yes, the MLS seems like an invention of the modern age. But, in fact, the term “multiple listing”—and the overarching concept behind it—was first coined in 1907. Back then it described the old-timey practice in which real estate agents would gather regularly at offices or conferences to trade info about homes they were trying to sell, hoping this network could help connect them with buyers. In 1908, the National Association of Real Estate Exchanges (the organization that later became the National Association of Realtors®) endorsed the use of this system by all agents. It quickly caught on from there, evolving, stage by stage, into the modern system in use today—online and fully searchable by price, neighborhood, and home features.

MLSは、一見ひとつの大きな全国版データベースのように思えるかも知れませんが、実は、約580の地域版のデータベースの集まりです。各々のMLSは地域ごとに縄張りのようなものがあって、それぞれの物件情報をもち、エージェントは利用するための会費を払います。そのため、より広範囲のお客さんにリーチするために、複数のMLSに加盟するエージェントも居るのです。
While the MLS may look like one large national database, it’s actually a suite of approximately 580 regional databases. And they’re quite territorial: Each regional MLS has its own listings, and agents pay dues to access and post homes on each one. This is why agents who want a broader reach for their clients may become a member of more than one MLS.

このMLSにある総合的な不動産物件情報のデータベースから、高度に凝縮したの物件広告情報を集約し、同じように掲載するサイトは他にも多数ありますが、このrealtor.com®は、ずば抜けて最も多く(MLSで売りに出ている米国の物件の99%)の物件数を掲載しています。(さらに自慢させて頂くと、当サイトの売り物件情報は少なくとも15分毎に更新されますので、一秒を争う現代の不動産マーケットに対応しているものと言えるでしょう。以上、自慢は終わり!)
While numerous websites aggregate home listings through highly condensed versions of MLS listings, realtor.com® is by far the most comprehensive, with 99% of all MLS-listed “for sale” properties in the U.S. (And to further toot our own horn: Our listings are also the most accurate and up to date. Over 90% of “For Sale” listings are refreshed at least every 15 minutes, which can come in handy in a fast-paced housing market, where every second can count. OK, we’re done!)

realtor.com
What is the MLS?

要約すると、

  • MLSは不動産のエージェント達が自主的に始めた情報ネットワークを起源とする。

  • NARが推奨して広め「草の根」のように地域ごとに出来たものが、会員たち自身の協力によって発展し連携してきた。

  • realtor.comのような物件検索サイトは、MLSのデータから、物件広告データとして抽出したものを収集して利用している。

  • realtor.comは、市場の99%を網羅する大量の物件広告情報を掲載し、なおかつ新鮮であるという質も担保している。
    ということですね。

Realtor.comのような物件検索サイトは、大多数のMLSを含め様々なソースから物件広告情報を集めています。当然ながら、こういった物件検索サイトは、各MLSと良い関係を築き、契約の上で、物件広告用の情報に限り、流してもらう、という提携関係を結んでいるわけです。(流さないMLSもある)

さらに、MLSによっては、MLSのサイト上で会員向けとは別途に、一般向けに広告情報として物件検索を出来るようにしている所もあります。

日本とは異なり、自主的にMLSを運営しているため、法的な制約がないので、米国の不動産業者は自分たちの物件データの使いみちは自分達で決められるというわけです。

結果として、日本と米国では、物件広告の情報の流れとして、以下の図のような違いがあります。

日本と米国、物件広告の情報の流れ方の違い

・Internet Data Exchange(IDX)とは何か

関連で、IDXというMLSの物件広告情報を会員の自社サイト上で表示したりする為の仕組みも存在しています。

IDX(インターネット・データ・エクスチェンジ)とは?
Q 1. What is Internet Data Exchange?

IDXは業者同士の「業者間互恵関係」とも言われ、MLSの次の進化の
ステージとして業者同士の協力を推し進める主要なものとなります。IDXは、MLS参加業者に、承認された制限のある電子的表示を別の参加業者に許諾する手段を提供します。IDX利用において、業者はお互いに表示(掲載公開)する同意を与えあうことが出来ます。
A. Internet Data Exchange ("IDX"), also referred to as "Broker Reciprocity," is the next stage in the evolution of MLS as the primary means of enhancing cooperation between REALTORS® to facilitate the purchase and sale of real property. IDX gives MLS Participants the ability to authorize limited electronic display of their listings by other Participants. Under IDX, brokers exchange consent to display each other’s listings on participants’ websites and using applications for mobile devices that participants control.

他の参加業者にIDXを通して表示させなければならないのですか?
Q 4. Do I have to allow other Participants to include my listings in IDX displays?

いいえ、表示を許可するかしないかは自由です。まったくしないのも、売主の意向に沿って物件毎に指定することも出来ます。
A. No, Participants are free to withhold authority for such display - either on a blanket or on a listing-by-listing basis as instructed by the seller.

全米リアルター協会(NAR)
Internet Data Exchange (IDX) Background and FAQ

このIDXという技術というか仕組み(仕様とサーバー)とポリシー(ルール)によって、MLSのデータを自社のウェブサイトに埋め込んで検索させることも出来たりします。

ですから、MLSで物件情報の取り下げ(非公開)があれば、自動的にその物件情報はすべて取り下げられますから、情報の鮮度と正確性が保たれるというわけです。

Multiple Listing Policy

日本では、「米国では売り手と買い手にそれぞれエージェントが付くことが一般的で、『両手仲介(dual agency)』は少ない」、という話しが一般的な認識としてあるかと思います。

これはこれで事実なのですが、なぜなのか、という説明はどこでもされておらず、中には「米国では両手仲介は違法」などというデタラメも出回っています。そもそも米国は連邦制の国なので、州によって不動産取引における法律が異なります(免許も州ごとに違う)。「両手仲介(dual agency)」が違法または規制が強いのは、50州あるうちの8州ほどに過ぎず、それぞれ例外など色々と規定も異なります。厳密な意味においては4州だけ、という話しもあります。

Dual agency is illegal in some states, 8 to be specific. But even 4 of those allow for designated representation which means most brokerages can fully represent both clients during a real estate transaction.

February 2, 2021
Hooquest
Dual Agency Real Estate Laws for Each State

なので、一概に「米国では」というのは誤りなのです。

また、「ポケットリスティング(非公開物件)」も違法ではありません。自分の不動産を知人に売る際に、それをMLSに登録しろ、というのも無意味な話しであって、そんな義務はありません。また、著名人が自宅を売る際や、事情があって手放す必要がある場合など、人に知られずに売買したい場合に「ポケットリスティング」となる場合はあります。それらを禁止する法律なんぞ存在しませんし、売り手の自由というかプライバシーにかかわる権利であります。

しかし、言うまでもなく行き過ぎた「ポケットリスティング」による情報の「囲い込み」は、蔓延すると不動産取引の根本を揺るがすような問題となり得ます。

では、米国ではどうやって行き過ぎた「ポケットリスティング」つまりは「両手仲介(dual agency)」を目的とする「囲い込み」が蔓延することを抑えてきているか、というと、NARの規定にあります。正確に言うと、Multiple Listing Policyという規定の中の"Clear Cooperation Policy"と呼ばれる項です。

Within one (1) business day of marketing a property to the public, the listing broker must submit the listing to the MLS for cooperation with other MLS participants. Public marketing includes, but is not limited to, flyers displayed in windows, yard signs, digital marketing on public facing websites, brokerage website displays (including IDX and VOW), digital communications marketing (email blasts), multi-brokerage listing sharing networks, and applications available to the general public.

全米リアルター協会(NAR)
Multiple Listing Policy

つまり、一般向けに広告をする住居用不動産物件の情報は、広告を出した1営業日以内にMLSに登録して物件情報を他の不動産業者やエージェントと共有しなければならない、という規定です。

これはチラシや看板、ウェブサイト、メール、その他SNS等を含めて、一般(事業者間共有も含む)向けに情報を流したり広告するような(住居用物件)ものは広告に出した1営業日以内に全てMLSに登録して共有せよ、というものです。(違反すると、内容に応じて加盟するMLSから警告から罰金や利用権停止等の罰則規定あり。売主が希望する場合にのみ、書面によるオプトアウト。ただ、office exclusive listingという例外もあり)

全米に数百とあるMLSは、このポリシーを採用しています。

以下は、NARの啓蒙動画での内容なのですが、「ポケットリスティング」は一般的に顧客の益を損ない、業者の利益を優先するものとされているとし、"Clear Cooperation Policy"の重要性の論点として3つ挙げています。

1.住宅市場の公平性
2.(本来蓄積されるべき履歴の)データの歪み
3.Fiduciary Duty違反のリスク

Feb 29, 2020
全米リアルター協会(NAR)
Window to the Law: Understanding the MLS Clear Cooperation Policy

1、2は分かり易いので良いとして、3のFiduciary Dutyは日本的な法律では丁度良い概念が存在せず、説明しにくいのですが、以下の説明が分かり易かったです。

米国の法律では非常に頻繁に出てくる用語であるのに、その日本語の訳語のないものがあって困ることがあります。(中略)

私が仕事でよく遭遇するのは、「Fiduciary Duty」という用語で、よく「善管注意義務」と訳されているのを見ますが、「Fiduciary Duty」には2つあって、「Duty of Care」と「Duty of Loyalty」とに分かれ、Duty of Careというのは「同様のポジションにある賢明な方が選択するであろうという方法で奉仕する」ということですので、これに「善管注意義務」は対応しますが、「Duty of Loyalty」には対応していません。

「Duty of Loyalty」というのは、「自分の利益を後回しにしてでも忠実に義務を果たす」ということ(以下省略)

山本法律事務所
Fiduciary Duty (善管注意義務) とは何か?

米国における英米法の「受託者義務(Fiduciary Duty)」には、日本の民法で言う「善管注意義務(Duty of Care)」だけではなく、それ以外にも信託法などで言う「忠実義務(Duty of Loyalty)」などを含む、ということですかね。この辺りも日本はユルい。

因みに、米国の不動産エージェントの「受託者義務(Fiduciary Duty)」には、Obedience, Loyalty, Disclosure, Confidentiality, Accounting, Reasonable Care、という6つの義務が含まれるそうです(頭文字を取ってOLD CARと覚えんだそう)。

で、「ポケットリスティング」や「両手仲介」を顧客に対して明示的な説明と同意なく行って(自己の利益を優先したり)何かあったら、倫理規定に違反するだけではなく、Fiduciary Duty違反で訴えられるリスクがあるよ、という事を言っているんですね。

米国のリアルターの間では、MLSに登録するなどして協力し合うことは"Code of Ethics"、つまり倫理規定に定められたことであり、リアルターのもっとも基本的な「職業倫理」であるとしています。

日本では宅建業法という法律によって、売買物件でかつ取引態様が専任・専属専任の場合にのみレインズへの登録を義務付けていますが、一般媒介等では登録義務はありません。

日本は単なる中途半端な法的義務、米国は自主的な倫理規定にもとづく厳しい規定、という違いですね。

実際、このNARの倫理規定(Code of Ethics)が、全米リアルター協会の存在意義そのものと言っても過言ではないかも知れません。

・全米リアルター協会(NAR)の倫理規定

全米リアルター協会の倫理規定(Code of Ethics)

1913年に採択されたNARの倫理規定(Code of Ethics)は、職能団体の中でも最も早く成文化された倫理的な義務であり、この綱領は、リアルターに対してお互いの協力を求めることによって顧客への利益を最大化させることを消費者に保証するものである。
NAR's Code of Ethics, adopted in 1913, was one of the first codifications of ethical duties adopted by any business group. The Code ensures that consumers are served by requiring REALTORS® to cooperate with each other in furthering clients' best interests.

全米リアルター協会(NAR)
Code of Ethics

この倫理規定は、リアルターとリアルターアソシエイトの仕事と振る舞いの良し悪しを判断するためのものとして、一般とプロフェッショナルの間での合意(コンセンサス)を確立するべくデザインされている。この倫理規定の遵守は、自主的に承諾した義務であり、高い基準のプロフェッショナルな行いでクライアントとカスタマーに対する利益に貢献するためのものである。
The Code is designed to establish a public and professional consensus against which the practice and conduct of REALTORS® and REALTOR-ASSOCIATE®s may be judged. Adherence to the Code is an obligation voluntarily accepted by REALTORS® and REALTOR-ASSOCIATE®s to ensure high standards of professional conduct to serve the interests of their clients and customers.

全米リアルター協会(NAR)
Code of Ethics Translations

倫理規定が採択された1913年当時、不動産業の黎明期でもあり、不動産の取引を行う上で、詐欺などを行う悪い輩も跋扈していたわけです。そういう中で、「我々はそういう輩とは違う、プロフェッショナルな高い職業倫理を持つ集団なのだ」ということを公に宣言し、差別化する為に、倫理とスタンダード向上の為に組織を作り、「自分にしてもらいたいと思うような行為を人に対してせよ」という黄金律を基調にした、倫理規定を採択して、今のNARの元が誕生しました。

NARのサイトを訪れると、トップページの一番に倫理規定へリンクするボタンが目に飛び込みます。

文字通りトップページのど真ん中にドーンと「REALTOR® Code of Ethics」というボタンが出てくるのです。

全米リアルター協会(NAR)公式サイトのトップページ

この倫理規定は、リアルターにとっては憲法のようなもので、文字通り「この倫理規定を順守しないものはリアルターに非ず」、な訳です。

特に、職能団体の中でも成文化したのが一番に早かったという事もあり、リアルターの倫理規定は現在の会員(リアルター)の誇りでもあり、実際、そういう話しを色々な所で見かけます。

リアルターの団体として、カギとなる文書が採択されてから100年。1913年に採択された倫理規定は、不動産業界の原理原則(プリンシプル)と信念の宣言と見なされ、不動産業のサービスとプロフェッショナリズムのスタンダード(標準)を高める為に身を捧げる者たちを紡ぐ『金糸』となっている。

One hundred years have passed since a key document in the REALTOR® organization’s history first made its debut. Written in 1913, the Code of Ethics was seen as a declaration of the real estate industry’s principles and beliefs, a “golden thread” uniting those devoted to raising the standards of professionalism and service in real estate.

baraonline
uncovering the origins of under all is the land

一般的にも、NARのような職能団体はそれぞれが固有の倫理規定を持つわけですが、その成り立ちの背景を知れば、その重要性を理解することが出来ます。

例えば、医療の世界でも、医師と言っても倫理がなければ立場を利用して患者に色々と害を加えるような闇診療を行ったり、臓器売買に手を出したり、なんでもありな訳です。医療の歴史を見れば、生体実験のような「人体実験」から「強制堕胎」から、色々あったのです。そういう中から、西洋では、「ヒポクラテスの誓い」から始まって、「ニュルンベルク綱領」などもあり、学問としてだけではなく実践としての医療倫理が発達してきた訳です。

しかし、現代の日本の医療では、そもそもこのような倫理観に乏しく、長らく医師の教育にも「医療倫理」すら無く、そこそこの年齢の医者だと「医療倫理?」の人も少なくありません。何しろ、日本で「インフォームドコンセント」の概念が輸入たのは歴史的に見れば比較的最近の事ですし、未だに、「説明と同意」の意味を取り違えて「何があっても異議を唱えません」的な単なる「同意書取り」に化してしまっていたりします。

日本の医師会はと言えば、今でも「患者の権利」や「患者の自己決定権」を認める事にも抵抗し続け、日本の医療では未だに「パターナリズム」が蔓延しているのです。日本では倫理審査の規定もなければ(治験の場合しかない)、「患者の権利」すら法制化すらできずにいます。

昔から日本では、西洋的な職業倫理という概念に親しみがないため、なかなか社会に浸透して来ませんでした。

プロフェッショナリズムという言葉は、もともとはキリスト教修道会の誓いに当てはまるものだった。少なくとも1675年までにはこの単語は世俗的な用法を見出し、3つ学問的職業に適用された。神学、法律、および医学である。プロフェッショナリズムという言葉は、同じ時期に職業軍人にも使われていた。

プロフェッショナルや定評のある職業で働く人々は、専門的な知識とスキルを身に付けている。そしてその知識がどのように用いられなければならないかを倫理道徳的問題と捉え、それが職業倫理と呼ばれることになった。

ウィキペディア
職業倫理

日本であえて言うと、一種の武士道の精神の一つに通じるところもあって、「武士という帯刀を許されたものは、その特権の使い道に高度なモラルが求められた」というような話しに近いのかも知れません。

職業倫理とは、自ら培って高めていくもので、時に法律や規則より高い位置にある概念であり、様々な職能団体がその発足の由来と共に作り上げて来た職業ごとの倫理であります。つまり、法律などの規定で要求されなくとも、自ら培った高い倫理観にあてはめて行動する、という事であります。

Realtor.com

リアルター・ドットコム(realtor.com)のトップページ

しばしば、「NAR(全米リアルター協会)が(主体となって)運営する」といった紹介がされる全米最大規模の不動産物件検索サイトのリアルター・ドットコム(realtor.com)ですが、これまたちょっと事情は異なります。

運営しているのは、Moveという会社です。元はRealSelectという会社だったのですが、1990年代の終わりにNARが少しだけ出資して提携(パートナーシップ)を結んで、そのRealSelectが後にMoveを買収してNASDAQへ上場し、後にMoveに社名変更、2014年にNews CorpがMoveを買収・・・という複雑な経緯を辿ります。NARはそこに対して、Realtor.com というアドレス(URL)をライセンス許諾している、という関係でもあります。

この企業は、ITとメディアのテクノロジー企業であり、当然ながら技術者達がいて、彼らがサイトを構築し日々改善に勤しみ、APIや、携帯のアプリを開発し、「テックブログ」なども運用して利用している技術について積極的に情報発信と開示を行っています。

このようにすることで、システムの改修もニーズに合わせてタイムリーに出来るうえ、開発体制や技術選定とその目的といった意思決定プロセスが透明化され、一般やNAR会員も、「最新で安定した良い技術を選んで使っているのだな」と安心できます。一種のアカウンタビリティというものであります。

RETS

Real Estate Transaction Standard (RETS) とは・・・。いまどきの技術を知っている20代のプログラマ相手だったら、「不動産情報の(デジタルデータ)標準規格」だよ、と言えば、全て理解できるので一行で終わってしまうのですが.... 技術用語をなるべく少なくして、分かりやすい説明を試みます。

RETSには、不動産物件情報をXMLで定義した、不動産情報の標準データフォーマットや、各データ項目などを定義したデータディクショナリ、といった様々な仕様が含まれます。

RETSとは、コンピューター同士やサイト間で共通の言語でより簡単にMLSのデータのような不動産情報データの交換ができるようにするものです。1999年に、全米リアルター協会(NAR)と関連業界団体がRETSを立ち上げました。
Short for Real Estate Transaction Standard, RETS provides a common language so that computers can more easily transfer real estate information, such as MLS data, to other computer programs or websites. The National Association of REALTORS® and other industry groups launched RETS in 1999.

全米リアルター協会(NAR)
Field Guide to Real Estate Transaction Standards (RETS)

というモノです。1999年から動いているんです、米国の不動産業界は。

余談ですが、当時は、XMLは普及し始めていたものの、「REST」なんて概念も普及してなく、Webサービスとしてはマイクロソフトなどが推していたXML-RPC系統の「SOAP」が最新テックでしたね。

そんな時代なので、「日本の不動産情報を標準化すべきなんでは?」と、2002年に自分が日本の不動産業界に提言した内容は「XML」と「HTTP」で、みたいな今で言うREST風のものでした。

その後、2000年代なかばぐらいからWebサービスで「REST」が普及してきた感じです。(日本でも、オライリー本の「RESTful Webサービス」が出版されたのは、2007年)

2010年頃までにはRESTなWeb API が主流となり、世の中のブログブームによってブログ投稿APIやRSS/Atomフィードの普及でこれらテクノロジーが一気に身近なものに・・・(熱い時代でした)。

余談終わり。

もう少しRETSについて詳しく説明すると・・・ 私が書くよりも技術用語を避けて上手く説明してくれてますので、訳してみました。

不動産物件の掲載データを理解する:IDXとRETSの違い
Understanding Real Estate Listing Data: The Difference Between IDX and RETS

MLSの情報を業者のサイトに導入するのは中々複雑なものです。ですから良くIDXとRETSの違いについて質問を受けてしまうのは不思議ではありません。それをお話する前に、単語練習をしましょう。(ご安心ください技術用語はなるべく避けます)
Incorporating MLS listing data on a real estate agent’s website can be fairly complicated, so it’s no wonder we get a lot of questions about the difference between IDX and RETS. But before we get into that, a brief vocabulary lesson is in order. (Don’t worry: We’ll leave out as much of the tech speak as we can.)

初めに関係する用語を定義しましょう。
First, let’s define some of the relevant terms:

IDXは、MLSのデータから、一部の許可された情報を、広告として、他の業者のウェブサイトに一般向け広告として掲載させたりすることが出来るデータやり取りの(つまりは流通の)概念と仕組み(とそのルール)のこと。参加業者が許可した情報だけが表示されるが、大抵大多数の情報が表示される。(訳注:大抵は、MLSからのページを業者のサイトに埋め込む形で表示されたりする)
IDX (Internet Data Exchange) – This refers to the data exchange between an MLS board’s database and a realtor’s website. Sometimes, IDX is used to refer to a specific method of data exchange, most of which are outlined below. IDX has to do with public MLS search, and is viewed as a form of advertising. The listings that are displayed here are only those allowed by other participants, but almost always includes the vast majority of the MLS database.

RETSは、業者などがMLSの情報にアクセスできる仕組み。全国のMLSはRETSの採用に業界標準として移行している。というのも、RETSを利用すれば、MLSから業者のサイトへデータをやり取りするのが劇的に効率的になるからです。キーとなる利点は、物件情報がどのように見た目表示されるかカスタマイズできること、毎時更新されるなどの新鮮な物件情報、埋め込みでなく、サイトに追加されるのでSEO的にも、ということ。唯一の欠点となるとすれば、データ自体は、加工しないとそのままでは表示に使えないこと。つまりソフトウェア的に処理する必要があります。
RETS (Real Estate Transaction Standard) – RETS is used to give brokers, agents and third parties access to listing and transaction data. MLSs nationwide are moving to adopt RETS as the industry standard because it drastically simplifies the process of getting listing data from an MLS to an agent’s site. Key benefits include customization of how the listing data is displayed, fresh listing data (updated as often as every hour), and content added to the site (SEO – search engine optimization). The one main drawback is that the data feed is impossible to use by itself. In other words, you need a trained professional or additional software to make sense of it.

FTPは、RETSが出来る前に使われていた、ファイルを転送する為の規格。物件情報は、大抵一日1度か2度、MLSのデータベースと業者のウェブサイトのデータはFTPを使ってファイルによって同期される。FTP方式もSEOやカスタマイズできる利点はあるが、RETS方式より新鮮さで劣ります。とても重要なポイントは、MLS同士のFTPを使った場合の標準仕様は無いことです。なので、MLS同士のやり取りではとても面倒な手続きとなるのです。
FTP (File Transfer Protocol) – Implemented before RETS, this is a standard protocol used to transfer files from one host (the MLS) to another (the agent). The listing database on the agent’s website is synchronized with the MLS database, and updates usually once or twice a day. FTP also has the benefits of SEO and customization, though the data is not as recent as it could be with RETS. It’s very important to note that there is no set standard with FTP between MLSs. Since each MLS has their own unique way of doing things, using FTP can cost a whole lot more.

iframe(アイフレーム)はブラウザ内に他のサイトのページを埋め込む一般的な方式。MLSの検索画面を業者のサイトのページ内にHTMLのタグで簡単に埋め込んで表示させることが出来る。大抵はMLSが無料で提供しているサービスとなる。実際のデータのやり取りはなされない。カスタマイズできない。
iframe – An iframe is a MLS search window/HTML element that agents can put on their site. Most often, these are provided by an MLS for free, and are very easy to use. Implementation requires little more than copying/pasting a link into the site. Though agents commonly refer to iframes as IDX, they’re not the same, as no data is actually transferred. Content is not added to the agent’s site, and customization is limited. This means that in addition to being unattractive, the agent’s website doesn’t receive any content. There is no SEO benefit.

上記の定義をご覧になれば、RETSは、IDXの一つの選択肢なのだ、ということ、そしてRETSは次世代(つまりFTPの後任にあたる)のだということも。さて、これが分かったとしたらどうすべきでしょう。当然、あなたが何を探しているかによります。
After reading the definitions above, you’ll understand that RETS is actually an option for IDX, along with its precursor, FTP. But now that you know, why should you care? Well, the answer to that depends largely on what you’re looking for.

もし、ただ単に、MLS検索機能を自社ウェブサイトに付けたいのであれば、そして、デザインとコンテンツはあまり重要でない場合、iFrameを使うのが良いでしょう。ただし、そんなにシンプルな話ではありません。検索機能はウェブサイトに付きました、ただそれで効果はあるのでしょうか。「コンテンツが肝」なのを忘れてはいけません。コンテンツのあるサイトがランクで上になります。Googleなどはコンテンツの質量で判断します。それだけで下にランクされます。
Let’s assume that all you want is an MLS search feature for your website, and also assume that design and content are not important. You might think that because of the ease of use and low cost (free), the iframe would be a good choice. But it’s not quite that simple. Sure, you’ll have the search feature built into your site–but does it really get the job done? Remember that content is king, and sites with more content rank higher than those without it. Since iframes don’t actually add any content to your site, the Googles and the Bings of the world don’t have much to judge your site by. Now, compare this with a site that actually has listing data (content) on it. Imagine hundreds, if not thousands of pages of quality listing data in the market you serve vs. one “Listing Search” iframe. The fact is that sites with content will rank higher than your own, leaving you at the bottom (and unseen) part of the list.

さて、もしコンテンツが大事ということであれば、FTP利用とRETSを利用する二つのオプションがあります。両者ともコンテンツとして利用できます。しかし、RETSは正確性と利便性を提供します。なぜかって?FTP方式は、データベース情報を丸ごとダウンロードして、毎回転送して、丸ごと入れ替えて更新しなければならない仕様になっているからです。FTP(ファイル転送プロトコル)ですから。これは、とてつもなく時間浪費で、一週間に一度ぐらいしか更新されません。
Now, if content is something you want, it appears that there are two options to choose from–FTP and RETS. Both will improve your ranking on search engines, but RETS will provide you with data that is both more accurate and easier to work with. Why? Well, the FTP standard forces you to download the entire database of listings in bulk each time you want to update your records. This can be incredibly time consuming, especially when it comes to MLSs with many listings. Because of this, with FTP, listings are sometimes only updated once per week.

RETSでは、より断片的に更新された情報のみ、といった扱いやすい形式で取得できます。つまり、より定期的に更新できるので、新鮮な情報をユーザーに提供できます。
With RETS, on the other hand, listings are downloaded in more manageable segments, and only those that have been recently added or changed will need to be updated. This means that the listings can be refreshed more regularly, giving site visitors more current listing data.

全国のMLSは、RETSを取り入れ、業界は技術的利益と実際的な利益を得ています。技術者はよりすばやく開発でき、不動産業者はより高い価値を顧客に提供できるのです。
As MLSs across the country continue to adopt the RETS standard, the industry will enjoy both its technical and practical benefits. Techies will have a much easier time setting up their solutions, and real estate professionals will be able to provide significantly more value to their clients.

placester.com
Understanding Real Estate Listing Data: The Difference Between IDX and RETS

1999年からNARが中心となって行ってきた不動産情報流通技術の標準化の成果がこのRETSですが、現在はこれ、deprecated(レガシー規格で非推奨)になっています。

RESOという標準化団体を立ち上げて、そっちでやろうという話しになったからです。

RESO

RESOは、Real Estate Standards Organizationの頭文字を取ったもので(発音する場合は「リソ」)、不動産業界において技術標準を策定することを目的とした、米国の非営利団体です。

2011年に、NAR(全米リアルター協会)が中心となって行ってきた不動産情報技術の標準化作業がRESOへ移管されました。作業部会が分離独立した形です。もちろんNARも全面的にバックアップしています。

名称に含まれる、「Standards」は標準(規格)の複数形なので(標準仕様群というか一式というか)、直訳すると「不動産標準(化)組織(団体)」みたいになりますが、日本語でうまく簡単に表現できないのが面倒です。

日本ではこういう複数企業が参加する団体は「協議会」とか「コンソーシアム(共同企業体)」なんていったりする傾向があります。ただ、RESO(Real Estate Standards Organization)は「Consortium」ではなく「Organization」ですし、日本ではNPO(Non-Profit Organization)のことを「非営利団体」といったりします。

ここでは以降、「RESO(という標準化団体)」とします。

そのAboutのページには、

RESOのようなオープンスタンダードの標準化団体というものは、技術の発展を確実なものとする為に、殆ど全ての業界に存在しています(訳注:日本の不動産業界には存在していません!)。一般に良く知られているのはW3Cで、ウェブの標準(訳注:HTMLやCSSと言ったこのページを表示する為の規格)を策定しています。世界でもっともパワフルなテクノロジー企業達が、競合他社を含むみなの技術基盤の底上げをする公共のウェブを造る為に協力することに賛同しているのです。
Open standards organizations, like RESO, exist in most industries to ensure technology advancement. A well-known example is W3C, which creates the standards for the World Wide Web. The most powerful technology companies in the world agree to collaborate to build a common web that raises the technology foundations of all competitors.

これがゆえに、我々は例え競合企業のスマホからであってもデータを取得しアプリやサービスを利用し製品を入手できます。ウェブベースの製品はもとからオープンな標準規格の上に作られているのです。
This is why you can get data, apps, services, and products from many different competing companies on the same smartphone. Web-based products are built on an open standard.

不動産業界においては、RESOの標準規格がそれと同じようなものとなるよう作られました。つまり、MLS同士、ブローカー(不動産業者)、エージェント(訳注:宅建士というか不動産営業)、消費者向けツール、といった全ての間での相互運用性を図るためであります。
In real estate, RESO’s standards are created to promote that same experience: interoperability between MLS, broker, agent, and consumer technology tools.

RESO(Real Estate Standards Organization)
About RESO

とあります。さらに、設立当初の文面では、

RESO Standards
RESO標準規格(複数一式)

RESOの目的は、MLSといった不動産物件情報を扱う種々のシステム同士で「話す」ための「共通言語」を作成する事にあります。
The Real Estate Standards Organization (RESO) has set its goals to produce a common language spoken by systems that handle real estate information, such as multiple listing services (MLS). A common language enables computers like the one on your desk to receive information from many different real estate systems or MLSs without being specially "trained" to understand the information from each.

標準規格である、データディクショナリや、ウェブ API、RETSと似たようなものは、様々な業界に存在します。例えていえば、航空管制では母国語がなんであれ、共通言語として英語が使われます。これは、パイロットが世界中を問題なく飛ぶことができるようにするためです。
Standards like the Data Dictionary, Web API and RETS 1.8 exist in many different industries. For example, air traffic controllers at international airports all speak English, no matter what their native language, so pilots are guaranteed that they need learn only one language to fly anywhere in the world.

RESO標準規格は、この不動産情報を扱うすべてのコンピューター同士で共通の言語を「話す」ことができるようにする、という目的です。これによって、1つのデスクトップのプログラムが、複数の異なるMLSと連携を取る事ができるようになります。
The RESO standards is a language that was built for a specific purpose: to have all computers that deal with real estate information "speak" the same language, so that you can use the same desktop computer program with any MLS that has adopted RETS.

