竹村さん(竹書房)の「品切れ重版未定とは品切れじゃないんだよ」は端的に言って間違ってるんだけど運用的には間違ってなくて、でも小零細はちょっと違うんじゃないかと思った点と、在庫情報の業界標準を作ろうとした取り組み、2017年春のamazonショック、及び、一部大手における「品切・重版未定」の考え方について

 今回も、ちょっと長いです。すみません。

 竹書房、勢いありますよね。飯田橋駅至近のビル、何回も壊されても不死鳥のように蘇るという。儲かってんだろうなあ。羨ましいです。

 すごく端的に書くと、竹村さんのおっしゃる「品切れ重版未定とは品切れじゃないんだよ」は、在庫ステータス(詳細後述)の解釈としては間違ってると思います。なぜなら在庫ステータス[33:品切・重版未定]は30番代なので「出庫不可」が原則だから。ですが、運用から見ると簡単に間違ってるとは言えないのではないか、とも思っています。

 今回は、竹書房の竹村さんが書かれた以下のnoteに対して、小零細はちょっと違う見方をしたほうが良いのではないかという話と、わかりにくい在庫ステータスをなんとかしようとした試み及び2017年春に「在庫ステータス」なんて聞いたことも考えたこともなかった小零細を襲ったamazonショック、一部大手における「品切・重版未定」の考え方について書きます。なるべく多くの方に読んでいただけるよう、用語については若干の補足を加えながら進めますが、小零細出版社向けに結論を先に書くと「amazonだけでなく書店からの発注のこともあるので、増刷や返品活用するつもりがあるなら、なるべく「重版中」も「品切」も「品切・重版未定」も使わず早めの増刷判断を。それでも倉庫の在庫が切れそうなら「在庫僅少」で返せ」です。

 「なんで零細出版社のお前が書くんだ」という件について若干言い訳を。この業界、在庫の話に限らず各社の独自ルールがとても多く(嫌になるぐらい多いです)、業界全体の標準化はゆっくりとしか進んでいません。自分は以前、在庫情報の標準化を目指す業界の委員会(情整研=出版在庫情報整備研究委員会)に小零細の立場で加わりました。その後も、近刊・既刊の書誌情報を標準化・整備するための委員会等に委員やオブザーバーとして参加。その間、自社でも業界標準への対応を前提とした業務システムの導入・運用を行いつつ、個人的にもXMLやJSON、PHP・SQLなどを勉強し直し、近刊情報を検索できるサイトやISBNから私製スリップを作成するサイトを作るなどしています。そうした過程で、多くの他社の事例に触れる機会を得ました。なので、たまに在庫情報、JPRO、POSデータの集計などに関する業界向けの勉強会の講師を務めたりもしています。そういうバックグラウンドです。ということで、始めます。

 さて、竹村さんのnoteには書かれていない「在庫ステータス」について簡単に。在庫ステータスとは、取次と出版社を結ぶ「出版VAN(新出版ネットワーク)」と呼ばれるEDI(商取引≒受発注等の電子的な情報交換)でやり取りされる在庫の出庫可否に関する状態を数値で表した情報です。表現が回りくどくてすみません。出版VANについては後ほど。以下に現行の在庫ステータスを掲示します。
■【1.出庫可】
 11:在庫あり(出庫いたします)
 12:出庫部数調整中(出庫部数お任せ下さい。ただし、同一書店に1部以上は必ず出庫いたします)
■【2.出庫保留】
 21:在庫僅少(在庫少なく、出庫調整中。出庫できない場合もあります)
 22:重版中(重版出来次第、出庫いたします。出来予定日も表示。出庫部数を調整する場合もあります)
 23:未刊・予約受付中(刊行前ですが、新刊予約や指定配本を受け付けております)
 24:品切・注文受付中(在庫なし、重版検討中です。ただし、返品改装出来次第、出庫しますので注文は受け付け中です。出庫部数を調整する場合もあります)
 29:その他
■【3.出庫不可】
 31:未刊(刊行前です。新刊予約は受け付けておりません。指定配本を受け付けていない出版社が使用)
 32:品切(在庫ありません。重版中でもありません)
 33:品切・重版未定
 34:絶版
 35:専売品(通常ルートで販売いたしておりません。特定団体、個人を対象に販売)
 36:通販品(通常ルートで販売いたしておりません。通販ルートのみの販売)
 39:その他
表はこちらから→ https://honno.info/category/reference/van_status.html

 いわゆる「品切・重版未定」ですが、出版VANの在庫ステータスでは[33]を使っているところが多いと思います。30番代は「出庫不可」なので、本来、ここで受けた受注は出荷しない約束です。が、社によっては対外的には「32:品切」「33:品切・重版未定」と出しつつ、運用的に[12:出庫部数調整中][21:在庫僅少][22:重版中][24:品切・注文受付中]などとしている社も結構あると思います(竹書房もそうかもしれません)。竹村さん(竹書房)の「品切れ重版未定とは品切れじゃないんだよ」についてより厳密に在庫ステータスを設定するのであれば[24:品切・注文受付中]を使うべきケースでしょうか。そういう意味で、間違っているのではと思います。

