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災害対策のおけるITの役割 (2011年6月) 情報化レビュー

 今回の大震災で、情報技術や通信ネットワークが被災時の安全・ライフライン確保に重要な役割を持っていることを再認識させられた。今回の経験を踏まえ、いろいろな形で災害対策におけるITの役割が議論され、今後の課題やITの活用策が提言されていくことになるのだろうが、今思いつく範囲で私見を述べることにしたい。

 災害対策におけるITの役割を考える場合、(1) 災害発生前の対策、(2) 災害発生直後の情報伝達、(3) 災害発生後の復旧・復興に分けて考える必要がある。

 まず、災害発生前の対策としては、リスク軽減のための情報提供が重要である。今回大被害をもたらした地震や津波はもちろん、台風や洪水などの災害に対して地域別にどのようなリスクがあるのかを表示したハザードマップは、住民や企業が災害対策を考える上で重要な基本情報になる。また、電気、ガス、水道などのライフラインの遮断に対して、どの程度の備えをすればよいのかを示すことも有用だろう。例えば、非常用の食糧や水の量の目安を示しておけば、水や食糧の買い占め騒動も大きな騒ぎにはならないに違いない。

 災害発生時と発生直後においては情報伝達がもっとも重要になる。災害発生情報の伝達については、すでに緊急地震速報や津波予報などの仕組みはあるが、住民や企業に伝達する最後のラインが十分だとは思えない。確実に情報が伝達できる手段を整備しておく必要がある。また、安否確認には、今回の大震災でも多くの人が利用した災害用の伝言ダイヤル「171」や伝言板サービスが有用である。ただ、伝言ダイヤルは携帯電話やPHSから利用できない、伝言板サービスはサービス提供者間での情報共有の仕組みが十分でないなどの問題があり、これらは改善の余地がある。

 今回の災害ではTwitterやFacebookなどのSNSが注目を浴びた。確かに被災地における給水所の場所や、東京の帰宅困難者向けの一時受入施設に関する情報など有用な情報も流れたが、その一方で「コスモ石油千葉製油所のLPGガス火災の影響で、化学薬品の含まれた有害物質が雨と共に降ってくる」といった間違った情報も流れた。また、「××で救助を待っている親子がいる」といった救護要請情報が、救護の必要がなくなった後もネット上で拡散して結果的にデマになったという事例もみられた。こうしたデマを含め、錯綜する情報の整合性や信頼性を確保することも重要な課題である。

 復旧・復興段階においてもITの役割は大きい。被災状況の把握、物資の配給、義援金交付、被災証明・罹災証明の発行などの業務には情報システムが不可欠である。市町村においてこうした業務をサポートする「被災者支援システム」(阪神・淡路大震災の際に西宮市が開発したシステム)が2009年1月に全国すべての市町村に配布されていた。しかし、このシステムを活用できている自治体はそれほど多くない。まして、この大震災の前に被災者支援システムを導入して非常時に備えていた自治体は極めて少ない(全国で30あまりだと報道されている)。システムの準備をしておくだけであれば、それほどの費用はかからない。平常時の備えが復旧・復興のスピードを左右することを十分に認識すべきだろう。

 また、津波で住民基本台帳や戸籍などのデータを失った地方自治体、患者のカルテ情報を失った病院などのことを考えると、情報システムは安全性の高いデータセンターに預けるか、信頼できるクラウドサービスを利用することが望ましい。

 おそらく、この他にも課題やIT活用策は多々あるだろう。さまざまな場で多様な視点から議論が行われ、災害対策におけるITの役割とその重要性に対する国民の理解が深まることを期待したい。


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