ソフトウェア開発者やIDXサイトの運営者や、ポータルサイト運営者、などにとっては、一度RESO標準規格に対応したシステムを開発さえすれば、沢山の異なる種類のシステムと連携を取る事が可能となります。つまり、低コスト、より多くの製品、健全な競争によるより良いシステム、これらは全て、不動産に関わる職業をするすべての人々のメリット、利益となります。
For software developers and providers of services like IDX sites, web portals and Broker in-house systems RESO Standards means having to write programs to use only one language in order to work with many different systems. This means lower costs, more products, more competition among vendors, and faster implementations of new systems, all of which directly benefit people who work with real estate information as a living.

RESO(Real Estate Standards Organization)
RESO Standards

RESOの協力会員として、NARをはじめとして、大小様々のブローカー(不動産業者)、不動産物件検索サイトの大手から不動産関連テクノロジー企業、各MLSベンダー、今どき「不動産テック企業」として話題のZillowやCompass、などを含めて、まさに不動産業界と関連サービス企業の全員大集合状態となっています。

RESOに参加する会員

このRESOにおいて、前述のRETSを置き換える、API仕様の「RESO Web API」、項目定義の「Data Dictionary」、各種IDの仕様を定めた「RESO Unique Identifiers」が新たに策定されました。

・RESO Web API

RESO Web APIとは、不動産業界におけるデータ流通のモダンな方法です。このAPIは、オープンな規格かつ良く知られているテクノロジースタンダードを採用している為、効率的に素早いデータ送受信を、どんな組織であっても実装することが出来ます。
The RESO Web API is the modern way to transport data in the real estate industry. It is built on well-known, open technology standards so that any organization can use it to deliver or receive data quickly and efficiently.

RESO Web APIで、データ転送における、より多くの相互運用性を図ることが可能です。システムやアプリが相互により効果的に連携出来ます。全ての業界関係者が採用する事によって、不動産プロフェッショナルはシームレスに情報にアクセス出来ます。
Using the RESO Web API for data transport allows for more interoperability: systems and apps can interact with each other in a more efficient manner. Real estate professionals and consumers have access to more seamless technology experiences when all industry participants adopt the Web API in their exchanges of data.

RESO Web APIは、ほぼ全ての業界で広く採用されているRESTfulなアーキテクチャーを採用しています。RESO Web APIにより、不動産データを、ウェブ上からモバイルからまたはHTTPベースのアプリケーションなどから直接アクセスできるようにもするものです。
Michaal Wurzer, RESO Vice Chair and CEO of FBS, explains the need for the industry to move forward with the transition to the RESO Web API:
The RESO Web API moves the industry forward to widely-adopted RESTful design in use by most industries today. The Web API promotes greater access to real estate information directly from the web, mobile, social and other HTTP-based applications.

RESO(Real Estate Standards Organization)
What is the RESO Web API?

以上、見てきたように、米国ではこれらの標準化された仕様や仕組みがあるので、全米の様々なMLSや物件検索サイトや不動産業者にまたがって、不動産物件情報が標準化された物件データとして統一された互換形式を使って綺麗に流れて蓄積されていくわけです。

米国での不動産情報流通の根幹をなす技術であり、米国における「不動産テック」の保守本流、すべての基盤となっていると言えます。

日本の現状と比較すると非常に羨ましいところでありますが、IT業界の観点から見ると、極々当たり前で普通のことをしているに過ぎないとも言えます。

日本における不動産情報流通の現状

不動産業は物件情報を広く流通させることはその業務にとって欠かせない重要な要素であり、不動産に関わる個人や企業、特に業界全体のことを見据えて動くべき業界団体などにとって、情報流通促進にかかる技術は最も重要な関心事であるべきだと言えます。

デジタル化へ向けての課題を洗い出すまえに、まずは現状についての共通認識を持つために、物件情報流通の現状を確認しておきましょう。

不動産の情報流通においては、一般の消費者への「物件広告」という情報提供と、宅建業者同士で「業者間流通」で情報共有を行う、という二つの流通チャネルが存在します。この違いは技術を議論する上でもそれぞれを明確に区別して語るべきことでしょう。

まずは現在の不動産業界における広告としての物件情報の流れを整理しておきたいと思います。

物件広告

貸主と媒介契約を結んだ元付け業者は、物件調査を行い、それを物件広告の情報(物件データ)として様々なルートで直接・間接的に流します。

物件広告データの流れ

近年では、それを客付け業者がさらに流通(2次広告)させるケースも非常に多くなっています。

物件情報の流通チャネルの代表的なものを以下に列挙し、簡単に説明を加えます。

いずれの流通ルートでも、各社がそれぞれ独自データフォーマットや独自規格を使っているため、非効率な手入力(再入力)が発生したり、一々データ変換(コンバート・一括入稿代行)業者を通す必要があったり、などの前近代的で非効率極まりない方法でデータが流通しているのが現状です。

1.不動産会社の自社サイト

今や個人でも無料で1分とかからずにブログやウェブサイトは作れる時代になりました。企業でも、月々400円もかからず独自ドメインのレンタルサーバーを利用できます。中小の不動産会社では、自社サイト上で各種CGIプログラム等のウェブアプリケーションやCMSを用いた物件検索システムを稼働させる、といった形態が多いように見受けられます。

自社サイトへの物件情報の登録方法は様々ですが、管理画面で手入力という方法を含め、自社のシステムと連携させた独自の方法が主流と思われます。

2.物件検索ポータルサイト

大多数のエンドユーザーが利用する、いわゆる不動産物件検索サイトです。どの不動産業者も、たいてい下記の大手3つの内、少なくとも1つは利用しているようです。そこからさらに色々なところ(一般のYahoo!と言ったポータルサイト等)にも情報が転載されるのがほとんどです。

前述したように、物件情報の登録方法は各物件検索サイトごとに独自の方法やわざわざ手入力させるという状態で、標準化が進んでいない為に様々な弊害が存在しています。

以下が代表的な不動産物件検索サイトの一覧とその特徴です。

・アットホーム

昔からある会社で、インターネット登場以前の時代から、営業マンが地元系不動産会社を個別に訪問して紙の募集図面(ファクトシート)、いわゆる「マイソク」を流通させる形態から発展し、今の物件情報検索サイトを運営。

上記の経緯から、やはり不動産会社から直に集める情報量は多く正確なことが多い一方、(良くも悪くも)昔ながらの紙図面の流通形態を引きずっているところもり、(良くも悪くも)業界団体と密着している面もあります。

・スーモ

リクルートの運営する物件検索サイトで、昔の物件情報誌「ISIZE(イサイズ)」の系統を持ちます。一時リクルートの再編でぐちゃぐちゃになり、スーモの名前で復活しました。

スーモの管理画面を見ると、入稿など、未だに雑誌媒体の形態を引きずっている面もありますが、リクルート系の情報網で一応質は高いほうです。しかし、広告掲載価格も高いので掲載物件数は多いとは言えません。

・ホームズ

上記2社のような歴史はないものの、過去のしがらみもない、インターネット時代の新興物件検索サイト(でしたがもはや新興とも言えず)。

管理画面もなかなか使いやすく、問い合わせ課金制の掲載数無制限など、新しいことに挑戦するのが特徴です。ただ、掲載数無制限なので悪質なアパマンショップなどが無承諾「おとり広告」を無制限に乗せまくって公正取引違反問題となったりしてました。

3.業界団体サイト

不動産業界団体が運営する物件検索サイトも複数存在しています。しかし、複数乱立しているだけで、一般には殆ど認知されているとは言えず、様々な面で痛々しい失敗をしています。

・ハトマークサイト

全宅連(公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会)という不動産業界団体の運営する一般向け物件検索サイト。

全宅連に加盟する不動産業者からの物件情報を集めて公開していますが、集客力の無いサイトなのと、使いにくいのもあり、あまり使われてないのが実態というところ。

利用面の課題
■ページビュー数が少ないと評価されている
■利用者数が少ないと評価されている
■物件数が少ないと評価されている
■反響が獲得できないと評価されている
■アットホーム利用会員(ATBB)からの物件情報に依存している

2019年6月17日
公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)
「ハトマークサイト等流通システムのあり方検討会」 -
「不動産情報提供のあり方研究会 報告書」(PDF)

実際の所、このハトマークサイトという物件検索サイト、一皮剥くと、実はアットホームがシステムを運営してまして・・・本来は競合する団体サイトと民間サイトという関係ですので、まことに不健全な依存関係と言えます。

・ハトマークネット

全宅連の下部団体である東京都宅建協会(公益社団法人東京都宅地建物取引業協会)と埼玉県と千葉県の宅建協会が共同で運営していた一般向け検索サイト。

アットホームに物件掲載すると、オプションで、このハトマークにも半自動的に転載されるのが特徴・・・だったのですが、ほとんど知名度のないまま、後述の「ハトマーク東京不動産」へ移行したため現在は閉鎖しています。

「ハトマークネット」(東京・埼玉・千葉の宅建協会)
「ハトマークサイト」(全宅連)

会員の不動産業者にとっても混乱のもとですし、無駄に複数あったので、一般消費者に向けての、いわゆる「ブランド戦略」的にも大失敗だったと言えます。

・不動産ジャパン

2003年に国交省の肝いりで「日本全国の4大不動産団体共同の物件検索サイト」として、鳴り物入りで「不動産統合サイト」として立ち上げたはいいけれど、あらゆる面で鳴かず飛ばずの「不動産ジャパン」、という一般向けの不動産物件検索サイトであります。

まずは不動産ジャパン開設の経緯を見てみましょう。

消費者への不動産物件情報公開を進めるため、情報を一元的に公開するいわゆる「不動産統合サイト」の整備について、(国交省の)不動産業課として提案しています。また、レインズシステムに関する提案もあわせて行っています。
 まず、「不動産統合サイト」についてですが、この提案の趣旨は、消費者が不動産物件情報をインターネット上で検索する場合に、各種団体等が個々に保有物件情報を公開している現状では、様々なサイトを閲覧しなければならない不便さがあります。このような不便さを解消することを目的とし、不動産業者が取り扱って市場に出ている不動産物件の情報を網羅的に閲覧できるサイト、即ち「不動産統合サイト」を業界関係者が一丸となって構築することを提唱するものです(図1参照)。
 そのモデルとなるのは、米国でNAR(National Association of Realtors:全米リアルター協会)が主体となって提供しているリアルター・ドットコム(realtor.com)です。

2002年
国土交通省
不動産投資市場整備室
不動産物件情報サイトの整備及びレインズシステムに関する提案について(PDF)

平成15年(2003年)10月、めでたく、日本の4大不動産業界団体である、全国宅地建物取引業協会連合会(97,791社)、全日本不動産協会(36,780社)、不動産流通経営協会(1,923社)、全国住宅産業協会(171社)の各物件検索サイトから物件情報を集約して掲載する「不動産ジャパン」が開設されました。(カッコ内数字は不動産ジャパンのページより)

当時、具体的にどのような事を想定していたのか、つづけてQ&Aの部分を引用してみましょう。

Q4.不動産物件情報の公開は民間情報産業が行うので、業界団体で実施する必要はないのではないですか?
A4.情報は不動産業の生命線です。インターネット上での物件情報サイトを運営する主体はそこにアクセスする顧客情報など重要な情報を一手に把捉することができます。全米リアルター協会は、情報を情報産業に全て握られることに危機感を覚え、自ら物件情報を提供するリアルター・ドットコムを構築しました。
 業界団体の運営するリアルター・ドットコムと情報産業関係者の提供する様々なサイトがお互いに競争しあって、切磋琢磨することにより、サイトの内容の向上が進められています。
 不動産業界として情報の取扱いについてどのように取り組むかは業界関係者の方々が自ら判断すべきものと考えられますが、米国の例は参考になると思います。
Q5.不動産物件情報の公開は、各団体、地域団体で、バラバラでも問題ないのではないですか、なぜ統合する必要があるのですか?
A5.不動産業界団体が一体となり、不動産業者が取り扱う物件(=市場に流通している物件)のほとんどが、一元的に見ることができるサイトが構築されれば、それは消費者にとって非常に利便性が高いということで消費者利便に資するということが第一点です。
 事業者側からみると、インターネット上での物件情報サイトを設置した場合の最大の問題は消費者にどうやってサイトの存在を知ってもらい、便利に見てもらうかです。
 各団体、地域団体でバラバラだとサイトの存在そのもの、アドレスを知ってもらうことが非常に難しく、消費者に閲覧してもらうためには、別に広告を打たなければなりません。
 既に、先行的に物件情報サイトを運営している業界団体の方々はこの点で非常にご苦労されていると思います。業界全体での統合サイトは、わかりやすく、消費者が真っ先に閲覧するサイトとなれる可能性が高いということから事業者の皆さんにとってもメリットがあるのです。(全米リアルター協会が運営するリアルター・ドットコムは米国の不動産物件サイトとして最も多く閲覧されています。)
 また、物件情報を公開するサイトの運営コストの面でも業界としてまとまることは、当然、受託する情報産業事業者に対する交渉力が増すのが一般的で、サイト運営コストの縮減も期待できます。

2002年
国土交通省
不動産投資市場整備室
不動産物件情報サイトの整備及びレインズシステムに関する提案について(PDF)

*前述した通り、「全米リアルター協会が運営するリアルター・ドットコム」、というのは事実誤認であります。

元々バラバラに乱立していた業界団体サイト、未だに「ハトマークサイト(全宅連)」は現存していますし、「ハトマークネット」の代わりに「ハトさん、ハトマーク東京不動産」の検索サイトまであらたに登場してしまっています。

バラバラにやっていたって「サイト運営のコスト縮減」も達成されませんし、「別に広告を打たなければな(らない)」点も、何も変わっていません。コスト削減も出来なかったばかりか、逆に増えて、碌に知られてもいない無駄なサイトがまた一つ増えただけなのが現状であります。

つまり、各サイトがバラバラに存在したままなので、それぞれが集客をしようとし、結果としてビリ同士、お互いに足を引っ張り合ってる状態の解消にならず、より悪化させただけの結果になりました。

しかも、「不動産ジャパン」は独自に物件情報を集めているわけではなく、前述の全宅連ハトマークサイトや他の業界団体から上がってくる物件情報を集約して掲載しているだけで、転載元となる情報源の各業界団体サイトが、そもそも物件情報を集める能力を持っていないため、必然的に掲載できる情報の量と質が劣ったものになってしまう、という問題を抱えています。業界団体のサイトとはいえ、物件情報は自動的に集まるわけではありません。

つまり、元の業界団体の物件検索サイト自体が、お客さんからの反響もないので業者も力を入れない>物件情報が集まらない>お客さんも見ない、という悪循環に嵌っているのです。業者だって無意味なことに時間を割くようなことをしている余裕はありません。

また、登録したのが(賃貸だと)30日間掲載されたままで良い、という緩いルールだったので、物件情報も新鮮とは程遠い状況です。繁忙期の最中に、物件数少ないうえに、1ヵ月間掲載されたままの物件情報なんて無用の長物となります。

さらには、各業界団体からの情報を転載しているので、掲載されるまでにタイムラグが発生します。実際、不動産ジャパンのサイト上では、「(情報の更新は各団体サイトで行ってください)登録・修正した場合、反映まで1日程度のタイムラグがあります」との記載があります。実際には1~3日という所でしょう。繁忙期に人気のある新築物件などを民間の検索サイトで公開すれば1日で申し込みが入って決まる事も多い昨今、不動産ジャパンの1日~のタイムラグは致命的です。「おとり広告」になってしまいます。

なお、運営団体は、2015年まで「不動産流通近代化センター」という名前からして超前近代的な官僚的組織で、現「不動産流通推進センター」という、国交省の天下り団体であります。

そのような官僚的な団体組織が、他の営利企業と「お互いに競争しあって、切磋琢磨することにより、サイトの内容の向上」を図るようなことなど可能でしょうか。

原理上、不可能だ、と言っても過言ではありません。

・ハトさん - ハトマーク東京不動産

東京都宅建協会が設立した「東京都不動産協同組合」が運営する一般向け物件検索サイト、及び会員向け業務支援システムであります。

2011年に出来たものですが、以前、開発を委託していた会員向けの不動産業務ソフトウェアに関して、いわゆる「ITゼネコン」(SIer)に丸投げしてしまい、痛い目にあったという経験から、「今度はクラウドだ!」の掛け声の下、セールスフォースの顧客管理システム(CRM)をカスタマイズして、物件管理システムとして運用するとかいう企業の提案にのってしまい、「顧客」を「物件」に脳内変換して物件情報を登録するとかいう異様なシステムを採用してしまったというものでありました。

案の定、使い勝手が悪すぎて利用する会員も極一部にとどまり、最終的に、2016年セールスフォースとの利用契約解除となりました。

これもまた、不動産業界史上、歴史に残る大失敗プロジェクトだったと言えるかもしれません。

業者間流通

次は、一般の消費者への広告という形ではなく、業者同士の物件情報の共有手法(業者間流通)です。

不動産物件の情報というのは、1社が情報を囲い込んでいては情報が広まらず、エンドユーザーであるお客さんに届きません。なので、昔から、同業者間の情報共有という協力関係は重要なものとして存在しています。

これは、物品販売やサービスを提供するだけの業界にはなかなか無い互恵関係の概念と言えるでしょう。(それゆえか、不動産屋は日頃からやたら他業者との関係で「信義則」を強調します)

実際、物件情報は不動産会社からお客さんへという流れだけではなく、業者同士で横に情報を流し合い、「これこれこういう物件で入居者募集中です。お客さんご紹介ください」と物件情報を流したり、逆に「こういう条件の物件ありますか」「この物件まだ空きありますか」(いわゆる「物件確認」とか「物確」とかいわれるものですね)といった、業者同士での物件情報のやり取りや確認が日々行われています。

しかし、一部の業者による物件情報の「囲い込み」(顧客の囲い込みが最終目的)というのも存在し、そういう行為は、結果としてお客さん(消費者)の不利益となります。

なので、そういった囲い込みをする悪い業者を縛り、適正な物件情報の流通を図る必要性があります。不動産業では、通称「業法」といって、宅地建物取引業に関わる法律が整備されており、その中で情報流通を促進するための、幾つかの規定が存在します。

因みに、米国では、前述したように、全米リアルター協会(NAR)が、職業倫理としての「倫理綱領」をもとにして、業界団体の自主的な義務規定として定めて業者間の情報共有を行っています。

日本では単なる法律的な義務という位置づけですが、米国では「お互いの協力関係」と「消費者利益」を掲げて職業倫理として規定し、自主的に義務化しているという違いはとても興味深いことであります。

指定流通機構レインズ

レインズ(REINS)は、前述の業法で定められた指定流通機構制度に基づいて国交省の大臣が指定する所が運営する不動産業者専用の物件情報共有のためのデータベースであります。

因みに、国土交通大臣が指定する所が運営すると定められ、自由な競争を阻害する悪い独占が法律によって規定されているという「官製の独占」状態であります。これは、米国だったらありない話しです。

米国では、不動産業者の有志によって草の根的に始まったMLSがあり業界団体がそれをサポートしていますが、日本のように「お上(おかみ)」が決めた法律を根拠に運営している訳ではありません。

その業務は、宅建業法の第五十条の二の五(指定等)「宅地及び建物の取引の適正の確保及び流通の円滑化を目的」とし、第五十条の三(指定流通機構の業務)で規定されているように、「専任媒介契約その他の宅地建物取引業に係る契約の目的物である宅地又は建物の登録」と「宅地又は建物についての情報を、宅地建物取引業者に対し、定期的に又は依頼に応じて提供すること」と規定されています。

不動産業者はこのレインズのウェブサイト上で物件情報を入力してデータベースに登録し、それを他の業者がアクセスして検索したりして情報を共有します。

なお、レインズに法律上登録することが義務付けられているのは、売買物件でかつ取引態様が専任・専属専任の場合のみとなっており、一部の物件情報に限られています。また、賃貸物件の物件情報には登録義務はありませんから、全体としての物件情報の数も質も中途半端なものとなっています。

このレインズ、法律で定められて(大臣から指定されて)いる、という理由だけで存在しているため、市場の原理が働きません。

欠陥を放置したままでも市場から排除されるようなことはないので、レインズのサイトのユーザビリティは最悪で、法律で決まっているから使わなくてはいけない限られたケースで使うだけで、本来なら絶対に使いたくないような使い勝手のサイトとなっています。

しばらく前まで、まるで1990年代にあったような「ホームページ」のイメージそのままで放置されていたという状態で、日本全国の宅建業者は、この化石のようなサイトをず~と毎日使い続けなくてはいけない、という苦行のような事を強いられてきたのです。

何しろ、ずっとWindowsのインターネットエクスプローラー(IE)でしか使えず、ChromeやFirefoxを使っているとログインすらできずに「非推奨」などと表示される代物でした。

あり得ません。

IEのセキュリティ上の問題が多発していて、以前よりマイクロソフトからもIEはレガシーなサイト向けの互換性維持の為だけ、として新しいedgeへの乗り換えを推奨してきて、一般ではChromeやSafari、またはFirefoxなどを使うの普通になっているにも関わらず、です。

あり得ません。

ついに、2021年にもなって、とうとうマイクロソフトがIEを完全に削除するとなってはじめて、やっとレインズでもChromeやFirefoxなども利用できるよう改修リニューアルされました。

少なくとも、とっくの昔に非推奨とすべきブラウザをレインズが公式に逆に推奨(というよりもIEでしか使えない)してきたという、不動産業界全体としてのITリテラシーに関して、悪夢のような悪影響を与えて来たことは否めないでしょう。

当然、MacやLinuxの利用者の事など、まったく考慮に入れていません。

レインズはそのサイト上で堂々と、「我々はウェブ標準を無視します」と宣言していたのです。開設以来、ずっと!!

あり得ません。

また、物件情報の募集図面と言ったファイルのアップロードは、PDF形式では登録出来ず、Tiff形式かJpegといった画像形式でしか登録できないという異常な仕様でありました。

せっかく紙の図面からPDFで電子化してデジタル的に管理していても、レインズには、それをわざわざ画像としてスキャンしたりスクショとったりして登録しなければならなかったのです。2021年にもなって!

あり得ません。

なので、レインズから募集図面を取得して印刷すると、画像ファイルなので、文字も滲んでしまって読めたものではない、という異常で悲劇的な状況が日々全国の不動産会社で起きていたわけです。(あぁ悲劇)

あり得ません。

中の人に言わせると、「レインズ上で図面の帯情報(元付け会社情報)を差し替えているからPDFでは無理、画像形式じゃないと無理」、という理由(直に聞いた)だそうですが、別にレインズ上で帯情報を差し替える機能を持たせる必要性はゼロであって、PDFを利用出来るようにする利点を上回るとはまったく考えられません。

自分を含め、10数年以上に渡って言われ続けてきたことなのに無視した挙句、IEが無くなるとなって初めてやっと今年のリニューアルで出来るようになったとか。

あり得ません。

しかも、APIも提供されていなくて、一々手動でログインして一々手入力して物件情報を登録・更新するほかに手段が用意されていないため、無駄で非効率です。当然ながらリアルタイムとは程遠く、入力項目も多いですし、入力間違いも増えます。

あり得ません。

宅建業法では、売買物件でかつ取引態様が専任・専属専任の場合にのみレインズへの登録を義務付けていますが、一般媒介等では登録義務はありません。

これは後述する、米国の全米リアルター協会(NAR)の倫理規定にもとづく独自の登録規定と比べれば抜け道だらけのザル、と言えます。

一般向けに広告をする住居用不動産物件の情報は、広告を出した1営業日以内にMLSに登録して物件情報を他の不動産業者やエージェントと共有しなければならない。

Within one (1) business day of marketing a property to the public, the listing broker must submit the listing to the MLS for cooperation with other MLS participants.

全米リアルター協会(NAR)
Multiple Listing Policy - "Clear Cooperation"

結果として、登録物件数も少なければデータの内容も質も酷いという状況に陥るのです。

レインズを使ってみての雑感

期待と大きくはずれていたのは、これはビッグデータでも扱いやすい構造化データでもないことです。
原則としてこのレインズというシステムのなかだけで入力し、検索し、表示することを目的としています。外部システムとの連携は完全に拒否するつくりで、何らかの形で連携させることも一切認めていません。今どきなAPI連携の思想はなく、きわめてクローズドなシステムです。(中略)
対応するプラットフォームは、Windows+IEのみ。あとは、どう使うのかわかりませんがFAXがあります。それ以外のブラウザ、スマホへの対応はありません。(中略)
登録されているデータはクレンジングされておらず、企業内のデータベースを扱ってきた者からみたらひどい無法地帯といってよいでしょう(企業内のデータベースが無法地帯ではない、とは言ってない)。(中略)
すべての項目についてマスターデータをもっていないようなので、トランザクションデータが何種類か存在してたまにマッチングさせている、くらいの使い方です。よって、同じマンションでも多いときは5通りの異なる名前で登録され、本気で名寄せをしないと使い物になりません。最寄り駅や戸数の情報も、同じ物件で異なる情報がいくらでも存在します。
何が正なのかわからないわけですが、「正しいデータ」には業界ではだれも興味がないのかもしれません。
もちろん、レインズに登録される物件そのものが少ないという問題もあります。すべての成約データが登録されているわけではない、というと「少しもれがあるくらい?」と感じてしまいますが、感覚では30%くらいは登録されていないでしょう。
業者が売主であれば義務もないため登録しないのはもちろん、専任媒介などで受けた仲介でも、直前に一般媒介に切り替えて登録しないことがあります。私の経験でも、大手不動産屋では契約成立前に一般媒介に切り替えて、レインズへの登録はしていませんでした。

https://tak-jp.hatenablog.com
レインズを使ってみての雑感

問題を挙げたらキリがありません。

つまり、物件情報の流通を推進する、という本来の意義をとことん損なっているのがレインズそのもの、と言っても過言ではないでしょう。いや、この状況はもはや、レインズの存在そのものが逆に日本の不動産業界のIT発展を阻害する要因とも言えます。

そもそも、なぜこんなことになってしまったのか。運営元はどこなのか、作ったのはどこか・・・

運営元はと言えば、4つ分かれている指定流通機構という一応それぞれ運営主体はあるのですが、それらをレインズとしてまとめて管轄して仕切って仕様等を決めているのは、国交省の天下り団体である「不動産流通推進センター」であります。

実際、不動産流通推進センターの事業計画書にも、

(2)不動産流通標準情報システム(レインズ)の維持
指定流通機構制度の円滑な運営に資するため、レインズを良好に維持し、改善を図る

公益財団法人不動産流通推進センター
令和3年度 事業計画書(PDF)

前述の「不動産ジャパン」の運営元と同じです。

またか・・・、という感じであります。

「良好」でもなければ、「改善を図る」こともまったく出来ていません。

では、システムを開発して作っているのはどこか。

(財)東日本不動産流通機構は27日、理事会を開き、2008年度事業計画等を承認した。また、レインズ次期システムの稼働時期を、当初予定していた08年8月から09年1月へ延期することを承認した。
レインズ次期システムの構築については、07年9月にベンダー(運営会社)を(株)NTTデータに決定。

2008年2月28日
月刊不動産流通
レインズ次期システム、09年1月から稼働へ/東日本機構

例によって例のごとく、絡んでいるのはNTTデータなどの「ITゼネコン」(SIer)であります。

政治家や官僚は、どういうシステムをつくったらいいかイメージができない。イメージできないのでどうするかといえば、システム開発を請け負う企業、いわば「ITゼネコン」を呼んで、すべてをぶん投げてしまうのだ。これは泥棒に鍵を渡す行為に等しい。

2021年5月14日号
プレジデント
大前研一 「日本のシステム開発が失敗ばかりする根本原因」

これではまともなシステムになりようがありません。

マイソク(ファクトシート)図面

業者間の物件情報流通と言われれば、昔の人はまずこれを思い浮かべるでしょう。紙の図面です。

株式会社マイソクやアットホーム株式会社のサービスで、募集図面(マイソク・ファクトシート)の紙束を抱えた営業マンが個別に加盟不動産会社を回って、業者間で物件の図面を頒布するという昔ながらの流通形態です。一番単価は高いけれど、業者としては楽と言えば楽な手法だったわけです。

因みに、未だに現役です。紙束の量は目に見えて少なくなってきましたが。

電話とFAXとメール

電話で、「これこれこういう物件ありましたらFAXください」、「アットホームで見たこれこれの物件まだ空きありますか、図面FAXください」というこれまたそこそこ昔ながらの方法もあります。

とても非効率な方法でもあります。特に繁忙期はそれどころではありません。しかし、いまだに無くならないのは、インターネット上で掲載されている情報は古いものだったり、2次広告だったり、情報の鮮度が悪い為にインターネット上に掲載されている情報は信頼できないからです。

インターネット上で掲載されている情報の鮮度が悪くて信頼できないのは、そもそもインターネットへ物件情報を公開する方法が非効率的だからです。特に、前述したように、レインズが使い物にならないレベルではないぐらい酷いからです。

現場の不動産会社の為にも、これを改善するのが、まず当面の問題として圧倒的に優先度が高い、と言えます。

また、上記に加え、一方的なFAX送付やメール一斉送信と言った迷惑メールみたいな手法も未だに多用されています。

その他の業者間流通ネットワーク

物件検索サイトへの広告掲載のため登録した物件情報を、他の業者も見れるようにした業者間流通の形態もあります。

たとえばアットホームのATBBや、スーモやホームズにも似たようなサービスがありますが、比較すると、元付からの情報量としては営業が足で紙媒体の頒布を行うアットホームが一歩抜きん出ている印象がありました。

新しい業者間流通のサービスも沢山出てきていますが、より多くの会社が参加しないと意味が無いので、相互に閉じた業者間流通ネットワークがいくつ増えてもあまり意味が無いどころか、逆にフラグメンテーションを起こして流通促進を妨げかねない懸念もあります(私企業の独占も問題になりますし)。

本来は、こういう時の為に、「標準化団体」(後述)というものを皆で作って相互連携を促進させるのです。

そもそもの問題は、法律上、独占が許されているレインズがまったく使い物になっていないというのが原因なのであります(独占がゆえに改善も見込めない)。

因みに、これは未来の話しですが、もし自分が先の将来に向けての新しい「業者間流通システム」を自由にデザインできるとしたら、(ハイブリッド型の)P2Pシステムの情報共有ネットワーク、なんてことを考えますが、自分はもう若くも無いし、お金にもならないのでやる人もいないでしょう。現時点ではどのみち現実的ではありません。50年後とか、もしかしたらどうなっているでしょうか。自分は目にする事はないであろう未来の話しです。もし実現したら、言い出しっぺは私だと、どこかに明記しておいてください。;-)

デジタル化における課題

物件情報のデジタル化における課題というのは実際、非常に多く存在しているのは確かです。中には簡単にクリア出来る課題もあれば、広く議論すべき課題も存在します。

それも、この業界に入って実際に業務に携わらないと分からないような、細かな障壁だったり、安易に見過ごしたり壊したりするわけには行かないそれ相応の理由というのもあったりします。

以下、一つ一つ列挙して解説していきます。

・情報流通における法規制

インターネットに公開した物件広告情報は、申込時点で募集を取り下げないと「おとり広告」となってしまいます。

具体的には、不動産物件の情報を公開して広告する場合、宅地建物取引業法という法律の他に、景表法という法律、およびそれに基づく不動産公正取引協議会の不動産の表示に関する公正競争規約、の遵守が必要です。

不動産業者としては、これらを遵守しながら物件広告を出稿し、物件検索サイト運営者も同様にそれらを遵守するよう努めている訳です。

これはつまり、広告の発信元である元付業者が、情報の流れを把握してコントロール出来なければならない、ということです。つまり一次情報の発信元が情報を更新したならば、2次情報公開者も遅滞なく更新された情報を反映させなければならない義務が発生します。(不動産の公正競争規約)

勝手に出回ってしまっては発信元も責任を問われる可能性が出てきますし、消費者にも不利益となります。さらに言えば、物件情報には個人情報が含まれます。なので、そういった意味でも物件情報の2次利用は勝手におこなってはならないという前提があります。元々無断転載、無断2次広告はダメです。空室確認せずに放置もダメです。

