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折々の歌詞

130
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記事一覧

折々の歌詞(130)

折々の歌詞(130)

小さな花宿す枕木 並行に並ぶ錆びた線路

 ムック

「流星」(2006) 「枕木」と「線路」が形成する座標は
壮大なイメージへと発展する、「恋人」との叙情詩の原点を用意した。
文字どおり「地に足がついた」宇宙旅行の道行き。

折々の歌詞(129)

折々の歌詞(129)

いつか もし子供が生まれたら
世界で二番目にスキだと話そう

SMAP

「らいおんハート」(2000)
「子供」は傷つくだろう。

折々の歌詞(128)

折々の歌詞(128)

夏の星座にぶらさがって 上から花火を見下ろして

aiko

「花火」(1999) 「恋」、あるいは「夏」の眠りにつく直前のような倦怠、陶酔を
見事に描破した「もやがかかった影のある形ないもの」のなかで、
時間のとまった空気のなかで、たよりない、あこがれに満ちた心は浮遊する。
「天使」の忠告にも耳をかさない少女は
いまや、叙情の空間を支配する神。
自己愛のインフレーションではない。絶唱。

折々の歌詞(127)

折々の歌詞(127)

この胸の中 悟られないまま

 Pierrot

「screen1 トリカゴ」(1998) 「見えない場所で」、「傍に居ることが出来ないことさえも」、「掻き消され」、「幕を閉じる」、「視界をさえぎる」
不確定性、不可視性、不可能性の果て。
このような局面で凡庸な詞章は「伝える」を志向するが
そう望むことさえ不可能であると知っている。

折々の歌詞(126)

折々の歌詞(126)

夜が明けた空 塗り潰すように キスをしたね/最低な人と見た 最低じゃない夢を

 シド

「アリバイ」(2005)「夢」が「最低じゃない」と断言することで
「最低な人」という決定的評価をも浮遊させ
未練、後悔、依存などの複雑な情緒を
からみあい複雑なままに描破した。

折々の歌詞(125)

折々の歌詞(125)

展望台パラシューター/隠れてキスをしたこと/愛の意味を知って/キラキラキラ髪飾り

JUDY AND MARY

「Brand New Wave Upper Ground」(2000)名詞、映像的ワンシーン、形容詞の断片が、細く、しかし強靭な一本のイメージの糸でむすびついている。
破格の不安定さと踊るようなリズムが、詞章を固定せず、寄せては返す波のように夏の海岸の情景を生動させる。絶唱。

折々の歌詞(124)

折々の歌詞(124)

あしたはあると/なんとなく想うよ/潤みかけた瞳に映った/月のながめかた/みつけた

ROUAGE

「月のながめかた」(2000)「キミに見立てて月をみた」「上目使いで月をみた」と
心理的、空間的距離をへだてた「キミ」の象徴であった「月」が
目の前で「キミ」と一致する瞬間。絶唱。

折々の歌詞(123)

折々の歌詞(123)

加速する魂の抜殻に跨がれ!!
剥き出しの魂の鼓動に合わせ鞭を打て!!

 emmurée

an「acute」(2012) 「魂」の反復にゆるぎない意志がこめられている。
「跨がれ」「鞭を打て」の強い命令形が効果的。
「抜殻」とは肉体そのものだろうか。だとすれば「跨がる」というイメージは
なにを意味しているのか。

折々の歌詞(122)

折々の歌詞(122)

興奮すっゾ! 宇宙へGO!

 氷川きよし

「限界突破×サバイバー」(2017)鳥山明『ドラゴンボール』シリーズの本質を
ここまで簡潔に、明確に描破した詞章はほかにありえない。
原作の世界観に寄り添いながら、想像力あふれる言語遊戯は
まったく無駄がない。
古今に冠絶したアニメソング。絶唱。

折々の歌詞(121)

折々の歌詞(121)

夢ならばどれほどよかったでしょう/未だにあなたのことを夢にみる/忘れた物を取りに帰るように/古びた思い出の埃を払う

 米津玄師

「Lemon」(2018)「夢にみる」まさにそのことを「夢ならば」と願っているのは奇妙。意味内容は了解できるので許容するにしても、安易な「夢」の繰り返しが音韻的効果を生むことはなく、「夢ならば」「夢にみる」おたがいに類型を強調しあっていっそう陳腐にしている。「忘れた物

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折々の歌詞(120)

折々の歌詞(120)

目の裏側で/ミルクこぼれて/あふれ出したんだ/“愛という憎悪”

THEE MICHELLE GUN ELEPHANT

「スモーキン・ビリー」(1998)インスピレーションが発し、美と真実を感受するのは常に身体の表側ではなく、背骨から頭の先にかけての「裏側」であり、特に「憎悪」は「目の裏側」。
「ミルク」の色彩、におい、味覚を想起しつつ、ここに現出した唯一無二の「憎悪」の感覚を把握せよ。

折々の歌詞(119)

折々の歌詞(119)

夜は長いネオン街

 仲街よみ

「ネオン街」(2014)俳句的に圧縮されており
「長い」が「夜」と「ネオン街」
どちらにもかかることは不可能ながら
どちらにもかかっているかのよう。
論理的に考えると意味は分からないが
それでも、よく分かる。

折々の歌詞(118)

折々の歌詞(118)

枝切られる 枝切られる/都会では両手を伸ばせない

 吉井和哉

「Call Me」(2005)アノミーanomie(デュルケーム『自殺論』)の本質を鮮烈なイメージで描破した。
「オレでよけりゃ必要としてくれ」は現代を生きるすべての人々の魂のさけび。

折々の歌詞(117)

折々の歌詞(117)

何も知らない僕はいつか眠りつづけるから/誰も届かない夢の中で溺れて 君の側へ沈んで

 Plastic Tree

「Sink」(1999)「何も」「いつか」「誰も」が響きあって
あいまいな、なまあたたかい「夜」「夢」「水」の空間を現出させる。
たしかなものは「僕」と「君」をむすぶ思いのベクトルだけ。