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True セルフライナーノーツ

True〜本物のアーティストになるために〜

本セルフライナーノーツでは、Trueに収録した楽曲たちに込めた思いや制作秘話を振り返りつつ、「なぜそもそもアルバムを出したのか」、その真意に触れていきたいと考えています。

実は、アルバムを出すのはこれが初めてではありません。

遡ること今から7年前、当時大学を出たばかりの時にお世話になっていた先輩ミュージシャンのご好意で作成させていただいたフルアルバムが存在します。

それが紛れもない僕の処女作「雨あがりのトーン」です。

今や知る人ぞ知る存在となった本作には、現在ライブで人気の「Birth」といった楽曲をはじめ、僕の原点とも言える楽曲達が数多く収録されています。思い返せば当時、僕は一生懸命に自分の音楽を作っていました。先の見えない暗闇の中を進むようなフリーター時代でも、唯一曲を作っている時だけは目の前が光に満ちるような感覚になっていたのを覚えています。

しかしどんなに良い曲を作っても、知られないことには聞く人もいない。それは目を背けられない残酷な事実です。当日の僕は無名の下積みミュージシャン。さまざまな方の手を借りて作成させていただいた「雨あがりのトーン」の音が多くの人に届かないジレンマを抱えながら、自分のことを知ってもらう活動の大切さを痛感しました。

そこで僕は、YouTubeをはじめとするSNSを主戦場とした発信活動を始めていくことになります。これが「YouTuberソエジマトシキ」のはじまりであり、今この文章を読んでくださっているあなたとの出会いのストーリーでもあります。

発信活動を始めてからあっという間に7年が経ちますが、お陰様で何もかもが変わったように思います。はじめはギターレッスンのみの活動でしたが、機材紹介、セッション、少しずつ企画の幅を広げ、気がつけばオリジナル曲を演奏した動画をアップしたり、EPをリリースして視聴者の皆さんに楽しんでいただいたり、着実にミュージシャンとしての自分を取り戻しつつあります。

そんな中満を辞してリリースするのが今作「True」になります。文字通り、本物という意味ですが、そこには「ミュージシャンとしてホンモノになりたい」という僕の願いを込めました。ホンモノのミュージシャンになることと、アルバムをリリースすることが密接に関係していることは、音楽が好きな皆さんならなんとなくイメージできるのではないでしょうか。

アルバムとシングルの違いは、その本気度にあります。

近年ではストリーミングサービスの普及で、シングルベースでのリリースが圧倒的に増えていますし、その方がマーケティング的にも良いとされています。だからこそアルバムを出すという行為には、そのミュージシャンの純粋な熱意が宿るを僕は思っています。そしてシングルと違い数ヶ月から数年に渡り作成されるアルバムには、そのミュージシャンがその時代を生きた空気感そのものが留められているような気さえするんです。

アルバムが時代の空気感そのものを内包しているということは、今70年代や80年代のアルバムを聴いた時のことをイメージしていただけると直感的に理解ができると思います。だからこそ今作「True」にはYouTuber、インフルエンサー、ギター講師として今この時代を生きるソエジマトシキ/Toshiki Soejimaという存在が克明に記録されています。そしてそんなアルバムを作り続けることこそ、今も昔も変わらない、時の淘汰を経てホンモノのミュージシャンになっていく唯一の方法なのでは無いかと、僕は考えています。

今作「True」のリリースは、普段から僕のことを応援してくれているあなたと、雨あがりのトーンの頃から僕のことを見出してくださった諸先輩方、賛同してくれたミュージシャン仲間がいないとあり得ません。この場をお借りして感謝申し上げます。いつも本当にありがとうございます。

それでは今作に収録した8つ楽曲を、楽曲に秘めた思いと制作秘話と一緒にみていきましょう。

Life(True Ver)

Toshiki Soejima - Song, Produce, Guitar
Yoshitaka Utano - Keyboard
Yoshua Yoshida - Bass
Kazuki Washiyama - Mix & Mastering

今や僕を代表する楽曲になった「Life」ですが、誕生のきっかけは2021年1月にリットーミュージックより発売された初の著書「ネオ・ソウル・ギター入門」の執筆でした。

教則本の最終課題曲として「Crying」と一緒に書き下ろしたというのがこの曲のはじまりなんです。教則本を作る上で絶対にこだわりたかったのが、カッコ良い最終課題曲の存在です。課題曲だからということ以前に、聞けば思わず弾きたくなってしまうような曲にする必要がありました。

