「店頭売上前年比を下げているのは本当にコミックなのか」を読んで思ったこと(忘れないうちに)

日販(元)の古幡さんの書かれた以下の記事を読んで思ったことです。早めに書いておかないとすぐに忘れるので急いで書いています。

この記事を読んで思ったことなので、有料部分に記載されている内容について触れないわけにはいきませんが、なるべく最小限にします。あと、「それってあなたの感想ですよね」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、そうです私の感想です。

ということで、進めます。

ここ数年、世界も日本も歴史が大きく動いています。その中での変化は、様々な要素が含まれるため、なかなかスカッと見通せるという簡単なものではないはずです。とはいえ、数字は雄弁というか色々な意見なり思惑なりがあっても実際のところはけっこう如実に表れているのだなと、まずはそう思いました。

そのうえで、私も営業なので「売れるもの出て来ないとキツイよなー」という気持ちは痛いほど分かるのですが、今はキラーコンテンツを待望するよりも「手持ちのあれこれでどうするか」が問われているのではないかと、そういう感想です。ここは多分、書店・取次(小売・流通)と、出版社(メーカー)、中でも弊社のような一般的な意味でのキラーコンテンツを持ち得ない社とでは意見も視点も大きく異なる部分かもしれません。

その話の前に、この5月6月の売上減については緊迫する世界情勢による燃料高騰や製品の不足をきっかけとするインフレの影響も小さくないはずです。日本国内に限れば緊急事態宣言やまん延防止重点措置に関連した補助金が無くなったうえで消費が動き始めたタイミングでの各種コスト増(とそれに伴う値上げ)が生活防衛を意識する消費者の財布の紐を堅くしている可能性は高いです。もちろん、一時的に「失われた余暇を取り戻す」的な消費は増えるかもしれませんが、それが続くかどうかは悲観的です。このあたりは出版物だけでなく他の余暇的な消費の動向も気になるところです。

話を戻します。

手持ちのあれこれがキラーコンテンツの不足を補うだけドカドカ売れていたら苦労はないわけで、そういう意味では手持ちのあれこれで出来ることには限界はあります。それは理解しています。よく考えてみると、この「キラーコンテンツを望む」のと「手持ちのあれこれでどうにかする」は同時に出来ることなので、わざわざ対置することもないかもしれません。

とりあえず、続けます。

ここで、先日見かけた別の記事を参照します。

CCCの顧客分析の話なんですが、ライトユーザー(ライト層)とロイヤルユーザー(ロイヤル層)の話で、ざっくり言うと、ロイヤルユーザーだけでなくライトユーザーのことを見ないとダメだよね、というお話なんですが、これ、書店でも言えますよね、ライトユーザーとロイヤルユーザー。出版の場合は店舗や商品につくロイヤルユーザーというよりジャンルにつくヘビーユーザーと考えたほうがしっくり来るかも知れません。

かつて取引先の書店さん(大学生協)に教えていただいたのは、出版物のヘビーユーザーというのはジャンルの新刊が出たら内容問わず和書洋書全部買う人達(主に大学の教員)だということでした。中身の吟味などしないのがポイントです。予算も厳しくなっているのでそういうことは減っているかもしれませんが、ひとつの極端なヘビーユーザーの具体例でしょう。

本というのは面白い商材だと思います。専門書などでは、作っている出版社員、売っている書店員よりも購入するお客様が一番内容に詳しいということが日常です。上に記した大学生協の定義するところのヘビーユーザーはこの中のさらに特殊な例です。

逆に弊社のような実用書の場合は、購入するお客様はあまり内容に詳しくないことが多いです。詳しくないから実用書を購入するわけです。

では、書店で実用書を買うお客様はライトユーザーなのでしょうか、ロイヤルユーザーなのでしょうか。

「店舗についているお客様」であれば店舗にとってはロイヤルユーザーですが、そのジャンルの購入は稀かもしれません。逆にそのジャンルはよく買っているお客様、ジャンルのヘビーユーザーでも、そのお店で本を買うのはたまにかも知れません。

お店につくお客様のことを考えていると、実用書などは「店にある中から選ぶ」のが普通かもしれません。実用書の場合は特に「どれを買っても(並べても)一緒では」という視点もあるので、並んでいるものから売れるというのは必然です。

ですが、本当にそうなんでしょうか。

たまにしかそのお店で買わないお客様が実用書を買おうと思って来店した結果なにも買わずに帰られたとします。この時、お客様はなぜ買わなかったのでしょうか。

そこはお店では普通はわかりませんが、ネット書店などでは商品ページの閲覧と購入の比率である程度まで推測が可能です。そういえば以前この数字を公開していたところがありました。もっと真剣に見ておけばよかった。

