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2018年の出版業界の動向などを、かなりざっくりと適当に予想してみますね

 さて、業界動向の予測など、末端の小零細出版社で働く自分にはどうかな、とも思うのですが、昨年、こんなものを、はてなブログに書いていました。
「オレも2017年の出版動向を適当に予測してみる」
  http://d.hatena.ne.jp/TOSH/20170106
「オレも2017年の出版動向を適当に予測してみる(追加でふたつ)」
  http://d.hatena.ne.jp/TOSH/20170122

 予測というよりはその時点での自分の問題意識といった感じですが、いちおう、結果については下記をご参照ください。
  http://d.hatena.ne.jp/TOSH/20180101/1514773255

 ということで、誰にも求められてはいないと思うのですが、今年もざっくりと適当に予測してみます。

1.出版社がデジタルメディアを飲み込む例が増える
2.電子は中抜き、紙はババ抜き
3.出版物とのタッチポイントのさらなる減少
4.個性派書店の没個性化
5.出版物とのタッチポイントを確保するための新しいアフィリエイトの仕組み
6.事業承継の失敗により消滅する出版社
7.A社が、しれっとバックオーダー発注を復活させる

1.出版社がデジタルメディアを飲み込む例が増える
 一昨年、様々な問題を撒き散らした「Mery」は、昨年、小学館とDeNAとの共同事業という形に落ち着きました。いや、この展開、自分は割りと驚きましたが、皆さんはいかがでしたか。
 IT系の企業が立ち上げたWebメディアって、かなりありますよね。これがコンテンツ制作の部分だけでなく大きな意味で出版社と協力する、もしくは協業するという例、増えてくるだろうなあ。古くはマイクロソフトのslateとかもそうでしたね(古すぎ)。
 要は、「古臭い出版業界を飛び出して新しいWeb業界に飛び込んだつもりだったのにいつの間にかまた出版業界に戻ってるよ……」みたいな編集者の方が増えるんじゃないかなあ。そう思ってます。

2.電子は中抜き、紙はババ抜き
 出版社の直販、電子書籍は増えたって言うけど、大手というかコミック中心じゃないですか? 小零細や専門出版社はむしろ以前より減ってる(例:オライリー、オーム社等々、※「ブックパブ」 http://bookpub.jp/ は、規模をかなり縮小したようですが生きてました。関係者の皆様、すみません。(→「サービス消滅か? DRMフリーの出版社直営電子書籍ストア「ブックパブ」が利用不能に」 https://internet.watch.impress.co.jp/docs/yajiuma/1062295.html ))はず。
 自分も知り合いの、それこそ数人でやってる出版社が「これからは電子書籍の時代だ!」ってことでWebサイトでペイパル導入してファイルを販売とかって例も知ってます。けど、みんなやめちゃったなあ(※すみません、言い過ぎました。止めてないところも、もちろんあります)。大手のやることに比べるとインパクトが小さくて見えにくいか。「コミック・ラノベ・話題のベストセラー」以外は、紙だろうが電子だろうが売れないという身も蓋もない話なんでしょうけど。
 まあ、でも、大手は電子の直販は進めるんじゃないスかね。
 一方で、紙の直販はそもそも長期低落傾向にあるはず。昨年から今年にかけての輸送費の高騰が、あちこちでトドメを刺すでしょうね。雑誌の定期購読も、ここ数年の広告収入の低迷に加えて、輸送費増で、さらに苦しくなるでしょう。
 で、苦しくなった雑誌がデジタルにシフトしようってなった時に、IT企業の先行するWebメディアと協力したり協業したりする(1.を参照)のではないかと思うんですよ。イチから立ち上げるよりは楽ですから。あと、ビジネスモデルとしても「記事から電子書籍の販売への誘導」とかは有望じゃないかと。電子書籍の直販、Webメディアと相性が良いと思いますが、紙をamazonに誘導するより、その手前で自社の電子書籍直販に誘導なら、なおさらですよね。
 ※「紙はババ抜き」っていうのは語呂だけで付けた見出しですが、「輸送費」というババを誰が引くのかという意味でもあります。

3.出版物とのタッチポイントのさらなる減少
 コンビニが雑誌の扱いを減らすという話に出版業界は戦々恐々としています。雑誌を出している社にとっては輸送費がどうこう以上に死活問題ですから。あと、エロの扱いについても適切なゾーニングをなんとかしないと「販売チャネル」が消滅しかねないという状態です。
 コンビニだけではなく、書店の減少によって「出版物とのタッチポイント(接点)」が失われていく傾向に、多くの業界関係者は危機感を抱いています。
 「雑誌とコミックに頼っている」と言われることもある書店ですが、地方ではコミックの扱いをやめる個人経営の書店も増えています(※すみません、「増えている」は言い過ぎました……。「ある」ぐらいで、よろしくお願いいたします)。理由は「売れ筋のコミックの確保が難しいから」です。売れることがある程度見えているコミックは、大手の書店ががっちり在庫を押さえます。これから伸びてくるかもしれない将来性のあるコミックは、そういう目利きの店員を確保できる書店、結局それも大手が多いです、そういうところに、しっかり押さえられます。ということは、地方の個人経営の書店には、売れることが分かっているコミックもこれから売れるかもしれないコミックも、なかなか入ってこないということになります。発売日とか宣伝されても、ものが入ってこないんじゃ売れません。それなら思い切って……。