しかし、これをまじめにやろうとしたら、貸主や元付業者に毎日ひたすら電話で物件の空き確認をし続けなくてはなりません。現実的ではありません。なので、おとり広告まがいの「成約済み物件広告」が多いのです。

今までこれが改善されずにきた原因の一つは、そもそもインターネットへ物件情報を公開する方法が非効率的だからなのです。

特に、前述したように、レインズが使い物にならないレベルではないぐらい酷いまま放置されてきたからです。

これに関しては、課題でも障壁でもなく、むしろITを使って(利便性、効率性、正確性、リアルタイム性などなどは)解決出来る、また、していくべきことであります。

・乱立するサイトと相互運用性の無い入稿仕様

近年は、多くの物件検索サイトが乱立してきており、不動産業者としては物件広告を出稿する手間も費用もかかってばかり、というのが実際のところでしょう。

不動産の物件広告は、出して終わりというものではないので、リアルタイムに更新しなければならず、条件の変更、入居可能(入居中、空き予定、即)状況の変化、申込・成約取り下げ等々、様々なタイミングで更新する必要があります。

複数の物件検索サイトへ広告を掲載するのが一般的ですので、いちいちそれぞれのサイトの管理画面にログインして、個別に更新しなければならず、どうしても不正確な情報になりがちです。

特に、賃貸においては、いわゆる「仲介会社」が物件検索サイトへ大量に2次広告(先物物件)を出して集客して、(元付けの)「管理会社」にお客さんを紹介(客付け)する、というのが近年非常に多くなっています。

客付け業者による2次広告の際は、元付業者に状況を確認しなければ何も分かりませんので、頻繁に確認をとった上でないと、更新もできません。

結果として、情報の鮮度や正確性の低下、アナログな電話やFAXによる空室確認の手間の増加、など弊害が増大しているのです。

業界団体にいたっては、前述したように、物件検索サイトが乱立しているからといって、自分達で物件検索サイトをやろうとして、さらに乱立させてしまったり、と壮大なるお金の無駄遣いを続けています。

・「コンバート」とは

この非効率な構造に目を付けて、いわゆる「コンバート(データ変換、一括入稿)業者」が多数登場し、長きに渡る無駄な階層・中間搾取構造が出来てしまっています。

このいわゆる「コンバート業者」とは、不動産会社の業務システムから物件データをCSV形式で書き出したものを、入稿先の仕様に合わせて、データを変換して入稿代理をするサービスを提供する企業のことです。

このコンバート業者、結構昔からありまして、古くは「レンターズ(すでに吸収合併して消滅)」などがあって、現在でもコンバート業者は沢山存在しており、同時に不動産業務システムの開発なども手がける会社もあります。

CSV形式とは、エクセルなどの表計算ソフトで書きだすコンマ区切りのデータ形式で、表形式の一覧をそのままテキストファイルに書き出したようなイメージとなります。列の一番目は「物件名」、二番目は「賃料」みたいな。

この「列」を入れ替えたりすることを不動産業向けのIT業界では「コンバート」と呼んでいます。つまり、入稿の相手先に合わせて、列の一番目を「賃料」、二番目を「物件名」に入れ替えて・・・と。相手先が未対応の項目(列)を削除したり、また一応は正規化チックなこともしているわけですが、基本はそういう事です。

そもそもこのCSVという形式、ひと昔前は細かな仕様すら固まっておらず滅茶苦茶な状態で、定義すら曖昧な問題だらけな形式でした。最近はやっとIETFでRFC 4180として「文書化」されたのが出来たのでマシになりましたが、他の人とやりとりする形式としては、未だに色々とあって扱いたくない形式です。ましてや、一対多、多対多のやりとりでCSV形式なんて本当ならありえない話しであります。普通であれば。(ま、はい、日本の不動産テック業界は普通ではありません)

各物件検索サイトへのデータ入稿は、このCSVファイルを、更新がある度に丸ごとFTPでファイル転送しているだけなのが実態です。当然、丸ごとダンプしたデータをバッチ処理しなければならないので、データベースが更新されるのにはかなりのタイムラグが発生します。

とてもとても古くからの原始的な方式で、非効率極まりない方法であります。

ところが、日本の「不動産テック」業界では、この「コンバート」などで新たに起業する「不動産テック」が今も後を絶ちません。どこやどこ、というのもアレなので触れませんが。

・典型的な入稿方法

物件検索サイトへの物件情報の入稿(登録)や更新をする方法は、他にも幾つか存在していますので、一般的なパターンを以下に4つ紹介します。

パターン1. 人力型(各サイトにログインして手入力)

パターン1. 人力型(各サイトにログインして手入力)

基本のパターンとなります。

どこかの外部サービスに依存しない、という点では利点がありますが、完全に人力ですので非効率極まりないです。レインズも基本手入力のみの対応です。

パターン2. コンバート型(中間業者=コンバート業者=登録代行)

パターン2. コンバート型(中間業者=コンバート業者=登録代行)

自社の業務ソフト(物件管理システム)から書きだしたCSVファイルを、中間業者がデータを変換(コンバート)して、各検索サイト向けにそれぞれCSVファイルを変換して、FTPで送信といったパターンとなります。

CSVやFTPというと、1990年代の「ホームページ作成」とか、そういう時代を感じます。

処理も重たいので日に数度の更新がやっと、大変な非効率です。 また、中間業者が入りますので無駄な費用も掛かります。

パターン3. テンプレ型(検索サイト間借り)

パターン3. テンプレ型(検索サイト間借り)

一つの物件検索サイトに全部乗っかって依存してしまうパターンです。

何も考えなくて済むので、インターネットを使えない個人のおじちゃん・おばちゃんでやっている零細不動産業者などが利用するには楽です。その分、自由度も少なく色々と制約も多いです。

パターン4. 乗っかり型(管理システム全委託)

パターン4. 乗っかり型(管理システム全委託)

自社が使う業務システム(物件管理システム)が、各物件検索サイト向けにデータをそれぞれ加工して、コンバート型と同じFTPでCSVを投げているパターンです。

力技で行う丸投げ高コスト体質といえるかも知れません。一つの業務システムに完全依存する形で、それが内部でコンバート掛けていることになります。

開発元が対応しないと入稿先が限られてしまう、という問題があります。

これのような業務システムを開発しているソフトウェアエンジニアの人達も、内心は「なんで個別のサイトごとの変な仕様あわせていちいち変換をかけなきゃいけないんだ、アホらしい」と思っているはずです。(当然ながら、彼らはそれで飯を食っている訳で、決して表立って公言することは無いでしょうけれど)

パターン的に細かいことを言うと、上記4パターンと、その派生型、混合型もあります。FAX入稿や、図面出稿のオプションで、みたいのもありますが、そのうち消滅していくと思われます・・

・悪質な同業者の存在

不届き物の悪質不動産業者の存在が物件情報の流通を妨げている側面もあります。

物件情報の無断掲載と無断転載の2次広告を行う不動産業者がいるためです。そのため、物件情報を2次広告する場合は、「元付け」といって、物件の貸主と媒介契約を結んだ元の不動産業者から「広告承諾書(広告活動承諾依頼書)」という書面で許諾をとるのがルールになったほどです。

たとえば、某大手フランチャイズ傘下のある会社は、インターネット上で出回っている物件情報を丸コピし、自社データベースに取り込み勝手にインターネット検索サイトに広告を掲載したり、といったことを平然とおこなったりしていました。

貸主との媒介契約もなく、情報発信元である元付け業者からの依頼も承諾もなく勝手に募集広告を出しているので、いわゆる「おとり広告」以前に、もっと悪質な「無断転載」です。

物件検索サイトでその「無断転載」の広告をみたお客さんが釣れれば、大家貸主に直接話しを持っていくか、自社物件にすり替えて契約させるという信義に反するような行為も行っていたりします。

そのうえ、元付けに客付けする場合でも、入居者から除菌消臭施工代31,500、安心入居パック18,900、初期消火器6,090円といった、契約金に上乗せ請求し自社利益とする悪質な行為までしていました。

(いい加減目に余るので、ある時電話でそこの店長呼び出して説教食らわしたこともあります、後日そこの会社の社長が詫びに来ましたけど「知らなかった」じゃまずい話しです)

こういった悪質な業者が出てくるので、本当は宣伝したい、広く情報は出して流通させたい、共有させたい、という反面、信頼している同業者以外には詳細情報はなるべく出したくない、というアンビバレントな事が起きるのです。

こういった事情は、実際に不動産業界にいて、実務をやった事のある人間でないと分からないことでしょう。

米国の事例でも紹介しましたが、米国では業界団体が自主的に定めた厳格な倫理規定と罰則のみならず、技術的規格とツール作りによって、物件情報流通の流れをすっきりと整理しているため、このような問題が起きにくい構造になっていと言えるかも知れません。

・非効率性を利益とする利害関係者

一般に、企業の目的は営利の追求であり、究極的には顧客や市場を独占しようとする力学が働きます。特に不動産業界は元々、顧客の囲い込み=情報の囲い込み、となりやすい構造です。

大多数の中小零細の「街の不動産屋」は広く横との協力と連携が必須となりますが、支店が多かったりチェーン展開をしている大手の不動産会社では、囲い込みの力学が強く働く構造です。

なので業界全体としての情報流通が効率化することに興味がない、というか非効率のままでいい、という人達(企業)も出てきます。

さらに、不動産業者だけでなく、物件検索サイトのような不動産IT(テック)企業からして顧客=不動産業者の囲い込みに必死です。物件情報がIT・デジタルで効率的に広く流通してしまっては困る、というのが不動産IT(テック)企業側の立場となりえます。

現状、不動産物件情報の流通にはあらゆるところに非効率さがあるのですが、効率的になって中抜きされたら商売上がったり、になる人達が実際のところ沢山います。例えば前述したコンバート業者などもその一例ですね。

この、不動産業の関連プレーヤー(ステークホルダー)が「抵抗勢力」となって、お互い協力もしたがらない、という事が、情報流通のIT化をしていく上での、実は一番の障壁だったりします。

ただ、不動産業界は特殊な点があって、過度な情報囲い込みでは事業も業界としても成り立たず、他業者とも情報を共有しないとやっていけません。また、囲い込みによる消費者への不利益となる弊害が増します。(なので前述のように法律で適切な流通の促進が定められているわけなのですが・・)

本来は、米国のように早くから標準化を進めて業界として効率化を図っていればよかったわけなのですが、このような膠着状態が出来てしまった今となって、それをを打破するためには、やはり不動産業界団体こそが指導力を発揮して率先して標準化やデジタル化に動くべきであると言えます。。

・不動産流通推進センターという存在

これまでに「不動産ジャパン」や「レインズ」に関連して度々登場してきた、「公益財団法人不動産流通推進センター」という組織が存在します。

この不動産流通推進センターのトップは名前貸しみたいな兼任のお飾りで、役員達も同様にほとんどが外部からの非常勤。実質権力は常任の副とか常務理事が握っているわけですが、大抵それが国交省の天下りの元官僚の面々。

これを確認するのは現代においてはとても簡単であります。

まずは、不動産流通推進センターのサイトから公開情報である役員名簿「役員等名簿(PDF)」を確認してみましょう。理事長は兼任の全宅連会長ですね、お飾りです。副理事長(代表理事)と常務理事(業務執行理事)が常勤で実質トップです。このお二人の名前を覚えておきましょう。

この副理事長か常務理事どちらかの名前と「国土交通省」のキーワードで検索すれば、国交省の人事異動の記事がずらずらと出てきます。つまり元国交省官僚。

面白いのが「天下りログ」なんてサイトも出てきて、そこで天下り人事異動を記録に残しているという。不動産流通推進センターの副理事長さんの天下りも記録されていますね。職務内容に「不動産流通市場の整備・近代化及び不動産業の健全な発達に関する支援」などという記述まで。さらには、この副理事長さん、東京都の宅建協会の役員名簿(PDF)をみれば、そこでの監事としても名前を連ねています。

さらに、この「天下りログ」のサイトで、天下り先を「公益財団法人不動産流通推進センター」のキーワードで検索してみますと、2015年から2020年までで4人も国交省から天下っていることが分かります。副理事長と常務理事だけでなく総務部長も天下りポスト、と。

最近は色々と便利になったものです。

私が以前に不動産流通推進センター(当時は近代化センター)で出会ったのも、別の方でしたが、やはり天下りの元官僚さんでありました。一緒にいた誰かから「あれ、天下り」と耳打ちされて、「あぁ道理で・・・」と思ったのを良く覚えています。

代々続く、天下り専用ポストなのでしょう。

レインズにしても、うがった見方をすれば国の規制に由来する官民癒着が産んだ国交省の利権構造の一部なのかも知れません。さらに言えば、国交省と天下り元官僚と「ITゼネコン」による産物と言えるかもしれません。

この「不動産流通推進センター」は、2015年まで「不動産流通近代化センター」という名前でした。

「公益財団法人不動産流通推進センター」は、「1980年、建設省(現国土交通省)は、宅建業法を改正し(中略)、業界近代化のための指導機関として(財)不動産近代化センターを発足させ」

磯村幸一郎
「図解入門業界研究最新不動産業界の動向とカラクリがよーくわかる本」

国交省が作った「業界近代化のための指導機関」・・・。

不動産業界全体の情報化促進業務は(財)不動産流通近代化センターの本来業務です。

2002年
国土交通省
不動産投資市場整備室
不動産物件情報サイトの整備及びレインズシステムに関する提案について(PDF)

時代錯誤もいいとこであります。逆に行政の方が化石だから早く近代化すべし、というのが現代の話しです。だからデジタル庁がわざわざ必要になったのであります。

日本では、特に米国などと比較しても、国が民間の業界団体を法律で過保護に縛った上に(天下り団体を通じて)手出し口出しをしてきたことが、不動産業界の自主性を損ね、主体性を奪ってきたと言えます。

本来は民間の業界団体などが主体的に行うべきことなのに、だてに天下り団体の不動産流通推進センターなどというものがあるが故に、誰が主導してやるべきなのかはっきりしない、結果、誰も何もしない、という状況が続いてきました。

つまり、国交省は、口では建前上「あくまで民間がやること」とか言いながら、監督官庁としての立場や法規制やをたてに、実際には国交省の天下り元官僚達にやらせている、という誰も指揮や責任をとらない構造というわけです。

不動産業界団体は「業界全体の情報化は近代化センター(流通推進センター)があるから」と思考停止していて、近代化センター(流通推進センター)は「国交省からも言われていないことはする必要もない」と何もしない(利権を維持するのには一生懸命)、と。

これでは日本の不動産業界のIT活用・デジタル化が停滞したままなのも不思議ではありません。

その結果、日本の不動産業界では「お上が決めること」、で誰も何もしない、何も考えない、がまかり通ることになってしまった。

日本の「不動産流通市場の整備・近代化を指導する」という公式業務を持つ国交省の天下り団体の「不動産流通推進センター」は、日本の不動産業界の発展を逆に阻害する要因となってきたもろもろの元凶である、と言えるでしょう。

社会における不動産業の役割

しばしば「情報の非対称性」や「透明性」の問題が、不動産業のものであるとして指摘されることがあります。しかし、これは「情報の非対称性」を「一般消費者 vs 不動産屋」のものと捉えて誤解している面もあるような気がしています。

もともと不動産業とは、「消費者(借主・買手)」と「提供側(貸主・売手)」との間の「情報の非対称性」が存在しているからこそ、それをフラットにするために両者の間に入る専門的な「業」として存在しているのです。

「売主・貸主」と「買手・借主」では、売主・貸主が圧倒的に有利な立場であります。特に戦後直後からの住宅難の時代など、色々と問題が顕在化した過去がありました。

中には本当に酷いオーナーとか居る訳ですが、間に入って苦情を一身に受けるのは不動産屋であります。そういうオーナーに対し、法的根拠を持って説得するのも不動産屋の務めとなります。

不動産は生活の基本であり、同じものは存在せず、高額なものですから、そのような売主・貸主と買手・借主の間の「情報の非対称性」を悪用する人間が出てこないように、その非対称性を解消すべく、消費者保護のために宅地建物取引業法があって、宅建士という国家資格があって、業としての営業は免許、という形で規制産業化したのであります。

不動産業の本来の役割

不動産業の本来の役割とは、多くの人が安心して住まいを手に入れることが出来るように、不動産に関する情報を広くオープンにして情報の非対称性を解消し取引を透明化することであります。

実際、不動産屋は、手間を掛けて物件について詳しく調べて、一生懸命に物件広告を出して消費者へ情報が広まるようにして、結果的に「非対称性」の解消に努めるわけです。不動産屋は、懇切丁寧に説明して、契約時に「重要事項説明書」にサインまでもらって、後々トラブルにならないように「非対称性」の解消に努めているわけです。

そうした役割からすると、情報化やITの活用、デジタル化というのは、不動産業にとってもっとも重要なことの一つと言えます。

ただし、不動産屋は、業務の中で、個人に関するそうとう機微(センシティブ)な情報を扱います。なので、不動産業に従事する者には守秘義務が課されており、なんでもかんでもオープンにすれば良いという訳ではありません。不動産屋は口が固くなければ務まらないのです。時には何を言われても、口を真一文字に閉じたまま、忍耐あるのみ、ということもあるのです。

・「悪い」不動産屋とは

しかしながら、両者の間に入る専門的な「業」の立場を悪用して、「情報の非対称性」を悪用してみずからの利益とするようなケースは確かに存在します。

一例としては、たまに「非公開物件情報あります」とか宣伝している不動産業者がいます。情報を脱法的に「囲い込み」して、お客さんも囲い込もうとしているわけですが、これは一般消費者や同業者を含め、他の誰のためにもならず、まぁ単に悪徳と言ってもよいのではないでしょうか。嘘の可能性も高いですし、堂々とやっている所は殆どないとは思いますが、以前は街頭のチラシとかでたまに見かけましたね。

こうした囲い込みを大々的にやっているのは大手の不動産会社が多いと言えます。街の不動産屋など、規模が小さければ小さいほどより多くのお客さんにリーチするためには横との協力関係が重要になってくるものだからです。

単にノルマやお金儲けのためだけに「売る」ことしか考えずに不動産業に入ったような人達も「不動産屋の本来の役目」を忘れてしまっている場合もあるかも知れません。

大多数の不動産屋は小規模な所ですから、「そういう悪いのと一緒にしないで欲しい」、というところではないでしょうか(と思いたいです)。

これは一般的にも「専門知識のある人とない人」などの立場の非対称性を悪用したりする人が出てくるのと一緒で、どの業種にも言える事ではあるでしょう。

不動産業界という「魔界」

不動産業というのはもともと、法律上の数々の縛りがある規制産業であり、むやみに外部から参入できる業種ではありません。事業をするには免許が必要であり、宅建士も一定数必要となります。(そういう意味では、宅建士にとっては独立開業しやすいと言える)

それに加えて、不動産業は競合他社を含めて、同業他社(横)との繋がりと連携が非常に重要なものとなる特殊な業種です。

これがどういう事を意味するかというと、横との連携においては、明文化されていない、慣習的なルール・決め事で仕事が回っていく、ということであります。常に他社たちがどうしているかアンテナを張り、他社に合わせて共同歩調をとらないと仕事が進みません。

例えその決め事がいかに異様なものであったとしても、文句をいっても始まりません。「そういうもんなんだ」とあきらめて合わせるほかないのです。知ればそれなりに理由があったりもしますし、無かったりもします。まことにやっかいな話しです。

よく、「宅建を持っていない営業でも、そっちの方が優秀だったりする場合もある」なんて話しがまことしやかに言われていたりしますが、それも一理はあって、「宅建士」の資格を持っているというだけでは、実務や慣習的なルールに疎く、初めは大変でしょう。(性格の向き不向きもありますし)

こうなると、外部から見た時、明文化されている法律による規制と、明文化されていない慣習とが交じり合って、「不動産業界は魔界」のように見えるのではないでしょうか。

色々と誤解もされやすいのも当然かも知れません。

不動産業界団体の役割

日本の不動産業界団体は、倫理規定(Code of Ethics)という理想・信条(アイディオロジィ)を旗印にして、それを柱として様々な活動をする、というよりかは、どちらかと言うと、同業者の互助会的な側面の方が強いような気がします。

少なくとも、全米リアルター協会(NAR)と比較して、とても「内向き志向」の団体であることは間違いありません。

一例を挙げると、「安心のハトマーク」「ハトマークだから安心」というのはどこでも目にしますが、論理的に「なぜ」というのがまったく言語化できていない気がします。そんなんで合理的な人間が「あぁそうですね」と思うとでも思っているのだろうかと、いつも不思議に思うのです。まぁ、こういうの、すごく「日本的」な話しなのかもしれません。

下記の動画はNARの公式30秒コマーシャルですが、「エージェントとリアルター(REALTOR®)の違いは本当(real)です」、とし、

The ethics to do the right thing even it's the harder thing. That's who we are.
たとえそれがより大変(難しいこと)だったとしても、(NARの)倫理に基づき「正しいこと」をする。それが我々なのです。

Feb 15, 2022
全米リアルター協会(NAR)
The Right Thing (30-second Ad)

と、リアルターの高い倫理基準をアピールしています。

米国の業界団体は職業倫理を柱に、倫理綱領を旗印にやっているのに比べて日本は・・・、なんて感じてしまいますね。

英語圏ではこのように価値観やアイデアを言語化して表明し、皆んなでグイグイ動いて行くのに、日本では「建前」と実際がことなり、誰にも見えないところで誰か(または「どこか」)が影響力を行使していたりしましす。

業界団体の倫理規定

日本の不動産業界団体にも、一応は倫理綱領(倫理規程といったり倫理憲章といったりする)はあるんです、一応。

ただ、内容もなにも、NARの倫理綱領(Code of Ethics)と比較するとショボ過ぎて・・・。しかも全宅連や都宅建の倫理綱領はサイト上で探しても存在しませんし、検索しても出て来ません。

それでも地元ローカルな昔気質の街の不動産屋の社長同士の間では、昔から「信義則」といった倫理コードが存在し、一種の任侠チックな倫理観が存在していたのです。ですから古くからある地元の不動産会社の社長・会長などはことあるごとに「信義」を口にします。お目付け役、みたいのもいたりして。古めの不動産屋を訪ねると、店頭に古びた倫理綱領みたいのが掲げてあるのを目にするでしょう。(「モグリ」云々とか書いてある古めかしいやつ)

今では、カタカナ名のチェーン店や中堅・大手も増え、そういった古くからある倫理観はまったく通用しなくなって来ました。哀しい話しです。

ただ、資格名称が「宅建士」になったタイミングで倫理綱領を見直そうという動きは少しだけ起きて(業界内の身内からも「名前に中身が伴っていない」、という批判が湧いたからです)、改定の動きはありました。

しかしですね、前述のように、そもそも検索しても出てこないし、表にも出さないのだから、存在していないのと同じ事です。

また、新しめの資格である「賃貸不動産経営管理士」などでは、ごくごくシンプルなものですが、一応は「倫理憲章」などを掲げるようになってきました。

ただ、NARの倫理規定とは内容もなにも、比較にもなりませんし、遵守しなくても誰も何も言いませんし、自己規制、罰則規定的なものもありませんし・・・これもまた、まったく意味がありません。

コンプライアンスと職業倫理

そんな中、前述した、国交省の天下り団体である不動産流通推進センターは「不動産業におけるコンプライアンス確立に関する取組み」なるあらたな事業を始め、「コンプライアンス(職業倫理)」と定義した上で、コンプライアンスとは法令等遵守ではなく職業倫理だというデタラメを宣伝するようになりました。

「Regulatory compliance」、日本では「企業コンプライアンス」なんて訳されたりするものがあります。これを略して単に「コンプライアンス」と言ったりします。それはそれであくまでも文脈上でのことなので間違いではなく、問題はありません。ビジネス上の文脈では「コンプライアンス=法令等を遵守(する枠組み設定)」となります。

倫理は自主的に培って自ら実践する一方、コンプライアンスは誰かから言われて従う、という真逆の方向となる話しであります。

それを「コンプライアンス(職業倫理)」などとするのは、職業倫理を矮小化するだけのものに他なりません。

不動産業における「職業倫理」についての理解を深め、講演会などを行いたいのであれば、この米国の事例である、NARの倫理規定についての紹介と解説をしていく方が100倍マシなのです。

NARの公式サイトに日本語訳も公開されています。

なんであれば、日米不動産協力機構(JARECO)に頼んで、NARの倫理規定を解説する講師を依頼すべきだったでしょう。既にそういう講座があるそうですから。

倫理綱領研修 (Code of Ethics Training)
米国不動産業の仕組みを支え、全米リアルター協会(NAR)が提供している 100年以上の歴史を持つ倫理綱領を、日本語、英語で学びます。

日米不動産協力機構(JARECO)
事業内容

不動産流通推進センターは一体全体、何を考えているのでしょうか。

業界団体の組織構造

ひとくちに不動産業界団体といっても、日本の場合、幾つかあって、最大の「全国宅地建物取引業協会連合会(通称、全宅連)」(全国の宅建業者の約80%)と、その他の「全日本不動産協会(通称、全日)」)、「不動産流通経営協会(通称、FRK)」、「全国住宅産業協会」などがあります。

さらには、全宅連系列の賃貸管理業に限定した「全国賃貸不動産管理業協会(通称、全宅管理)」なんてのも一応あります。

しかも、さらに悪いことに、全宅連はその名前の示す通り、日本全国の都道府県に個別に存在する下部組織の「宅建協会」という業界団体の「連合会」に過ぎません。

なので、基本、ITなどの事業を行う「システム委員会」「情報流通委員会」などは、各都道府県の宅建協会が個別バラバラに行ってたりします。

しかも、さらにさらに悪い事に、東京都の宅建協会は「東京都宅建協同組合」という独自の事業協同組合を作って、情報化や流通近代化といったIT事業はそっちの組織に委託してやる、という体制になっています。

東京都宅建協同組合は、1981年5月に公益社団法人東京都宅地建物取引業協会全会員のみなさまの総意によって設立された事業協同組合であり、宅地建物取引業法改正による「媒介契約制度」導入に伴い、流通の近代化を実現するため、本格的な流通機構の体制づくりを目指し、協業化組織として設立されました。

東京都宅建協同組合
東京都宅地建物取引業協会
協同組合について

この状況、多分、不動産屋でも、知らない人だらけだと思います。私自身も、この異様なバラバラ状態に気がつくのに数年かかりました。こんな話し、普通は知らないことでしょう。(ま、興味も無いでしょうが)

普通に考えて、情報化やらIT化やら流通近代化に都道府県の境は無関係であって、全国組織の全宅連で人的・予算的なリソースを集約して行うべきでしょう。

インターネットに都道府県の区別はないのです。

都道府県ごとの宅建協会がそれぞれバラバラにIT事業をやるなんて、非効率な上に、「日本の不動産業界」といった広い視点を持った議論や事業が出来るわけありません。東京都の宅建協会なら東京都の会員の為だけの近視眼的なIT事業、ということになるのです。

これでは業界団体に何かを期待することなんて出来ません。

だからといって、「不動産業界全体の情報化促進業務は(財)不動産流通近代化センターの本来業務です」などと国交省に言われて、天下り団体である不動産流通推進センター(近代化センター)のような、利権まみれの前近代的な官僚組織に意思決定を丸投げしては元も子もありません。

前述してきたように、不動産流通推進センターは「日本の不動産業界の発展を逆に阻害する要因となってきたもろもろの元凶」なのであります。

業界団体とITの関係

前述した、業界団体が運営するであるハトマークサイト、ハトさんの問題です。

個人レベルからの宅建業者の集まりである不動産業界団体が、一つのウェブサイトを運営するというだけでどういうシステムやサイトが出来上がるか、というのは簡単に想像がつきます。

色々な人が色々な事を言うだけ言って、結局碌なモノが出来上がりませんし、実際の運営は「ITゼネコン」などに丸投げか、事務局が事務的に行うだけになる、という・・・。

そもそも、業界団体の委員会などが主体となって一般向けのサービスを運営するなど、はなから止めるべきなのです。役員がITに疎いのを良い事に、結局「ITゼネコン」にベンダーロックインされて、下請けに丸投げしたものが孫受けに丸投げして出来上がったとしても、「作っておしまい」、になるのが目に見えています。

官僚的組織が民間の企業やITベンチャーがやるような事に手を出してはいけません。レインズの悲惨な状況だけで十分おなか一杯です。

業界団体(特に、東京都不動産協同組合)も、(直に私も見てきましたが)一般向けの物件検索サイト「ハトさん(ハトマーク東京不動産)」の開発運営やら、不動産物件管理ソフトやら間取り図ソフト開発など、自由な民間の市場ですでに活発に行われているソフトウェアやサービスを、わざわざあえて業界団体が2番煎じのサービス開発に無駄金を投じるべきではないのです、そもそも。

しかも、特定のソフトウェアシステムを会員に使わせようとするのは完全に間違っています。利用者の選択の自由を奪い、多様性を奪うと市場の原理が働かず、そのソフトウェアの進歩(改善)が無くなり、むしろ高価格化します。回り回って利用者の不利益に繋がるのであります。ソフトウェアの世界に限らず、当たり前の話しです。

しかも、不動産業には様々な業態があり、規模も中小零細からチェーン店に大企業まで種々様々です。各社それぞれが、自社にあったシステムを使うのが理想なのであります。

つまり、業界団体が、委員会等で決めるだけで実際には外注し、それを会員に使わせようというのは2重3重に間違っている、という事なのです。

業界団体は、まずこの意識改革から始める必要があると言えるでしょう。

具体的に出来るのは、IT事業は、各都道府県の宅建協会が個別バラバラに行う現状を見直し、全宅連に人的予算的なリソースを集中させ、日本全体を見渡した「不動産IT事業」として「消費者への情報提供のあり方」を検討すべきでしょう。

ハトマーク系列の物件検索サイトは全国版一つにまとめて一点集中すべきであります。米国のNARのように、サイトの運営を外部の民間企業にライセンス契約や資本提携で手放すことも検討すべきです。

業界団体として行うべきなのは、業務ソフトウェア関連の市場競争を促進させ、不動産物件情報流通のグランドデザインと標準規格の策定、つまり「(物理的なものではない)情報基盤」の整備です。

こればかりは、普通の民間では出来ません、やりたがらないのです。民間は自社で市場独占を目指します。営利企業ですから。民間にまかせた独占の結果は利用者の不利益です。

基盤整備が出来ていない混沌とした環境ではルールもなく、エコシステムの発達もあり得ません。そこの環境を整備・ルール作りをするのが、本来の業界団体の仕事なのです。具体的なソフトウェアやサービスを作るべきでは決してありません。つまり、情報流通の標準規格を制定・策定すべきなのです。

民間はその標準規格に合わせて、市場の原理でより良いシステムを開発していくでしょう。そして不動産業者は、各々の事情に合わせたシステムを自由に選んで利用する事ができるようになります。

不動産業界団体にしかできないこと、業界団体がすべきこと、を意識して業界団体としての役割を見直し、「日本の」という広い視点をもって、積極的に対外的にもアピール出来るような本質的で中身のあることに注力してリーダーシップを発揮するようにして頂きたいと、切に願うものであります。

標準化の技術と原則

では、日本においては具体的にどうしていく必要があるのかについて触れる前に、不動産物件情報のデジタル技術標準化における技術的な要素と前提となる原則について触れておきたいと思います。

・3大原則

  1. インターネットとウェブ

  2. ベンダーニュートラル

  3. オープンスタンダード

一つ一つ見ていきます。

1.インターネットとウェブ(WWWのHTTP)