さて、ライトユーザーはお店の中に欲しい物が無かったら「代わりにこれでいいや」と別のものを買ってくれるのでしょうか。どうでしょうか。

リアル書店の「強み」として「商品を選べる」「偶然の出会いがある」とよく言われます。ですが、並んでいない本とは出会えません。そして、それ以前の話ですが、読者は今、SNSで色んな本と偶然に出会ってませんか? 書店店頭の平積みや面陳の機能の一部をSNS(や、ネット上の広告宣伝)が担い始めていませんか? 書店の棚に並んでいない電子コミックを考えるとわかりやすいと思うのですが、「サバサバ女」を見かけるのはSNSやネット広告ですよね。2020年に『静かなるドン』が爆売れしたのもオンラインでの露出ですよね。

ここで私は「紙の本はもうダメだから電子書籍に鞍替えだッ」みたいなことを言いたいわけではありません。なので「そんなに電子がいいならお前のところのは電子で売れッ」とかいうのはやめてください。本当に。よろしくお願いします。

なにが言いたいかと言うと、「読者はSNS(ネット)で本と出会い始めている」ということを言いたいのです。TwitterでもTikTokでもInstagramでも、読書ブログでもWebサイトの書評でも、宣伝でもクチコミでも、書店のWebサイトでも。そこが平台や面陳の役割を担い始めているという現実は認識しておくべきだと思います。

コンビニスイーツのライトユーザーは「テレビでやっていたあのスイーツが食べたいッ」ですよね。それと同様に本のライトユーザーも「ネットで見かけたあの本が欲しい」ですよね。「『静かなるドン』欲しくて本屋さんに来たけど無かったからたまたま置いてあった『怪人アッカーマン』買って帰ります」とはならないですよね。買いに行った商品が「無かった……」ではなく「あった!」とならないと次の来店にもつながりませんよね。

ネットで情報が瞬時に幅広く流通するようになってから「話題になった本を置いているか」はより重要な課題となりました。これ自体は当たり前ではあっても難しい課題です。いつ話題になるかわからないので。また、出版社が広告宣伝を仕掛けたとしてもそれで火がつくとも限りません。

そういう瞬間的な話題とは別に、何度も繰り返し取り上げられ話題になるという本もあります。いわゆるジャンルの定番的な本です。取次はもちろんそこを意識しているので、絵本などではロングセラーを推す(と同時にお店に並べる)ための取り組みが行われています。

みりおんブック(トーハン)

長く売れている本というのは色んなところで色んな形で取り上げられています。店頭の在庫も常に補充されています。だから、急に火が点いた時もとりあえず慌てずに対応できます。

AIで配本とかもいいとは思うのですが、人力で手が回らないロングセラーのきめ細かい対応をITでアシストとかどうなんですかね。日々の補充だけでなく人力だと見落としがちな季節性のあるアイテムなども、ITに丸投げではなくアシストぐらいの感じで。

「そんなこと言って、結局はお店に自社の本を置いてもらいたいだけだろ。どっちにしたって全部は置けないんだからお前のところのは置かねえよ」とか言わないでください。それは本当によろしくお願いいたします。

刊行されている本を全部置くのは無理です。それはよく理解しています。そのうえで、置くアイテムを選ぶ際に広い範囲での「ロングセラー」が「ライトユーザー向け」であることを意識していただけたら、というのがポイントです。有名な本、よくオススメされる本、ジャンルの定番はライトユーザー向けです。キラーコンテンツのように一発でひっくり返す力強さはありませんが、ライトユーザーのニーズに応えられるのはそこじゃないですかね。

ということを、古幡さんの「店頭売上前年比を下げているのは本当にコミックなのか」を読んで思いました。

毎年春から夏にかけて弊社の営業は書店さんにお邪魔する際にロングセラーの販促を意識して行なってきました。理由は新人さんが棚を持つタイミングだからです。弊社のジャンルは非常に分かりやすいので新人さんが割り当てられる例が多かったのです。新人さんにジャンルのロングセラー(自社商品に限りません)を知っていただくのは長く売り続けるためには重要です。しかし、最近は新人さんではなく他のジャンルと掛け持ちのベテランの方が増えました。なのでこのタイミングでのロングセラーの働きかけはあまり意味が無くなったかもしれません。

感想と言いながら、書店や取次に対しての「お願い」みたいになっていないか心配です。出版社にも出来ることはあります。それはロングセラーや定番を改めて読者にも書店にもお知らせすることです。大昔アルバイトをしていた書店では平積みした本は必ず棚にも差しておけと教わりました。お客さんは案外棚から買うとも。平台や面陳がSNSや広告宣伝だとすると元棚はお店の棚です。そこに並べてようやくSNSで出会ったお客さんが手にとってレジに運んでくれることになります。

そういうことをやっていくしかないのではないかと思います。

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