見出し画像

ちょっと前のことですが、「出版社のWebサイトもソーシャルボタンとかOGPの設定とか、しっかりやんなよ」という趣旨のツイートを見かけてですね。なんつうか、色々と思いました。

 予めお断りしておきますが、今回は用語の解説とかは無しです。理由は最後のほうで述べます。

 まず、出版社の皆さんにお伺いしたい。自社のWebサイト、どんくらい見られてますか。弊社はあんまり見られてないです。直近の一年で見ると、月に8千から1万程度のPV。

 出版社のWebサイトって、ざっくり以下のような感じに分類できるはずです。まあ、4.と4'.は規模も違うし、そもそも会社の紹介がメインのWebサイトとは別物ですが。

1. 名刺代わり_更新ほとんどなし
2. オンラインカタログ_適宜更新
3. オウンドメディア(コラムやブログなど)_定期更新
4. メディア(広告媒体)_頻繁に更新
4’. メディア(投稿サイト)_頻繁に更新

 で、問題は1.2.3.なんですが、どうでしょう、アクセス、たくさんありますか? ちなみに弊社は、「2.オンラインカタログ」です。なので、アクセスが少なくても、まあ、そんなもんかなあという感じ。もちろん、アクセスはもっと増やしたいですが、そのために、例えば原稿を用意するなりしてオウンドメディアの方向をめざすかと言われると、ちょっと考えてしまいます。

 この、ちょっと考えてしまう理由のひとつに、「書店に並べてもらったほうが宣伝効果が高いからなあ」というのがあります。要は、「どれだけお客さんの目に留まるか=お客さんに対しての露出をどれだけ確保できるか」という意味で、書店店頭は今までも、そして今でも、あまりに強力なんです。

 ここで仮定の話。例えば、新刊一点で全国300店舗に置いてもらったとします。そのうち10冊平積みの書店が一割(30店)、5冊平積み二割(60店)、残りは一冊棚差し(210店)、トータルの配本冊数が810冊(※ 話をわかりやすくするために単純なモデルにしています。大手の方は「こんなんじゃ商売にならん」って思うでしょうし、小零細の場合は「そんなに配本できないよ」ってところもあると思う。その話も後ほど)。

 では、販売冊数ではなく、店頭でその本を目に留めてくれるお客さんの人数を考えてみましょう。

 このぐらいの配本の規模の出版物を10冊平積みにできる店舗は、基本的に大型店、もしくは「(店の顧客として)その本の購入につながるお客さんがいる」と判断したお店になります。なので、お客さんが目に留めてくれる可能性は高いです。店舗の規模にもよるのであれですが、最低でも日に10人から数十人の目に留まると期待して良さそうです(もちろん、店舗の立地やジャンルなどによって幅はあります。あんまり細かいこと言いだすとキリがないし計算が面倒なので勘弁してください)。

 5冊平積みのお店も10冊平積みのお店に準じます。事前の指定があったとすると、こちらのほうが手堅い感じもあります。こちらは少し控えめに日に数人から十数人のお客さんの目に留まるとしておきましょうか。

 1冊棚差しの場合は、正直、なかなか目に留めていただくのは厳しくなります。が、それでも、モノが並んでいない(ここ重要)のと比べたら雲泥の差です。こちらは平均で数人/日のお客さんが目に留めてくれるとしておきましょう。

 さて、話をより単純にするために「10冊平積み店舗は平均で30人/日、5冊平積み店は10人/日、1冊棚差しは3人/日の目に留まるとします。これらを合算して、2,130人/日のお客さんが目に留めてくれると考えてみます。

 これは63,900/月の閲覧に該当します。これが出版物1アイテムです。では、新刊が二点出て、同様の配本数だったとする。そうすると、127,800/月の閲覧になります。

