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事業戦略大学(教員1名、生徒無限大) 第2回 業界全体を俯撤する「考え抜くための戦略フレームワーク入門」コース

【業界構造分析・マクロ環境分析】

■業界の構造に変化が起こった

トヨタは、2020年1月に東富士に実証都市「Woven City」を建設する計画を発表した。

2021年初頭より着工し、企業や研究者に幅広く参画を呼びかけ、CASE、AI、パーソナルモビリティ、ロボット等の実証実験を実施する予定。自動車メーカーが都市開発を行う。2017年米国アマゾンが食料雑貨店チェーンのホールフーズを買収し遅れていた食品業界のネット販売やデジタル化が一気に進み、コロナショックでそれが一気に進んだ。業界構造、エコシステム(産業生態系)は常に変化する。

近年、日本市場でも頻繁に見られる業界構造の変化の要因とはどのようなものか、以下に挙げてみよう。

①さまざまな産業への情報技術の浸透

②資本市場の変化

③消費者や法人など、顧客や顧客候補が情報力を持つことによる交渉力の向上

④高度な専門技術の発展と浸透スピードの向上

⑤グローバル化


などである。

このような変化からわかるように、これまで「業界」と呼ばれてきた枠組みでの発想は、ほとんど意味を持たなくなってきている。事業戦略での大きなつまずきは、長年親しんだ業界という枠組み内での発想、国内重視の発想、付き合いの長い取引先との強いしがらみなどからくる、いわゆる「固定観念」から発生する。その固定観念を起点に作成した事業戦略は、大きなマイナスを生み続ける可能性がある。

実際に業界や事業を分析してみると、これまで長年″お客様″とあがめていた取引先によって、自社が努力して創造した付加価値が吸い取られ、それに伴い利益も、その″お客様″に移転していることが見受けられる。これでは良いものをいくらつくつたとしても全く儲からない。それどころか事業が年々
縮小していく。そうなればなるほど、社内では顧客志向を強化せよとの強い指示が出る。それらが悪循環となって長期間継続することも少なくないのだ。

■ 過去の思考のパラダイムを問い直す

事業戦略企画において最も重要なことは、過去の思考フレームを一旦はずし、業界構造を新鮮な目で見直すことである。これまでお客様と呼んでいたところは果たして本当に顧客なのか、実は驚異的なライバルになっているのではなかろうか、お付き合いのあった供給元が、最終顧客とアライアンスをする可能性はないのか、といったように、関連しそうな業界も含め、業界全体を俯瞰してみることを事業戦略企画の第一歩とするべきである。それなくして顧客分析、競合分析は意味を持たない。

反対に、長期間にわたって市場が成熟し、固定観念に縛られた業界に対して、新規参入できる可能性もある。とくに最近では、消費者の段階まで情報化が進み、ワンストップサービスが当然視される。最終顧客から見た場合、業界という区分は何らメリットがあるわけではない。それは、単に「過去に規制で区分されていたから」「業界団体があるから」という提供者側の理論である。そういった業界は、成熟市場であっても、そして、たとえ衰退市場でも、顧客視点で見れば参入余地と利益獲得の可能性がむしろ高いと言えよう。

■ 業界の変化を左右する構造要因

事業戦略企画のために業界構造を分析するにはいくつかのポイントがある。それは業界の変化を左右する構造的な要因であり、以下のようなものがある。

①業界全体のライフサイクル(開発期、成長期、成熟期、衰退期)はどう変化しているか?

②業界構造全体の中で付加価値の高いポジションはどこか?

③価格決定力を持つポジションはどこに移っていくか?

④ エンドユーザーの価値観やニーズに大きな変化はないか?

⑤他業界からの新規参入の可能性、とくに情報分野、金融分野からはどうか?

⑥サプライヤーが顧客とアライアンスを組んだり、加工度合いを向上させていないか?

⑦これまでと異なるカテゴリーをつくって参入する企業はないか?    

⑧海外からの参入の可能性はないか?

■ 業界の変化を左右するマクロ環境要因

さらに、業界の変化のマクロ環境要因には、以下のようなものがある。

・法律面などの規制の変化はあり得るか?
・業界全体に影響を与えるであろう技術革新は何か?
・人口動態の変化は業界にどう影響を与えるか?
・政治、国際情勢の変化は?
・国内とグローバルレベルでの大きな資金の移動はないか? とくに資金 調達における環境変化はないか?
・人の価値観の変化に影響を与えるものはないか?
・業界全体の知識や情報の質、量、流れに変化はないか?

業界の変化の可能性を想定する場合、現在のポジション以外の立場に立って戦略を考えると効果的である。自分がサプライヤーの立場にいれば、顧客の立場ならば、情報産業や金融業界の立場なら、といった具合に視点を変えて考える。よく言われる「発想を変える」とは実際に、今の立場を捨て、見る視点を変えてかつ具体的に考えてみることである。

さらに、行動レベルに落としてみると、具体的に「年間何回、そのような異なる視点で業界全体を考えたのか」「どこまで突っ込んで考えたのか」「どのような工夫をして視点を変えたのか」などが問われる。ユーザー体験や他業界での見学実習、異業種ベンチマーキング、競合の立場での戦略企画シミュレーションなどは、発想を転換するための重要な行動である。

また、業界構造の分析では、その構造変化を図解化する必要性がある。なぜなら、ここでの変化要因同士の影響関係による新たな変化を推測するのは、業界構造図や変化要因の関係性を示した図がなければ難しいためである。業界の変化においては、さまざまな要因の変化が互いに影響し合い、予測しにくい。このことをうまく利用すると自社の戦略になり得るし、反対に予測やそれをもとにした戦略発想を怠ると、ライバルに攻略される可能性もある。

業界変化が自社に与える影響や自社の業界への参入可能性を検討するためには、業界構造の変化をできるだけ定量的に把握する必要があろう。顧客数や参入企業数の変化はどうか、その結果として市場の規模はどう変わるか、価格は上がるのか下がるのか、といった要素を可能な範囲で定量的に把握することが大切である。


設問1:あなたが所属する業界の変化で大きな影響のある事象を5つあげ、対応策を具体的に企画してください。

設問2:あなたの所属する業界の変化にデジタル化はどのように関係しているかを具体例を挙げて説明してください。

設問3:コロナ後はどこの業界も大きく変化すると予測されています。具体的な変化をあげそれを機会にする戦略を企画してください。

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