 ですが、「品切・注文受付中」などという在庫ステータスはあまり聞いたことがありません。使ってるところも少ないでしょうし、使われても書店からすると「出せるのか出せないのか、わけがわからない」と思います。在庫ステータスの表を見ていただいて分かる通り、出版社から出荷できるできないに関してのステータスは複雑になってしまっています。大手各社の独自ルールを取り込んだ結果らしいのですが、正直、面倒くさいだけです。最近増えた倉庫とリアルタイムでやり取りしようという中での在庫ステータスの決定では、曖昧な=誰かの判断を必要とする決定は望ましくありません。出せるか出せないかその都度判断するというのは、ものすごく面倒です。竹村さんが「すごくモヤモヤした自分はもう足りなくなったら重版かけちゃえ、という方針にシフト」されたのはもっともな話だと思います。早めの重版(増刷)で「品切」という状態を作らなければ在庫ステータスの細かい違いや出庫の可不可に頭を悩ます必要はありません。自分が竹村さんは間違っていないと思うひとつめの大きな理由はこれです。

 間違ってる間違ってないの話はここまでです。

 ここから「小零細は(竹書房とは)ちょっと違う対応が必要ではないか」という話に入りますが、その前に出版VAN(新出版ネットワーク)について簡単に説明します。

 出版VAN(新出版ネットワーク)は取次と出版社の間で受発注や在庫情報などをやり取りするためのEDI(Electronic Data Interchange、電子商取引)です。すべての出版社が使っているわけではありません。利用には対応する業務システムの導入とアナログの電話回線が必要で、利用料が発生します。月々の費用はそれほど大きな金額にはなりません。出版VANの導入・運用が難しい出版社のために、導入と運用を代行している倉庫もあります。また、出版VANを使っていない出版社から在庫情報を収集して変換し、出版VANに乗せている取次もあります。つまり、出版VANを使わずとも在庫情報だけは取次経由で開示できる方法はあるということです。

 出版社が出版VANに登録した在庫情報は、amazonを始めとするオンライン書店や、取次のPOSシステムを経由するなどしてリアル書店に提供されています。よくamazonが在庫切れになると「他の書店や出版社には在庫があるのに」という話になりますが、amazonが読者に開示しているのはamazonの在庫か、そうでなければ出版社(もしくは取次の倉庫)からの取り寄せの可不可に基づく調達期間等です。出版社の倉庫に在庫があるのかないのかを示しているわけではありません。

 amazonに限らず書店が出版VAN経由で得る在庫情報(在庫ステータス)は、書店が注文品などを入手できるか否かを表す重要な指標です。肝心なのは、「出せるか出せないか」「出せるならいつ出せるのか」「事情があって数を絞るとして何冊なら出せるのか」です。現状の在庫ステータスの幾つかは、そこが非常に曖昧です。なので、書店によっては、例えば「品切」や「品切・重版未定」で返ってきたアイテムは再発注しない等のルールがあります。

 2017年春、amazonがバックオーダー発注(取次に在庫がなかったアイテムの出版社への直接発注)をやめる、という話が飛び込んできました。amazonが出版社向けに用意した説明資料には、バックオーダーに限らず、amazonが発注するための在庫ステータスの前提が記載されていました。ここで初めて「在庫ステータスってなんだ」と思った社も多かったようです。amazonの在庫ステータスに関する考え方は非常に明快で曖昧さのないものでした。システム運用ということを考えると当然の判断かと思います。在庫ステータスの厳密な運用については、以前からamazonを含むオンライン書店や一部のリアル書店で行われていました。それが一般的に理解されていたかというと、そうでもなかったようです。なので、それまで曖昧な、つまり、いつどれだけ入るかわからないような在庫情報のやり取りをしていた出版社にとっては、寝耳に水だったかもしれません。

 少し話がそれますが、出版VAN(新出版ネットワーク)は、どこが主体で誰が管理しているのか、非常に曖昧です。導入のためには対応するシステム会社(日販コンピュータテクノロジイ、光和コンピューター、システムYAMATO等々)の話を聞くのが一番わかりやすいのですが、彼らは運営主体ではありません。運用の実際については取次のシステム担当に聞くのも確実ですが、彼らも運営の主体ではありません。いちおう取協(一般社団法人 日本出版取次協会)が運営の主体のはずなんですが、サイトでも新出版ネットワークの詳細はさがしにくく(というか、サイト内のリンクがないので普通には見つけられず)、見つけた資料も運用の主体である富士通FIPに丸投げという(ちなみに富士通FIPに聞いても微妙な感じだと思います(経験済))。今後はJPO(一般社団法人日本出版インフラセンター)に統合されるのではないかと見ていますが、そのあたり、自分は当事者ではないのでわかりません。