だからまずは課題曲を先に作り、教則本に収録されるすべてのフレーズがこの曲に結びつくように逆算していったのを今でも鮮明に覚えています。ありがたいことに今では国内だけではなく海外の方も積極的にカバーしてくれる楽曲になりつつあります。

そんな「Life」ですが、サウンド面の特徴は極限まで引き算されたミニマリズムにあります。ギターパートの休符の多さ、それを支えるバックのキーボードもほぼ白玉で、キックとベースは完全ユニゾンしているのでほぼ同じ音色になっている。同時に聞こえる音が1~3つしかない、余白の多い音像になっています。

その隙間に入るのは、聞き手の感情です。感情移入できる余白をあえて残しています。

インスト音楽は歌詞がないため、曲名と音以外に感情移入できる要素がありません。だからこそ、「Life」には聞き手が自分の人生を重ねる余白が必要でした。ライブでこの曲を演奏すると、思わず涙する方も少なからずいらっしゃいます。これから僕自身も様々な人生を重ねていきながら、生涯をかけてこの曲を熟成させていきたいと考えています。

ちなみにタイトルに(True Ver)とありますが、実は以前にリリースした音源に対してリードギターを弾き直しています。音色、ソロの内容など少しずつ違いがあるので、ぜひ細かい所まで聞き込んでみてください。

Yours, Truly

Toshiki Soejima - Song, Produce, Guitar
Makoto Otsu - Lyric
KOTETSU - Vocal & Chorus
Yoshitaka Utano - Keyboard
Yoshua Yoshida - Bass
Kazuki Washiyama - Mix & Mastering

今作のリード曲であり唯一の歌モノである「Yours, Truly」は、今回収録した8曲の中でも最も重入れが深い楽曲です。

「世界に通用する曲を作りたい」というのがこの曲を生み出す原動力となっています。世界に通用するということで、言語の壁がないギターのみのインストは大きなアドバンテージがあります。反対に歌モノとなると、どうしても日本語での楽曲は世界のマーケットに対してのアプローチが難しくなっていまいます。

そこで必要になるのが、ネイティブと並べても遜色のない歌詞と歌でした。今回作詞をお願いしたドラマーの大津惇さんは高校生までの人生をアメリカで過ごされた経歴を持ち、現在はドラマーという枠にとどまらずアレンジャーとしても活動されています。歌をお願いしたKOTETSUさんは僕と同じ佐賀出身で、そこからアメリカはボストンにある名門バークリーに留学し、日本でもトップクラスの歌唱力を持つ超実力派シンガーです。この素晴らしいチームがなければ「Yours, Truly」は生まれていません。

実は大津さんもKOTETSUさんも、僕の処女作「雨あがりのトーン」の時から参加いただいている付き合いの長いミュージシャン仲間です。あれから7年が経ち、状況は色々と変化しましたが、変わらずに音楽を共に作れていることを心から嬉しく思います。

この曲ではMVも作成しました。普段YouTubeにアップするのはセッションやライブ動画の方が多いですが、この曲は歌モノであることから、少し違った見せ方をする必要があると感じMV作成を決意しました。監督を行ってくれたのは僕のライブレコーディングでもお馴染みのToshiki Shibataくん。彼もまた人生の半分以上を海外で過ごした経歴の持ち主で、日本にいながら海外のニュアンスをネイティブ感覚で出すことができる類まれなる逸材です。

メイドインジャパンクオリティの世界に通用する楽曲になっていると確信しています。これからもこのチームで「Yours, Truly」に続く楽曲を作っていきたいです。

Snow

Toshiki Soejima - Song, Produce, Guitar
Yoshitaka Utano - Keyboard
Yoshua Yoshida - Bass
Nahokimama - Trumpet
Kazuki Washiyama - Mix & Mastering

「ジャムれる曲!」というのが「Snow」のコンセプトです。ⅣM7から始まりセカンダリードミナントを繰り返すシンプルながらソリストのインスピレーションを駆り立てるコード進行と、たった二つのリフで構成されるミニマムな楽曲になっています。

この曲で特に思いれ深いのが、静岡に活動拠点を移す前に住んでいた埼玉で奥さんであるNahokimamaと行ったセルフレコーディングです。元々ミュージシャン同士で出会ったNahoさんとは、当初お互いのプレイドと照れ臭さからあまり音楽の話が出来ず、互いの活動やプレイに対しては静観するという関係性が続いていました。そんな関係が少しずつ変わってきたキッカケが、Nahoさんのプロミュージシャン引退でした。

