友情の橋

作:ウダタクオ 2006年09月18日


友情の橋

 私は派遣でバイトをしている。金に困ったらいつもそうだ。98年に始まり99年、01~03年と要所要所で働くはめになった。日銭が欲しいからだ。

 それはやけにむなしくて直ぐにお金は無くなってしまっていた。日当なんて、あぶく銭みたいなもんだ。

 誰かが言っていた。月払いで一ヵ月分のまとまった金が入らないと、例えば同じ20万円を稼いでいたとしても日払いだとお金が残らないそうだ。

 私はそれを実践している。何度もリトライしたが、結果はいつも同じ、金に困ってしまう。飲むしかない、そうなる。

 要するに日銭を稼ぐという行為を続ける事は自殺行為である。もしくは自虐的なドMか、ただのバカである。

 幸い私はただのバカなのでマゾではない。破滅に向かっているのだ。

 さて、今日はある男についての話だ。

 彼の名前はガルシア、中学~高校の6年間をパラグアイで家族と共に暮らす。その後、帰国し出版会社に就職するがあまりのきつさに耐えきれず退職、そして今は派遣とスロットで食っている。

 彼は純粋な日本人だと言い張ったが、どう見ても顔が南米系なのだ。ガルシアは挙げ句の果てに、パラグアイの食い物のせいすかねぇと言った。そんなはずはない。

 鼻は高いと言うよりはでかい、髪はくせ毛のブラック、目は二重でぱっちりとし垂れている、眉毛との感覚も狭い、福耳で金運が強そうだった。背が私と同じぐらいで高くはなく、腹が出ており首が短い、そして腕が太くがっしりしていた。私はそこに南米を感じた。

 ガルシアには3つ上の兄貴がいた。兄貴には家庭教師がつけられ懸命に語学を勉強していた。その時、ガルシアは犬とばかり遊んでいた。兄貴は今、大学の教壇に立ってスペイン語を教えているらしい。

 

 彼の話を聞いているうちに私は妄想が膨らみいつの間にかドラクエⅤまで辿り着いてしまっていた。なぜ?

 私は彼に言った。「俺はバーバラなんかよりフローラを選んでしまう男だ!」私の中では辻褄があっていたのだが、そこまでの経緯を話していない、彼には意味が分からない。急に変な事を言いだす奴はきっとこんな感じなのだ。

 パラグアイって何か有名でしたっけ?私は彼に尋ねてみた。彼は、友情の橋ってのがあるんですよ、と言ってにやりとした。

 パラグアイとブラジルを繋いでる橋なんすけど、凄いすよ!そこ、パスポートなんかあってないようなもんだから毎日何万人って人が行ったり来たりしてるんすけどね、ほとんどが密輸目的なんすよ。それで経済が回ってるから、なるほどな!!と。だから友情の橋って言うんだ!と思いましたよ。治安悪いすよ。アルゼンチンなんか経済崩壊してますからね。

レポート

 密輸業者取り締まりの為、8月20日にブラジル側に税関が設けられた。これにより多くの闇屋やラランジャと呼ばれるかつぎ屋が失業する。密輸取り締まり強化により弱っているパラグアイに更なる密輸取り締まり強化は社会問題を引き起こすのではとの見解もある。

 やはり、人間は友情により時に助け時に助けられ生きてきたのだなと私は思った。友情なしには生きていけない国もある。

 そんな事を考えていると仕事は終わり、持ち場違いだったガルシアに再び合った。彼はお疲れと言った。私もお疲れと返した。彼は耐えず笑顔だ。基本、笑ってる、そんな顔。

 駅までとぼとぼガルシアと歩いてった。ガルシアはスロットの話をしだすと止まらなくなる。停留所のないバスみたいな奴だ。スロットの話題は意図的に避けた。

「作業確認表ってあるじゃないすかぁ、それ支店に持ってくと金に換えてくれるやつ」ガルシアはにやけた顔でしゃべっている。

「なかなか支店に行けなくて、あれ7枚もたまっちゃってるんすよ」ガルシアは指を折りながら今まで行った現場名と仕事内容を唱えだした。

「試食バイト多いなぁ、あれ結構、楽なんすよね。直ぐ終わっちゃうから最高すよ」

私は適当にふ~んとかへ~とか言って相槌をうっていた。

「よしっ、明日給料取り行ってきますよ。まぁ、言い方変すけど、換金しに行くって内輪では言ってるんすけどね」その表現が私には新しかった。にやっとしてしまった。軽く顔面にジャブを食らったみたいだった。

 笑ってる私を見てガルシアは、これはうける!と思ったみたいで「ブルキャスト換金率悪くないすか~?僕からしてみれば7枚交換ですよ。等価の派遣とかないんすかね?かなり今日の仕事、設定入ってましたよね。456は確定すね」

言葉に乗っかって私は機嫌が良くなってきていた。

「支店ていうよりTUC SHOPじゃん。あっこは換金所やぁ」とかなんとか言い合って我々は大いに盛り上がった。

 異なる職や物事の専門用語や隠語が関係ないところで、使い方や意味がそのまま合ってガチッとはまるのは気持ち良いなと私は感じた。

 私もそろそろ換金しに行かないといけない。


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以下、あとがきです。

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