当たり前すぎる話しですが、たまに変な話しが出てくるので、念のためであります。

大昔のメインフレームの時代でインターネットやウェブが普及していなかった頃のEDI(後述)を引きずるような、専用回線でやり取りするような閉じたネットワークで行う、というのは物件情報流通を促進するにあたり、ある意味時代に逆行する話しであり、参加者を排除しないネットワークつまり開けたインターネットのウェブを使うべきであります。

FTPでファイル送信などという話しでもありません。

2.ベンダーニュートラル(ベンダー非依存)

特定の企業の独自システムに依存するのは「ベンダーロックイン」と言って、避けるべきことです。意図していなくても、外注しているだけでは自然とそのような状態に陥るでしょう。

日本独自の悪習であるITゼネコンに丸投げ、と言った事は論外です。

なにしろ、日本のITゼネコン(SIer)は、NTTデータや日立なんとかと言った、一定以上の年齢層には効果てきめんの名前を使った子会社を利用して、業界団体に取り入って、素人でも作れるようなサイトを自分達では一切作りもせず、下請けのさらに孫請けなどに丸投げし、相手がIT分からない層だからといって、いいようにお金を吸い上げてポイするようなヒルというか、吸血鬼のような存在だったからです。

最近でも、デジタルトランスフォーメーション(DX)だ不動産テック、なんて言葉が出てくると、いつものようにすわっとばかりにITゼネコン関係の人達が飛びついてきて、例のごとくバズワードを散りばめた中身空っぽの売り文句で宣伝や広告営業を掛けてきます。本来のDXとは、そういうITゼネコン依存から脱却することから始まるのですけれどもね。

3.オープンスタンダード(オープン標準)

ウェブ開発の大原則であります。オープンな標準規格を利用し、策定する、独自規格は使わない、しない、ということです。

特定企業のソフトウェアやシステムの利用を強制させるのは論外です。IEでしか閲覧できないサイト、Windows(プラットフォーム)でしか使えないActiveXの埋め込みサイト、ドコモの携帯でしか見られない「i-mode」それらは、死に行く運命なのです。それは、World WideなWebでなく、オレオレNetのオレ様ネットワーク。インターネットではないのです。W3Cの仕様と規格と原則に則ったインターネットであるべきです。(ええ、2021年になってやっとIE限定が解消されたレインズの事ですよ、レインズ)

データ形式についても、特定のベンダー(製造業者)の権利のあるソフトウェアでないと、編集できないデータ形式は論外です。たとえば、マイクロソフト社の表計算ソフトのエクセルでないと編集できないデータ形式などですね。

例えマイクロソフトがなくなっても大丈夫な仕様にすべきなのです。あくまでも仕様はベンダーやプラットフォームから独立したものでなければならない、ということであります。

参考までに、EU(欧州連合)における、オープンスタンダードの定義を以下に引用します。

・オープンスタンダードは非営利団体が策定し保守しているものであり、その策定過程は基本的に全ての利害関係者に開かれたものである。
・オープンスタンダードは公けにされており、その仕様文書は無料か最低限の課金で入手可能である。そのコピーや配布も無料または最低限の課金で許可されなければならない。
・知的財産権、すなわち特許などがそのオープンスタンダードに含まれるとしても、ロイヤリティフリーで利用可能である点に影響しない(後からロイヤリティを徴収できない)。
・その標準の再利用には制限が課せられない。

ウィキペディア
オープン標準

オープンスタンダードの標準化作業は、一企業や国や監督官庁が関係する団体によって行われるものではありません。あくまでも業界団体か、関係者(ステークホルダー)であれば誰もが参加できる独立した民間の中立的な組織が行うべきものなのであります。

・XMLフォーマット

XMLはデータフォーマットを用途に応じてそれぞれ定義して利用する為の標準規格で、ありとあらゆる所に使われています。ある意味、標準フォーマットを作るための標準規格とも言えます。

ワードなどの文書ファイルも中身はXMLフォーマット、アプリの画面設計のフォーマットもXML、システムの設定ファイルもXML。いたるところで使われているので、100%間違いなく誰もが一日に一度はXMLを利用した技術を使っているはずです。

金融業界を含む各種業界でも、標準データフォーマットとして利用されているのです。

具体的な例としては、金融・会計・財務関連の国際標準フォーマットとして、XBRLというのが標準化されています。これは2000年代初期には既にあった記憶があります。

(日本の場合、全銀EDIが2020年までメインフレーム時代の固定長形式を引きずったままで、XMLフォーマットへの移行ですら20年ばかり遅れを取りました)

XBRL(eXtensible Business Reporting Language)は、各種事業報告用の情報(財務・経営・投資などの様々な情報)を作成・流通・利用できるように標準化されたXMLベースのコンピュータ言語です。特に、組織における財務情報・開示情報(財務諸表や内部報告など)の記述に適しています。
たとえば財務情報は、年度ごと、あるいは組織や業種ごとに、文書構造や項目、計算式などが異なるといった特徴があります。このため、従来の作成方式では作成コストがかかるだけでなく、共通化や二次利用が困難です。XBRLを用いることにより、ソフトウェアやプラットフォームの壁を越えて、電子的な事業報告の作成や流通・再利用を容易に行うことが可能になります。その結果として、企業、会計専門家、監督機関、アナリスト、投資家、資本市場参加者、ソフトウェアベンダー、情報ベンダーなど、財務情報のサプライチェーンに関係するすべての当事者に、財務情報を取り扱うためのコストを削減させ、より正確でスピーディーな情報処理が可能となります。特にインターネット上に公開されている財務情報については、データの精度が向上するだけでなく、他のコンピュータシステムでの再利用が容易になることにより、その価値が飛躍的に高まるという効用もあります。

このようなメリットを実現するキーとなっているのは、「標準化」です。XBRLの普及の中心的役割を担っているのは、XBRL Internationalという非営利の世界的なコンソーシアムであり、IFRS(国際財務報告基準)を策定しているIASB(International Accounting Standards Board)をはじめ、財務情報サプライチェーンに関係する各種企業・団体がそのメンバーとなり、XBRLの標準化と普及を全世界レベルで強力に推し進めています。会計基準ではIFRSを自国の会計基準として採用する国が急速に広まっていますが、財務諸表を中心とする財務情報の作成・流通・利用を可能とする技術は全世界でもXBRLをおいて他にはなく、世界中の関心が確実に高まっています。

一般社団法人 XBRL Japan (XBRL Japan Inc.)
XBRLとは

XMLは、標準フォーマットを定めるのに最適なのは、「名前空間」というのを利用して、標準規格のフォーマットに独自の拡張を施す事も可能ですから、非常に柔軟性と拡張性があるためです。

分かり易く説明する為に、まず見て頂いた方が早いと思うので、不動産の物件情報を記述するXML形式のフォーマットを例示したいと思います。非常に簡略化しており、現実的でも無いものですが、分かり易さ優先でタグ名も日本語にしています。ごくごく単純なサンプルですが、少なくともイメージとしては分かり易いのではないでしょうか。

<?xml version="1.0"?>
<物件データ>
 <物件 名称="おらがビル" 不動産ID="1234567890123-G001">
  <交通 沿線名="JR線" 駅名="新宿駅"/>
  <所在地 郵便番号="101-0000" 住所="東京都新宿区"/>
  <賃貸借条件>
   <賃料 単位="万円">5.5</賃料>
   <礼金 単位="ヵ月">1</礼金>
   <敷金 単位="ヵ月">1</敷金>
   <管理費 単位="円">2000</管理費>
  </賃貸借条件>
  <備考>あいうえお</備考>
 </物件>
</物件データ>

標準のフォーマットで皆が合意して「標準」が出来たとしても、ある企業では独自の項目があって、それを含めて流通させたいこともあるでしょう。

そういう時の為に、XMLには「名前空間」という仕組みがあります。

<?xml version="1.0"?>
<物件データ xmlns:hoge="http://www.w3.org/hoge">
 <物件 名称="おらがビル" 不動産ID="1234567890123-G001">
  <交通 沿線名="JR線" 駅名="新宿駅"/>
  <所在地 郵便番号="101-0000" 住所="東京都新宿区"/>
  <賃貸借条件>
   <賃料 単位="万円">5.5</賃料>
   <礼金 単位="ヵ月">1</礼金>
   <敷金 単位="ヵ月">1</敷金>
   <管理費 単位="円">2000</管理費>
  </賃貸借条件>
  <備考>あいうえお</備考>
  hoge:コメント名前空間で拡張された項目</hoge:コメント>
 </物件>
</物件データ>

「hoge:コメント」の部分は、独自の名前空間で追加(拡張)した項目で、この項目は、分かっているシステムではそれを解釈しますが、そんな項目知らんよ、というシステムでも問題なくその他の部分を処理できます。

この名前空間の拡張により、自社の独自項目を追加しても、なんの問題もなく他社システムとの連携を取る事が可能になるのです。殆どの方はこの事実を知らないで、「標準化など無理」などと言います。単に、XMLの事を知らないからそういう事を言ってしまうに過ぎません。

また、XMLのスキーマ定義を利用し、データの項目がちゃんとあるか、といった定義に即したデータであるかの確認が簡単に出来るようになっています。このスキーマ定義が仕様書としても機能し、異なるシステム間での利用に用いられます。

*因みに、中にはJSON形式を使わないのか、と言う人もいるかもしれませんが、JSONは元々JavaScriptネイティブのデータフォーマットで、ブラウザの要素を一部書き換える為のデータフォーマットとして、小粒なデータをブラウザ内のJavaScriptがサーバとやり取りしたりするのに主に利用されており、その用途で最適なものであって、不動産物件情報の流通、といった汎用的な業界標準フォーマット用途には、XMLの方が向いている、と個人的には思います。スキーマや名前空間といった便利な仕組みもありますし。まぁ、XML形式とJSON形式は、両方ともライブラリが揃っているので出入力に両方対応させるコストは微々たるもので、どうしてもというのであれば、おまけでJSON対応すれば良いに越したことはないです。

このようにして、物件検索サイト側が、データ入稿に標準のXMLとAPIに対応さえすれば、業務ソフト(自社で使う物件管理システム)から、効率的に物件情報の流れがコントロールできるようになります。

ポイントは、一企業の独自仕様ではいけない、という事です。業界団体なりが主体的に動いて、関連する所すべてに働きかけて、標準化団体などオープンな形で策定すべきものです。

・WebサービスAPI

APIとは何か、というのは「Web API」や「WebサービスAPI」で検索して頂ければ山ほど情報が出てくるので調べて頂くとして、一言で言いますと、異なるシステム同士で連携する仕組みです。

つまり、システムの機能の一部を切り出して、外から利用できるようにする、という意味合いがあります。(ウェブを介してやる場合はWeb APIと言った方がより正確。厳密にはWebサービスAPIと言ったりします)

*技術的な詳細に触れると、APIには主に二つの形式があり、RPCタイプとRESTタイプに分かれます。RESTはよりインターネットネイティブと言える方法で、この方法が現在主流となっています。RESTな(RESTfullと言います)APIは、ブラウザと同じで、あるURIに対してGET、つまりこのIDのリソース(HTMLページとかXMLファイルとか画像ファイルとか)をくださいな、とすると、取得できたりします。POSTでリソースを追加・登録です。このIDのリソースを削除してくださいな、という場合はDELETEで、更新はPUTです。CSVでデータベース丸ごとダンプしてFTPでファイル転送するような野蛮な方式とくらべて、なんとシンプルで美しい方法ではありませんか。

これにより、AシステムからBシステムのWeb APIを使ってそこのデータを取得したりそこに新たに登録したりできるようになります。

実は、皆が使っているブログですらAPIが利用できます。どのブログでもブログ投稿APIに対応していて、様々な「ブログエディター」や「ブログ投稿クライアント」と言ったツールを利用してブログを投稿する事が出来るようになっています。例えば、あるブログ投稿ツールを利用して、Aブログに投稿し、Bブログに投稿、という事も出来るのです。

ブログAPIが共通で標準化されているからです。

厳密に言うと、ブログAPIの場合、有機的に広まってデファクトスタンダードが普及したXML-RPCと、IETFというインターネットの技術にまつわる標準化団体により標準化されたより汎用的なプロトコルの、Atom Publishing Protocolという二つのAPIが利用されています。

このAtomという標準規格は、データフォーマットのAtom Syndication Formatと、それをやりとりする通信規約であるAtom Publishing Protocolがセットになっています。このAtomという規格は汎用的な規格なので、まさに不動産の物件情報を登録し変更削除などを行うのにちょうど良い参考となる規格です。

・EDIという用語について

EDI(Electronic Data Interchange)、つまり 「電子データ交換」という表現が未だに国交省など官公庁をはじめとして使われている実態がありますが、殆どの「電子データ交換」がインターネット上のウェブに移行した現在ではもはや最も適切な表現とは言えません。

というのも、大昔のメインフレームの時代でインターネットやウェブが普及していなかった頃(1970年代〜)からのEDIというのがあって、システム同士が専用回線で直接接続されるものを指していたことがあります。主に製造業とかのサプライチェーンにおける異業種間における業務電子化で使われていたものです。EDIという言葉が使われている業種や分野(全銀EDIなど)はそうした過去の歴史上の経緯から、慣習的に引きずったまま使われ続けているに過ぎないところがあります。ウェブ上でやり取りが行われる現代に至ってはもはや死語というか過去の遺物というか、特殊なケース以外使われません。

英語圏でも、特にインターネット時代に入ってからのものは普通に「Webサービス(ウェブサービス)」です。

Webサービス(ウェブサービス)とは、HTTPなどのインターネット関連技術を応用して、分散コンピューティングを実現したものを指す。W3Cにおいては、Webサービスとは、さまざまなプラットフォーム上で動作する異なるソフトウェア同士が相互運用するための標準的な手段を提供するものと説明されている。

ウィキペディア
Webサービス

情報流通の目指すべき方向性

以上、現状と課題と技術要素、さらに具体的な海外事情を見てきたところで、日本の不動産業界の情報流通の目指すべき方向性のまとめです。

Webサービス型の不動産情報流通へ

Webサービス型の不動産情報流通

電話やFAX、メールやホームページを閲覧、手動で情報登録・更新、ファイル転送(CSVとFTP)と言った旧来のままではなく、「Webサービス型」の不動産情報の流通を目指す必要があります。

不動産情報技術標準の策定

まずは、各物件検索サイトやレインズへの入稿で、いちいち手入力やわざわざコンバートをしなければならない状況を無くすべきです。このようなケースでは、様々な利用者や複数のステークホルダーが存在しますので、不動産業界団体が主導し、「共通言語」となるべく中立的な標準化団体なりで技術の標準化を行うのが定石です。

日本でも、不動産業界団体がみずから旗を振って動き、関連する人々すべてに呼びかけ、有志を集め、標準化団体なりを設立し、標準化作業をやるべきということであります。

これは特定の企業でも、国や監督官庁が関係する団体によって行われるべきものでもありません。その標準化作業は、関連するステークホルダーすべてに開かれたものでなければならず、そのプロセスもオープンなものであるべきです。特定のベンダーに偏った囲い込みや独占を防ぐのがポイントだからです。*ITゼネコンは例外として特に排除すべきでしょうw(冗談です)

不動産情報技術標準という、オープンスタンダードの策定が必要なのです。

具体的には、

1.不動産XML(ドキュメントフォーマット)

データフォーマットをXMLで標準化し、どのベンダーのソフトウェアからでも統一されたフォーマットで情報を入稿できるよう標準規格を整備すべきです。

当然ながら、各項目を定義するデータ・ディクショナリなども策定する必要があります。

2.不動産API(プロトコル)

標準の「不動産API」を使えば、異なるシステム・ソフトウェア同士で情報のやり取りが飛躍的に効率化され、例として挙げて来た、様々な課題や弊害が解消されます。

前述した通り、海外の不動産業界ではRESO Web APIがあります。ブログでさえ、普通にXMLのAPIをサラッと使って投稿しています。

日本の不動産業界で出来ない理由はありません。

3.物件検索サイト・レインズ入稿で標準APIに対応する

各物件検索サイト(レインズ含む)のサーバー側が標準不動産APIに対応するれば、各不動産会社が使っている業務システム(業務支援・物件管理ソフトウェア)のソフトウェアから直接物件情報の登録・更新が出来るようになる、という事です。

上記の図で言うと、「Webアプリケーション・プラットフォーム+データベース」の部分は、自社ウェブサイトでも、ハトマークや不動産ジャパンのサイトでも、それこそレインズとも、はたまたそれ全部ひっくるめて読み替えて頂いてOKです。

未だにレインズに手入力させたり、CSV+FTP、コンバート業者に月々3万円を払ったり、といった原始的で現近代的で非効率な状況を卒業しましょう。

標準化のメリット

ドキュメント・フォーマットとWeb APIの仕様が標準化されれば、自社物件管理システムから直接各種サービスに物件情報を登録・更新・取得することが出来、様々な連携がスムーズになり、流通が促進され、コストも下がり、新しい活用方法も出てきます。

これにより、新鮮で正確な物件情報が、より多く効率的に集められ情報共有が促進されるでしょう。標準が定まれば、物件情報のデータがいい加減なまま無法規な状態であちこちに散らばったままという事態も防げます。

他にも沢山の利点があって、なによりまずユーザー(不動産会社)に自身の好みにあったUIのクライアントソフトウェアを選ぶ自由を与えることになります。不動産会社は、もはやレインズのような酷いUIに悩まされることは無くなるでしょう。

不動産ITサービスや業務支援システムを開発提供する企業としても、標準に則ってシステムを開発できるということは利点となり、設計の簡易化や冗長な処理を省いて、一度標準APIに対応さえすれば全てのサービスに対応できることになります。開発企業が楽になり、品質や機能向上に専念できるようになれば、これは巡って利用者である不動産企業の利益となることでもあります。

それだけでなく、新たな活用方法として、例えば物件管理システムから物件情報データを業界標準のXMLベースのファイル形式で書きだし、別の(他社製)図面作成ソフトに流し込んで図面を自動で作成、または元付け会社が物件情報をXML形式でメールに添付して送信したり自社サイト上で配信して - RSS・Atomフィードのように! - 受け取り側の客付け会社などがそれを利用する等々、色々な有効活用の方法が出て来て、不動産業界も活性化するでしょう。

日本でも、不動産業界、腰を上げて標準フォーマットとAPI規格を作りましょうよって話です。

標準化に向けてのコンセンサス作り

抵抗勢力の反対は大きいでしょう。

物件検索サイトなど旧来からの不動産IT事業者は囲い込みがビジネスモデルですから、情報流通が効率化して不動産業者が楽になるのは自社ビジネスにとって不利益になりうるため、裏で強硬に抵抗するかも知れません。しかしそれは、近視眼的な考え方からくる誤りです。本来は、そういったステークホルダーにも大きなビジネスチャンスとなるものだからです。

経験上、そういった抵抗勢力は、大抵表立っては反対せず、なんだかんだ話しを逸らしたり、無関係な理由を持ち出して否定します。そう言った旧習にしがみつく抵抗勢力を組み伏せる必要があります。つまり、論理的に根拠を上げて説明して説得です。

また、単に「標準化を」と言われてもなかなかイメージが湧かずに、「(良くわからないから、どう変るのか分からず)現状を変えるのは嫌だ」、という不動産業の人達も多いでしょう。

そうした人達にはぜひとも本書を読んで頂きたいと思います。

国交省や、国交省の天下り団体の不動産流通推進センターなんてのはそもそも相手にする必要性すらありません。

これは不動産の物件情報の流通を促進するための話しであって、業法の趣旨そのままだからです。反対する役人や官僚や天下りが居たら、単に自分達の利権を維持したいが為の保身にすぎません。

不動産業界の中でさっさとコンセンサスを作って、物事を前に進めて、「業界としてこう仕様を決めたんで、よろしく」と言ってやるだけで良いのです。

そうじゃないと、いつまでたっても不動産業界は進歩(近代化)しません。

終わりに

本書は、2002年10月1日原版の宅建協会への提案書として作成した文書を元に、2015年にブログ化して書き連ねてきたことをまとめ「不動産情報デジタル技術標準化の覚書」とし、2022年にあらたに書き綴ったことを加えて編集し直したものとなります。

私がインターネットを使い始めたのが1990年代の後半で、プログラミングを始めたのが1999年頃。縁あって不動産業と関わり始めたのが2002年頃からで、実際に不動産業界に入ったのが2010年前後でありました。なので、2002年頃からの不動産業界業界のITの動きを外と中から見てきた、ということになります。

実に20年前から不動産業界の人達に不動産情報のデータ流通のための標準化の必要性を説いていたわけですが、当時の業界の上の立場の人達はまさに「パソコンに疎い方々」でありまして、なかなか大変でありました。

色々資料を作ったり、懇切丁寧に説明したりした所、中には理解して支持してくださる不動産会社の社長さんもいて、一時はいい所まで行ったのです。

ただ、業界団体のトップのおえらいさんまでたどり着いたは良いけれど、「標準化か、よし、それなら近代化センターだな」と、例の国交省の天下りが牛耳る「不動産流通推進センター」に回されてしまい、結局の所、そこでなんにも分かっていない天下りさんに握りつぶされちゃったようなもんなんですけどね。

自分が頑張って動いたは当時、影響力のあった不動産業社長さん達や業界団体トップは皆、自分たちが業界そのものを立ち上げてきた、という気概を持っていて、なおかつ(私にとっては親か祖父ぐらいの年齢でしたが)とても物分りも良く、気風(きっぷ)も良かったです。

「昔はFAXも違うメーカー同士だと通信が出来なくてだな、俺達も色々動いてその標準化みたいなことをやったんだよ」なんて言われてね。本当に良い経験をさせて頂きました。

*因みに、本当にFAXでも「標準化」が必要だったのです。

FAXの普及が急速に進んだのはFAX画像データ伝送の全世界標準化と電話回線のデータ通信への開放である。
CCITT(現 ITU-T)において国際的なFAXの画像データ伝送方法(プロトコル)についての標準化が審議された。
最初に、1960年(昭和35年)に前述のコルンやベラン、小林らが開発した円筒・機械式走査の『写真電送装置の標準化』が行われた。

ウィキペディア
ファクシミリ

全宅連の会長の藤田さんもお亡くなりになってもう10年近く・・。本物のオーラを発していて、まさにカリスマと言って良い人でありました(改めてご冥福をお祈りいたします)。

まぁ、2002年の日本には早すぎたのかも知れません。

それから何年経っても、「まずパソコン研修を~」の不動産業界でありましたし、不動産業界団体は本書で指摘してきたような状態で、半ば匙を投げていた所もあります。

その後、国交省でも、2008年の段階で「不動産ID・EDI研究会報告書」なるものを出しているんですよね。残念ながら、ポイントがずれている上に、EDIという化石の話しが出てきたり、米国のRETSなどの仕様については数行触れただけでスルーしてしまっている残念な報告書となってしまっています。当然、その後に出来たRESOの存在も言及されていません。

私はひとりで20年以上前からずっと同じことを言ってきています。この業界に身をおくもの(今や私も元が付くようになりました)として、少し情けなくなってきます。

当時から日本の不動産業界においては技術的にまったく進歩していない、という事実について、笑って良いのか嘆くべきなのか分かりません・・・。不動産情報が標準化されないと、「不動産テック」なんて始まりもしないのです。

今、巷では盛んに「デジタル化」だの「DX」だの何だの言われるようになりました。昔と違って皆を説得するのは今なら楽なはずです。何しろ、パンデミックをきっかけに世の中で脱FAXだのペーパーレスだの、DXだの言われるようになって、今や猫も杓子も「デジタル化」の時代ですから。APIや標準化の必要性や意義はとても簡単に理解してもらえる、はず・・・。

政府も、2020年に「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針(PDF)」で行政のシステムにおいて、「データの標準化、データ連携基盤の整備、APIの整備・公開を図る」なんて、いまさらながら言っているこの頃ではあります。

デジタル庁も出来た政府行政のシステム改善の話しはさておき、不動産業界としてどうしていくべきか。この機会に、不動産業に関わる皆様がたにおかれましては、改めて是非ご検討頂きたく願う所存であります。


更新履歴

2002年10月1日 原版 宅建協会への提案書
2015年6月 ブログ版 初稿
2021年7月 元ブログよりhttps://note.com/torum/へ移転
2022年4月2日 要約版の提言書を公開
2022年4月14日 電子書籍版「不動産情報デジタル化の作法」を公開


書き手

元々は英語をやりたかったのですが、途中でプログラミングにはまってしまい、英語漬けのまま色々と沢山ソフトウェアを書き散らした後、訳あって不動産会社に転職して7年ほど修行しつつ宅建も取ったが後に退職、という紆余曲折を経て、「英語とプログラミングと宅建士」、という奇妙な組み合わせの経験を持つに至った変わり者であります。

そのため他の人達とは異なり、不動産の実務と業界の表と裏を見ながら、より広い視点で日本の不動産業におけるITに関する現状と課題、そしてその解決策について、常日頃から考えてきました。

微力ながら業界にも提案してきましたが、個人の力では限界もあるので、ここに整理してまとめることとしました。


その他、関連する話題を以下「付録」という形でまとめました。

付録


DXは脱「ITゼネコン」(SIer)から始めよう

10数年前、日本には「SE(システムエンジニア)」という職種がある、という事を知りました。同時に「SEって、企画や要件定義・設計を行うけど、プログラミング出来な(くてもなれる)い人達なんだよ」と教わりました。

当時、英語漬けのままソフトウェア開発にはまっていた頃で、内心「なんでプログラミング出来ないのに『システムエンジニア』なの?」「プログラミングしたことも無いのに要件定義・設計とか変じゃない?」と素朴な疑問を感じて、ずっと不思議でしょうがありませんでした。

ソフトウェア開発者を気取っていた自分は、そもそも要件定義やらなんやら、開発が分かっていない奴の戯言だ、ぐらいに思っていましたし。SE、一体なんやねん、と。

が、しばらくしてすぐに謎が解けました。

これ、どうやら和製英語らしく、SEは主にITゼネコンなどで働く人達の事だったのです(そうでない人もSE名乗る場合もある&最近の状況は知りません)。この人達、開発プロジェクトに関わりそうな所にはどこにでも顔を突っ込んでいて、自らソフトウェアを作る事も出来ないのに仕事を請けて、下請けに安く丸投げしているだけだったのです。実際に開発するのは孫請け曾孫請け・・・

なんという非効率な搾取構造でしょう。

ITゼネコンの人達は、「上流工程」とかいう余計な工程で「要件定義」だのなんだの仕様を決めるんだと言います。しかし本来は、要件定義とは、システム開発を請け負う契約上、後々お互いに齟齬が起きないように、予め「どこまで何をどうやるか」を決めておく「契約上の取り決め(予防線)の一部」に過ぎません。

しかも、LinuxやPostgreSQLなど、無料で自由なオープンソースのシステムを活用すればよいものを、わざと自社製品を使うように仕向けて億単位を請求している、というような黒い話し(超簡略化してますが)みたいなのも沢山ありました。(これ単体でもアレですが、結果的に、今でいう「ベンダーロックイン」にも繋がる話しですね)

「お偉いさんはなんにも(ITのこと)分からないし、爺さん達はNTT(みかか)と名前がつくのに弱いのよ」という愚痴を良く聞いたものです。

当時、気になってITゼネコンのサイトを覗いてみたら、ミドルウェアなどの「パッケージソフトウェア製品」を売りにしていることが分かりました。これも別にオープンソースので構わないんだけどなぁ・・・と、興味をもってどんな技術が使われているのかと調べてみると・・・なんと、実は全部、欧米のソフトウェアの名前を変えて自社製品にしてただけのものだったのです。

驚愕しました。

自らソフトウェアを作る事も出来ない人達が、良いシステムを作れる訳がありません。伝言ゲームで下請け孫請けに何が伝わるというのでしょう。

若き頃、日本のIT業界に絶望した瞬間です。

日本と米国では、エンジニアの勤め先から大きく異なっている。日本のエンジニアの多くはIT企業に勤めており、ユーザー企業から依頼を受けて開発を行う。そのため大手企業の運営するサービスであっても、実は全く名前が知られていないような会社が開発したということが起こるのだ。
一方米国では、エンジニアの多くが勤めているのはユーザー企業だ。自社サービスの開発に力を入れており、成功失敗に左右されるというのも先ほど述べた通りである。
この違いは発注者・受注者の関係に大きな影響を及ぼす。米国では発注者・受注者は共に同じ会社の人間だ。コミュニケーションはスムーズに取ることができ、遠慮なく意見交換を行えるだろう。
[中略]
柔軟性に欠ける開発手法
日本のソフトウェア産業では開発手法としてウォーターフォール型が一般的だ。1970年に提唱され今なお活用されている手法である。しかし、これもまたやや時代遅れの手法となっている。
この手法は、まず始めに要件定義、それから設計、プログラミング、テストという手順を踏んで納品に至る。

2016年5月23日
テクバン
なぜ、日本のソフトウェア品質は悪いと言われるのか?

えぇ、英語圏では日本のITゼネコンみたいな存在は聞いたことがありません。(大手ITコンサル会社が開発請負に手を出して派手に失敗した例なら知ってる)

ITゼネコンの人達は、単に自らに箔をつける為にわざわざSE(システムエンジニア)なんて和製英語の肩書を名乗って、「上流工程」などと言って、上から目線で下請けをこき使っているのでしょうか。幸い、自分は直接ご縁はありませんでしたが。

その後、世界的にブログが流行った時期がありました(今は普及して当たり前になっていますが)。当時は猫も杓子もブログ時代でしたので、ITゼネコンも最新のトレンド、ブログシステムとやらをやらねばなりません。

が、ITゼネコンの最大手、NTTデータが盛大にやらかします。

NTTデータは4月24日、ブログサービス「Doblog(ドブログ)」を5月30日で終了させると発表した。Doblogは、2月8日に発生したハードディスク故障によりサービスが停止していた。
障害が発生したのは2009年2月8日(日)午前10時ごろ。すべてのデータにアクセスできないだけでなく、ユーザーのブログ投稿データ消失の恐れまであったが、3カ月近い期間をかけて段階的に復旧し、部分的に閲覧とユーザーへのデータダウンロードが提供されていた。
(中略)
今回、Doblogの開設時の目的であった「ブログシステムを構築するための技術的知見、およびコミュニティサービスを運用・運営するためのノウハウの蓄積」が「十分に達成できた」ためサービスを終了するとアナウンスしている。

2009年4月27日
CodeZineニュース
NTTデータのブログサービス「Doblog」が終了
ハードディスク故障によるサービス停止から復活ならず

当時、自分もプログラマーとして色々なシステムを評価していたので、実際にDoblogのアカウントを作って使ってみたのですが、サービス開始当初から不具合とサービス停止が相次ぎ、ユーザーから大不興を買い、不安定なシステムで復旧のめども立たずにあれよあれよという間に終了してしまいました。Livedoorやココログとはえらい違いです。

ここにITゼネコンの実力を見たり、という気がしました。

「ブログシステムを構築するための技術的知見を得た」とは良く言ったものです。ブログシステムの元祖とも言えるMovable Typeなんて、若い夫婦が作ったものですがな。

NTTデータのDoblogは、機能・デザイン・ユーザビリティ・安定性、全ての面で他のブログサービスより劣っていただけでなく、途中で放り投げた挙句に「技術的知見とノウハウを得るためだった」とか、利用者を完全にコケにした話しです。

その後、自分は不動産業界へ移りましたが、プログラミングというバックグラウンドを持つ自分は、不動産業界のITや情報流通システムにも興味がありましたので、業務に慣れてきた頃から、業界での動きにも注目する訳です。

すると、当然のように不動産業界にもITゼネコンの魔の手が・・・。

ただ、自分が顔を出した頃には、不動産業界の団体(東京都の協同組合)も、既にITゼネコンに痛い目に合っていて、組合の役員さん達の間では、失敗だった、という共通認識はあったようです。しかし、組合のその後のやり方も不味く、また頭を抱える事になるのですが・・・。

レインズにもITゼネコンの権化たるNTTデータが絡んでいたりします。言葉にいい表せないほどのくそしすてむ。

ITゼネコンとは

詳細はウィキペディアのITゼネコンの項などを参照して頂くとして、具体的には、NTTデータとかNTTコミュニケーションズ、日立システムズ、日立ソリューションズ、NECなんとか、富士通なんとか、といった、大企業の子会社がそれです。

お上品にシステムインテグレーター(SIer)などと言ったりしますね。

日本企業のIT化が進まない理由として挙げられるのが、諸外国とは異なる「日本特有のSI業界の産業構造」だ。国内のIT人材をSIerが一手に抱え、ユーザー企業はそのSIerにITシステムの企画・構築・運用を発注する――。日本ではすっかり常態化したこの産業構造だが、実は海外ではこのようなやり方は必ずしも多くはない。そしてこの産業構造は、過去には有効に働いていた時期もあったが、現在では非効率な面が目立つようになってきている。

データのじかん
日本企業のIT化はなぜ進まないのか―
―日本特有のSI構造とエンタープライズITの在り方から探ってみると

とってもお上品で控えめに解説されていらっしゃいます。

ITゼネコンの問題点

(画像「進次郎大臣へ直々に苦言。日本のITゼネコン「官民癒着」の問題点(まぐまぐニュース!)」より)

・政府から受注したITゼネコンには自らソフトウェアを書く人・書ける人がおらず、仕様書を書いて下請けに丸投げするだけ
・その下請けは、大学でちゃんとソフトウェアの勉強をしていない文系の派遣社員を低賃金で雇い、劣悪な労働環境でコードを書かせている
・書かれたコードをレビューをする習慣やシステムが存在しない
クライアントの打ち合わせ、仕様書の作成、見積書の作成などには膨大な時間を書けるわりに、コードのクオリティを上げることには時間をかけない
・ITゼネコンには役所からの天下りが、下請けのソフトウェア会社にはITゼネコンの天下りが役員・顧問・相談役として働いており、ほとんど仕事をせずに「口利き」だけをして高給をもらっている。
などの、日本特有の事情があると考えて間違い無いと思います。

2020年8月5日
まぐまぐニュース!
なぜ、日本政府が作るソフトウェアは使えないモノばかりなのか?