 運用主体が曖昧だということは、例えば今回の竹村さんの「品切れ重版未定とは品切れじゃないんだよ」に対して「それは違うんじゃないの?」と言える主体が無いということでもあります。自分としては取協は言ってもいいんじゃないかとは思いますが、取次は独禁法の優越的地位の濫用とかそういうのに敏感なので、出版社に対してあんまり「違うよ」とは言いません。それだけではなく、そもそも竹村さんのnoteに気がついてないという可能性もあります。どちらかと言うとそっちかもしれません。

 話を戻します。

 amazonのバックオーダー発注の資料を見てあたふたした出版社が気づいたのは、「amazonが発注しなくなる在庫ステータスがある」という現実です。返す在庫ステータスによっては重版(増刷)しても発注が来なくなる可能性がある、ということです。

 amazonから発注が来なくなるとまずいと思った社が多かったのでしょう、2017年はあちこちから呼ばれて在庫ステータスの話をしました。その場では、amazonだけではなく他の例も交えて、かなり具体的に話をしています。その結果が、最初に小零細向けの結論として書いた「amazonだけでなく書店からの発注のこともあるので、増刷や返品活用するつもりがあるなら、なるべく「重版中」も「品切」も「品切・重版未定」も使わず早めの増刷判断を。それでも倉庫の在庫が切れそうなら「在庫僅少」で返せ」です。

 出版社は不良在庫を抱えると在庫管理費用が嵩んで首が回らなくなります。特に物流倉庫と契約して一冊あたり月に幾らという金額を払っていると、不良在庫の増加は倉庫に払う費用の増加と直結します。なるべく不良在庫を抱えず在庫管理にかかる費用を抑えるのは、規模を問わず出版社が利益を出すためには鉄則です。そのための方法論は各社多様で、早めの品切と断裁を選ぶ出版社も最後の一冊まで売り切ろうという出版社もあります。専門的な本を扱う小零細の場合は後者が多いです。小零細に限らず「客注(お客さんが書店で棚に無かった商品を書店経由で発注すること)」は、返品の可能性が少なく確実に在庫を消化できるという意味で、出版社にとっては非常にありがたい出荷です。竹村さんが「ちょっと今の状態だとお渡しできないけど「客注」つまりお客さんがすぐ買うつもりで書店さんに頼んだものは委託ではなくほぼ買い切りに近いものだから特別に出庫する」というオペレーションを優先するのは、気持ちの問題だけでなく、利益の確保という意味でも理に適っていると思います。自分が竹村さんの「品切れ重版未定とは品切れじゃないんだよ」は間違ってるけど間違ってないと思うふたつめの理由です。

 ですが、前述の通り、小零細出版社にとって在庫の負荷は強力です。「在庫切れになりそうだから増刷」を繰り返していると不良在庫が膨らみ、取り返しのつかないことになります。増刷の判断のためにはPOSデータは欠かせないと思いますが、小零細はPOSデータを使っていないところも少なくありません。それを踏まえて、「amazonだけでなく書店からの発注のこともあるので、増刷や返品活用するつもりがあるなら、なるべく「重版中」も「品切」も「品切・重版未定」も使わず早めの増刷判断を。それでも倉庫の在庫が切れそうなら「在庫僅少」で返せ」の後段、「それでも倉庫の在庫が切れそうなら「在庫僅少」で返せ」を提案しています。倉庫に在庫がなくなると気軽に「品切」としていた社もあったんですが、改装した返品も含めて最後の一冊まで売り切るためには、時に書店から「いつ入るんだ」と怒られることがあっても、「在庫僅少」で、なるべく引っ張りたい。キレイに倉庫を空にしたい。そう思うなら、「品切」「品切・重版未定」で書店からの発注が途切れてしまう事態はなんとしてでも避けたいはずです。

 実際にはそうやってずるずる商品寿命を伸ばしたところで在庫管理費用が膨らめば利益は圧迫されます。大手や刊行点数が多いところがわりとあっさり「品切・重版未定」としたうえで廃棄処分してしまうのは、管理費用の問題です。それはそれで利益を出すための判断です。

 最後に、大手が重版する予定のないアイテムを「絶版」とせず「品切・重版未定」とする理由について自分が聞いた限りの話題に触れて終わりにしたいと思います。

 大手が長期的に増刷する予定のないアイテムを「絶版」ではなく「品切・重版未定」とする理由のひとつは、著者との「出版契約」です。出版社が増刷・販売を続ける意図を示す限り、著者が著作を他社から刊行することは難しい、けれど、「絶版」とすると著者は他社から著作を刊行しやすくなります。

 ちょっとザラッとした感のある話で恐縮です。最後の話はあくまで小零細出版社の自分が聞いた限りの話ですので、本当かそうでないかの判断はお任せいたします。

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高島利行

小さな出版社で働いております。

マガジン2

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