4.個性派書店の没個性化
 出版物とのタッチポイントを維持するためには「売れるものを供給する」のが一番だと思います。が、現状難しい。そうなると、個性的という名目で一般的な売れ筋とは一味違う本を、ということになりますが、それも、そういうお店がある一定以上増えてくると「個性派書店って、どこ行っても同じような本置いてない?」ということになりかねません。実は、「個性派書店向けの中間業者」はそれほど多くありません。また、「直取引中心である程度元気のある出版社」も限定されます。個性的な品揃えを維持するためにはより多くの出版社と取引しないといけないわけですが、それに関しては「取次経由で仕入れる」のが近道だったりするわけで……。そろそろお客さんも気づき始めてるんじゃないかな(古書でカバーするのも限界はあると思いますよ)。なかなか厳しいです。

5.出版物とのタッチポイントを確保するための新しいアフィリエイトの仕組み
 講談社の「じぶん書店」って、ご存知ですか? 講談社が始めた直営の電子書店ですが、アフィリエイトの料率が10%なんですよ。残念ながら現金じゃなくてポイント(ちなみに換金は可能で、その場合は実質9%の料率)なんですが、それでもすごいですよね、10%。
 アマゾンが大きく勢力を伸ばした理由は、配送の速度と正確性などの他にも「データベース(書誌情報)の充実」や「おすすめ(リコメンド)機能の充実」等々、幾つもありますが、「使いやすいアフィリエイト(アソシエイト)による販売網の拡大」も重要なポイントのひとつです。
 で、あくまで仮定ですが、「じぶん書店」的な出版社の直営電子書店が、タッチポイントとしての書店を維持するために書店専用のアフィリエイト・プログラムを開始する可能性は高いのではないかと見ています(「じぶん書店」がやるかどうかはわかりませんが)。
 出版社直営の電子書店のリアル書店向けアフィリエイトプログラム、以前から試みられている「書店での電子書籍の販売」に、考え方としては近いものがあります。電子書籍の販売に書店をどう巻き込むかというあれです。
 例えば、個人経営の書店が開設したブログで、話題の本の電子書籍と紙の本の両方を紹介し、電子は上記のアフィリエイトプログラムに、紙は自店舗(での注文や取り置き)に誘導するといったあり方が考えられます。
 これって、電子書籍のディスカバラビリティ(発見されやすさ)の問題の解決にもつながりませんかね。紙の本と読者の接点を確保すると同時に電子書籍を見つけてもらう、一石二鳥かもしれません。
 そういうことを、電子書籍の直販に力を入れ始めた大手は考えているのではないかと予想しています。まだ考えていなかった場合も、これを機に考えていただけるとありがたいです。

6.事業承継の失敗により消滅する出版社
 知り合いの小出版社の創業社長、70代がけっこう多いんですよ。皆さんまだまだ元気ですけどね……。
 出版社に限らず、昭和に設立された中小企業の「事業承継」が課題になっていますが、2018年はモロに来そうですよ、大波が。数人でやってる規模の出版社だと、よほどブランド力があるとか、売上の落ちない大定番が数点あるとかじゃないと、吸収合併の対象にはならないでしょうね。創業社長が亡くなると消滅です。
 「取次の口座をひらくのが大変だから小出版社を取次の口座ごと買う」という例は今でもあるとは思います。が、ちょっと前と比べると減ってるんじゃないかなあ。新規の小出版社は取次口座にこだわっていないみたいだし。

7.A社が、しれっとバックオーダー発注を復活させる
 どうですかね。外資なんで「止めるの止める」とか「うまく行かなかったら元に戻す」って判断は、充分に有り得るはず。似て非なる仕組みになるかもしれませんが。この件については、あまりコメントしないほうが良さそうな気がします。

 こういう予想って、明るい未来を描くのが基本だと思います。なので、少しでも明るい方に向かいそうな話題ということで、多くの方が電子書籍関連の話題中心に予想されるのは必然でしょうね。ですが、電子専業のところやコミック出してて電子が大きく伸びているところは別として、多くの「書籍しか出してない小零細出版社」にしてみると、電子書籍以外の予想のほうが気になるんですよ。自分の周囲だけで観測した2017年の主な話題といえば「バックオーダー発注」と、それに関連して「在庫ステータス」「Webブックセンターと王子在庫センターの統合」、それとは別に「Jの社長と副社長の退任」です。電子書籍の話題って小零細出版社の方からは、まったく聞かなかったな。今年も多分、そうだろうと思います(あ、これも2018年の予想か)。

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