官民癒着といえば天下りですが、先週だったかも、例によって例のごとくまたNTTデータが高額接待なんてことを、文春がスクープしてましたね。

未だにそういうことやってます。この問題、本当に10数年以上前から指摘されてきたのに、一向に変わっていません。

「大手の技術者はサラリーマンで、政府から仕事を取ってくるだけ。実際に作るのは下請けの個人事業主のような技術者です。大手に実際にシステムを組める人材はほとんどいません」

2021年05月28日
デイリー新潮
巨額の予算と利権の巣窟に不安…9月発足の「デジタル庁」に群がる“ITゼネコン”


ぶっちゃけ、ITゼネコンの仕事とは、政府官公庁や業界団体に接待や天下りで取り入って仕事を囲い込み、下請けに丸投げするだけ、な訳です。

で、下請けは、ITゼネコンから流れて来たものを何も考えずに作るだけ、作って納品したらおしまい。という・・・。そういう風にやってこざるを得なかったのです。

優秀なエンジニアであれば、そんな状態に我慢できる訳もありませんから別の所に行きます。そもそも、ITゼネコンのやり方だと、エンジニアの能力で評価されるのではなく「人月」が安いで評価されるので、単価が安い素人の方が評価されてしまいます。結果としてITゼネコンに丸投げしても、素人が作ったみたいなものが出来上がるばかり。

先日は、下請けが中国などの外国の孫請けに丸投げしていたなんてことも(データ漏洩をきっかけに)明らかになって、話題になっていました。

そんなことをしてきた未来(ざま)が今の日本のITの現状であります。

エンジニアは独立する気概を持てや、という指摘もありますが・・・まぁ人材流動が固定化されてきた日本ですし、そもそもITゼネコンがのさばっている日本では、独立してもITゼネコンに仕事を囲い込まれて潰れる、という構図だったわけです。

政治家や官僚は、どういうシステムをつくったらいいかイメージができない。イメージできないのでどうするかといえば、システム開発を請け負う企業、いわば「ITゼネコン」を呼んで、すべてをぶん投げてしまうのだ。これは泥棒に鍵を渡す行為に等しい。

2021年5月14日号
プレジデント
大前研一 「日本のシステム開発が失敗ばかりする根本原因」

つまり、ITゼネコンとは、日本が「IT後進国」に落ちぶれることになった元凶である「外注丸投げ>多重下請構造」と「官民癒着」の権化、であるわけです。

日本独自の悪習であって日本のIT社会に巣くうヒルか吸血鬼みたいなものと言っても過言ではありません。

NTTデータを始めとするITゼネコンは、不動産業界のみならず、日本のITを後進国にまで貶めてくれたわけで感謝感激涙の嵐です。(建設的コメント)

ITゼネコンの歴史

先日、日経新聞に興味深い記事が載っていました。

日本企業におけるIT(情報技術)人材の不足は、平成バブル崩壊後の1990年代に情報システム部門が本体から切り離された影響が大きい。当時「ノウハウ集約」「専門性の向上」といった大義名分で設立された情報子会社の多くは、コスト削減目的のアウトソーシング(外部委託)が実態だった。システムを受託開発する大手の「システムインテグレーター」の下請けからエンジニアを出向で派遣してもらい、依存が強まった。

60~70年代に大型汎用機(メインフレーム)を導入した当時の「電算部」から蓄積してきた「情シス」のノウハウと人材が途絶え、IT投資はシステム業界への丸投げが常態になった。自社業務に都合よく独自仕様で導入したERPは継ぎはぎ改修を繰り返し、設計にかかわったシステム会社しか触れない「ベンダーロックイン」にはまっていく。

この間、欧米では汎用パッケージソフトが広がったが、日本企業は身動きがとれずにいた。経営トップにDXが競争力を左右するという意識が薄く、システム会社もベンダーロックインで稼いでいたからだ。ある大手ソフトウエア会社の経営者は「情報システム担当者は業者との蜜月関係を守ってきただけ。ある種の怠慢があった」と日本企業の不作為を嘆く。

2021年7月11日
日本経済新聞社
名ばかりCIO、場当たりDX システム開発なお丸投げ

ここにもバブル経済のツケが影響していたんですね。バブル世代よ、反省しる!

丸投げするほうも怠慢とのそしりを免れません。

変化の兆し

最近になって、DXみたいな言葉が出てきました。

流行り言葉の横文字はたまには役に立つようです。

約160人を中途採用、内製化に舵を切る

DX銘柄に初選出されたセブン&アイ・ホールディングスは、ここ数年でシステム開発の内製化に大きく舵(かじ)を切った企業の1社だ。[中略]
「ITやDXを自社の競争優位の重要施策と位置付けるなら、それを外注するという選択肢はあり得ない」。セブン&アイ・ホールディングスの米谷修執行役員グループDXソリューション本部長は内製化に力を注ぐ理由をこう語る。

従来、同社は開発をすべてITベンダーに依存している状態だったという。「開発をアウトソースすると自社にノウハウがたまらない。ITベンダーから出てきた見積もりやスケジュールが正しいのかどうかを判断できない状態だった」と米谷執行役員は語る。

ITベンダー依存の弊害はそれだけではない。「外部に任せるとスピードが出ず、自由度も上がらない。なので内製が必要と判断した」(米谷執行役員)。

日経クロステック/日経コンピュータ
セブン&アイがエンジニアを大量採用、「DXの内製化」に注力する理由

また、政府の方にも、やっとこういう風に言う若い人が出て来てくれました。

「サービスをリリースしたら終わりではなく、リリースしてからが勝負だ」と話した。そのためにも、デジタル化のプロセスについて「アジャイルで小さくつくるように変えていく必要がある。小さくつくってから発展させること、失敗をある程度許容していくこと、時にはやめることも大事だと考えている」(津脇企画官)

2021年7年2日
日経クロステック/日経コンピュータ
デジタル庁は失敗恐れずアジャイルで、DX「仕掛け人」が挑む3つの変革


ITゼネコンがずっとやってきた、ウォーターフォール型の「要件定義」なんて分からんヤツの戯言、と考えていた自分は一応先見の明があったわけです。「納品したらお終い」なんて、あり得ません。アジャイル型の手法で開発していくべきなのです。これ語ると長くなりますので、またの機会に。

脱ITゼネコンのススメ

ITにしろ、DXにしろ、始まりの一歩として、「丸投げせずに、自分達の事として、自分達で試行錯誤しながらやる」という事ではないでしょうか。

皮肉にも、DXだ不動産テック、なんていう言葉が出てくると、例によって例のごとく、すわっとばかりにITゼネコン関係の人達が飛びついてきて、例のごとくバズワードを散りばめた中身空っぽの売り文句で宣伝や広告営業を仕掛けてきます。そういう時の為に、ポスターでも掲げておくと良いかもしれません。

「ITゼネコン依存 ダメ。ゼッタイ。」

「ITゼネコン関係者入店お断り」

不動産でブロックチェーンという安易な発想が出るワケ

ビットコインという暗号通貨の登場により、ビットコインに使われている技術の内の一つ、「ブロックチェーン」というものが広く知られるようになりました。

そうすると、ちょっとしたバズワードのようになり、「注目のブロックチェーンでアレだコレだ」、という話しが盛んに登場します。単なる自社アピールというか宣伝ですね。

さすがに一時期よりは落ち着いた感がありますが、今度はそういうバズワードに乗っかった注目を集めるための単なる宣伝や現実離れした話しに影響を受けて、真顔で受け売りをしてくる人達が登場します。

先日、ちょっと調べものをしていて、下記の文章に行き当たりました。

第 12 回 不動産投資市場政策懇談会(令和2年4月22日)
議事概要

議事③ 金融技術進展等を踏まえた対応策
資料 5 に関し、以下のとおり意見があった。

ICO(Initial coin offering)と、IT を利用したセカンダリーマーケットが一般化すると、インパクトが大きいものと思われる。また、既存の登記制度・権利の公示制度をブロックチェーン等を利用して完全に電子化することなども中長期的に検討されるべき事項なのではないかと考える。

2020年4月22日
国土交通省建設産業・不動産業:
不動産投資市場政策懇談会について(PDF)

「既存の登記制度・権利の公示制度をブロックチェーン等を利用して完全に電子化することなども中長期的に検討されるべき事項なのではないかと考える」???

Orz。

・・・と溜息がでてしまいました。

因みに、私はビットコイン(デジタル通貨)に懐疑的な「アンチ」、とかではありません。寧ろ、デジタル通貨関連ソフトウェア(ブロックチェーンではない)を何個も開発するほどです。

しかし、いくら暗号通貨(デジタル通貨)が流行りの技術だからと言って、なんでもかんでもブロックチェーンにすれば良いという話しでは無いのです。

技術的に出来るか、と言えばもちろん可能です(論文にするまでも無く)。でも、P2Pにして非中央集権化させてブロックチェーンでやる意味あります?ないでしょう。 誰がすき好んで全国の不動産登記簿データのコピーを保持してコンセンサスアルゴリズムでみんなしてアレやコレして「マイニング」したりするというのでしょうか。受け取るメリット(報酬)は?ないですよね。

普通に国が責任もってデータベースで管理すれば構わないですし、その方が10倍マシです。障害耐性?データベースを各地に複数分散してミラーリングして同期を取ればよいではないですか。要するにバックアップをとるという当たり前のことをすればよい話しです。

恐らく、この発言をした人は、未だにICO云々と言ってしまっている事からも、人から聞きかじった事を吹聴しているだけ、という事が分かります。

正直、国交省の政策懇談会でこんな話しが飛び出すなんて、嘆かわしいこと極まりないと思います。

そもそもの話しをすると、ブロックチェーンが使われているビットコインの特性は、「暗号」と「ブロックチェーン(+P2P)」(つまり、Distributed Ledger 分散型台帳)」と「コンセンサスアルゴリズム」の組み合わせを使った、完全に自律的な非中央集権の分散型マネタリーシステム、というものです。組み合わせて初めて実現した、というのが重要なポイント。

厳密に言えば、ブロックチェーンは、ビットコインなどの暗号通貨を構成する技術のうちの一つに過ぎないとも言えるのです。

因みに、このビットコインの技術的な組み合わせと実現した事をみるに、あまりにも完成されていて美しいので、ほれぼれとしてしまいます。インターネットの登場以来の発明だと思います。開発者が匿名なのは「今世紀一番の謎」と言っても過言ではありません。

ビットコインがなぜ「トラストレス」つまり中央集権的な管理の余地を徹底的に排除したものにしなければならなかったのか、というと、中央銀行が管理する法定通貨では、中央銀行がじゃぶじゃぶお金を刷ったりして金融システムを歪めるという問題があるからです。

これは、ビットコインのジェネシスブロック(ブロックチェーンにおける最初のブロック)に、「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for bank」と書かれていることからも推察できます。当時はリーマンショック後の金融危機で、銀行救済などの話しが出ていた頃です。

つまり、市場へ介入する銀行や政府といった第三者(トラスト)を排除するのが狙いなのです。介入もないので「検閲耐性」もあるということ。そのためにわざわざある種面倒な「暗号」と「ブロックチェーン」と「コンセンサスアルゴリズム」の組み合わせでやってるのです。

そうでなければ、中央集権的なシステムの方が効率的な場合の方が多いのです。

登記のシステムを維持するのに、無理して「トラストレス」をする理由付けありますか?現在のシステムで政府が不正に記録を書き換えたりして問題になっていますか?という話しです。そうでなければ、わざわざ無理して不便で非効率な「トラストレス」なシステムにする必要はありません。

もし、「トラストレス」でもなく「コンセンサスアルゴリズム」も使わずに、中央集権で単にデータを保存していく際に「暗号」で繋げていくだけ、の「ブロックチェーン」なら、ああそうですか、程度な話しでツマラナイことです。そんなんでわざわざ「ブロックチェーン」というのも大袈裟。

というか、まったく意味のないものですよね。

英語版のウィキペディアのページでは、そのようなブロックチェーンの宣伝は、

the marketing of such privatized blockchains without a proper security model "snake oil"

Wikipedia
Blockchain

と記述しています。

英語ではスネークオイル=インチキみたいなことを意味します。

ではなぜこういう、不動産の登記にブロックチェーン、みたいな話しが根強く出てくるのか。

これは、用語が関係しているのかもしれません。ビットコインのブロックチェーンに記録されるものには、ビットコインの所有権移転情報です。データを保存する際のことはトランザクション(直訳すると「取引」になってしまう)。さらには、分散型台帳(Distributed Ledger)なんて言葉も出てきます。これ、不動産の人間からすると、取引とか台帳とか所有権移転とか、まさに不動産のことやん?と反応してしまう言葉なのです。

実際には違うのだけど、生理反応ですね。条件反射というか。

他にも調べていたら、下記のような悪夢のような文献も見つけてしまいました。

不動産の分野でも、スマートコントラクトを活用すれば、契約書を電子化したうえで、契約の成立を「執行条件」とすることによって、不動産登記や資金決済の実行を自動的に行い、業務の効率化を図るといった構想が考えられている。

土地総合研究
2019年秋号特集
不動産市場の新潮流 -ブロックチェーンの不動産分野での活用可能性

Orz。

多分、ブロックチェーンというかIT技術の事も不動産の事も、言葉はアレですが、素人の方とお見受けします。

まず「コントラクト=契約」と超単純な勘違いしているんだと思われます。イーサリアムの開発者のヴィタリック・ブテリンも、「名前付け失敗した~」とツイッターでぼやいてましたが・・・

はっきりさせておきたいんだけど、「スマートコントラクト」と名付けてしまった事を今じゃ自分は相当に後悔してる。もっとつまらない単純で技術的なネーミングにしとけばよかったよ。例えば「パーシステントスクリプト」とかさ。

To be clear, at this point I quite regret adopting the term "smart contracts". I should have called them something more boring and technical, perhaps something like "persistent scripts".

2018年10月14日
ヴィタリック・ブテリン
https://twitter.com/VitalikButerin/status/1051160932699770882

「不動産の分野でも、スマートコントラクト」と書いた筆者が想定しているような「スマートコントラクト」は単なるプログラムのことです。どこにでもある単なるコンピュータープログラム。

試しに、スマートコントラクトをソフトウェアプログラムに差し替えて読んでみても、ぜんぜん違和感のない自然なものになります。「ソフトウェアプログラムを活用して、自動的に行い、業務の効率化を図るといった構想が考えられている」と。

前述したケースと同様に、トラストレスでなければいけないケースを除き、普通のソフトウェアプログラムで何の問題もなく可能な事です。わざわざイーサリアムのスマートコントラクトでやらないといけない理由はなに?という点がポイントです。

そもそもにおいて、不動産物件情報のデジタル技術標準化自体が出来ていない時点で、契約をオンラインで自動化なんて軽々しすぎるし、登記所と連携するAPI自体存在していなくて、デジタル的に本人確認やらの統一したシステムも存在していない現在において、夢物語のような非現実的なことを言っているだけです。現実を無視して、こうできたらいいでしょ、なんて、誰でも言えます。

大体において、こういう事を言う人達は、ビットコインのブロックチェーンで「所有権の移転を記録」とか「台帳」とか出てくるから、「これ登記じゃん?」という発想になる不動産関係の人か、不動産業の知識のない人が「(今流行りの)ブロックチェーンで出来るんじゃね?」と思いつきで言っているだけです。

現実的にどうか、実際にメリットがあるか、法的な問題、技術的に適しているか、なんて、まったく考慮にいれてないで話してる気がします。

木を見て森を見ずというかなんというか・・・。

私が何よりも問題だと考えるのは、このような現実を無視した「チャラい不動産テック」系の話しばかりが飛び交ってしまい、不動産業界で本当に必要とされている技術活用が長い間無視されたまま放置され続けている、という事です。

日本の「不動産テック」の耐えられない軽さ

いままで、「不動産テック」界隈をネタにして「不動産チャラテック」などと、チクリチクリと軽くディスってきましたが、自分はかれこれ20年ほどに渡ってこの業界(不動産とIT)を見てきて、もどかしい思いを長くしてきたので、多少辛口になるところはご理解、ご勘弁頂きたいところであります。

自分はただ単に、元宅建士でプログラミングもする人、という今はなんの利害関係もしがらみも無い立場の人間なので、ポジショントークでもなく、日本社会の為に、本当のこと、思ったことを、不動産業界だろうがIT業界だろうが国交省の天下り元官僚だろうが、全方位に対してぶっちゃけて指摘すべきことはする、というだけであります。

日本の「不動産テック」界隈を見ていて思うのは、軽いなぁ、チャラいなぁ、という事であります。まぁもともとIT業界の一部や不動産業界の若い賃貸のにーちゃん達などはチャラいので、それらが交じり合ってさらに微妙なチャラさを醸し出しています。

雰囲気の軽さは、若さという事もあり、全く構わないのですが、問題は2点あると思っています。

事実誤認の多さ

そもそも言っている事が事実誤認だったり、やっている事のポイントがずれている事であって、間違った情報や不十分な知識などを元に理解している所も多々見受けられることです。

自分も振り返ってみると、若い頃は不動産業の実務とこの業界についてまるで分かっていませんでした。それはそれで仕方がないです。仕方がないのですが、それが一般向けなどのメディアに乗って喧伝されたりすると、もはや問題としか言いようがありません。

また、都合の良い所だけ触れて(チェリーピッキング)、リスクやなぜそうなのかといった全体像などには触れない、という点もいつも気になります。

あんまり特定個人の発言を具体的に言うのもアレなので、一例として「不動産テック専門メディア」での記事を取り上げてみましょう。

不動産テックの専門メディアですからね。

記事内でも紹介しましたが、日本には「レインズ(REINS)」という不動産業者間物件情報交換ネットワークシステムが存在します。このレインズが保有する物件情報が、SUUMOやHOME’Sなど不動産ポータルサイトの情報源となっています。

2017年12月5日
スマーブ 不動産テック専門メディア
レインズとMLSから考える 〜物件情報の歴史と課題〜
ttps://www.sumave.com/20171205_192/

なっていません。レインズは「保有」しませんし、物件検索ポータルサイトにも情報源として横流ししたりしていません。

基本中のキ、です。

もし、どこかの業者がレインズの情報を無断で流用してそういう所に掲載していたら、限りなく違法に近い行為です。一部、そういう業者も居ますが、やってるのは媒介契約も許諾も何もない、実質単なる「おとり広告」です。

一方、アメリカでは「MLS(エムエルエス)」というオープン化された不動産データベースが存在します。不動産業者でなくてもデータベースを見ることができ、情報量の多さやリアルタイム性はレインズとは比べ物になりません。MLSにより、多くの切り口で物件の最新情報を収集し、物件を検索することが可能なのです。

2017年12月5日
スマーブ 不動産テック専門メディア
レインズとMLSから考える 〜物件情報の歴史と課題〜
ttps://www.sumave.com/20171205_192/

「オープン化された」、とはどういう意味でしょうか。MLSのデータベースは不動産業者(ブローカーやエージェント)しか直接は見る事は出来ません。自宅の売買に関わることなど、中には守秘義務に関わる事もありますから、全部のデータを一般にまるまる公開するわけにも行きませんから。

アメリカの不動産業者団であるNAR(全米リアルター協会)が管理しているMLSを踏襲してREINSは生まれました。

スマーブ 不動産テック専門メディア
REINS(レインズ)
ttps://www.sumave.com/glossary/reins/

「不動産業者団」というのは善意にとってただのタイポだとして、NARがMLSを直接管理している訳ではありません(沢山あるし)。次に、「MLSを踏襲してREINSは生まれました」これ、参考にはしたかもしれませんが、レインズは日本の法律に基づいて指定されたいわば官製の独占(ゆえにクソシステム)もので、MLSのように自然発生的に必要性から自主的に立ち上がったものがいくつも連携し合っているものとは根本的に違うと思うのですが・・・。

とまぁ、ちょっと検索しただけでも、同様の事実誤認やいい加減な話しはわんさか出てきます。なにも、このメディアがどうのという話しではなく、この「不動産テック」界隈がだいたい皆そんな感じなのです。なので、そういうのを前提にしてたりすると、もう話している事も信頼性がゼロなのです。

頭が痛くなります。

そんないい加減な理解や事実誤認を前提にして何かをやろうとしても、当然のことのようにやることのポイントがずれてしまうのでしょう。

バズワードを散りばめた軽薄さ

横文字のバズワードを並べ立てて、ITに疎い一般の人達に対して(騙しているとまでは言わないが)アピールしようとしていること。

ビットコインが流行ってブロックチェーンという言葉が注目されれば、すわっとばかりに「不動産とブロックチェーン」とか言い出して自らにも注目を集めようとする日本の「不動産テック」界隈。

軽さの極みですね。

流行り言葉のバズワードが出てくるたびに飛びついては、今は***の時代云々とやるのは、やり過ぎるとバカにされるんではないでしょうか。最近では似たような事を言い換えて自らバズワードっぽいのを作り出して延々とやっているだけの気がします。

本当の技術者は絶対にこんな事しません。むしろ、IT業界として信用を失う行為なので、今すぐ止めて頂きたいとまで思います。

本当の技術者であれば単に冷静に技術を評価しておき、状況に合わせて適切な技術を採用するだけです。本当の技術者なら、単に流行っているからと言って、不適切なケースでその技術を採用するようにぶち上げて売名行為をしようなんて発想にもなりません。他の技術者達から逆に技術選定を間違ってね?と突っ込まれて恥をかいてお終いだからです。

なので、本当の技術者にとってみれば、恥知らずの行いに感じます。

登記とブロックチェーンの件でも書きましたが、こういうの、真顔で受け売りしてくる人達が湧いてくるという大変めんどくさい弊害もあります。本当に止めて欲しいと思います。

ブロックチェーンの前には、「AI」というバズワードが流行りました(何度目だっけ)。これは非常に曖昧な言葉で、人によって理解が異なります。技術者にとっては現在のAIは「機械学習」、よくても「深層学習」の事であって、その原理を理解すれば限界も分かります。ところが、一般の人にとっては「人工知能」です。そういうのを利用して「今話題のAI(人工知能)を使って運用しているので高配当で儲かる」という詐欺をやる人達まで出てきますし、曖昧なままメディアも取り上げるので、それに騙される人達も続出するのです。

そもそも、言葉という面で言えば、本当にコミュニケーションが上手な人は、相手に合わせて分かり易い言葉を選んで説明します。本当に必要なケースであれば、あえて曖昧な「分かり易い」言葉を使わず、ちゃんと定義された言葉を使って整理します。

単に専門用語をひけらかして相手より上に立とうとするのは、(普段は低い立場の人が防御反応的にやる事もあるし、理系の人達はコミュ障も多いのでやりがちだったりしますが)見苦しいことです。

どうせ相手には分からないだろう、と、専門用語やバズワードを散りばめて、チェリーピッキングの説明をした上で、どうです、うちのサービス凄いでしょう、みたいなのは、分かる人から見れば信義にもとる行為。

不動産業に居た頃は自分も何度もやられた (この場合は釈迦に説法というか・・・イヤ良く知ってるし、ていうか自分、似たようなシステム開発した事あるし、みたいな)事があるのでウンザリです。

そういうセコイことは、ITゼネコンの人達が散々やってきたことです。(幾度となく目撃してきたし)そういうの、真似しなくて良いです。

期待すること

今の日本は、ひと昔前のITゼネコン(SIer、システムインテグレーター)依存の丸投げ下請け多重構造時代の悪習から、自社IT中心のビジネスへ転換(いわゆるDX)というな、重要な過渡期にあると思います。

そういう意味では新しい世代の「不動産テック」界隈の人達は、旧来のNTTデータなんちゃらいった、日本のITゼネコンがやらかしてきたような悪行の数々の真似をするようなことをせずに、実際の不動産業に根差した、地に足のついた事を目指して欲しいと思う今日この頃です。

日本と米国、「不動産テック企業」の決定的な違いとは

まず、そもそも「不動産テック」とは何か、という話しもあるのですが、そこを突っ込むと話しが全く別の方向に行ってしまうので、今回はそういう定義的な所は棚に上げておきたいと思います。

現在、日本で「不動産テック企業」と称される企業は、不動産会社にITサービスを提供して利益を得ているIT企業の事を指しています。いわゆる「不動産業務支援システム開発・サービス運営」や「物件検索サイト運営」や「コンバート業者」などですね。(この一覧でも不動産会社は一社も存在していません)

対して、米国でユニコーン企業と注目されてきた「不動産テック企業」は、一般を対象としたオンライン不動産会社、またはオンライン不動産取引プラットフォームであり、不動産業の新たな「カテゴリ」を作った、と称されます。

つまり、米国の「不動産テック企業」は不動産業者なのであります。

これが決定的な違い。

これ、普通に日本では知られていない事なんじゃないかと・・・誰も触れないし。そのせいで全然話しが噛み合わないことがあったりもします。

米国的な「不動産テック企業」とは、一般にスタートアップが不動産業をフィールドにITを使ってオンラインをベースにBtoC事業を行うのです。(もちろん、不動産業向けのシステムを開発するだけの企業も沢山あるけれど)

代表的なのは、2018年前後からソフトバンクがビジョン・ファンドを通じて大規模投資を仕掛けていたCompassやらOpendoorなどがそれです。当時、ソフトバンクはやたらと米国の不動産系スタートアップに投資していて話題になり、私としても横目で眺めていたのですが、節操がない感じで危うく感じてもいました。結局、WeWorkの件やカショジ事件など、色々あったのですが、それはさておき。

一例として、Opendoorを具体的に取り上げますが、Opendoorのビジネスモデルを説明する簡単な文章を一読しただけだと、「それ、実は単なる買取再販の不動産業じゃね?」と、思ってしまうぐらいであります・・・

なのですが、Opendoorが謳うビジネスモデルというかサービスというのは「住み替えを楽にする」という立ち位置で「売り手を起点」とした買い替えをサポートする切り口のオンライン不動産業プラットフォーム、みたいな感じ。その一環として、物件検索サイト的なものもやり、独自のアルゴリズムによる価格査定もやり、自ら買取もやり、エージェント紹介やマッチングもやり、アプリ自主開発も行い、ガジェットも使い、APIでサードパーティー製アプリのエコシステムも作り、などなど、もろもろ・・・という感じ。

日本で言う「不動産テック企業」とは根本的に異なります。

米国では、日本の「不動産テック企業」のように既存のITガジェットやITサービスを単に不動産会社に売りつけるだけ、というものではなく、自らリスクを取ってITで新たな変革をもたらす不動産事業を展開している、と言えます。

物件検索サイト的な位置づけ(正式にはmarketplaceつまり「不動産のオンライン市場」)のZillowでさえ、あれ、収益モデルは物件広告費というよりか、不動産エージェント紹介という形で登録エージェントから紹介料(referral fee)を取ってたり。他にも家賃の集金代行(つまり収納代行)サービスとかまでしてるし。しかも不動産買取も始めたりして、不動産業者化もしました。Redfinも不動産業者。

こういうオンラインプラットフォームの不動産業の一番難しいのは、既存の不動産業者やエージェント達との摩擦が起きかねない事ですが、多少の摩擦はありながらも、ビジネスモデルに取り込んで、既存の不動産エージェントも参加しやすくして上手く巻き込んで、取引のプロセスに加われるよう、積極的に提携したりエージェント向けサービスも展開している所がさすがです。

これが、先に「オンライン不動産取引プラットフォーム」と書いた理由です。自らが囲い込んで全部やるのではなく、「プラットフォーム」として、「場(土俵)を提供」する事で市場を広げていく、みたいな感じですかね。

「プラットフォーム」や「エコシステム」という概念はインターネットを生業に長くやっている人であれば分かるでしょうが、どうも日本の企業経営者をみてると、そういう概念をまるで分かっていないような気がします。近視眼的な視点で、閉じたサービスに終始して、結局のところ、失敗するか、良くてもそこそこのシェアで終わってしまう。

日本では「標準化」して、業界そのものを発展させて広げていく、というような発想も無いようです。

そもそも、日本の場合、不動産業に限らず、IT企業はITの事、他の企業はその業界、と切り分けられてしまっていて、その弊害が噴出しています。

昨今、DXなんていう言葉が盛んに言われていますが、不動産業に限らず、全ての業種において、IT企業と他企業という区別をなくし、全ての企業がIT企業化するというDXを図ると、日本ももう少し面白くなるのではないでしょうか。(というか、それが本来のDXの意味か)

まぁ、難しいでしょうが。

スクレイピングした物件データを利用した物件検索サービスは問題ないのか

スクレイピングとは、サイト上のページの内容をHTMLで解析して(大したことではないし、大昔からある)データとして取得する、という手法を言います。

昔なら、Perlの正規表現でワンライナー、またはHTMLパーサーをかましてDOMにQueryかけたり、Linqで料理したり・・・最近ではノーコード、ローコード?

