カチカチ__2_

ロック・デ・ナッシング

作:ウダタクオ 2006年10月24日


ロック・デ・ナッシング

 問題は今日の雨だ。でも、行かなくちゃ・・・仕事に。

 私はこの日を少し楽しみにしていた。初めてやる仕事なのだ。都会では自殺する若者が増えている。そんなことは関係ない。行かなくちゃ・・・カチカチやりに。

 朝早くに家を出た。電車を乗り継いで大崎の駅ビルへと私は向かった。まだ時刻は朝の6時にも辿り着いてないというのに、なぜ座れない?たぶん、それは「日頃の行い」なんだろう。そこに理由はないんだろう。座れないから座らないんだろう。

 傘を普段通りに私はさせなかった。傘がないわけではない。右手が痛いのだ。今日1日、両手を使う作業には骨をやいた。傘を持つだけでも痛い。そんな状態だった。

 私はコンビニに入った。美人のOLがケツを突き出して、おにぎりをどれにしようか見ていた。私はそのOLを見ていた。私はパンを買った。私にはそれが開けられなかった。歯で押さえようとしたがやめた。私は子供じゃない。

 お腹がすいた。食べたい。パンを見つめる。食べたい。パンを見つめる。その繰り返しで、パンは未だに私のバックの中に入ってある。

 担当者に案内され、持ち場に着くと、椅子が用意されておりカウンター(数取り器)が私に支給された。念願のカウンターである。遂に私はカチカチしてしまえるのだ。胸が踊った。B.Bクィーンズなんてめじゃなかったね。お腹もすいていたしな。

 入場用と退場用、それぞれに男性用と女性用があり、計4個のカウンターかケースに収められていた。

 誰かが出入りする度に私はカチッと音を鳴らした。

 例えば、こんなふうに。

 男が1名入場する。私が入場・男性と書かれたカウンターをカチッと鳴らす。女が2名退場する。退場・女性と書かれたカウンターをカチカチッと2回鳴らす。

 男が3名、カチカチカチッ。

 女が1名、カチッ。

 女が4名、ビッチビッチビッチビッチ!

 まぁ、こんな具合だ。

 いいケツをした女には、カチカチッと2回カウンターを鳴らした。

 ごく稀に、カウンターが壊れてしまう程の戦闘能力を持ったケツが通ったが地響きが凄かった。

 前からジダンそっくりのハゲが歩いてくる。しかも退場方面。私は彼にレッドカードを突き付けたかのように、カチッとカウンターを鳴らした。頭突きで一発退場だ。今日のレフリーは私だ。サッカーはもう10年も前にやめた。諦めたんじゃない、やめた。中田に理由は聞けよ。きっと私と同じだから。

 この作業はA~Fまで各4名ずつの全6チームで、このビルにある全ての出入口を固めていた。張り込みってやつだ。

 エリア分けされており各チームごとに3ヶ所の出入口が任されていた。

 各配置に1名ずつつく、すると1人遊んでしまう。そいつで休憩を回す。1時間半やって30分休憩をとる。そのローテーションで全てはうまく回っていた。。

 休憩をとる度に、私はトイレに行った。そして毎回、チャックを上げて逸物(ナニ)を引っ張りだすのに四苦八苦した。

 いつもなら直ぐにベロ~ンと出るのだが、片手だときつい。漏らすわけにもいかない。私は片手でむりやり逸物を掴んで引っ張り出した。

 休憩は全部で8回あった。そして、8回トイレに行き、8回逸物を引っ張り出した。

 皆勤賞だった。毎回、小便が出るのかチャレンジしていたのだ。ペースでいうと2時間に1回だ。私は見事にそれをパスした。

 休憩から戻ると、私はガンマンになっていた。

 自動ドアが開いた瞬間にカウンターを鳴らした。類い稀に見る早打ちの名手に私はなっていた。

 靴ばかりを光らして歩くリーマン達もケツをぷりぷりさせながら歩くOL達も私は打ち殺した。れいにより、いいケツをした女には2発弾をぶち込んだ。

 まさに、ドキドキするような、いかれた人生。DIJのピストルだった。私はまだ若い。そう、若いピストルなのだ。

 たまに嫌な顔をされる時があるが、それもそうだ。こっちは頭数をとっているんだ。向こうからしてみれば頭をとられたことになる。戦国時代なら大変なことだ。それは死を意味する。だから人は本能的に嫌がるのだ。

 もしくは、オンリーワンでいたい。その数の中に自分は入りたくない、入れられたくはないという、本来あるべき人間の本質が見え隠れしていたのかもしれない。

 しかし、私にはそんなこたぁどうでもいいことで、俺に嫌な顔むけんなや!そう思っていた。

 あたっ、あたっ、ぅうぉわちゃー!!

 2名だろうが3名だろうが構わず、団体は3回ずつカウンターを鳴らした。

 あたっ、あたっ、ぅうぉわちゃー!!・・・鉄板で!

 延々このカチッカチッというクリック音を聞いていると不思議となぜか、カシャッ、カシャッと聞こえてくるようになる。

 まるで自分が盗撮でもしているかのような気分にさせられてしまう。

「いいねぇ、いいねぇ、君!?・・・いいねぇ」


 頭の上でぐるぐると「踊るぽんぽこりん」がながれた。

 そうだよ!私は朝から何も食べてないじゃないか!?

「お腹がへったよぉ」


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