 え? 都合が良すぎる? そんなに多くない? 逆に少なすぎる? 店頭で表紙見ただけは閲覧とは言えないだろう? ご意見多々あると思います。

 都合がいいんじゃないかっていうと、実は、自分もそう思います。店頭で表紙や背表紙を目に留めてもらうまではともかく、ここから先、つまり「手にとってレジに持っていってもらう」までのハードルは、なんだかんだで、とても高いです。別物です。

 が、単純に露出という意味ではどうでしょうか。新刊一点あたりの露出が63,900/月よりさらにもうちょい少ない50,000/月としても、2点出したら100,000/月、既刊は露出が1/5までガタッと落ちて10,000/月としても、既刊10点なら100,000/月、100点なら1,000,000/月。

 あちこちのお店に置いてあるベストセラーや定番商品になると、もっとでしょうね。露出という意味ではグッと効果が高まる。大手や勢いのある社の場合は新刊の配本が1,000冊に満たないなんてことは、まずないですからねえ(もちろん、ジャンルによります)。コミックとか、新刊一点出すだけでもかなりの露出だということになります。新刊に限りません。刊行点数が多くて、かつ、しっかりお店に置いてもらっている出版社は、読者の目に留まるという意味では、滅茶苦茶に有利なんです。

 WebページのPVと店頭での露出を単純には比べられないだろう、というのもそのとおり。ですが、同じような基準で比較してみたいという気持ちは常にあります。なので、今回、こんな記事を書いています。

 「店頭での露出がそんなに有利なら、なぜやらないんだ、もっとやればいいじゃないか」と言われそうですが、まったくそのとおりで、出版不況だなんだ言われながらも、勢いのある社は書店店頭での露出の確保に、とても熱心です。頑張ってます。で、諸々の事情で店頭での露出に頑張りきれない社が厳しくなってます(書籍の話なので、雑誌やコミックは違います)。

 さて、問題は、大手や勢いのある、つまり店頭での露出をしっかり確保できる出版社であっても、「現状で可能な限り店頭で頑張って展開しても(読者への露出や接点が)足りない」ということなんです。コミックとかは電子に食われてるっていうのもあるとは思います。書店が減ってる影響も、もちろんあります。小零細より大手のほうが書店の減少には頭を抱えているはず。そりゃそうですよ、圧倒的な「店頭での露出」が営業的な強さの源泉のひとつであることを理解しているからこそ、危機感も大きい。だから、大手や勢いのある社もWebでのプロモーションなどに、今まで以上に積極的に取り組み始めている。ちなみにそういう社はWebだけじゃなく新聞や雑誌、交通広告などでの宣伝にも積極的です。当然といえば当然です。

 逆に、大手や勢いのある出版社に押され、店頭での露出を以前よりさらに確保できなくなってきた出版社はどうでしょうか。Webでのプロモーションで簡単に逆転できると思います? 正直、厳しいでしょうね。そもそも大手や勢いのある社はある程度しっかりと店頭での露出を確保した上でWebプロモーション(に限らずプロモーション全般)を仕掛けてきます。店頭での露出は効果的なプロモーションのための前提です。そこを抜きにしてWebだけでなんとかしようとしても難しいのは必然です。

 これ、実は電子書籍の販促とかプロモーションの話にも関連しています。従来、出版社は、上記の通り「書店での露出をしっかりと確保した上でプロモーションを積み重ねる」ことで結果を出してきました。が、電子書籍は「店頭」にあたる販促対象がない。店頭での露出のための書店販促が無いと勝手が大きく違います。どうしても、プロモーションだけで進めるしかない。「書店に平積みされていないのに中吊り広告を打つ」ような状態です。そして、プロモーションだけだからこそ「著者によるプロモーション」の影響が大きくなります(紙の本の書店売りでも著者のプロモーションは有効ですが、書店販促の比率が高いので電子書籍の場合に比べて相対的に小さくなります)。大手の出版社が投稿サイトを抱えつつあるのは新人発掘だけでなく、書き手同士のコミュニケーションを前提としたプロモーションの場としての効果に期待している面もあるはず。うまくいってるかどうかはわかりませんが。

