流れ星

 エースというのはどうして、自然と作られていくものなのだろう。
 僕はバスケ部のキャプテンをしている。自分から志願した。なぜなら、レギュラーの座を守りたかったからだ。正直、うまさで言えば部の中でレギュラーになれるかなれないかのギリギリだ。それはわかっている。わかっているからこそ、僕はキャプテンになった。「キャプテンは出しておこう」と、監督は思うはずだったからだ。
 自分でいうのもどうかと思うが、オフェンスもディフェンスも、割と器用にやれると思う。身長も高い方だし、その割にシュートレンジも広い方だ。だが、僕はいわゆる器用貧乏だ。弱点がないといえば、聞こえはいいのかもしれないが。
 エースの鏑木は、とにかくオフェンスタイプだ。ディフェンスは人並み程度なのに、ボールを持ってゴールに向かって切り込もうとするときは人が変わる。「どうやったらそこを抜けられるんだ」というような相手のわずかなスキをついて、抜き去る。おまけにジャンプ力も高いので、相手を抜いてジャンプすれば、その空間は鏑木だけのものになる。その光景に誰もが目を奪われていた。
 練習でなんどか鏑木のオフェンスを止めたことはある。だがそれは、とにかく鏑木の癖を読んで読んで、「こう来る」と思った動きに完全にタイミングを合わせられたときだ。だから、多分同じチームで練習相手になったときでないと止められない。初めて対する敵だったら多分無理だろう。
 「鏑木に負けたくない」、僕を自主練に書き立てるのはその一心だ。いや、それは半分本当だが、もう半分は・・・。

 「お疲れさま!キャプテン!」部活終わり、タオルを持ってきてくれたのは、マネージャーの清水だ。同級生だが病気やら家庭の事情やらで1年休学をしており、歳は1個うえ。部活では唯一クラスが一緒だということもあるし、キャプテンとマネージャーという関係もあり、なにかとしゃべる間柄だ。
 「今日もかっこよかったねー」
 「え、俺?」
 「いや、鏑木くん」
 他愛のない世間話のつもりで清水がそう話しているのではないことくらいは、僕にだってわかっている。

 土曜日。夕方から練習試合が設けられた。その日僕は、スタメンから落ちた。キャプテンなのに。
鏑木は相変わらずのエースっぷりで、しかもその日は特にボールが鏑木に集められ、ガンガン得点していった。「鏑木はいつも以上に点を取っているのも、きっと僕がいないからなんだな」僕はそう思うしかなかった。後半、僕の出番がやってきたが、気づけば僕も鏑木にパスをしまくっていた。
 
 練習試合は勝利に終わった。鏑木は38得点をあげる活躍。今日はぶっ倒れるまで自主練してやろうと思った。ひたすらシューティングに打ち込んだ。足が痛くなろうがなんだろうが構わなかった。キツイと思えば思うほど、自分をいじめてやろうと思った。2時間もシューティングした後、倒れこむように体育館の外に面している出入り口に座り込んだ。顔を下げて息を整えていると突然、頰に冷たい感触を覚えた。
 
 「お疲れさま。キャプテン」スポーツドリンクを持った清水が、僕の頰に缶をあてていた。

 「まだいたのか」
 「うん」
 「なんで」
 「いや。別に教室で勉強とかもしてたしさ。特に理由はないよ。体育館きたらいたから」
 「そう・・・か」
 「すごかったね。鏑木くん」
 「あぁ。あいつはすげーよ。俺なんか絶対に勝てない。エースだもん」
 「すごいよね・・・あっ流れ星!」
 「えっ!?」

 思わず顔をあげたが、流れ星は見えなかった。でも息をのむような満天の星空だった。その星空を見て、また惨めな思いが蘇ってきた。せっかく自主練で忘れかけていたのに。
 「なぁ。清水」
 「え?」
 「流れ星に願いを3回唱えると、願いが叶うっていうじゃん。あれ、無理だと思うんだよね。だって、流れ星って一瞬じゃん?見つけて『あっ!』って思ってから『願いごと!』って思って、3回だろ。できっこないと思うんだ」
 できっこない。の部分に妙に力が入ってしまい、なんだか気はづかしい思いがした。少しの沈黙のあと、清水はゆっくりと僕の方を向いて、口を開いた。

 「流れている間に3回唱えるのが無理なら、願いを唱えつつけてればいいじゃん」

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

1

原作集

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。