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DX再考 #2 情報化・デジタル化とDX

EDUCAUSEによるDXの定義

 DX(デジタル・トランスフォーメーション)と従来の情報化・デジタル化との違いについても、ネット上にはさまざまな定義、解釈、意見がある。どれが正しいと決めつけるわけではないが、ここでは米国の高等教育機関の情報化を推進しているEDUCAUSEの定義を紹介しよう。
 下の図をみていただければ一目瞭然なのだが、念のため、少し解説をしておきたい。

出典:D. Christopher Brooks and Mark McCormack ”Defining Digital Transformation”   (https://www.educause.edu/ecar/research-publications/driving-digital-transformation-in-higher-education/2020/defining-digital-transformation)

 デジタル化を意味する英語は「digitization(デジタイゼーション)」と「digitalization(デジタライゼーション)」の2つがある。両方とも日本語にすればデジタル化であるが、その意味は多少異なる。前者はアナログのものをデジタルにすることであり、後者はデジタル技術を活用してビジネスのプロセスを変えて新たな価値を産み出すことである。
 この図では、デジタイゼーションを情報のデジタル化と情報の体系化の2段階に分け、デジタライゼーションをプロセスの自動化とプロセスの合理化の2段階に分け、DXは「institution」(制度や仕組み)の変革だと定義している。

情報化・デジタル化とDX

 情報化・デジタル化は、アナログ記録されていた情報をデジタルに変換したり、デジタル技術をつかって新製品・新サービスを生み出したり、デジタル技術を利用してプロセスを合理化することであるのに対して、DXは、デジタルを前提としたビジネスや経営の再構築を意味する。
 つまりDXとは、製品やサービス、プロセスといった個々の要素の情報化・デジタル化ではなく、ビジネス全体や組織あるいは組織文化そのものを変革することなのではないだろうか。

筆者作成

音楽ビジネスにおけるDX

 DXの本質は、音楽ビジネスで考えると分かりやすい。1980年代に音楽の媒体(メディア/コンテナ)がアナログ記録のレコード盤からデジタル記録のCDに変化したのはデジタイゼーションであり、21世紀に入ってダウンロード配信が普及したのはデジタライゼーションである。
 では、このCDからオンライン配信への変化は、DXだと言ってよいのだろうか。産業側からみれば、流通のチャネルがCDというパッケージ・メディアからインターネットというオンラインに変化しただけで、基本的なビジネスモデルは変わっていない。消費者側からみてもデジタル化された音楽コンテンツを購入し、蓄積した音楽の中から好きな音楽を楽しむという利用形態は本質的に変化していない。
 音楽ビジネスにおけるDXは、2010年代に始まる定額制の音楽のストリーミング配信(音楽のサブスクリプション)である。ビジネスの視点からみれば、音楽という情報財(information goods)を販売するという形態から、好きな時に好きな音楽を再生できるというサービスを提供する形態への変化であり、利用者の視点からみれば音楽という情報財を買い集めてそれを楽しむという形態から、クラウド上にある数千万曲の楽曲から好きなものを好きな時に楽しむという形態への変化である。前者は「モノの販売」から「サービスの提供」への変化であり、後者は「所有」から「利用」へのパラダイムシフトである。
 定額制の音楽配信サービスは、移動体通信を含む通信回線の広帯域化と安定化、スマートフォンなどのデバイスの進化と普及、クラウド・コンピューテング技術の発展を背景としており、過去のビジネス・プロセスや商慣習から切り離されたものになっている。これは利用者のニーズに合致したソリューションを、現在利用できるICTをベースにゼロベースで考えたビジネス変革の結果だということができるだろう。

 出典:筆者作成


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