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DX再考 #7 プラットフォーム・ビジネス(その3)

マッチメーカー

 ここで取り上げているプラットフォーム・ビジネスは、経済学や経営学の世界では「ツーサイドプラットホーム(two sided platforms)」と呼ばれ [1] 、プラットフォーム・ビジネスが成立する市場は「二面市場(two-sided market)」と呼ばれている。二面市場とは、インターネット・オークションにおける「売りたい人」と「買いたい人」、Airbnbの「泊まりたい人」「空き部屋を宿泊用に提供したい人」のように、異なる2種類の参加者をマッチングする市場を指す。

 2種類の参加者を結びつけるという役割から、プラットフォーム・ビジネス企業やそのプラットフォームは「マッチメーカー(match maker)」と呼ばれることがある。たとえば、デヴィッド・S・エヴァンスとリチャード・シュマレンシーによる『最新プラットフォーム戦略』では、二面市場(多面市場)におけるプラットフォームをマッチメーカーと呼んでいる。
 英語の match maker は、一般的に結婚を仲立ちする仲人(なこうど)やボクシングなどの格闘技で対戦カードを決定する人を指す言葉であるが、ビジネスの世界でも売り手と買い手の仲立ちをする人を指すこともある。

 一般的に市場は多くの買い手と売り手で成り立っている。買い手は自分のニーズに合致した製品やサービスを探しているし、売り手も自分の取り扱っている製品やサービスの買い手を探している。そのマッチングをするのがマッチメーカーである。
 フリマアプリのメルカリは、不用品を処分したい売り手と中古品を安く購入したい買い手の仲介をしているし、UberやLyft、滴滴(DiDi)、Grabのようなライドシェアは移動したい人とドライバーのマッチングをしている。
 新聞や雑誌、TV、ラジオのようなマスメディアもビジネスの観点からみればマッチメーカーであり、プラットフォームである。自社の製品やサービスの認知度を高めたいと思っている広告主と消費者を仲介しているからである。同様に、広告を主な収入源としているGoogleやFacebookも、広告主と(好むと好まざるにかかわらず広告を見せられている)利用者との仲介をするプラットフォームである。

マッチングの自動化

 インターネット上のプラットフォームの特徴は、マッチングの自動化にある。たとえば楽天市場のようなオンライン・マーケットプレイスでは、買い手が自分の欲しいものを簡単に検索できる仕組みによってマッチングを自動化している。求人・求職サイトも入力した条件に応じて情報を表示することによってマッチングを行っている。

 GoogleやFacebookの場合も基本的にはマッチングの自動化によって広告の仲介コストを極小化して利益を生み出している。
 広告は、関心のない利用者にとっては無価値で邪魔な情報に過ぎないが、関心のある利用者にとっては価値のあるコンテンツになる。たとえば、和菓子が食べたいと思っている時に美味しそうな饅頭の広告が表示されれば、つい見入ってしまうだろうし、海外旅行を計画しようとしている時に魅力的な海外ツアーのバナーが表示されれば、バナーをクリックする可能性は高い。利用者の関心事に合わせて広告を表示しようとするターゲティング広告や、検索エンジンに入力したキーワードに合わせて広告を表示する検索連動型広告はそうした目的から開発された仕組みである。

 世の中にはマッチメーカーが役立つ機会はたくさんある。商品の売り手と買い手、サービスの提供者と利用者、情報の提供者と情報を探している人、職を探している人と人を探している企業、美味しいレストランを探している人と空席を客で埋めたいと思っているレストラン、自宅前のスペースを有効利用したいと思っている人と自動車を短時間駐車できる場所を探している人、隙間時間でお金を稼ぎたい人と短時間でよいので仕事を頼みたい企業、そうした2つのグループをネットワーク上で自動的にマッチングしているのがネット上のプラットフォームである。

[1] 参加者が2種類ではなく、3種類以上のプラットフォームもあるため、「マルチサイド・プラットフォーム(multi-sided platforms)」と呼ばれることもある。例えば、Windowsのような情報デバイスのOSは、情報デバイスのメーカー、アプリケーションソフトの開発者(開発企業)、エンドユーザーの3つのユーザーのプラットフォームになっている。


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