 あ、あと、これ、現状における出版社のアドバンテージという話でもあります。何がって言うと「店頭での露出の確保」が。電子書籍の個人出版が話題になったりならなかったりを繰り返していますが、この「店頭での露出」で基盤を作れないっていうのは電子書籍の個人出版の圧倒的に不利な点ですよね。さっきも触れましたが「書店に平積みされていないのに中吊り広告を打つ」ような状態。逆に言うと、せっかく紙の本で店頭という場を使えるのに、そこでの露出をしっかり確保できないという出版社は、出版社としてのアドバンテージがないってことなのかも知れませんが。

 話を最初に戻します。出版社のWebサイトのソーシャル対応やOGPの件ですが、やらない手はないでしょうね。やっぱり自分はやったほうがいいと思う。以前の問題として、スマホ対応とフラッシュの削除はなんとかして欲しい。ただ、「やったほうがいい」としたうえで、「やっても効果は期待できないと思うよ」というのがセットです。実際、店頭での露出と比べたら全然ですから。いつか来た道ですよ。「これからはパソコンの時代だ」とか「これからインターネットの時代だ」とか、ああいうのと同じ。時代に抗って拒絶するようなのものではないですが、どうせすぐにコモディティ化してしまいます。当たり前になってしまったら、やったって、それほどのメリットはない(が、やらないことのデメリットはあるかも)。それぐらいの話です。

 それと、少し性格は違うのですが、お客さんはそもそも出版社のWebサイトを見に来るのか、という問題があります。「Webが主戦場」と言っても、出版社の自社サイトはそこに含まれないんじゃないか、ということです。他業種ですが、洋服や靴を探すとして、メーカーのサイトを細かくチェックしますか? それより横断的・網羅的に閲覧できるサイトを使いませんか? 新商品のチェックも、個別のメーカーからのお知らせより各社の情報が色々と入ってくるほうが便利じゃないですか? 好みが明確なら検索しませんか? 最初のは某オンライン書店など、次のはSNS(に流れるプロモーション)、最後のは検索サイトや検索サービス(スマートスピーカーなども)です。Webでの主戦場は個別の社のWebサイトじゃなくて、そっちじゃないかなあ。最近はつくづくそう思います。

 出版社も規模によって色々な在り方があると思います。ネットだWebだをうまく使える社もあれば、そうでもない社もある。電子書籍なんかもそうでしょうね。ただ、一昔前までは、小さな出版社でも、取次及び新刊委託(配本)という大きな仕組みにうまいこと乗っかる形で生きていくことができました。店頭での露出も、極端な話、本を作ってあとは取次に任せておけば、そこそこのボリュームで配本してくれて、なんと図書館にも働きかけてくれるみたいな、そんな時代も確かにありました。今は無理です。出版社は店頭での露出確保は自分でやらないと。そして、Webプロモーションも自分でやらないと(そのためにも書店や読者への事前の告知がますます重要です。出版社の皆さん、JPROに近刊情報を登録しましょう)。

 ただね、一昔前の個性的な出版社は、取次という仕組みだけでなく、新聞や雑誌というメディアにも、なかなかうまいこと乗っかっていた。それと同様に、オンライン書店やWebやSNSや検索にも、これからでも、うまいこと乗っかっていく道はあるんじゃないかなあ。そのためには色々と知っておく、もしくは、実際にやっておかないと厳しいです。一昔前に頑張ってた先達の皆さんは流通の話や小売の話に詳しかっただけでなく、実際に色々トライしていらっしゃいました。Webやネットにそこまで詳しくなる必然は無いような気もしますが「自社サイトのアクセス状況がわからない」とか「ソーシャルボタンって何?」とかじゃあ、やっぱり駄目ですよ。調べましょう(OGPも)。そして、やってみましょう(新しいサービスやテクノロジーなど)。

 「出版社のWebサイトもソーシャルボタンとかOGPの設定とか、しっかりやんなよ」という趣旨のツイートを見かけて、そんなことを思いました。

 とりあえず、自分も色々やってみます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?