スクレイピングするのは大抵、そのサイトがRSS/Atomフィードやその他のXML形式などの扱いやすいデータを配信していない為、データとして利用するにはむりくりページ表示用のHTMLを解析して扱いやすいデータに整形する必要がある、という場合です。

サイト側が扱いやすいデータとして配信していないのは、単なる不親切か、一般にその必要性がないと思われている情報か、データを再利用してもらいたくない何か理由があるか、のいずれかです。

最近、個人開発で 賃貸物件検索サービスをリリースしたという話しがあったのですが、それが別の不動産物件検索サイトのデータをスクレイピングし、そこからの物件データを取得して利用していた、ということが話題になり議論を呼びました。

個人開発で貸物件検索サービスを作ったりするのは好きで、応援したいところです。自分も大昔、物件検索システム作りました。(大昔だから、Ajaxも無く、GoogleやAmazonのクラウドも無かった時代で、CGI)

ただし、物件情報データを他の検索サイトからスクレイピングして取得してる・・・それも無断というところが問題となります。

本サービスの検索対象となる物件情報は最新でないものも含まれるため、まれに掲載情報が古く正確な情報とは異なる場合があります。そのため、正しい物件情報に関しては、スマイティの物件詳細情報のページへ遷移して確認して下さい。[中略]
なお、本サービス内で利用している上記物件情報は、利用の許諾を得たものではありませんが、本サービス内の利用は、著作権法第 47 条の 5 第 1 項第 1 号に定められた「検索情報の特定又は所在に関する情報を検索し、及びその結果を提供すること」に該当するものであると考えています。

2021年7月28日
個人開発した賃貸物件検索サービスのシステム構成と使用技術

これ、どんな問題が絡んでくるのか、一般の方々はなかなかご存知ないとは思いますので、いい機会なのでまずは一般論として説明しておきたいと思います。

不動産業界では、以前よりレインズのサイトの物件情報をスクレイピングして無断転載するなどは問題になっていて、レインズにおいては禁止されてます。これには後述するような色々な理由もあるのですが、特に、レインズは業者間向けのデータですから守秘義務も関係し(「取引に係る生の情報」は貸主・売主の特定に繋がるため「個人情報」に該当する)、守秘義務の無い非不動産業者による認証を回避した不正アクセスは禁止、という意味もあります。(あと、レインズのサーバー極端にショボいので普段からアクセス過多で落ちまくる為というのもある)

では、レインズ以外の、一般向け物件検索サイトのページをスクレイピングするのはどうでしょうか。

自分が一人で個人的にやる分には全然問題ないと思いますよ。過剰にアクセスさせてサイトに負荷をかけたりしない限り。個人利用です。

では、そのデータを利用または転載して別の一般向け物件検索サイトとして公開する場合はどうなのでしょうか。

これ、データを利用または転載してサービスとして利用する場合は、まず元サイトに許可をとるのが普通だと思います。

法的な話しで言えば、不動産物件の情報を公開して広告する場合、宅地建物取引業法という法律の他に、景表法という法律、およびそれに基づく不動産公正取引協議会の不動産の表示に関する公正競争規約、の遵守が必要です。

不動産業者としては、これらを遵守しながら物件広告を出稿し、物件検索サイト運営者も同様にそれらを遵守するよう努めている訳です。

なので、元サイトのデータがそれを意識していれば、そこのデータを全て全項目まるまるコピーして全転載している限り、「表示項目と内容上」、「一応」は転載先も、それらに準拠した情報とはなり得るでしょう。逆に言えば、もし一部の項目だけの転載で、前述した関連法規の法令上の必須項目を端折っていたら法律違反となるわけです。

因みに、この場合、著作権法上でいう単なる「所在検索サービス」ではなく、あえて言うと「所在検索サービス」自体のデータをスクレイピングして丸コピするみたいな話しに近い(つまり語弊はありますがGoogleのデータをスクレイピングみたいな)、または所在だけでなく家の中まで入って晒すような(著作権法上の「軽微利用」とは・・・)ことでありまして・・・。しかも、前述の関連法規が関わる不動産の物件検索サービスであることからしても・・・単に著作権法で云々だから、で済む話しでは無いのではないかと思います。

また、厳密に言えば、インターネットに物件情報を公開して募集する物件情報は「広告」になり、申込が入った時点で募集を取り下げないと「おとり広告」(前述した関連法規の違反)となってしまいます。なので、物件情報はどこに流れてどこに掲載されるのかはすべて把握しておく必要があります。すぐに取り下げ、変更が出来るように。

消費者としては、せっかく気に入った良い条件の物件があったので、問い合わせてみたら「あ、その物件もう決まってました、それよりコッチどうですか?」とか言われることほど腹の立つことはありません。ふざけんな、と。

近年は「客付け」業者が2次広告をすることも非常に増えて、物件情報の質が落ちるにつれ、トラブルも増えています。

そのため、物件情報を2次広告する場合は、「元付け」といって、物件の貸主と媒介契約を結んだ元の不動産業者から許諾をとることになっています。「広告承諾書(広告活動承諾依頼書)」(サンプルPDF)といって書面による承諾を取ります。その中では具体的な広告媒体(ポータルサイト名等)を明示する必要があります。貸主があんまり(空きなのを知られたくない)広告したくない、という場合もありますしね。

そもそもの話しをすれば、物件は貸主(厳密にはオーナー)のものですから。

中には悪い業者もいて、他社の物件情報をスクレイピングで取得して、それを自社の広告として他の物件検索サイトへ転載する、という卑劣なことをする輩も居ます。不動産業者が苦労して貸主と媒介契約を結び、足で集めて登録した情報を、別の不動産会社が無断で自社広告として利用(転載)してお客さんを集めて自らのところで契約させようとする行為(中抜き)で、これは不動産業者としても、いや誰から見てもなんとしても絶対に許すべからず、という所であります。(そういうところは客としても絶対に利用しないほうが良いです。コンプライアンス精神がないところは、客に対しても騙しても良いという考え)

因みに、広告承諾書に絡んでか絡まずか、「広告宣伝費(AD)」というお金が絡んでくる不動産業界の闇チックな話しもあるのですが、それはそれでまた大きな別件の話しなので自粛しますw

つまり、元サイトに許可を取らないスクレイピングによるデータを利用した不動産物件情報は、元サイト運営側が「元付け」の業者にあらかじめ承諾を得ていない限り、承諾なしの不動産広告「無断掲載」となります。

承諾のない無断掲載された物件広告は、不動産公正取引協議会から、「~【注意】物件情報の無断掲載はトラブルの元~」という注意勧告も出ています。

元付会社様から「掲載許可を出していないのに、他社が無断で掲載している。」とご連絡をいただくことがございます。元付会社様への確認を怠ると、トラブルに発展することもございます。
以下を参考に、必ず掲載前に確認を行って下さい。
・『掲載する媒体名』を必ずご確認下さい!
  媒体毎に確認が必要です。
・『現在空室であるか』をご確認下さい!
  契約済の物件だけでなく、申込の入った物件も広告掲載はできません。
  建物名だけでなく、号室も特定しご確認をお願いします。
・『募集条件に変更がないか?』をご確認下さい!
  賃料・敷金など、最新の情報を確認し、条件変更があれば即修正をして下さい。
「掲載の条件では貸せないと言われた!おとり広告?」と思われて、
エンドユーザーとの間でトラブルに発展しないためにも、掲載物件の空室状況や条件変更について、定期的に確認を行っていただきますようお願いします。

2019年6月
不動産公正取引協議会
不動産事業者に対する啓発(PDF

無断掲載は業者間における「信義にもとる」行為であるだけでなく、「中抜き」とか「おとり広告」になり易いことは間違いなく、違反すれすれ?限りなくグレー?トラブルの元?

さらに、第三者が無断掲載する場合、2次広告でちゃんと承諾を得ていた場合、「掲載する媒体」で合意していないサイトに勝手に掲載されてしまうと、元付け業者だけではなく、2次広告をするために「元付け」業者と合意をした「客付け」業者も合意違反状態となって困った立場になります。

もし「おとり広告」などとなって消費者とトラブルになった際、掲載している側にも一定の責任問題が発生するでしょう。その責任を負うことが出来ますか?という話しでもあります。自分は転載しただけだ、というのは通じないと思います、特に承諾の無い無断転載の場合。無断転載が原因で「おとり広告」となってしまったら目も当てられません。

こういった諸々もあり、まず元サイト運営側か、または「元付け」の業者がダメと言えば、ダメな話しとも言えます。通常、利用規約にダメ、とか書いてあります。マイナーなサイトでは、単に「あ、利用規約書き忘れてた」とかいうだけの場合もあるかしれませんが。結局は無断でただ乗りされた元サイト運営側と揉め事になる可能性があります。元サイト運営者としても、元付け客付け間の合意の件もありますし、「おとり広告」になりかねないトラブルの元になるようなことに責任持てないでしょうし、持ちたくないからそもそも関わりたくはないでしょう。

いずれにせよ、無断の場合、万一スクレイピングして転載した検索サイトを営利でやったら、かなりマズイだろうとは言えます。無償でやる場合は、利益もないのにリスクばかり負う、ということになりかねません。(元サイトの仕様が変わったらスクレイピングもそれに合わせて変更する手間もある)

で、今回のサービスに限って言うと、現時点では、一覧から先は元サイトの詳細ページに飛ばしているだけのようなので、まぁ、元サイト運営者次第というかなんというか、色々な意味で微妙なところなんじゃないでしょうか。

まぁ運よく、トラブルや揉め事が起きる前に「It's easier to ask forgiveness than it is to get permission(「事前に許可を得るより、あとで許してもらうほうが楽」)」となれば良いんですけどね。そしたらわざわざスクレイピングする必要も無いし。

その他法律的問題は弁護士に聞いてください。なげやり。

・・・・

と書いていた数日後のこと。

本記事で紹介している賃貸物件検索サービス Comfy は 2021/07/30 13:48 をもって閉鎖いたしました。使用していた物件データに関して、データの掲載元より利用許諾を得られなかったためです。本記事で紹介しているサービスが閲覧いただくことができなくなってしまい、大変申し訳ございません。

https://zenn.dev/choo/articles/84f41ad249c1dd

まぁ、そうなるわなぁ、と。(自分としては、基本的には解説するだけでニュートラルな立場のつもりだったのですが)

「不動産業界は魔界」ですから、そんな不動産業界に(その周縁部とはいえ)、外部の方が(イノセントというかナイーブなというか)思い立っての勢いのようなチャレンジをしたところで、当然のように討ち死にするわけです。

不動産業という「魔界」の中に棲息する人にとってみれば、「あ~あ~、分かってないなぁ、当然だろう」などと思うところかも知れませんが、外部(IT系サイド)から見れば、「なんでだ、オカシイだろう、諦めるな」という反応も根強くあったりします。それ以外の殆どの方は「利用規約でダメって言われてるのだからダメだろう。(もしOKなら自分もやりたいのに、ズルするのはセコイ)」という気持ちなのではないでしょうか。

(色々なところのコメントを読んだ限りの印象)

自分としては、法律を含めた現実的なハードルもふまえつつ、イノベーションも阻害したくない(むしろ強烈な推進派)、と思っていて、単に「これもダメ、それもダメ」みたいなことは言いたくありません。ただ「やり方」ってのがあるのだろうと思います。「ルールを破るならまずルールを分かった上で(無意味と思う部分を)破っていく」、じゃないと単に怪我をするだけです。

・・・・

と書いていた数ヶ月後のこと。

今度は別のデータを再度復帰した模様。再び立ち上がる根性は大好きですね。

しかし、色々な反応を読んでいると、「レインズ」や「不動産検索サイトのスクレイピング」といった話題では必ずと言ってよいほど「不動産屋が悪で黒いから物件情報を公開(オープン)にしない(利用させない)んだ」というような「短絡的で斜め上の勘違い」話しをする人達が沢山出てきます。

「スクレイピングして物件データをぶっこ抜くのは、レインズがクローズドだから => それがダメなのは不動産屋が悪で黒いからだ」、みたいな。

これは、レインズの宅建業法による縛りも知らなければ守秘義務と個人情報の事も知らないで(知ろうともせずに)、「不動産屋が悪で黒いからだ」という「陰謀論」を唱えるようなものです。

鬱憤晴らしで皆して不動産屋を叩いても、逆に無知を晒しているだけになります。

この件で、「不動産屋が嫌がるからレインズの情報を公開させないんだ」、「データを使わせない不動産屋が悪で黒い」と責めたてるのもお門違いというものでしょう。

巷のレインズ「オープン化」論について

レインズのデータについて、いわゆる「オープン」に「開放」して広く利用できるようにすべきだ、という声を聞くことがあります。

大昔からチラホラあった話しではありますが、近年は特に一部のいわゆる「不動産テック企業(日本では異業種)」による「自分らにもレインズのデータを利用させろ」というような声を聞くことが多くなりました。

その主張の背景にある様々な事情は十分に良く分かっているのですが、レインズの「オープン化」や「一般公開」、さらには「データ連携」などと抽象的な言葉でしか語られていない為、それが具体的どういう事を意味するのか、主張している側でも解釈が曖昧で(そもそも意味を分かって言っているのか疑問)、当然ながら受け取り側でも大きな誤解があったりで、混乱が見受けられます。

賛成か反対を言う以前に、まず言葉の具体的な意味と、論点を整理しなければ、そもそも議論すら噛み合いません。

ということで、適当に論点をまとめてみました。

そもそも論

レインズは、不動産業者間の物件流通を目的として作られたものであって、その根拠は宅建業法にあり、色々と細かく定められています。

具体的に言えば、宅建業法の第五十条の二の五(指定等)「宅地及び建物の取引の適正の確保及び流通の円滑化を目的」とするものであって、第五十条の三(指定流通機構の業務)で規定されているように、「専任媒介契約その他の宅地建物取引業に係る契約の目的物である宅地又は建物の登録」と「宅地又は建物についての情報を、宅地建物取引業者に対し、定期的に又は依頼に応じて提供すること」がレインズの業務。

なので、その目的と業務内容を大きく変更するような場合、宅建業法の法改正が必要でしょう。この点、一般にはほとんど知られていない事のような気がします。

*不動産業は規制産業なので、法律の規定に従って規制を遵守していかないとならないのは当然であります。つまり、「不動産屋が」云々ではなく、逆に規制を受けて強制させられている立場、ということ。

次に、レインズの物件データは、各不動産業者がひとつひとつ足で集めた情報をコツコツと登録してメンテしているデータベースであって、不動産業者間の物件情報共有の為に、利用者である不動産業者がお金を払って維持しているわけです。

法律で定められて、「指定」された所がやっているけど、運営は民間、という建前。

(で、それを国交省の天下り団体である不動産流通推進センターが仕切っている、という構図)

国や行政などの公共のデータベースや、公的機関等が保有しているデータを集めた、いわゆる「ベース・レジストリ」と混同してはいけません。

なので、何をするにもまず、「そもそも『物件データ』は誰のものなのか」、という所からじっくりと議論する必要があるでしょう。(後述)

論点1:誰に対して何を「オープン」にするのか

まず、具体的に、「誰」に対して「何」を「オープン」にする話しをしているのか、というのが最も重要なポイントで、それ次第で全く違った話しになります。そこを>曖昧にしたまま、「オープン」「オープン」言っても、絶対に話しが噛み合わないことは100%保証>します。

誰に対して何を「オープン」にするのか、幾つかパターンが考えられますから、一つひとつ挙げていきましょう。

A)一般消費者に物件広告として「オープン」にする

これは、普通の物件検索サイトで部屋探し・家探しの物件検索が出来るのと同じ様に、一般消費者がレインズのデータの中で物件広告の情報に限りアクセスできるようにする、というパターンですね。

これするには、まず業法という法律を改正しなければならないでしょう。現状、レインズには「宅地建物取引業者に対し」という業務上の縛りがありますからね。

(法律を拡大解釈して勝手に色々やりだしたら「指定」から外されてしまうリスクがあるので「ことなかれ主義」の官僚的組織はそもそもやらない)

単に改正と言っても、日本の場合、当初より「業者間流通の為」という前提で法律による強制登録、としてきてしまったので、いまさらその前提をひっくり返して「別の用途に使います」となると、かなりの「おおごと」となります。

※過去にレインズ情報の一般公開も選択肢の一つとして検討された。しかし、レインズ情報の基本的な位置付けである、「宅建業法に基づく強制登録」と、「広告として民間業者が競い合ってサービス提供する公開情報」とは相容れないという問題がある。

国土交通省
不動産投資市場整備室
不動産物件情報サイトの整備及びレインズシステムに関する提案について(PDF)

これ、同様の物件検索サイトを運営している不動産テック企業にとっては、文字通り死活問題となるので、存続をかけて猛反対するでしょう。具体的にはアットホーム、スーモ、ホームズ、等々やコンバート業者、といった既存のテック企業です。絶対に猛反発してくるでしょうね。新規参入組のテック企業はチャンスって喜ぶでしょうが。

不動産屋にしてみれば広告出稿先が増えただけの話しで、自社物件をメインでやっている不動産会社であれば、広告費のコストも削減できて普通に歓迎ってところでしょうけれど、先物仲介物件メインでやっている業者はちょっと泣き、って感じでしょうか。

因みに、レインズのサーバーって相当ショボいので、ユーザが増えると負荷が掛って速攻でレインズが落ちまくると思います。レインズのサイトはしょっちゅう「負荷が〜負荷が〜」って言ってましたからね。

レインズのサーバーが落ちると、日本全国の不動産屋の業務が一部ストップしかねません。なので、常識的に考えれば、一般消費者に直接レインズへアクセスをさせるのは避けて、「不動産ジャパン」のような別サイトに物件広告の情報を流して、一般消費者はそちらに、ってことになるはずです(もしやるならば、という非現実的な前提のうえでの話しですが)。

B)一般消費者にすべてを「オープン」にする

これは、物件の所在地も枝番や部屋番号まで含めてモロに情報を公開しちゃうことになりますので、個人を特定出来てしまうわけで、氏名、住所、成約価格、といった個人情報とされることまでが一般に公開されちゃう事になります。

個人情報を一般消費者にむやみに公開したら違法行為になっちゃいます。

(不動産業者には「守秘義務」があるから扱える)

なので、これはそもそも無いです。(宅建業法や個人情報保護法を改正しない限り)

個人情報やプライバシーといった基本を無視して単に「オープン」「オープン」言ったって、「ド素人の暴論」扱いされて終わりです。(先日の日経の記事も含めて)

それを抜きにしたとしても、前述の理由と同じで、物件検索サイトなどの不動産テック企業も存続をかけて猛反対するでしょう。

また、これも前述してきた理由に加え、過去の成約価格も含めて誰にでも分かるようになるなら、多くの不動産会社も快く思わないでしょう(良いかどうかは別として)。自分たちが苦労してコツコツ集めて自腹でメンテしてきたものですから、それを取り上げられるというなら反対する人達も多いでしょう。

「『物件データ』は誰のものなのか」、という議論が必要だ、というのはそういうことです。

C)異業種に対して「オープン」にする

いわゆる「不動産テック企業(日本では不動産業者以外の異業種を指す)」に物件情報を提供して商用利用を許可するということですね。

まず、前述のと同じ理由で、「守秘義務」のない異業種には人のプライバシーに関わるデータは「オープン」には出来ませんね。個人情報保護法にも違反しちゃいますから。

また、これ、業法上の業者間情報共有の目的外にあたりますし、不動産業者としては、自分たちが苦労してコツコツ集めて日々チマチマ更新して自腹でメンテしてきた不動産物件情報データベースを何故によりによって異業種の企業にそれも営利利用できるよう明け渡さなきゃならないのだ?って話で、筋も通ってないし、普通に不快で、多くの人が反対するでしょう。

当然の事ですよね。

普通の会員の不動産業者にとってですら、レインズのデータは転載の利用や一般公開は禁止されているのですから。

レインズのデータにアクセスしたければ、単に不動産業者になって会費払って普通にレインズを利用すれば良いじゃん、という話しです。

それか、アットホームやスーモやホームズのように自前で物件情報を集める努力をしろよ、という話しで。

そうじゃなければ、(色々と無茶な前提がありますが)業界と国に話しをつけてレインズと契約でもして特別料金を月々払って、なおかつ異業種に物件情報を流すかどうかは物件情報を登録する個々の不動産業者がチェックボックで可否を選択できるようにするとか、最低でもそういう話しじゃないと受け入れられないんじゃないっすかね。因みに、物件情報は一般公開や転載は禁止とかいう条件になると思いますよ、普通の不動産業者もそういう条件だから。

D)不動産業者に対してデータ利用を「オープン」にする

これはどういうことかというと、現在、レインズのデータは会員である不動産業者にも「データ」として流用する事は禁じられています。

具体的に言うと、レインズに登録されている他社の物件情報を含めた物件情報のデータは、自社のサイトや他に転載すること(いわゆる二次利用)はレインズの規約上禁止されています。(自社のデータ以外は)自社の業務システムに取り込むことも(実質禁止)出来ません。

中途半端にOKにすると、新たな問題を大噴出させることになるので、日本では現状、禁止は当然かな、とも思います。アホな業者による「無断転載」と「おとり広告」といった「不正利用」の嵐になるのは目に見えているからです。

もしこれ(二次利用)ができるのであれば、私も20年前にレインズのデータを使ってアットホームのような物件検索サイトをサクっと作ってますがな。イヤ、マジで。

因みに、後述しますが、米国ではこれ可能(当然色々条件はあるけど)です。それどころか、規格を標準化してデータをAPIで利用できるようになっています。つまり、転載などしなくても利用できるので、元付のデータがそのまま利用できて、掲載されたままみたいな間違いも起きにくいということ。

論点2:誰と誰のシステムに、何のデータを連携させるのか

「データ連携」というのも特に専門用語ではないので何を指すのか曖昧な言葉です。

一般的には、「異なるシステム間におけるデータのやり取り」を指します。ニュアンス的には連携だと送受信というよりかは関連付けて相互利用できるようにするみたいな感じでしょうか。

これは人間を介したものではなく、デジタルのデータのままで相互に機械的処理でやり取りができるようなことを意味します。具体的には、APIなどでシステムとシステムを繋いで連携できるようにする、ということです。

なので「データ連携」と「オープン」にするかしないか、とは別の次元の話しになります。つまり「オープン」にしない「データ連携」がある、ということです。前述の日経の記事もここ一緒くたに混同して報道してますね。

そして、これも、「誰と誰のシステムに、何のデータを連携させるのか」が重要なのであって、それを抜きに「データ連携できないできない」と騒いでも、「?」で誤解されて終わります。

もし、不動産業者以外の異業種の企業が「レインズとデータ連携出来ない〜」と文句を言っても、前述の理由の通り、不動産業者ではないのですから、データ連携出来なくて当然ですよね、という話になります。そもそもで述べたように、レインズは業者間流通システムとして存在しているのですから。(先日の日経の記事も完全に誤解し混同して報道してます)

もし、不動産会社が自社の物件管理システムからレインズ(やその他の物件検索サイト)へ物件データを登録や更新をする際に「データ連携が出来ない」のであれば、改善して「データ連携」ができるように機能を追加すべきですね、となります。(私は当初より、これを言っています)

つまり、闇雲に「データ連携できるようにしろ」云々を言うのではなく、「誰と誰のシステムに、何のデータを連携させるのか」を分かるように言わないと、議論というか良し悪しも判断できないので返答のしようがありませんよ、という事です。

「データ連携」を、「オープン」の前提で話しを進められてしまうと、引きづられて本来やるべき「データ連携」や標準化すら話しが前に進まず、出来なくなってしまう、という致命的な問題がはらんでいるんです。

だから、指摘するなら正しく指摘、議論するならまともな議論をしましょうよ。

論点3:米国のMLSとの比較

日本のメディアや「自称専門家」でも、「米国のMLSはオープンで誰でもアクセス出来る」とか言っちゃう人達がいるのですが、よくまぁそんなデタラメを、と思うわけです。

「論点1」で挙げた、誰に何をオープン(公開)なのか、書いてない時点で失格なのですが、前提としての根本な間違いがあります。

まず第一に、一般消費者が不動産業者同様にMLSにアクセスできるわけでもありません。つまりMLSは「オープン」ではありません。お金を払っている会員である業者やエージェントしかアクセス出来ません。

ただし、物件広告情報は外部サイトへ流れる仕組みは元々あり、外部サイトで物件広告を表示して検索出来るように出来ます。また、個別にMLSが契約した相手と提携して広告情報を流すこともあります。

さらに、MLSによっては、MLSのサイト上で会員向けとは別途に、一般向けに広告情報として物件検索を出来るようにしている所もあります。

そういう意味であれば、物件広告のデータに限って言えば外部へ流れている=「オープン」と言えます。

日本と違って業法の縛りがないですから、自分たちのデータの使いみちは自分達で決められるというわけです。

因みに、米国では、不動産業者が自らやっているので(日本のような業法の兼ね合いは存在せず)MLSのデータを効率的に使い、RETSやRESO APIという仕様を定めて、MLSの物件データを不動産会社のサイト上など外部サイトで検索できるようにしたりするIDX、VOWと言った様々な仕組みを大昔から作っています。当然、物件データをどう扱うか、というのは厳格な規定も存在し、契約等で縛りはあります。

なので、日米では物件データの流れに以下のような違いが生まれるのです。

日本と米国、物件広告の情報の流れ方の違い

日本の「不動産テック」が誇る最新技術とは?スクレイピングとCSV弄り?

これは数年前に一部界隈でかなり話題になったブログですが、傑作なのであります。

日本において「ビッグデータでAIで機械学習でマーケティングのブランディングでディープラーニングのリードナーチャリングだ!」でごまかせる業界はもう不動産しかないのか、今年に入ってから「不動産テックでデータ可視化で物件価値の向上でウッハウハですよ!」な会社から融資をお願いされることが増えました。

しかし、残念ながら今のところ投資に値する会社はありません。というか適当すぎてやばい。話聞いてる途中で「え、え、ちょっと待って、それテクノロジーって言えるの?」と遮りたくなるレベルの会社だらけでびびります。

不動産テックはアメリカの話を聞いていると面白いんですが、日本の不動産テックはがっかりを通り越してテック名乗るな馬鹿野郎と言いたくなることばかりです。

2017年9月2日
ヤドリギ
日本の不動産テック企業のほとんどはただのスクレイピング屋である

「ごまかせる業界はもう不動産しかない」「適当すぎてやばい」「テック名乗るな馬鹿野郎」

他社サイトからスクレイピングしすぎ

てことは賃貸情報サイトがクローラー対策したら会社潰れるじゃねえかというわけで、融資なんてとてもできなくなるのです。てかどんだけ迷惑かけてんだお前ら。(中略)
そんなことするんだったら提携申し込んで生データもらってこいよ。門前払いだろうけどさ。

2017年9月2日
ヤドリギ
日本の不動産テック企業のほとんどはただのスクレイピング屋である

「スクレイピングしすぎ」w

という感じでキレッキレでございます。ぜひとも引用元のブログをご一読いただく思います。

Orz

・スクレイピング

スクレイピングは許可を取らない行為のため(データ利用の合意が取れたらスクレイピングなんて不要になるはずなので)、やり方としてはグレーでリスキーな面があります。それだけではなく、グレーなスクレイピングで他社に依存していると、スクレイピングできなくなったら事業もサービスも潰れる、というか停止します。まさに、先日のスクレイピングしてた物件検索サービスが即効で停止に至った理由がそれです。

分かっていれば、普通は手を出さないリスキーなビジネスです。(相当数の不動産テックの人達は分かっていないと思われ)

グレーじゃないスクレイピングは、SNSがエクスポート機能をつけていないために、自分の書いたnoteの文章を取得してバックアップするためにやるような場合です。この場合は、どこから見ても変な負荷かけないかぎり完全に白です。

さらに言えば、日本の不動産業界では、スクレイピングする元のサイトのデータがまともじゃないので、スクレイピングしてきて集めてもビッグデータ的には意味ないです。レインズなどの情報がどれだけ偏った不正確なものであるかを不動産業界以外の人達は知らないはずです。一般物件検索サイトだって、一部の物件に偏り、しかもそれが無断転載と2次広告で氾濫して、重複だらけとかw

そんなんで日本の「不動産テック」の「ビッグデータ」(笑い)でございます。

会社に不動産のシロウトしかいない

あと多いのが、「不動産テックです!」と言いながら不動産取引したことないシロウトばかりの会社。たまに宅建レベルの知識すらない方もいまして、顎が外れそうになります。

なんと例えればいいのかわかりませんが、サッカーのルールを何も知らない人がデータだけ適当にいじって「こういう戦術だと絶対勝てます!なんで世界中の監督がこの戦術を取らないのか意味がわからない!!」と戦略を提案してきたので見てみたら「これ全部オフサイドやんけ」というオチだった。みたいな話を聞かされるわけです。(中略)

不動産取引の手続きは結構複雑です。なので付け焼き刃の知識だとどこに時間がかかって、どこをネットの力で短縮できるかを正確に把握できません。不動産テックな会社は知識はおろか(以下省略)。

2017年9月2日
ヤドリギ
日本の不動産テック企業のほとんどはただのスクレイピング屋である

「オフサイド」上手いw

ルールを破るならまずルールを分かった上で(無意味と思う部分を)破っていく、じゃないと単に怪我をするだけです。

新しい事をするというのなら、やけくそに手あたり次第やるのではなく、まずはルールを知った上でやらないと、言う事もやる事も、トンチンカンというかポイントがずれてしまうというか・・・。

日本の「不動産テック」業界では、この「スクレイピング」や「コンバート」で新たに起業する「不動産テック」が今も後を絶ちません。どこやどこ、というのもアレなので触れませんが。

なんでこんなんになってしまうのか、というと、不動産物件情報が標準化されていないからであります。なんで標準化されていないのかといったら、国交省から始まって天下り元官僚から不動産業界団体から日本の不動産テック企業まで、総じてアレだからです。

もう知らんがな。

物件データは誰のものか

何をするにもまず、「そもそも『物件データ』は誰のものなのか」、という所からじっくりと議論する必要があるでしょう。

巷のレインズ「オープン化」論について

これ、とても重要な問いだと思うのであります。

ただ、実のところ誰もなんも考えてない、と思うんですよね。物件情報のデータをどうする云々の話しを見かける度に、「おいおい、ちょっと待て」、と言いたくなります。

今まで何度かこの問いを投げかけてきたのですが、誰も答えてくれないというか、議論も始まらなそうなので、今後の議論のきっかけとなるよう、前提となることを少しばかり書き留めておきたいと思います。

データは誰のものか

近年は、「データの重要性」というのがますます高まっていて、「データ駆動のナンチャラ」というのが政府や企業でも言われるようになっています。

そこでまず問われるのはやはり「データは誰のものか」なのですが・・・。

カルテに書かれた医療情報は誰のものかという議論がある。書いた医者のものか、受診した患者のものか。この問い自体がナンセンスだ。医者のものであり、かつ患者のもので問題ない。大切なのは誰が主体として管理し、どういった条件で誰がアクセスできるかだ。

また、現在の個人情報の扱いでは、同意さえ得れば好き勝手にデータが使えるという誤解が蔓延している点も課題だ。

APPA(社会的合意に基づく公益目的のデータアクセス)は、「社会的同意」つまり、民主的な過程を経て人々のコンセンサスがまず一番のポイントになる。形式的な同意を個々人にとるのではなく、プライバシーと人権の保護を前提に、社会的同意のもとで、一定の条件でさまざまなデータを活用できるようにする。

2020年6月12日
Forbes JAPAN
「データは誰のもの?」は成り立たない。個人の権利と公共性の両立へ

これ、とても重要なポイントが幾つも含まれています。

(上記のページはたった今見つけたものですが、以前から「(コンセンサスを得る)議論が必要」と書いてきた私の感覚は間違っていなかったと)

ダボス会議などで知られる、世界経済フォーラム(WEF)が1月に発表した「社会的合意に基づく公益目的のデータアクセス(Authorized Public Purpose Access、APPA)」は、プライバシーなどの個人の人権、データ収集機関の利益、そして公益という社会全体のニーズ、その3つのバランスの追求を提案している。

