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小零細出版社から見た、スリップレス問題に関するメモ

スリップレスの話題。小零細出版社側の、スリップ利用の目的、コスト・手間。
※怒られるかもですが、あえて「ドライ」に書きました。
※この話題の続き→「ISBNを入力して私製スリップを表示する「vslip version0.0 (パイロット版)」を作りました」


■出版社がスリップを使う目的

1.注文票としての利用
→POS端末への置き換えが進み、スリップそのものを注文票とする利用は激減している(実感として)。

2.売上調査票としての利用
→POSの普及により、ほぼ使われていない。送付いただいた分も集計はしていない(たまにすることもある)。

3.刷りの区分用
→何らかの理由で以前の刷りの出荷を管理する必要が生じた際、スリップの色を変えたりボウズにチェックを付けたりして目印にすることがある(そうしないと、奥付の確認が必要になり、倉庫の手間がかなり増える)。
※現状では弊社はこの目的でしかスリップを利用していない。


■スリップのコスト

1.新刊及び増刷時のスリップ制作費用
 用紙・印刷代一枚あたり×印刷枚数+製版代×新刊点数
 0.9×12万枚+1,000×12=120,000円(弊社の昨年の数字から仮に作成)
 ※本文5000部スリップ5000部の場合、制作費用は5,500円(通常、新刊刊行時のスリップは本文の倍ぐらい作るので、もっと安くなる。少なく作ると単価は上がる)
 ※スリップの挟み込み費用は印刷製本のコストの中に含まれる場合が多い。
 ※以前はバーコードのフィルム出力が必要だった(6千円程度だったか、忘れた)。今はイラレのプラグインなどで作成している。

2.改装時のスリップ入れ替え費用
 作業単価×改装数
 2.5×38,000=95,000円(弊社の昨年の数字から仮に作成)
 ※判型などにより単価が上がることもある。

3.倉庫での保管料
 付物棚での一括管理になる。棚卸もあるのでその費用も。


■スリップの手間

1.制作作業・印刷製本所への輸送等
 版下データの作成及び校正作業。弊社は社内で行っている。
 新刊時は印刷会社でスリップも一括で扱ってもらうが、増刷時には、こちらで管理しているスリップを渡す場合もある。 

2.付物管理
 資材になるので管理が必要。棚卸も行っている。


■まとめ

1.小零細出版社にとってスリップ利用の直接的なメリットはほとんどない。
※「書店からの発注が増える」という期待感はあるが、あくまで希望的観測でしかない。
※刷りの管理はメリットではあるが、スリップに目印を付けてもページ検品の費用は発生する。減るのは倉庫の手間のみ。出版社の対応としては「そもそも、そういう問題を起こさない」ほうが圧倒的にコスト的にも手間的にも良い。

2.小零細出版社にとってのスリップ利用の間接的なメリットは、「スリップが必要な書店を見捨てない」という姿勢を示すこと。
※しかし、いくら「書店を大切にします」的な姿勢を示したところで発注が増えるとは限らない。

3.小零細出版社にとってスリップ利用の直接的なデメリットは費用と手間。
※スリップの制作費は新刊一点5000部あたり5千円(5000枚×1円とする)程度だが、刷部数が増える、点数が増える、改装が増えると、それだけかかる。10万部が一発出ると10万。年間20点程度の出版社だと、少なくとも10万(これに増刷分のスリップ制作費や改装費用、倉庫の管理費用が乗る)。
※本文と同様、間違いがあってはいけないので、校正も必要になる。それほどの手間ではないが、スリップがないと丸々作業が無くなる。
※管理の手間は分かりにくいが、一般的に、管理対象がなくなると思った以上に手間は減る。

4.小零細出版社にとってスリップ利用の間接的なデメリットは「スリップの必要な書店を見捨てるのか」という書店からの声。
※ただし、そういう声を上げる書店が小零細出版社の本をバカスカ売るとは限らない。


スリップのメリットは書店側にはある(防犯・単品管理等)が、現状、出版社側にはあまりない。この構造はICタグと似ている。ICタグも、導入によるメリットは書店のほうが圧倒的に大きい(防犯・単品管理・棚卸の効率化等々)。
※「スリップが付いていないと返品を受け付けないコミック」という話題もあったが、今はどうなっているのだろうか。

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