当時ミュージカルやレコーディングにて最先端の活動をしていたNahoさんの決断は、少なからず業界に衝撃を与えたと僕は感じています。Nahoさんがミュージシャンを辞めた最大の理由が「やらなきゃいけない音楽からの解放」でした。さらわないといけない曲、研究のため聞かなければいけない曲、そういったミュージシャンとしての義務感なしに音楽を楽しめる環境を望んでいたんだと思います。

肩の荷が降りたNahoさんは少しずつトランペットとの距離を縮め、たまに吹いたりするようにもなりました。そこで僕の口から自然と「今度僕の曲で吹いてみない?」という言葉が出ていました。当時Kimama Studioもないので録音機材もほぼ持っていない中、近くのリハスタに愛用していたインターフェースUniversal AudioのArrowを持ち込み、ShureのSM58を借りて慌ただしく録音したのを覚えています。今思えばもっと良い録音方法やマイキングあったと思うのですが、何も知らなかったからこそセオリーを無視した初期衝動あふれる音になっていて今はとても愛おしいです。

この文章を読んでくださっているあなたとも、いつかこの曲でセッションできる日がくるといいなと思っています。

Slow Down

Toshiki Soejima - Song, Produce, Guitar
Nahokimama - Song, Trumpet
Yoshitaka Utano - Keyboard
Yoshua Yoshida - Bass
Kazuki Washiyama - Mix & Mastering

1歳の息子を連れて行った軽井沢への家族旅行の思い出として作った曲です。僕は軽井沢をはじめ長野県が大好きで、ここ5年ほどは毎年必ず一回は遊びに行っています。この時泊まったのは軽井沢をさらに超え、有名な白糸の滝や鬼押し出しの先にある深い森の中にひっそりと佇むコテージでした。僕の憧れにFKJというミュージシャンがいますが、彼はとんでもない大自然の中(フィリピンのジャングル)に住んでいて、そこから世界に向けて音楽を発信しています。まさに僕のロールモデルそのもので、いつかFKJのようなスタジオに暮らしたいと心から思っています。「そんなFKJの暮らしを体験してみよう!」ということで、約4日間の滞在中にSlow Downを作成しました。

1歳の息子は可愛いのですが全く制御が効かないので、基本的に楽曲制作の作業は彼が寝ている時にしか行えません。森の中で、息子が寝ている間の作業は静寂そのもの。楽器の音以外は自然の音のみで、一切のノイズのない澄み渡った世界。あの場所だからこそ生まれた独特のChill感がたっぷりと味わっていただける楽曲に仕上がったと思います。

コード進行は今作の中でもジャズ要素が強く、いざライブで演奏するときはプレイヤーのインスピレーションを解き放つ楽曲へと化けるのではないかと感じています。

Yozora

Toshiki Soejima - Song, Produce, Guitar
Yoshitaka Utano - Keyboard
Yoshua Yoshida - Bass
Kazuki Washiyama - Mix & Mastering

「Just The Two Of Us」をオマージュしたコード進行と、ハネた重厚なビートが特徴的な楽曲。

この曲を語る上で欠かせないのが、ライブパフォーマンスでの人力フェードアウトです。通常フェードアウトはDAW上の処理として後がけで行いますが、僕のライブではあえてこれを人力、つまり演奏者のトーンコントロールのみで行っています。フェードアウトの最後の方では、演者が出す音よりもお客さんが出すコップを動かす音や、ズボンを擦る音の方が大きくなり、ライブ会場はとてつもない緊張感に包まれます。

フェードアウトの曲はライブでどう終わり方を作るかいつも悩むのですが、「Yozoraでは人力フェードアウトしかない」と自然と思えたんですよね。ぜひライブ会場にて人力フェードアウトの迫力を体感してみてください!

Beautiful in Tokyo

Toshiki Soejima - Song, Produce, Guitar
CHiLi GiRL - Song, Shamisen, Cho.
Yoshitaka Utano - Keyboard
Yoshua Yoshida - Bass
Nahokimama - Trumpet
Kazuki Washiyama - Mix & Mastering

才能溢れる三味線奏者のShinobu KawashimaさんことCHiLi GiRLさんとのコラボ楽曲、「Beautiful in Tokyo」。この曲が生まれるきっかけはTwitter上で開催している動画投稿企画「おしゃれペンタ選手権」です。おしゃペン投稿を見てみたら、ものすごく注目を集めている三味線での演奏が目に飛び込んできました。そこで演奏していたのがShinobuさんだったんです。その時すでに僕のバッキングトラック上で演奏されていたご自身のプレイに「Beautiful in Tokyo」というタイトルを付けられていて、そのままのメロディとタイトルを活かし楽曲として昇華し、今作に収録しました。