2020年6月12日
Forbes JAPAN
「データは誰のもの?」は成り立たない。個人の権利と公共性の両立へ

個人情報の扱いやプライバシーにまつわる権利には、近年「忘れられる権利」が認められ、自分の個人データへのアクセスや移転(データポータビリティ権)に関する個人の権利が強化されています。(例:EUが2018年5月に施行した一般データ保護規則)

(フェイスブックが、ケンブリッジ・アナリティカ事件とかでやらかして、5000万人ものユーザーのデータを勝手に第三者に流して云々したりして世界的な問題になったこともありましたからね)

「データは誰のものか」は大前提で、「個人情報やプライバシーは守る」という権利保護の意識がデータを利活用する上で近年ますます重要になっていると。

ポイントは、権利保護と利益維持と公益性、このバランス。

そして、「誰が主体として管理し、どういった条件で誰がアクセスできるか」が問われるのだと。

当然ながら、社会的なコンセンサスが得られたとしても、機微な情報が含まれる場合など、大抵のデータは個別に利用条件や利用許諾といった取り決めが必要となるでしょう。

物件データと個人情報

データを扱う際、「個人情報やプライバシーは守る」のが重要な前提である、ということは前述の通りです。

で、不動産の物件情報は個人情報が含まれる、というのは既に度々色々なところで書いてた通りです。

物件の所在地も枝番や部屋番号まで含めてモロに情報を公開しちゃうことになりますので、個人を特定出来てしまうわけで、氏名、住所、成約価格、といった個人情報とされることまでが一般に公開されちゃう事になります。(不動産業者には「守秘義務」があるから扱える)

巷のレインズ「オープン化」論について

「不動産流通業における個人情報保護法の適用の考え方」では、

Q1 物件情報には売り希望者などの氏名が含まれていないが、「個人情報」か。
A 物件情報は「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることになるもの」に該当し、個人情報である。

2005年1月改正:2012年
国土交通省
「不動産業における個人情報保護のあり方に関する研究会」報告
(不動産流通業における個人情報保護法の適用の考え方)(PDF)

物件データの特性

物件データの取り扱いには、前述した個人情報関連の他に、別の法令等の規制が掛かってきます。

法的な話しで言えば、不動産物件の情報を公開して広告する場合、宅地建物取引業法という法律の他に、景表法という法律、およびそれに基づく不動産公正取引協議会の不動産の表示に関する公正競争規約、の遵守が必要です。

また、厳密に言えば、インターネットに物件情報を公開して募集する物件情報は「広告」になり、申込が入った時点で募集を取り下げないと「おとり広告」(前述した関連法規の違反)となってしまいます。なので、物件情報はどこに流れてどこに掲載されるのかはすべて把握しておく必要があります。すぐに取り下げ、変更が出来るように。

物件情報を2次広告する場合は、「元付け」といって、物件の貸主と媒介契約を結んだ元の不動産業者から許諾をとることになっています。

そもそもの話しをすれば、物件は貸主(厳密にはオーナー)のものですから。

スクレイピングした物件データを利用した物件検索サービスは問題ないのか

物件データはどのようにして生まれるのか

根本に、貸主(オーナー)と媒介契約を結んだ「元付」と言われる不動産会社がいて、そこが募集元、広告元となるわけです。

つまり、物件データは、元付業者と貸主(オーナー)との合意による成果物である、といえるでしょう。

実態としては、不動産業者が貸主(オーナー)と媒介契約を結んだ上で広告依頼を受けて許諾を得た上で、不動産業者がコストを負担して、みずからひとつひとつ足で集めた不動産に関する情報に専門知識を加味し、宣伝文句などの「ポエム」を追加し、物件データ(広告)とするのです。

(宣伝文句などの「ポエム」=「閑静な住宅街(寂れた町とは言っていない)」・・・みたいな。あと、「最高」というような誤認させる言葉は使っちゃいけない、みたいな細かな規定も存在)

*自分がやっていた頃は、様々な規定を守ると同時に、「物件はオーナーさんのものだということを決して忘れるな」、と絶えず絶えず自分に言い聞かせていましたよ。情報はお預かりしているものだ、ぐらいの勢いでね。

*不動産屋としては、オーナーとの信頼関係にもとづく契約で依頼されて「お預かり」したものをベースにしているので、その物件データが無法規に転載されたり流用されてしまったら問題であり、自分の信用に関わることなので、非常に慎重になります。不動産屋の為というよりか、オーナーの権利保護の為でもあるのです。(にもかからず、巷では「不動産屋が利益の為に使わせないだの隠してる」だのなんだの、無知もいい所です)

レインズの物件データのデータベースは、そうやって、各不動産業者がひとつひとつチマチマ集めた情報をコツコツと登録してメンテしているデータベースであって、不動産業者間の物件情報共有の為に、利用者である不動産業者がお金を払って維持しているわけです。

アットホームやスーモやホームズなどの物件検索サイトの物件データも同様に、広告主である元付業者や、そこと「広告承諾書(広告活動承諾依頼書)」を取り交わした客付け業者が2次広告として、広告掲載費を支払って、物件データを登録しているものとなります。

お前の物件データは俺のモノ?

「レインズのオープン化」や「不動産検索サイトのスクレイピング」といった話題では必ずと言ってよいほど、「不動産屋が悪で黒いから物件情報を公開(オープン)にしないんだ」というような「短絡的で斜め上の勘違い」話しをする人達が出てきます。

これは、レインズの宅建業法による縛りも知らなければ守秘義務と個人情報の事も知らないで(知ろうともせずに)、「不動産屋が悪で黒いからだ」という「陰謀論」を唱える恥ずかしい人達のことではありますが、「物件データは誰のものか」ということもまるで意識していません。

まるで「お前のモノは俺のモノ。寄こさないお前が悪い」と言っているようなものであります。(ジャイアンだっけ?)

そんな理屈では、単に社会に対する憎しみをぶち撒けているだけの話しで、実状の表と裏を詳しく知ろうともしておらず、仕組みを良くしようという建設的なものでもありません。

自由主義の資本主義社会では、「価値あるものには対価を払う」、というのが基本です。「お前のモノは俺のモノ」なら、まるで失敗した共産主義の話しで、誰も価値あるものを生み出そうと努力もしなくなり、社会が衰退します。

以前、下記のような記事を見掛け、見ちゃいけないモノを見てしまった感で、「そっ閉じ」したことがあります。

必ずぶつかるのがLIFULL HOME’S、SUUMO、at homeという超大手の老舗企業3社が流通データをほぼ全部持っている。この辺りがパブリックにならないというのが、結構いろんな不動産テックの企業の成長の壁というか。
(会場苦笑)
各企業のデータなので別にオープンにしなければいけない理由はないと思うんですけれども

2018年3月20日
LivingTech運営事務局
問われる、不動産データのオープン化。不動産業界の“開国”はいかにして成し得るか?

一体なにを言っているのかと・・・あたりまえの話しだろうに。こんな話しを表に出してしまっていいのだろうかと、そう感じてしまいます。

「物件データは誰のものか」などという意識の欠片すら感じられません。あえて言えば、「誰の個人情報か」ということも。

それにまるで、アットホームやスーモやホームズが物件データに関して全権を握っているとでも思っているかの言い方です。

例えアットホームやスーモやホームズが物件データに関して全権を持っていたとしても、一体どこの世界で潜在的競合企業にコアコンピテンシーであるものを明け渡さ(オープンにし)なければならない理由があるというのでしょう。

これ、逆の立場で、「あなたの会社が持っているデータを全部オープンにしてください」と言われたら、全部オープンにするんでしょうか。

いやはや、ただただ本当にびっくりするばかりであります。

まともな議論でコンセンサスを得るには、まともな知識が大前提です。 物件データを云々する前に、不動産業者として参入して中の立場になってみるのも良いんじゃないですかね。

物件データを活用していくために

「お前のモノは俺のモノ。寄こさないお前が悪い」みたいな風潮は、基本的な知識不足から来るものであります。

恐らく、多くの人達が言いたいのは、「スクレイピングをしなければならないのは、レインズがクローズドだからだ => それがダメで出来ないのは不動産屋が悪で黒いから」ということなんでしょう。

ただ、これまで詳しく説明してきたように、それは幾重にも重なった「短絡的で斜め上の勘違い」というものです。

今まで正確な情報発信をしてこなかった不動産業関係者たちの不作為も指摘されるべきでしょう。(というか当の不動産屋もまるで分かっていないため、デマの発信源になっているケースも散見されます)

本来は、スクレイピングなんぞしなければ済むのが一番なのです。

物件データを活用するには、コンセンサスを得て、関連するすべての人が満足して利益を得られるように、まずは実状を踏まえて考えなければなりませんし、ルールも知らなければなりません。

自分としては、法律を含めた現実的なハードルもふまえつつ、イノベーションも阻害したくない(むしろ強烈な推進派)、と思っていて、単に「これもダメ、それもダメ」みたいなことは言いたくありません。ただ「やり方」ってのがあるのだろうと思います。「ルールを破るならまずルールを分かった上で(無意味と思う部分を)破っていく」、じゃないと単に怪我をするだけなのです。

ルールを守った上でデータを効率的に有効活用できるようにしていくためには、まず不動産業界においてデータとAPIの標準化をすべき、なのであります。

その上で、現状をしっかりと踏まえ、しっかりとした根拠をもって、「物件データ」を有効に使っていくことについて、社会的なコンセンサスを得るために、広く議論を始めて欲しいと願います。

「不動産ID」にまつわる誤解

「不動産ID」とは、不動産物件を一意に識別するための固有IDを割り振るための仕様であります。

いまさらの「不動産ID」

不動産物件に固有IDが振られるようになれば、住所や物件名に頼らずに物件を一意に識別できるようになり、データベース内で重複を排除などが正確にしやすくなります。結果として各種関連データと物件データを紐付けることも(やろうと思えば)出来るようになります。

これは「今の今まで無かったのか」と、むしろ驚くべきものであります。この「不動産ID」、本来は標準化の段階で決める様々なことの内の一つにしか過ぎないものです。

標準化にあたって、使用する日付形式や文字コードなども決めますが、同時にIDの仕様も決めるのが普通で、標準化をしていれば、とっくに「不動産ID」も出来ていたはずのものなのです。

古くは私が2002年から提言している「不動産物件情報の標準化」、国交省で主催された2008年の「不動産ID・EDI研究会」で(色々ずれているけども)「標準的データコードに統一とEDI」の議論がされて提言されたのにも関わらず、以降まったく動きがありませんでした。

「不動産ID」の意義

「不動産ID」がなければ、物件情報から物件を一意に識別する確実な方法はありません。つまり、A社が登録した「XXXマンション*号室」と、B社が登録した「XXXマンション*号室」は同じ物件なのか分からないという事です。

物件の住所で分かるではないか、というのは素人の考えで、システム的に自動で識別するにはこれがまた実に厄介なもので、日本では様々な表記が存在し、単なる「表記揺れ」だけにとどまらず、平たく言うと登記簿上の番地と郵便配達用の所在地、つまり地番と住居表示という2種類が存在してたりします。「名寄せ」で特定も確実ではなくアナログ処理バリバリでも難しい所があります。

登記簿謄本にある「不動産番号」を使えば良いのでは、と誰でも思うものですが、登記簿情報を識別するIDを単に流用するだけでは色々とスッキリしない点があります。区分所有の建物じゃないと、部屋ごとに番号付かないし、土地も一筆単位だったりするし・・と。

ひと工夫が必要だったのです。つまり、一種の標準化が必要だったと。

なので、日本の物件検索サイトでは、長いこと重複した物件が検索結果にずら〜と並ぶのが普通だったのです。一般媒介物件だと複数の元付け会社から同じ物件情報が登録されますし、仲介先物として二次広告として登録する業者もいますので。

さらに、「中古住宅取引情報のストック(蓄積)」や「不動産関連情報の集約」の必要性なんて、もう10数年前から散々言われてきたことで、国交省でも議論されてきた(「不動産に係る情報ストックシステム基本構想」>「不動産総合データベース」)ことですが、これも「不動産ID」が無ければ何も始めることすら出来ないことなのです。

政府答申で動いた国交省

そんな中、2020年の政府答申「規制改革推進に関する答申(PDF)」の中で、「不動産IDとしての不動産登記簿のIDの活用」するよう「国土交通省が主体的に各種取組を進め」るべし、ということになり、2022年3月31日、国交省は「不動産ID」の仕様を公開しました。

不動産の共通コードとしての「不動産ID」のルールを整備!
~不動産IDルール検討会の中間とりまとめを踏まえ、「不動産IDルールガイドライン」を策定~

国土交通省では、不動産関連情報の連携・蓄積・活用の促進に向けて、各不動産の共通コードとしての「不動産ID」に係るルールを整備するため、昨年9月に「不動産IDルール検討会」を立ち上げ、このたび、中間とりまとめを行いました。今般、これを踏まえて国土交通省として不動産IDのルールと利用に当たっての留意点を解説する「不動産IDルールガイドライン」を策定しました。

2022年3月31日
国土交通省
不動産・建設経済局不動産市場整備課
不動産の共通コードとしての「不動産ID」のルールを整備!
~不動産IDルール検討会の中間とりまとめを踏まえ、「不動産IDルールガイドライン」を策定~

遅すぎるし本来やるべきことの前の前のごく一部だけとは言え、政府答申で国交省が動いた、という点では特異な話しで、注目には値します。

しかし、本来は政府(国交省)が出てくる話しでは無く、自由主義経済での政府の役割というのは、民間の自由な経済活動と創意工夫と健全な競争をサポートし、時に行き過ぎがあれば規制をするのが役割であります。

昭和時代の「護送船団方式」みたいな時代じゃあるまいし、国があれやこれやお節介をやいて指示したり、手取り足取りコントロールすべきではないのです。

さらに言えば、国交省の官僚は不動産業の実務や関連ITサービスの運営経験があるわけでもなく、ITの技術者でもありません。

なので、例え民間から人を集めて「検討会」を開いたとしても、色々と不備が出てくるのです。

「ルール」ではなく「仕様」

まず、「不動産IDルールガイドライン」を策定と言いますが、これ、基本「不動産IDの仕様(specification)とガイドライン」でしょう。「不動産ID」という一種の規格の仕様であります。「ルール」だ「ルール整備」とか言うから「制度」か何かだと誤解する人が大量発生するのです。(日経新聞も誤報レベルで報道)

rule = a regulation, law, guideline. (ルール = 規制、法規、ガイドライン)

Wiktionary
rule

日本語としても論理が通ってなくて(ルールを定めるルールを策定しました?)、これ本来は、不動産IDの「仕様」は仕様、「(その仕様の)利用にあたっての留意点を解説する」のはガイドライン、ではないのですか?普通に考えて。国交省の資料の説明でも、全体を通して、意識して、意味をちゃんと分かって使っているとはまるで思えません。

「不動産IDルールガイドライン」なんて、「不動産IDガイドラインガイドライン」と言っているようなものですから。規制なのか法規なのかも不明ですし。

「不動産ID」は、不動産を一意に特定する、各不動産の共通コードです。

2022年3月31日
国土交通省
不動産・建設経済局不動産市場整備課
不動産の共通コードとしての「不動産ID」のルールを整備

不動産 ID は、不動産番号(13 桁)と特定コード(4桁)で構成される 17 桁の番号とします。

2022年3月31日
国土交通省
不動産・建設経済局不動産市場整備課
不動産 ID ルールガイドライン(PDF)

具体的には、以下のような、英数字とハイフンで構成されるもので、コンピュータが扱う場合は数字の「番号」ではなく、「文字列」として扱われるものとなります。

1234567890123-G001

「不動産ID」はこのように、「どういう構成」で、「どういう文字」を使って、・・・「でなければならない」という幾つもの「要求事項(requirement)」の集まりによって成り立っています。

「相互運用性を図るため」というそもそもの目的を実現するために「要求」されること、という意味です。

ここで「ひらがな」を使ったりすることは出来ません(使えるとしたら文字コードの指定が必要になってくる)。つまり、ANSI標準のASCIIの英数とハイフンでなければ相互運用性上、「共通コード」として通用しない、というわけです。

*因みに、国交省の「不動産 ID ルールガイドライン」では、「使用する文字種は、半角とする(数字は半角数字、アルファベットは半角大文字のみ)」としかありませんが、このような場合「半角」という指定は不十分であり不正確。書くなら、ちゃんと「ANSI標準のASCIIの英数とハイフン」とすべきです。ASCIIに半角も全角もへったくれも無いのですから。

ですから、これは専門用語で「要求(requirement)」となります。

このような要求事項をまとめたものを、「仕様(specification)」と言います。

・複数筆合わせて取引する場合の ID 入力について、ルールを決める必要があるのではないか。

国交省
第3回 不動産 ID ルール検討会
議事概要(PDF)

ここで言う「ルール」こそ、仕様外の相互運用性(インターオペラビリティ)のために「ガイドライン」で定めることなのです。

ごっちゃになっています。

不動産IDの「仕様」は仕様、その他、「利用にあたっての留意点」といったガイドラインはガイドラインを解説する別文書にするぐらい、はっきりと区別して使い分けるべきです。

米国版「不動産ID」、RESO UPI

本書でも紹介した、米国における不動産情報の標準化組織 RESOは、中立的な民間の標準化団体ですが、米国版の「不動産ID」を策定ずみです。因みに、日本語での情報は一切ありませんでした。 <酷い話しです。

米国版の「不動産ID」と言っても、RESO(Real Estate Standards Organization)標準は総合的な不動産標準なので、データフォーマットやデータ・ディクショナリーやWeb APIを含めた一連の仕様の中の一つにすぎません。

固有のIDは、RESO Unique Identifiersとして規定され、その内の一つがRESO UPI(RESO Universal Property Identifier、RESO ユニバーサル・プロパティ・アイデンティファイアー)です。

RESO Unique Identifiers – UPI, UOI, ULI

RESOでは、固有IDとして以下の標準を策定しています。UPI(物件)、UOI(組織)、ULI(免許)。固有のIDは、不動産業界のプロフェッショナルや消費者に対して、業界のデータセットが最も効率よく正確な方法で保存・共有・表示されることを確実にするためのものです。

RESO creates standards for unique identifiers for properties (UPI), organizations (UOI) and real estate licensees (ULI). Unique identifiers ensure that industry data sets can be stored, shared and displayed in the most efficient and accurate way for real estate professionals and consumers.

RESO (Real Estate Standards Organization)
RESO Unique Identifiers – UPI, UOI, ULI

この、RESO Universal Property Identifier (UPI)が、日本でいう「不動産ID」に相当するわけです。

RESO UPIの仕様書はここ(ZIP)。正式名称は「Universal Property Identification System Specification v1.0」。

具体的なサンプルは「US-36061-N-S-010237502R1-113」みたいな感じ。内訳は、{COUNTRY}-{SUB-COUNTRY}-{SUB-COUNTY}-{PROPTYPE}-{LOCAL-ID}-{SUB-PROPERTY-ID}、みたいな。

因みに、{LOCAL-ID}はどこから来るかというと、“parcel number”って言って、行政が課税などをする対象としてID番号を振っているのでそれを元にしているとのこと。

このRESOのページには、UPIビルダーといって、住所入れるとUPIに変換してくれるツールがあって、逆のUPI入れると住所が表示されたりもします。なにげに、それらの変換処理を提供するAPIも用意されているという、便利な感じになっています。

どこが窓口になるのか

「~不動産IDルール検討会の中間とりまとめを踏まえ、『不動産IDルールガイドライン』を策定~」ということで、主語は省略されていますが、「踏まえて(国交省が)策定した」ということで良いのでしょう。つまり、「国交省策定不動産ID仕様とガイドライン ver 1.x」、みたいになっていくということで。

で、今後の改定や相互運用性(インターオペラビリティ)にまつわる質問対応などはどこで誰がどうしていくのでしょうか。

悪い前例

利用できることになったのは良いことですが、「不動産ID」の仕様策定も、不動産情報の標準化に合わせて、標準化団体を設立してそこでやるべきであったのです。

不動産IDにしろ(将来的な他の仕様も含め)、国という権威者によって押し付けられる「ルール」であってはならないのです。

今後のことを考えると、とても悪い前例が出来てしまったな、と思います。

「不動産IDに既得権の壁」???

2021年11月28日付、日経新聞が「中古住宅、データは伏魔殿 不動産IDに既得権の壁」という記事を出しています。

記事の内容としては、一般紙の記者さんにしては良く勉強されているのは確かだと思います。日経新聞で、このように不動産業界の無策について一歩踏み込んだ記事を書いて頂いたこと自体はとても素晴らしいことでもあります。

ただ、ですね・・・誠に申し訳ないのですが、この記事を詳細に読むと、読めば読むほど色々と問題というか間違いも多くありまして・・・、私の立場としては、今後も踏まえて色々とコメントをしておきたい点が多々あります。

もともと、日本の不動産業界関連の話題は、ステークホルダーというか、関連する企業、団体、業界が多すぎて、それぞれの利害関係も把握するのが難しいほど複雑なものです。また、直面している課題も多く、様々です。それに加えて、IT技術が絡むとさらに難易度が高くなるのも分かります。

それは分かるんですが・・・しかし、それらを全部ひとまとめにしては単純化しすぎですし、一緒くたに論じてしまうのは誤解を生むばかりで、問題を明らかにするどころか、間違った前提を広めてしまいかねないと思います。

基本的な事実誤認も多く・・・

順番に行きましょう。

まず、「中古住宅、データは伏魔殿 不動産IDに既得権の壁」というタイトルなんですが、前半はまぁその通りとも言えますので良い(が、別に中古住宅のデータだけではない)のですが、後半部分の「不動産IDに既得権の壁」が、一体なんだそれ、であります。不動産を一意に識別出来るように「不動産ID」という仕様を定めます、というだけの話しに「既得権」が何の関係があるのでしょうか。別に誰も反対していませんが。

これ、そもそも「不動産IDとは何か」を誤解されていると思います。

本文の初っ端からも、「中古住宅の売買取引を透明化する官民プロジェクトが10年以上も迷走している」っていきなり一体なんのこった、って話しであります。不動産IDとはなんの関係もない話しです。にも関わらず「中古不動産売買取引の透明化プロジェクトの不動産ID」であるとか誤解して読む人達が多数発生しています。

全くなんてこった・・・。

「10年以上も〜」という所から推測するに、後段で登場する「08年の国交省研究会の提言」の事を言っているのであれば、これ(「不動産ID・EDI研究会報告書」)の事であって、改めて後述しますが、その内容は、「不動産EDI(Electronic Data Interchange)」を主眼とした研究会にすぎません。これ、つまりは標準化した物件情報流通規格のことを言っているのであります。「中古住宅の売買取引を透明化する官民プロジェクト」でもなんでもありません。

基本的な間違いであります。

さらにそれに続く「不動産業界がオープンな情報システムによって既得権を脅かされると警戒しているからだ」というのも大きな問題だと思っています。

まず、「オープンな情報システム」ってのが曖昧すぎる表現で、具体的に一体何を指しているのか誰も全く分からない言葉を使っています。Linuxのような「オープン」なシステムの事を言っているのでしょうか?それとも、これはいわゆる「レインズの一般公開(オープン化)」のような事を言っているのでしょうか、それであれば、これも不動産IDとも無関係でデータ連携とも別次元の話しです。

具体的に、「誰」に対して「何」を「オープン」にする話しをしているのか、というのが最も重要なポイントで、それ次第で全く違った話しになります。そこを曖昧にしたまま、「オープン」「オープン」言っても、絶対に話しが噛み合わない、ということは確実です。

また、「不動産業界が」というのも大きすぎる主語で、宅建業者でも(中でも大手と中小、仲介客付けメインと自社物メインの会社では正反対の立場だったりする)それぞれ全く異なる立場です。

「不動産業界が・・・既得権を脅かされると警戒」と書くならば、業界を代表する全宅連などの業界団体からのコメントを引き出すべきでしょう、少なくとも。

そもそも、一体全体どんな既得権がどういう風に脅かされるというのでしょう。根拠を挙げて欲しいものです。何でもかんでも「不動産業界の既得権を脅かされる」みたいな警戒自体が誤解の元に成り立っているのです。

この種の誤解のせいで、日本の不動産業界では情報流通のITデジタル化において何も前に進まない所があります。にも関わらず、一般紙でこの誤解を解かずにそのまま話しを進めるので、不動産IDや標準化を進めると本当に「不動産業界の既得権益」が損なわれるのではないか、というような虚構を読者に広めるだけになってしまっているのではないか、という大きな懸念があります。

記事では、「不動産IDは不動産取引を透明化する為のもの」、みたいな間違った前提で話している為、すべて話しがずれています。

細かいことを言えば、「建物や土地を登記簿の番号で管理する『不動産ID』の構想」という「管理する」という曖昧な表現なので、巷では「不動産IDという制度」という風に書く人や、なんらかのシステムだと誤解する人まで現れています。「不動産ID」は管理するものではなく識別するIDの仕様に過ぎません。

ですから記事中の「不動産IDのデータ連携」や「不動産IDを使ったデータ連携」というような、「不動産IDさえあれば(使えば)データ連携ができる」みたいな誤解を与えやすい表現は避けるべきです。

引用されている政府答申(PDF)にも「不動産IDとしての不動産登記簿のIDの活用」としか書いていなくて、「不動産IDを使ったデータ連携を求めており」なんてことはありません。

そもそも「データ連携」って何を指して言っているのでしょうか。記事では「データのオープン化と連携」のような事と同義語で理解(誤解)してしまっているようです。

図なども含めて全体を通して読むと、一部で「不動産ID」と「データ連携」と「オープン化」を混同してしまっているようにさえ見受けられ、相互に言葉を入れ替えても意味が通じてしまうレベルです。

「不動産ID」はもとより、まず「データ連携」とは具体的に何を指すのかはっきりさせほうが良いでしょう。「(不動産関連)行政情報の集約と物件データとの紐づけ」を想定して「データ連携」という言葉を使うのは間違いではありませんが、実際はもっと幅広いですし、集約と紐づけと連携というのはそれぞれ別の概念です。私は「異なるシステム間での物件データのやり取り」という意味も含めて「データ連携」という言葉を使っています。

「オープン」ではない「データ連携」もあるのです。

また、記事中で触れられている「08年の国交省研究会の提言」の「不動産IDの構想」なるものとは「不動産ID・EDI研究会報告書」の事であって、その内容は、「不動産EDI(Electronic Data Interchange)」を主眼として提言しているのでありまして、つまりは標準化した物件情報流通規格のことを言っているのであります。

IDの仕様策定はEDIをやる上で必要・前提となる仕様のうち単なる一つの付随事項にすぎないのです、本来は。

なので、記事にある「『不動産ID』の構想も骨抜き」という一文は明らかな間違いで、あえて言うなら「『不動産EDIの構想』が骨抜き(でIDだけになっちゃった)」、なら正しくて意味も通じる、って話しです。

普通に読んでも「不動産IDの仕様を決める」ってだけの話で「不動産ID構想が骨抜きに」って日本語的にもオカシイでしょう。骨抜きしようの無い話しなんだから。

今からでも記事に訂正入れた方が良いレベルの明らかな間違いです。

しかも、あれ「構想」ではなく実際には研究会が報告書で提言しているに過ぎませんし。

ですから、「不動産IDを使ったデータ連携」ではなく、「不動産APIを使ったデータ連携」とかなら意味が通るというか、日本語的にも技術的にも正解です。

APIをやるにしても集約・紐づけするにしても、まずは基本「ID」が必要でしょ、って話しなんですよ、単に。

なので、「不動産ID」でデータ連携が可能になるとか言うのは、EDIやAPIと混同してしまっていて不正確で、勝手な願望に過ぎず、不動産IDの仕様を決めたからと言って、魔法のようにデータ連携や集約がされる訳ではありません。

「不動産IDとデータ連携は別の議論」なのですよ。

これはそもそも国交省の発表資料からしてツッコミどころが満載で誇大広告なのでしかたがないのかもしれまえせんが・・・。

完全に「不動産ID」という言葉が陳腐なバズワード化しています。

乱暴なたとえ話をすると、「住所を割り振ったから郵便配達網が出来る!」とか言うようなものです。論理飛躍しているところが。この例えで言えば、今回の不動産IDというのは単に「郵便配達網が無いと思ったら住所すら整備されていなかったので、とりあえず住所だけ割り振ってみただけ」みたいな話しであります。

なので、記事のタイトル「不動産IDに既得権の壁」ってところからして、そもそも有りえない話しなのです。なんで不動産にID振るだけで既得権が脅かされるのか、っていう筋が通っていない話しでありまして・・・

ありえんのです。

誤報レベルです。

あれもこれも、「不動産ID」は「不動産取引を透明化する為のもの」で「不動産IDさえあればデータ連携ができる>オープンになる>透明化される」という誤解に基づいて記事を書いてしまっているからだと思われます。

「不動産IDとデータ連携は別の議論」なのです。

記事では、「既得権に配慮してか『不動産IDとデータ連携は別の議論』と及び腰の官民検討会」とありますが、国が「不動産ID」を策定するだけでもやり過ぎなのに、その先のその仕様の使い方まで指示するのはありえない事なので当然です。

米国の様に、業界団体が標準化団体を作って標準化作業の中で仕様を策定していくのが定石なのですよ。

記事中の「不動産IDをつくっても、その先の個々のデータ連携にまで国は口を出さない」というのは当然の話しです。そもそも「不動産ID」の仕様策定に国が出てくる話しですら無かったのです。業界団体や標準化団体で、ずっとむかしに標準化の一環としてやっておくべきことの一つに過ぎません。しかも、その「不動産ID」の利用方法に国が一々指図するなんてありえませんので。

基本をご理解頂きたいですね。

繰り返しますが、APIをやるにしても集約・紐づけするにしても、まずは基本「ID」が必要でしょ、って話しなんですよ、単に。今までなかったのかよ、レベルの話しです。

だから、「不動産IDとデータ連携は別の議論」。

そもそも、既存の非効率的なデータのやり取りを連携しやすくすることが、どうして「異業種も交えた」「一般消費者が得る」「情報がガラス張り」になるのか、根拠がゼロです。

不動産IDにしろデータ連携が具体的に誰のどんな「既得権」をどういう風に脅かすのか、(デタラメなコメントは引用しても)一切解説されていないのがこの記事の致命的な点であります。

そもそも、宅建業法を抜本的に改正でもしなければ「情報がガラス張り」なんてならんでしょう。守秘義務もあるんだから。あえて言うなら個人情報保護法も廃止するなりしないとね。基本的過ぎる話しで、本気で脱力します。しかも、そうなったらなったで何がどう脅威なのか教えてもらいたいところです。

もうですね、不動産に固有IDを振るだけで一体何が変ると思っているのかね?と小一時間問い詰めたくなります。ID振っただけで「異業種を交えたデータ連携」が実現して「情報がガラス張り」になるんだったら誰も苦労しねーわ、というw

100歩譲って想像力で補完して「レインズのデータをまるまる異業種に提供するようなのはオカシイ」という話しをしているのであれば、言いたいことはまだわかります。日本の場合「業者間流通」という名目で業法のもとに強制登録させられているレインズのデータを他業種が自由に使えるように開放するなんてのはレインズの存在自体の抜本的見直しと「物件情報は誰のものか」を含めて、業法の法改正をすべきレベルで、色々と慎重に議論してから決めるべき問題です。ですが、そもそもそれ不動産IDとは一切まったくなんの関係もありませんから!ここでは誰もそんな話しはしていませんがな、みたいな。

あとですね、米国の事例として記事中に挙げられた「MLSも多くは業界団体系列で、かつては外部とのデータ連携を制限していた」というのも間違いで、「外部」でもなく「異業種」でもなく、同じ不動産業者同士への情報提供を「しないオプション」を提供するポリシーが問題になった、です。

米国の司法省のサイトから直接参照して引用すると、"traditional brokers"が、"discriminate against innovative brokers"ということですから、「伝統的な不動産会社が(オンラインベースの)革新的な不動産会社への情報共有を阻害できるようにしているNARの規定が健全なる競争を妨げている」というのが司法省側の主張の趣旨です。

これは不動産業者同士の話しであって、日本のような不動産テック企業のような異業種である「外部」との話しではありません。MLSサイト外という意味の外部でもありません。

MLSは「オープン」ではありませんが、(日本のような業法による縛りがありませんから)元々物件情報を外に流して自社サイトなど「外部」で物件検索できるようにする仕組みは前述のRETSとかVOWを利用する仕組みが元々ありました。

つまり、不動産業者同士の情報共有を阻害したらそらまずいでしょ、という。「外部」云々とはまったく意味の異なる話しであります。

この記事は、間違いが多すぎます。

それに、「プライバシー保護などを理由に不動産業界が賛同しなかった」みたいな話しも、個人情報保護法もある中で、不動産業界は違法な事をすべきだった、とでも?

