ファミリーセール

作:ウダタクオ 2006年09月17日


ファミリーセール

 開場と共に客どもが用意ドン!で80~90%offのコーナーへと猛ダッシュした。私はそこに立っていた。老若男女が一斉にこちらへ向かってくる。運動会の100m走のようだ。私はリボンを持っている気分だ。

 先頭の若者たちに続いておばさん連中、そして主婦やらおっさんが続いていた。目は血走り瞳孔は開き形振り構わず突進してくる。その様はナウシカのオームが怒り狂い赤ランプで猪突猛進しているシーンを連想させた。やばい、このままだときっと殺される。私は逃げた。

 次のオリンピックの短距離走で日本は金メダルを狙えるんじゃないか!?と私は思った。ゴールにブランド品を並べ80~90%offの値札さえさしとけば。

 先頭をきって走ってきた若者がラックにかかった服を一列丸ごとふんだくり抱え込むと試着室へ直行した。後に続く者たちも同じように服やらパンツやら手当たり次第に抱え込んで試着室へ直行していく。まるで見境がなかった。

 おばさんがバカでかい買い物袋にひたすら服を詰め込んでいく。主婦らしき女が男物のYシャツを片手でごそっと数着掴み取ると直ぐに80~90%off対象外のレディースコーナーに消えた。男なんて所詮そんなもんか、妻は夫の金で着飾り「ほらっ、あなた見てみて。あなたにシャツを買ってきたの、ブランド品なのよ。いつもお仕事頑張ってくれてるから、これは私からのプレゼントなの」きっとそう言う。それが女の数学理論上50:50(フィフティー・フィフティー)なのだ。そいつが分かってる男はいい男だ。そいつが呑めないと男と女は喧嘩になる。逆にそいつが見えない男もいい男だ。それは、どうでもいい男だからだ。そっちのほうが女にとっては都合がいい。

 けっこうな数の人間が会場にはいた。海外で有名なブランドらしく外国人も多数来場していた。後になって私は知ったのだが日本でも有名らしい。失礼ながら社員に、ヨーロッパの方では人気があるんすかね?と尋ねると、ドイツでは有名だよね。ってか日本でも普通に有名だよぉ、ショップ見かけた事ない?と彼は言った。私はないと答えた。

 持ち場でぼーっとしてるとエライ人に叱られた。素性も知らないし名前すら分からない、ただエライ人としか認識出来ない人だ。集団の中に入ると必ずそいつがいるもので私は今までに色んなエライ人に怒られてきた。奴らはいつも真っ先に私を怒った。私はどうやら目立ちやすいようだ。

 そうこうしているうちに急に鼻がむずむずしてきた。私は辺りを見渡した。近くには誰もいないと確認し、私は鼻をほじった。10年振りだった。このブランクは長かった、力の入れ具合が微妙に難しい。次第に顔をしかめながら私は鼻をほじっていた。端から見ると気持ち悪い奴だ。そしたら奴はいきなり現われてガン見された。どうやら私は間も悪い。奴はあえて何も言わなかった。

 その直ぐ後、私はでかい外国人に英語でしゃべりかけられた。服のタグに印字された数字を指差して横にもでかいブロンドの男が私に言った。

What's this number?

私にもそれがサイズなのか何なのか分からなかったが店員が知らないのはまずいと思い、直ぐにこう答えた。

Oh,todays your lucky number! Yo dude.

意味が合っているのかも通じているのかも分からなかったが、全然うけなかった。そいつは苦笑いをし連れの外国人と話しだした。やけにファックファック言っているのだけがヒアリング出来た。奴らがあまりにもこっちをちらちら見てしゃべるので、さすがに私の事だなと思い。

「ファッキンジャップぐらい分かるよバカヤロー」

と万遍の笑みを浮かべ肩を軽く叩きながら言った。その後ハグしたら、そのまま絞め殺されそうになった。アパレル業界は危険がいっぱいだ。

 同じ持ち場になった男ときたら、おしゃべりな男で終始私に話しかけてきた。

 彼は先月までトラックの運転手を10年間やっていたが、あまりに不定期で仕事があったりなかったりの波が激しく月によっては10万も給料が違ったりしていた、安定思考の彼には当然そんな仕事はやってられなくなりバスの運転手の試験を受けた。

 初めのうちは試験なんかなめてかかっていた。問題集を見てみると、

3kgの灯油を持ったお爺さんが乗車しようとしました、乗せて良いでしょうか?

とか、ふざけた問題ばかりがずらりと並んでいた。勿論答えは否だ。常識さえしっかりしていれば絶対にパス出来ると思った彼は少しだけ勉強した。そして4度目の試験で見事にパス、彼はバスの運転手の資格を手に入れた。来月からは念願のバスの運転手だそうだ、その間の繋ぎで派遣をやってるらしい。私は彼に運転手好きっすね?と思わず突っ込んでしまった。

「いやぁ、派遣ってしんどいね、疲れるわぁ。俺なんか久し振りに真面目に働いてるよぉ。トラックなんかマジ楽だよ。荷物来なくて平気で仕事中に2時間3時間寝れちゃうし、運転するだけじゃん。運送会社なんだけど、マガジンとか知ってるでしょ?あれ運んでたなぁ・・・」浸るなよ。

 この手のタイプはとにかくしゃべりたいだけで話の内容ではなく量なのだ。しゃべってみれば分かる、要らない情報ばかり増える。

 まぁ退屈はしない、聞いてりゃいいのだ。しゃべり続けてる中で興味をひいたり知っていたりするところだけピンポイントで会話が成り立つ、それで満足なのだ。後は頷きながら黙って聞く。相槌の達人となる。

 私は聞き手である。あまりしゃべらない。私はシャイなのだ。

 

 ふと、会場を見渡すと

背の高い外国人がいて横顔しか私の位置からは確認出来なかったがセイン・カミューそっくりな男がいる事に私は気が付いた。本人だ!と私は思い運転手に告げに言った。しかも、セインなのにうろ覚えの私は、あそこにセイント・カミューがいる!と言った。彼はちらっとセイントを見ると、そうかもな!?ありえるな!と私に言った。

 私たちの注意は一気にセイントに集まった。こっちを向かないか我々はそわそわしながらセイントを見ていた。セイントは服に夢中でなかなかその場を移動しようとはしなかった。そして発見から5分が経過しようとした時だ、服を手に取った彼がこちらをを向いた・・・「違うな」声がハモった。私たちは同じタイミングでふらふらとその場から離れていった。

 その日の帰り道、家に向かう途中だ、チャイナドレスのキャバクラがある。そこの女がお客を店先まで見送りに出ていた。

 その女のチャイナドレスは凄くきつくスリットがはいっていた。両側の腰の辺りまではいっていた。

 ちょうど進行方向にその女のケツがあった。風が私の横を吹き抜けた。その女のドレスは捲れていった。スリットのせいで腰の辺りまで捲れパンツ全開で前にいる男と話しをしている。2~3秒して気付いた女は必死に捲れないようにするが、捲れてしまう。

 私は普通に見ていたが、エロくもセクシーでもなかった。ただ、そこには垂れたケツに白いT字が張っ付いているだけだった。

 風が止まった、私は疲れていた。


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以下、あとがきです。

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