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ただでは病まない

タロットするときにあるもの。わたしには「素人が自分の力を過信した結果、取り返しのつかないことになる」という恐れと同じくらい「わたしたちが潜在的に持っている自分で自分を癒す力」への期待と興味があって、それまでの価値観が変わってしまうほどの辛い経験をした人たちが、いったいどうやって自分を取り戻していくのかが知りたい。その術を自分で見つけてみたいのです。

ホドロフスキーは「タロットの宇宙」に書いています。『権力への欲望から顧客を作り出そうとすれば、相談者は子供のように感情的な痛み止めを与えてくれる母や父を求める依存心を持った「顧客」になる』と。
それはタロットの現場に限った話ではなくて、日本のナチュラル系のクリニックでも、どこにでもある小さな病院でも、漢方薬局や、ハーブ系のセラピーでだって、ホドロフスキーが再三本の中で注意喚起している悪魔的な依存関係で成り立たせているところってあると思う。

悪魔と言えば、会ったこともない、まったく知らない女性のブログを思い出します。まだ小さいお子さんが発達障害と診断された母親の、いろいろ調べて見つけたナチュラル系クリニックに7年通った記録日記です。そのブログを見つけたのは何年も前なので、今も残っているのかはわかりませんが、日記を書いていたその女性は、発達障害と診断された自分の子供を、他の同級生の子たちと同じにしたい一心で、いろんな病院や治療法を試していました。地方から新幹線に乗って東京へ、そのナチュラル系クリニックに通った7年間の間、毎月5万から7万円分のビタミン剤を購入し続けたそうです。子供に期待した結果が見られないことへの焦りも書いてありましたし、地方から通うのは金銭的にも体力的にもハードだったこと、ビタミン剤の服用をやめたいと先生に申し出た時、子供を愛しているなら続けるべきだと説得されたことも書いてありました。どんどん貯金が減っていく不安については、読者の私も一緒に鳥肌が立つような深刻さが滲み出ていました。読んでいると、どうしてもいま現在の状況が気になってしまいます。飛ばして読んだ最後のページには、なんと彼女自身が鬱病になっていて、病院にかかっていることと、子供のビタミン剤はその効果のなさについに気づきやめたことが書いてありました。
実はわたしも、そのクリニックに一度だけ行ったことがあります。血液と少しだけ切った髪の毛から体質や、アレルギーのチェック、内蔵の健康状態を検査するために。予約の電話でわたしは「ステロイドをはじめ、病院から出されているそのほかの薬と、漢方のお薬。どれも効かないまま一年半が過ぎ、とにかく薬の量だけが増えている状況を変えたい。完全な薬断ちを検討しているところなので、そちらのビタミン剤を購入しない場合でも検査だけしてもらえるんでしょうか?」と伝えました。確認を取ってOKをもらい、たしか初診と検査とで3万円だったと思います。
にも関わらず、当日の検査のあと。警察の取り調べ室をちょっと明るくしたような、窓もない3畳ほどの小さな部屋に、2対1。超高圧的なメイクをした派手な顔の先生にわたしに合ったビタミン剤の服用を勧められ、わたしが断ると顔が変わり、怒りを抑えることなく机をバンバン叩かれながら、そうやって自分を過信していればいつか死にますよ?とまで言われました。そりゃいつか死ぬやろ。もちろんその場で反論したけれど、あの時のわたしはへとへとだった。今ならもっと言い返せるし、面白すぎて笑えるやろなぁ。心が疲れている時って、一番無視しておけばいいことや、自分の人生にとっては一番どうでもいいことになぜか真面目に深刻になり、ユーモアにあふれた楽観的な自分がまるで顔を出してこない。期待がはずれた先生の怒りは、目の前のわたしから、彼女の隣に座っていた気の弱そうな助手へ移動し、どなり散らし、そのまま部屋を出ていきました。コントやん。
わたしは体調が絶不調な上に血を抜いた後だったからか、怒りのせいか、お会計の時に受付の前で倒れてしまい、慌てた受付の人たちに支えてもらって、ペダルのようなものと、ノズルのようなものがついた謎のマシンがある部屋の、細いマッサージベッドで寝かせてもらうことになりました。収納庫ような薄暗い部屋のベットで横になっていると、うっすら聞こえてくる笑い声。常連らしき患者からの電話をメンヘラだと嘲笑うスタッフたちの声でした。1秒でも早く家に帰りたくなって、必死でベッドから起き上がり、受付で挨拶をしてふらふらのままタクシーに乗りました。家に着いてから、抑えていた怒りや羞恥心みたいなものが暴れだしたし、なかなか抑えきれなくて、そのクリニックの評判をネットで探していた時に見つけたのがそのブログです。7年間の絶望はものすごいページ数となり、全部は読んでいませんが、書き手の意図とは別のもの、様々な罪悪感に飲み込まれた母親が鬱になるまでの心の流れが可視化されてしまっていて、思い出すと今でもちょっと怒りが湧いてきます。あいつ、あの女医よ。再生回数全然少ないくせにyou tubeでいきりやがって!でもわたしが撮った花の動画より断然回っていた記憶(笑)。

心と体が弱っていて、かつ回復の道筋が見えないとき、わたしたちが誰かや、何かに、希望を重ね依存するのは当たり前のことだから、セラピストや占い師は、自分の行為や施術の根っこにある自分自身の欲望を、いつだって注意深く見張るくらいでちょうどバランスがいいのでしょう。お医者さんにもそうであって欲しいけど、子供の頃のように「先生」と呼ばれる人たちを無条件に信用し、希望を抱くことはできないです。わたしはもうしないな、と思います。

子供が病んでるなら、親なんてもっと病んでるし、親の親も病んでただろうし、もしかしたら飼われている動物たちも病んでるかもしれない。でも何万もするビタミン剤なんていらない。それよりも必要なもの。それは自分で自分の内に答えを見つけるしかなくて、そのためにはもう一度、どんなにしんどくても、他者がいる外の世界と関わっていくしかない。そこだけは絶対に止めてはいけないと思います。どんなにお金や時間をかけても、自分との対話に終始しているだけでは限界が来るからです。でも鬱になったことで、彼女もやっと気づくかもしれない。意識の変容はいつだって可能なのだということを。子供につけられた発達障害というレッテルをただただ剥がせばいいのだということも。
病んでいくママをそばで見てきたお子さんが、今どうなっているのかはわかりませんが、ママが自身の心を防衛するために作りあげてしまった見えない檻の外に出て、元気に笑っているかもしれないし、ママはママで鬱になって気づけてよかったと過去の自分を笑って許せていたらいいなと思います。そう言えば、パパ(夫)のことは書いてなかったなー。

ちなみに、不在の父親は9番の隠者、夫からの支配は4番の皇帝。19番の太陽も、カードが位置する場所によっては不在の父親になります。彼女やお子さんがもしタロットを引けば、たぶん出てきそうな番号たち。あと「リアリティのダンス」の続編である「エンドレスポエトリー」のラストシーンのメッセージは、親の愛を知らない子供がつけるオチとして最高じゃないかと思ってます。