間違いを挙げたらキリがなくなってきたので、この辺にしますが、こういう誤解を広める片棒を担いでいるのが、残念ながら日経を始めとしたメディア、という風にも言えるでしょう。

本来は、このような誤解をそのまま事実のように報じるのではなく、そういう層に向けて「分かりやすく解説して啓蒙して誤解を解く」のがメディアの役割かと思います。

日本の不動産業界には問題点が多すぎて、一つの記事にまとめて詰め込みたくなる気持ちは良く分かるのですが、基本的な誤解を助長するかのようにそのまま報じてしまったり、様々な課題をごっちゃにして単純化しようとしてしまうと、色々と問題だ、という感想です。

つまり、囲い込み(両手取引)の問題や取引の透明化といった業法と商習慣の問題、レインズ自体の問題、中古住宅情報のストック化や関連行政情報の集約と紐付けと言ったインフラ的な問題、そして不動産業界として物件情報の標準化が出来てないという問題は、それぞれ別の話しであることを明らかにした上で、きっちりと切り離して論じるべきであると思います。

これらを全部ひっくるめて無関係の不動産IDを無理やり絡めて語るのはあまりにも無理がありすぎです。ちゃんと切り分けて整理して話さないと、何が問題で、誰が何に対してどんあ反対しているのか全く分からない論点がずれた話しになってしまいますし、誤解を広められると前に進められる話しまで全部進まなくなってしまいます。

という訳で、記事の第二弾を期待しています。

「不動産IDで『おとり広告』を排除」???

国交省は、不動産IDの仕様策定にあたり、不動産IDの「ユースケース・メリット」として「不動産情報サイトにおける物件のおとり広告排除」を挙げています。

日経新聞も図表で「成約済みなのに掲載を続ける『おとり物件』を自動的に見つけてサイトから排除できる」と報道しています。

この時点で既に、不動産IDの「ユースケース」として「諸々の前提条件がすべて実現したと仮定して、こういうケースで使えると想定してる」ぐらいの仮定の上に仮定を重ねた話しが、いつの間にか、不動産IDで「実現できる」という夢のような話しにすり替わってしまっていますね。

メディアマジック。

そんなこんなで、大元はどこの誰が言い出した事なのか知りませんが、ブログやSNS等、巷では「不動産IDで物件検索サイトに掲載された成約済みの『おとり物件』を自動的に判別して排除できる」という言説が広まっています。

では実際の所、これ、本当なのでしょうか。

結論から言うと、不動産IDで「物件検索サイトに掲載された成約済みの『おとり広告』を自動的に判別して排除できる」なんてありえません。

なぜかって、実際のところ「成約済み」かどうかってのは、貸主・売主といった契約の当事者に直接確認するか、契約に関わった不動産会社に確認しないと分かり得ないことだから。

つまり、不動産IDで物件情報が一意に識別できるようになったからといって、物件検索サイト側でその物件が「成約済み」かどうかなんて、どうやったら自動で分かるんだ、って話しです。

不動産IDだけでそんな事ができる方法があるのであれば、是非教えて頂きたい。

因みに、不動産会社は物件検索サイトにわざわざ「成約情報」「成約通知」なんて送りません(ただの広告サイトなんだから)。申し込みが入ったら即「取り下げ」を行うだけです。でないと「おとり広告」になりかねないから。審査が通って契約が済めばそのまま、そうでなかったら再度「公開」手続きをするだけ。物件検索サイト側では最初から最後まで、その物件が「成約」したのかどうかはわかりようがありません。

物件検索サイト側では物件が実際に「成約済み」かどうかは判別しようがないのですから、それが成約済みの「おとり広告」かどうかも判別出来ないということです。

徹底的に取り締まるというのであれば、何らかのペナルティを設けて、物件検索サイト側がアクティブに取り締まりでも行わないと無理です。ところが検索サイト側としては大量に物件広告を出してくれる「お得意様」に対しては腰が引けるし、物件広告費で利益を得ているわけですから、広告を減らすような事には及び腰なわけです。

「おとり広告」の排除自体、簡単な話しではないのですよ。ましてや不動産IDで自動判定排除なんて無理。「銀の弾丸」なんてものは存在しません。

それよりか、別のアプローチで改善を計るべきです。不動産会社の営業なりが一々広告取り下げ云々をしたり、空き確認の電話をしょっちゅうしなければならない現状を解決すべきなのです。営業の負担を減らせばミスも減るし、情報の鮮度も質も上がるし、悪意の無い「掲載したまま」物件も減るでしょう。

具体的には、不動産会社の自社業務システムと物件検索サイトがAPIで繋がれば、自動的に申し込みが入った物件はAPI経由で物件検索サイトへの広告を取り下げ、といった処理も自動で行えますし、やりようによっては他社への空室確認(成約済みの確認)も自動化できます。そうすれば意図しないで掲載したままになってしまったというミスをそもそも無くすことが出来ます。

こういったシステム連携には、APIが必要なのです。で、APIでやるには当然IDが必要、ってなだけであります。

さらに言えば、レインズでの成約情報使うという「仕組み」について考えてみましょう。レインズには成約通知を出さなければならない決まりがあります。ですから、レインズが何らかのAPIを実装して、外部の物件検索サイトからのAPI経由の問い合わせに「そのIDの物件は成約済みか否か」を自動応答出来るようにすれば、物件検索サイト側で対処できるようになるでしょう。しかしながら、レインズに登録されるのは現状、売買のみのそれも専任の物件のみ。ごく一部でしかない。すべての物件を登録するよう業法を改正しないと変わりません。つまり、おとり物件は完全に無くすことは出来ません。

こういった現時点では非現実的な仮定の上に仮定を重ねていった上での「不動産IDでおとり広告排除」なんていうのは、空想であってフィクションの世界です。つまりデタラメ。

しかも、そもそもの話しレインズでAPIで物件の成約済み情報を取れるようにするくらいなら、APIでレインズから物件情報そのものを取れるようにすべきです。そしたら不動産会社はレインズに物件情報を登録するだけで済むようになり、非常に楽になります。ちょうど、米国ではMLSにさえ登録すれば済む、という感じであるのと同様に。(ま現状のレインズの体制でそういったことがまともに出来るとは到底思えませんが)

こういったシステムを実現するためには、まずは標準化が出来ていないとならないのですが、現状は、これをどうするかなんて話もできない段階です。

番外編「霞が関パワポ」「官僚パワポ」の問題点

不動産ID関連の事を書くにあたって、国土交通省のサイトの公式の発表資料を色々調べて確認していたんですが、相変わらず酷いですね〜。

まず、情報がまったく整理されておらず、色々な所に散逸していて、どれが最新のものかも分りづらい、という。

何よりも問題なのが、検索して一番に出てくる、内容がゴチャゴチャに記載されたPDFファイル。

ホント、もうね、これだけで、日本の官僚と行政のレベルが分かるってもんです。

こういうアクセシビリティ最悪のものを恥ずかしげもなく公開してくる辺りで、「あ〜ウェブの事もなんにも分かっていないトンチンカンな人達がやっているんだなぁ」とか「情報発信とかコミュニケーションとかまったくな〜んにも念頭に無い人達なんだなぁ」とね。

これ、巷では通称「霞が関パワポ」「官僚パワポ」なんて言われて嘲笑の対象。「ポンチ絵」だの「曼荼羅」なんて揶揄されてネタにすらなっています。

さらには英語圏の日本界隈クラスタにもバレている。

世界では「日本のパワポは世界一醜い」という話で盛り上がっている(泣)

私が以前から指摘してきた上記のことが、ついに海外勢にまで知れ渡ってしまったようで、困りましたね。というか、日本の企業や官庁の皆さんはもう少し困ったほうがよいでしょう。

株式会社コミコン
世界では「日本のパワポは世界一醜い」という話で盛り上がっている(泣)

まぁ、それを当然のように看過し続けてしまった我々日本国民の責任といえばそれまでですが。

この「霞が関パワポ」「官僚パワポ」、もとは官僚が大臣などに説明(レクチャー)する際の資料からきているとかなんとか言われていますが、そんなこたぁどーでも良いのです。国民への情報提供・情報発信を行うにあたり、こんなんで良いのかどうか、というのが問題なのであります。

具体的に何が問題なのか、簡単に列挙してみましょうか。

1)非ウェブ的で必要な情報にたどり着けない

ウェブ(World Wide Web)というのは、ハイパーテキストのデジタル文書をリンクで繋げて参照できるようにしたもので、始まりは学術系の論文などを公開したりして使われるようになったという背景があります。なので文書構造がはっきりしていて参照や出典などを明らかにできるようになっているという特徴があります。

つまり、ウェブの利点はリンクで必要な情報をたどることができる、ということなのですが、「霞が関パワポ」「官僚パワポ」をボンと出されても、そこがドンズマリなわけです。それ以上リンクをたどれません。

なので、いきなり「霞が関パワポ」「官僚パワポ」のPDFを開かされても、「えっと、元のメインページはどこ?」「この資料の説明はどこにあるの?」「親階層のインデックスページは無いの?」と、いつもイライラします。

ウェブ的ではなく、不便きわまりない。利用者のことを考えていません。

2)内容が誰にも正しく理解されない

「霞が関パワポ」「官僚パワポ」で情報が正確に伝わるだろうと思っていたらトンデモない話しであります。

あのような資料というのは、単に「イメージ」を伝えるだけのものであります。個々の項目について誤解の無いように伝えるには、まともな文章が必要です。プレゼン用なら文章の代わりにスピーチ。

でないと、人それぞれ勝手にイメージを独自に解釈してしまいます。

まともな資料というのは、まずちゃんとした文章があって、その文章を補完するために図表やイメージ図が出てくるのです。

イメージ図だけ出して誤解なく伝わると思っていたら大間違いです。(なんでこんな小学生相手みたいな事を官僚向けにわざわざ説明しなければならんのか)

それっぽい言葉を散りばめて、曖昧で抽象的な言葉を使いまくって用語の定義もせずに、なんとなくそれっぽい内容の「霞が関パワポ」「官僚パワポ」を作ったって、誰にも何にも伝わらないどころか、誤解ばかりが広がるってもんです。

一枚のシートにたくさんの文字やグラフィックを詰め込んだパワーポイントをよく見かけます。なるべく枚数を少なくしたいのだろうと思われますが、残念ながら「何がいいたいのかさっぱりわからない」資料になっていることがほとんどです。これは文字情報よりは間(ま=何もない空間)のほうが意味を提供している、ということを理解していないからです。間(ま)それ自体がメッセージなのです。

さらに、文章それ自体は「単にアタマの中で論理的になぞればよい」のですが、グラフィックは視覚で「解釈」する必要があります(この解釈力は個人の過去の記憶や体験への依存度が強いような気がします)。「感覚的に理解する能力を前提としている」パワーポイントは判りやすいのですが、「アタマの中で文章をなぞる」ことが前提になっている資料は当然ながら「図解」でもなんでもありません。

官僚や役所が作る資料が判りにくいのはそういう理由です。「(なぞっていただくことを前提とした)論理的な文章構造」を、ワープロにではなくパワーポイントという「図解前提のプラットフォーム」にはめ込んでしまったことで、ユーザーが混乱しているのです。

2015年12月11日
Wirelesswireニュース
官僚が作るパワーポイントがわかりにくいのはなぜか

例えばですね、「霞が関パワポ」「官僚パワポ」のなかで「***のユースケース・メリット」として「A、B、C」色々と列挙されてたりします。すると、メディアとかは「***でA、B、Cが実現!」とか報じちゃうわけですよ。

実際のところは、「霞が関パワポ」「官僚パワポ」の内容には重要な情報や前提が欠落していて、***でA、B、Cが実現する訳ではなく、「***整備に加えて、***実装が進展し様々な関係データの連携が実現した場合に」という但書があって、その時、誰かがA、B、Cをやる際にちょっと便利、という程度の話しだったりします。

これは、「霞が関パワポ」「官僚パワポ」では、「そもそも誰の為の何の為のどういうもの」という点からして、論理的に説明できていないからです。5W1Hというやつですね。

だからITにも不動産にも疎いメディアとかも勝手に解釈して話しが一人歩きしてしまうのです。この間の日経新聞の記事がまさにそれで、結果として間違いだらけの事を報じることになってしまったりします。

3)マルチデバイス非対応

スマホやタブレットなどが登場して大分経ちますが、ウェブの世界もそれに呼応して、「マルチデバイス対応」を意識したものに大きく変化しました。

昔のようにパソコンのディスプレイのサイズを指定するような固定幅のサイトではなく、現代のウェブ制作者は、どんなデバイスのサイズの画面でも問題ないような「レスポンシブWebデザイン」を採用したり、スマホやタブレットなどの小さな画面サイズでも読めるよう意識して作るのが常識となっています。

そういうなかで、レスポンシブでもない内容がゴチャゴチャに記載された「霞が関パワポ」「官僚パワポ」のPDFファイル、なんて論外なわけですよ。せめてHTMLのページありきで、そのPDF版というおまけの位置づけにすべきです。

4)検索エンジンの事を考えていない

Googleなどの検索エンジンというものは、ウェブページの記述言語であるHTMLの構造を解析して文章の内容と重要度を判断してキーワードを決定します。

具体的に言うと、Hタグ(見出し)とPタグ(パラグラフ)でくくられている文章では検索エンジンにとっては全然意味が違ってくるのです。

なので、HタグもPタグもEMタグも何もない、HTMLページではない「霞が関パワポ」「官僚パワポ」のPDFファイルでは、検索エンジンは内容を正しく高い精度で解析する事も出来ず、検索に出てこないか、出てきてもトンチンカンな検索結果に出てきたりするのです。

5)そもそもPDFは印刷用

PDFとは、異なるシステムや環境においても崩れたりすることなく文書を印刷をする為の仕様を元に作られた(PDFの元の先祖はPostScript)ファイル形式であって、元々は印刷向けのファイル形式なわけです。

なので、同内容のHTML形式のウェブページも存在しない中で、「霞が関パワポ」「官僚パワポ」のPDFファイルだけボンと出されるなんて国の情報発信としては論外なのであります。

ホント論外。

6)そもそもプレゼン資料としても失格

良いプレゼンの資料という観点では、他に多くの方たちが「霞が関パワポ」「官僚パワポ」について書いているので、非専門の私としてはそちらに任せます。

7)アクセシビリティへの配慮が皆無

ここで言うアクセシビリティとは、「誰にとっても利用しやすい(読みやすい)」ように配慮する、ということです。主には聴覚障害者とか向けの話しではあります。

PDFだと、文字の大きさから色のコントラストやフォントの種類から何から、読みにくい場合に変更するという選択肢がありません。前述したように印刷向けだから。

アクセシビリティ的にも最悪なのです。

以上です。

(おーい、デジタル庁、仕事してるか〜?)

「システム標準化」と「データ標準化」の違い

新しく出来たデジタル庁が掲げている政策には、政府と自治体を含む行政基幹業務システムにおける「システム標準化」と、「データ戦略」における「データ(&API)標準化」の二つの標準化が含まれます。

この違いは非常に重要で、「データ(&API)の標準化」は、私が不動産業界にもずっと提唱し論じて来たことであります。一方、「システムの標準化」というのは全く異なる話しでありまして、これは行政における特殊事情が関係していて、「業務標準化」とも密接に関わってくるものであります。

民間の業界など、一般においては「オープンスタンダード(オープン標準)」と言って、誰がどんなシステムを使っていようが問題無いように相互運用性のあるデータ形式にしましょう、というものが「データの標準化」。

これは単一のシステムを強制するのではなく、多様なシステムを許容し、さらなる自由競争を促進するためです。

一方、「システムの標準化」とは、ある意味、その逆を行く考え方で、統一的なシステムにしましょう、というものです。この考え方が「あり」、なのは、行政という政府から地方自治体までのピラミット構造の(ある意味一体的な「組織」というか)システムの話しだからこそ、なのです。

行政においては、似たようなシステムを個々の自治体が別々に発注して開発して維持していて、それぞれが似たようなシステムでも全く異なる作りになっているのが、色々と不都合で非効率で高コストなわけです。(そのホコロビがパンデミックで露呈したのでデジタル庁が出来た)

だから、基本的なところ(行政基幹業務)は「ガバメントクラウド」でまとめて、色々なことも標準化すれば、各自治体の個別事情はそれぞれで開発・運用出来るようになるだろう、みたいな感じに考えているのだと思われます。

しかし、「システム標準化」というのは「業務標準化」とも関わってくる話しです。これ厄介ですよ。各自治体が今までやってきた業務のやり方を変えて、標準化されたシステムに合わせていかないとならないわけですから。

「システム標準化」なんて行政とかの特殊なケースでしか行わないので、具体的なケースとかあまりないですし、軌道に乗るまで、色々と問題が噴出するんじゃないかなぁ、と感じています。

普通の民間でいうと、「既成のパッケージシステムの導入」に近い話しになりますね。

と、ここで予めクギを刺しておきたいのですが、不動産業界などで「システムの標準化」をやろうなどとは夢にも考えないでくださいね。いや、ふつう考えないと思うのですが、日本の不動産業界は普通でなく、トンデモナイことを何十年も続けているので。

*因みに、そもそも、「システム標準化」を直訳すると、「Systems standardizationつまり仕組み標準化」みたいな非常にぼんやりとした言葉で、あまり使われないと思います。どちらかというと、日本では和製英語的に広く使われ出しているような。元の英語的語感では単に「Standardization」と言うだけです。日本で使われている「システム標準化」をあえて英語にすると「IT (Infrastructure) Standardization」か・・・あまり聞きませんね。もともと特殊なケースの話しとなります。

標準化が進まない日本〜理由は「自分が損をしてでも人の足を引っ張ろうとする日本人」?

日本では、不動産IDにしろ、標準化にしろ、みんなで協力して社会を便利にしていこう、という動きに対して、必ずと言って良いほど「デマを広めたりする人達」や、「抵抗勢力」、というのが現れます。

そういう人達は、話せば分かるとかではなく、懇切丁寧に説明しても無駄です。アレやコレや理由を挙げますが、どれも根拠の無い話しです。次から次へとあることないこと理由を挙げて反対したりします。それも、表立って反対すればまだ分かりやすいですが、非協力という形で反対する人達が大多数です。

これは何故なのか。

業界に蔓延する誤解と、それをそのまま煽って逆に誤解を深めてしまうような日経新聞などを含めたメディアの報道なども一因だと思いますが、それだけではないようです。

私はIT業界の片隅にも関わって、ITの発展はかれこれ四半世紀に渡って直に見てきたわけですが、欧米では「標準化」という作業を有志をはじめとし業界を挙げて協力して行い、「スタンダード(標準)」となる仕様を策定し、皆が便利になる仕組みを作り上げてきました。

インターネットとウェブそのものがその成果物です。また各種ビジネス業界でも「標準化団体」というものを結成して、「標準規格」と言った仕様を「公共財」として皆で使うものを作り上げて、業界の発展に寄与させています。

直近ですと、IntelとAMDとARMといった競合企業同士が協力しあってチップレットの標準化に動いているとかいうニュースもありましたね。これが欧米ではごくごく普通のことです。

IT業界と英語環境に片足を突っ込んで半分以上そういう文化圏に染まっている自分としては、それが半ば普通で当たり前の感覚なのですが、日本の状況はまったく異なります。

日本では「標準化」といった社会活動がまるで無いのです。というかそもそも概念すら一般には知られてもいない。

唯一ともいえるのは、「やっぱ海外とビジネスやっていくには国際標準がカギ」と気が付いた分野で話題になる程度(金融やモバイル通信ぐらいか)。日本のIT業界ですら、単に欧米の標準をありがたがってそのまま使っているだけ。

今回の不動産IDの仕様策定にしたって、当事者の不動産業界がみずから動くでもなく、お国のお上から言われて何十年もかかった挙げ句になんとかやっと国が思い腰を挙げて取りまとめたというレベル。

不動産情報の業者間流通システムにしても、米国ではその意義を認めた同業者同士が協力しあって自らMLSを立ち上げて自分たちで運営している一方、日本では宅建業法で法的に設置を定められたレインズというクソサイトを法律上の義務としてイヤイヤながら使っているという体たらく(不動産ジャパンの大失敗はいわずもがな)。

不動産情報の標準化にしても、米国ではNARが1999年から動いている一方、日本の不動産業界団体はピクリとも動かない(私が2002年に全宅連に提案してからもう20年が経ちました)。

この差。

なぜ日本では皆がここまで無理解、非協力的なのか。なぜ日本では社会を便利にしようとすると、それに反対する人達が出てくるのか、なぜ協力が進まないのか。

そこでふと思い出したのが、ちょっと前に見掛けた記事。

「日本人は他人の足を引っ張りたがる」という社会学的な研究結果があるとか。(個人的に、こういう社会学的な考察は研究者のさじ加減で結論どうにでもなる傾向があるので絶対というものではないと思っていますが)

日本人は他人の足を引っ張りたがる

日本社会が不寛容であることは、学術的な調査研究でも明らかとなっています。大阪大学社会経済研究所の西條辰義教授(現高知工科大学経済・マネジメント学群特任教授)らの研究によると、被験者に集団で公共財を作るゲームをしてもらったところ、日本人は米国人や中国人と比較して他人の足を引っ張る傾向が強いとの結果が得られたそうです。

「被験者に集団で公共財を作るゲームをしてもらったところ、日本人は米国人や中国人と比較して他人の足を引っ張る傾向が強いとの結果が得られた」
「公共財に投資をすると自分はその利益を得られる一方、公共財であることから相手にも利益があるという状況を想定し、被験者がどのような行動を取るのか確かめるというもの」

「仮に相手が投資を行わなくても、自分が投資すれば自分は利益を得られますが、相手はその投資にタダ乗りしますから、何もせずに儲かることになります」

「相手がタダで利益を得ているといっても自分も儲かるので投資は行うという人と、相手がタダ乗りするのは許せないという感覚から、自分の利益が減っても、相手の利益をさらに減らそうとする人に分かれる」

「自分の利益が減っても相手を陥れようとする行為を学術的にはスパイト(悪意、意地悪)行動と呼びますが、似たような実験を日本人、米国人、中国人に対して実施し、その結果を比較したところ、相手の利益をさらに減らそうとするスパイト行動は日本人に特に顕著だったことが明らかとなりました」

2022年3月6日
PRESIDENT Online
「損をしてでも他人の足を引っ張りたい」
日本人の"底意地の悪さ"が世界で突出している根本原因

これですね。

「便利になるのは良いけれど、他社も便利になると自分が損だから」みたいな。

「これ不便だな〜」という時に、「便利になるように皆で改善しよう!」ではなく・・・「皆がもっと不便になるように妨害してやれ」なんだから、酷い話しです。

なんていうか、時代についていけなくて頑迷に旧来の不便な方法に固執する単なる「老害」、みたいな話しよりもずっとたちが悪くて、害の大きい問題のような気がしますね。ビジネス上の利害関係とか既得権とかいう以前の話し。

なんていうか、色々とウンザリして、頭が痛くなります・・・。

さてはて、この障害はどうやったら乗り越えれば良いのやら。

Web3は分散型の夢を見るか

*タイトル、その界隈では有名な「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」のパロディです。既に誰か使っているだろうと思ったけどまだの模様。

コンピュータネットワークやソフトウェアの世界では、分散型というのは理想であり、また夢でもあります。

中央集権化したビックブラザーと分散化された暴走する自律ネットワーク、なんてまるでSFに登場するような話しではありますが、インターネットとその上で動くウェブ自体が分散型であり、インターネットの世界においては分散化(decentralized)というのはアイディオロジィ(理想・信条)とも言えるでしょう。

私も、P2Pというテクノロジーが登場した2000年前後、その理想にわくわくし、自分も何かP2Pを使った新たなソフトウェアを作りたいと思い色々と探ってみたものですが、結局何も作れませんでした。

*エンジニア(工学者)ではない自分の限界。

分散型の欠点として、悪い事をするアクターを排除するのが難しいという点があります。投票でなんとかするような民主的というか多数決的な解決方法は、参加する者の多くが悪い事をしたい場合とかには有効ではないですし、現実は数が多ければ正しいというものでも無かったりします。

また、誰もがサーバーを運用したいと思っているとは限らず、ハード面というかインフラ面でも誰もが安定したサーバーとして振る舞えるようにはまだなっていない、という課題もあります。

現時点では、ハイブリッド型の分散システムが現実的なのでしょうが、管理元が居る限り、誰が管理するのか、という点が残って(それ結局わざわざ分散システムにする意味あるの?的に)中途半端になり、限られた例を除いて、結局なかなか、というところ。

金融においては、新たなマネタリーシステムとしてビットコインが真のピュアな分散型を実現させました。

その他の分野での分散型の試みはP2Pを含め軒並み失敗というか、一般にはそれほど普及しているとはいいがたく、登場しては何か色々と問題が発生しては下火になっていっていきました。(法的な問題やスパムに汚染されたりして)

ビットコインの成功はコンセンサスアルゴリズムなどの組み合わせを使って管理者不在(トラストレス)を解決したからですが、ビットコインというデジタル動産を扱う(報酬も同じ)システムだからこそ、だと思っています。

*つくづく、ビットコインの開発者は凄いです。誰なのかは今世紀最大の謎(自分の中では)。

つまり、暗号通貨的なピュア分散型の方法は、デジタル暗号通貨というマネタリーシステムだから出来たとも言えて、その手法(例えばブロックチェーンを使うだけとか)を他の分野で単に流用しただけでは、真の分散システムの実現は現実的でもなく、まだ難しいだろうと思っています。

以上、前置きでした。

そんな中、昨今、Web3という言葉を目にするようになりました。Web2.0の次、ということですかね。

Web3に関しては、さまざまな議論があり、また定義も定まっていない状況のようだが、ConsenSysの文脈で登場するWeb3とは「分散型ウェブ(decentralized web)」を意味する。
 ConsenSysは「Web3は『分散化ウェブ』のトレンディーな別名称」であると指摘する。「Web1」が読み込みのみだったのに対し、「Web2」は読み込みと書き込みができるようになった。そして「Web3」は、読み込み、書き込みに加え、所有という要素が加わったものだと説明する。

2022年03月31日
ビジネス+IT
マイクロソフトが「Web3」投資を加速。ブロックチェーン企業への投資や人材拡充へ

脱「プラットフォーマー(大手SNSとか)」して、分散型の夢再び、みたいな。実態としては、まだ始まってもいないというところでしょうね。

Web3のような言葉は「バズワード」になりがちで、企業によって本来の技術や意義やその思想などからかけ離れた陳腐な宣伝文句として消費されたり、「テクノロジーで仕事が奪われる」などといった「FUD」としてメディアに利用されたりします。

*特に「AI」という言葉。

なので、基本的には自分はあまり使いたくない言葉だったりします。そういうのと一緒にされるのが嫌だからです。

ということで、いままで避けていたのですが、「【翻訳版】Web3についての私の第一印象」という、メッセージングアプリSignalの創業者であるMoxie Marlinspikesさんの文章に出会いました。

機械翻訳ベースのようで、ちょっと読みにくいですが、なかなか反響も大きいようです。原文はここ

*関係ないですが、暗号理論の本道をやる人として、「crypto」が「暗号学」でなく「暗号通貨」を指すようになってしまった現在の風潮に対してチクリとグチっぽく言っている所は、クスっとしました。

まずは「web3」の共通認識定義。

web3という言葉はやや曖昧なため、web3が抱く野望を厳密に評価するのは難しいのですが、一般的なテーゼは、web1は分散化され、web2はすべてをプラットフォームに集中させ、そしてweb3が再びすべてを分散化するというものです。web3はweb2の豊かさを与えてくれるとともに、しかし分散化もしてくれるはずです。

2022年4月9日
石ころ
【翻訳版】Web3についての私の第一印象

本文中盤はテクニカルな話しも長いので、結論まですっ飛ばしても構わないかも知れません。

現状、NFTも含めて、色々と問題や欠陥があるよ、という指摘です。

*因みに、自分は暗号通貨関連には手をつけてソフトウェア開発もしていますが、同様の理由でNFTなどは一切手も出していません。

結論では二つの点を言っています。

1)インフラを分散させることなく、信頼を分散させることができるシステムを設計することによって、人々が自分自身でサーバーを運営することはないという前提を受け入れるべきでしょう。
(中略)

2)私たちは、ソフトウェアを構築する際の負担を減らすよう努力すべきです。(中略)
私たちとテクノロジーとの関係を変えるには、おそらくソフトウェアをより簡単に作れるようにすることが必要だと思いますが、私はこれまで、その逆が実現するのを見てきました。残念ながら、分散システムは、物事をより複雑に、より難しくすることで、このトレンドを悪化させる傾向があると思います。

2022年4月9日
石ころ
【翻訳版】Web3についての私の第一印象

いいこと言いますねぇ!

インフラ(ハード)ではなく、トラストを分散させれば良い、と。

クライアント/サーバーが無くならない、というのはよく分かる。自分もマイニングしないしウォレットすら使わず、取引所とのAPIですべて済ませている(APIクライアントのアプリを作った)。

結局、これP2Pに直接参加しているというよりか、P2Pのノードに対してクライアント/サーバーのアクセスしているだけなんだよね。

だから、クライアント/サーバーのアーキテクチャーと、トラストの分散のアーキテクチャーのハイブリット?みたいなのが現実解だと。

それと、無駄に複雑にしてソフトウェア開発の負担を増やすのもオカシイよね。バズワードに乗っかって、何でもかんでもブロックチェーン!とか本末転倒すぎでオカシイと思うし。

DelphiやVisual StudioといったRADのIDE(統合開発環境)がGUI開発を革新させたのと同様に、「RAD for Web3」みたいな何かそういうのが出来て一気に改善されるとイイかも。

まぁ、まだまだ先は長いぞ、ということは言えますね。

不動産業で言えば、以前、「どうせやるなら不動産情報は『P2P共有』でしょ」というのを書いて、大分前に書いた分散型の物件情報共有システムという自分の妄想を紹介しています。

因みに、これは未来の話しですが、もし自分が先の将来に向けての新しい「業者間流通システム」を自由にデザインできるとしたら、(ハイブリッド型の)P2Pシステムの情報共有ネットワーク、なんてことを考えますが、自分はもう若くも無いし、お金にもならないのでやる人もいないでしょう。現時点ではどのみち現実的ではありません。50年後とか、もしかしたらどうなっているでしょうか。自分は目にする事はないであろう未来の話しです。もし実現したら、言い出しっぺは私だと、どこかに明記しておいてください。w

不動産情報デジタル標準化の覚書

「50年後とか」としたのはだいぶ先の話しですが、日本の現状を見ていると、本当にそれぐらいかかるかも知れません。

未来のことは分かりませんが。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?