幼少の頃から数々の賞を総なめにし、たった数ヶ月の準備で東京藝大に現役合格し、自身のアーティスト活動の傍ら伝統芸能の担い手としての活動も行なっているShinobuさんは、僕から見るとまさにエリート、天才と呼ぶにふさわしい人です。しかし、そんな彼女の魅力は他の追従を許さないガッツ溢れるひたむきな努力量にあると思います。ここ数年で出会ったミュージシャンの中でもShinobuさんの努力量、活動量を超える人はそういません。

伝統芸能の担い手として、企業のパーティーや楽曲提供などで三味線を演奏し、そこで稼いだお金をアーティストとしての自分に再投資していく様は、音楽レッスン事業で稼いだ資金をアーティストとしての活動に回し、さらなる飛躍を夢見る自分と重ねざるを得ません。Shinobuさんには、音楽性はもちろん、その活動スタンスにとても共感しています。

そんな彼女と作った「Beautiful in Tokyo」はメイドインジャパンを裏テーマにした今作において欠かすことのできない存在です。Shinobuさんと世界を舞台に活躍できるよう頑張っていきたいですね。

Crying

Toshiki Soejima - Song, Produce, Guitar
Yoshitaka Utano - Keyboard
Yoshua Yoshida - Bass
Kazuki Washiyama - Mix & Mastering

僕にとって初めての「バズ」を経験させてくれた楽曲が「Crying」です。1曲目の「Life」と同時期に著書の課題曲として制作していた時に、そのデモ演奏をInstagramにアップしたところ、当時の僕としては最大規模のバズが起きて、一気に海外のフォロワーさんが増えたのを今でも鮮明に覚えています。

思えばあの時、僕の中で「世界」という発想が生まれました。それまでは日本で音楽を演奏する者として、本場アメリカや海外のことに思いを馳せることはあってもどこか他人事というか、自分が世界で活躍するギタリストになれる可能性があるとは夢にも思いませんでした。だって英語は喋れないし、ある日突然単身渡米するうような性格でもないし…色んな理由を付けて初めからその可能性を自分の中で否定していました。

しかし、世界への扉はスマホの中にありました。そう、SNSです。中でもInstagramは海外ではギターの主要な情報収集場所として広く親しまれていて、Masteus Asatoといった著名なギタリストもInstagramで人気に火がついたんですよね。SNSは世界中に等しく平等で、当時日本以外では全く知られていなかった僕に、世界への切符を与えてくれました。2023年3月時点でInstagramのフォロワーは9万人、その内8割近くが海外のフォロワーさんです。今では少しずつ僕の楽曲のカバーをアップしてくださる方も増えています。

作曲活動を行なっていると「自分を次のステージへ連れて行ってくれる楽曲」と出会う瞬間があります。もちろん自分で作っているので、出会いという表現が適切かどうかはわかりませんが、曲が自分の力を超えて拡散され、大きなエネルギーをまとっていく様はどこか他人事のように思えるというか、不思議な感覚なんです。

「Crying」は僕を世界のフィールドへ押し上げてくれた楽曲です。いつか海外でお客さんの前でこの曲が演奏できる日が来ることを願って、これからも大切に演奏していきたいです。

Bright Sunny Days

Toshiki Soejima - Song, Produce, Guitar
Kazuki Washiyama - Mix & Mastering

冒頭で、アルバムにはミュージシャンが生きたその時代の空気感も収録されるということを言いましたが、今作「True」においてそれは自宅スタジオKimama Studioにてギターを構える僕の姿です。

最後に選んだのはソロギターで、今までYouTube上や様々な場所で演奏してきたモチーフを曲に昇華させたものです。タイトルはかつてNahoさんが自身のバックバンドに付けていた「Bright Sunny Days」からつけました。

サウンドは極めてシンプルですが、エアー感を少し強調して「同じ空間でギターを聴いている」状況をイメージしていただけるように工夫しています。これまでの7曲の余韻に浸りながら、最後のソロギターを味わっていただけると嬉しいです。

最後になりますが、今作「True」を聴いていただいた皆様、参加してくれたミュージシャン仲間、ミッスクマスタリングを担当してくれたSuspended4thの鷲山さん、音楽と家庭の二つの側面で僕を支えてくれるNahoさん、そしてこの文章を読んでくださっているあなたに感謝申し上げます。本当にありがとうございました!!このアルバムを通して皆さんの人生がより素晴らしいものになることを願っています。

ソエジマトシキ


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