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折々の歌詞

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2019年3月の記事一覧

折々の歌詞(84)

折々の歌詞(84)

僕等は 本当に無自覚で/僕等は 本当にワガママで

 アルルカン

「価値観の違いは唯一の救いだった」(2017)都合六回繰り返す「本当に」は沈痛で無造作な真実の言葉。「すきとほつたほんたうのたべもの」(宮沢賢治「注文の多い料理店」序)「みんなのほんたうのさいはひ」(「銀河鉄道の夜」)

折々の歌詞(83)

折々の歌詞(83)

オーバードライブ 光の科学よ/禍々しい程の血よ/否! 凍てつくディスクは/今ジェネレイターを胸に抱き

 メトロノーム

「プラネット」(2003)「癒しの女神」や「クロノチップ」などの語彙がなぜか調和している。自然科学と魔術の融合、錬金術。しかし、新風を開こうという気負いは感じず、かたくない、軽い。

折々の歌詞(82)

折々の歌詞(82)

飛行機が落ちて たくさん死んで/テレビの数字 明日には忘れ/幼なじみの よく遊んだ子/自殺したってさ/可哀想 そうね/名前も思い出せない

 DADAROMA

「溺れる魚」(2015)あえて平語を連ねて幼児性を滲ませる。「飛行機」はもはや古典的本歌取り(THE YELLOW MONKEY「JAM」(1999))。頽廃的語彙より残酷な「可哀想」

折々の歌詞(81)

折々の歌詞(81)

春麗らに光が射して/染まる華は虹色/露を纏う大地は蒼く/命を讃える

 Kagrra,

「春麗ら」(2003)色彩豊かだが目がくらむようなうるささではない。日本的な情緒のなかに「輝き」を溶かした。視野が極めて広く、おおらか。「うち靡く春来るらし山の際の遠き木末の咲きゆく見れば」(尾張連)

折々の歌詞 (80)

折々の歌詞 (80)

「もしも時が戻るならば 願いますか?」/願えるのなならば 君といた頃へ/午後の雨は 照れ隠しの幸いになって/呆れる程に君の事 抱きしめさせて ずっと…

 A9

「タイムマシン」(2004)内省的な追憶が主調であるが、明るく澄んでいる。「午後の雨」もすぐに上がるだろう。

折々の歌詞(79)

折々の歌詞(79)

そばにいるだけで きっと幸せになれるから/最後だなんて言わないでしょ?/優しくしないでよなんて わがままでしょ?「ゴメンネ…」

 the GazettE

「幸せな日々」(2003)描写のない純粋叙情が、かえって清らかで哀切な感情を生動させる。「でしょ?」の畳み掛けが技巧を超越している。

折々の歌詞(78)

折々の歌詞(78)

この左手を 放したら 最初の二人になるね/この右の手の 傘を放して 最後の言葉になるんね/ありがと

 Vogus Image

「手」(2003)「左/右」「最初/最後」は効果的。「なるんね」は方言か。「右の手」の「の」で「文章の調子をまとめるために(…)無理をして」いる(坂口安吾)。

折々の歌詞(77)

折々の歌詞(77)

気も萎え荒ぶ 蟷螂枯る訪れ 雲集霧散 傷んだ土くれよ/命細める野山に語り 座る崩壊だ

 GUNIW TOOLS

「香風積」 (1997)いかなる他の歌詞世界にも類例を発見できない。日本近代詩にルーツがありそうだ。ねじれた語感が不安を呼ぶが、音調は跳ねながらもなめらかで、全体としては透明。

折々の歌詞(76)

折々の歌詞(76)

絆は形式美/孤独は夢遊病/嫌がる本能閉じ込めて/汚い僕の手掴む

 Raphael

「症状1.潔癖症」(1999)思春期の筆者は、この内容に並々ならぬ共感を寄せた。うまくSturm und Drangを乗り越える秘訣は、このような「孤独」を代弁してくれる言葉に出会うことなのかもしれない。

折々の歌詞(75)

折々の歌詞(75)

言葉にできず 言葉にならず/言葉は 心を壊して/大人の仮面を被った僕は/何も残らナイフと僕

 DIR EN GREY

「children」(2000)神戸連続児童殺傷事件を連想する。語は荒いが「理解不能なお前達のせい」と「心の闇」に同情的。「少年来る無心に充分に刺すために」(阿部完市)

折々の歌詞(74)

折々の歌詞(74)

そして君を殺してしまいたい

 La'cryma Christi

「Lime rain」(2000)涙を「ライムの雨」に見立てただけではない。「黒い太陽」、「ピアス」を「瞳の中に 幾らでも埋められるさ」などのイメージを通過しつつ、失恋のテーマがすべてを包みそうな調和を大胆に破り、殺意に。

折々の歌詞(73)

折々の歌詞(73)

夜の光が街を染めてく 僕の中までも/緑の蝶が街を染めてく 二人を包んで

 La'cryma Christi

「With-you」(1998)直前の「人は誰もが皆」という一般論で終わらずに、冒頭の「街」の描写に回帰したところに価値がある。夜の街を羽ばたく緑の蝶。きっと「ネオンの洪水」のように輝いている。

折々の歌詞(72)

折々の歌詞(72)

No.10のFAT BOBは ウエイトレスに首ったけ/だけど 彼女の返事はいつもこうさ “世界が終わるまで待ってて Baby”

 BLANKEY JET CITY

「PUNKY BAD HIP」(1993)抒情と小説が並存している。架空の「国」に仮託した青春。日本的郷愁には依存しない。

折々の歌詞(71)

折々の歌詞(71)

日傘をさして歩く彼の恋人は妊娠中で お腹の中の赤ちゃんはきっとかわいい女の子さ

 BLANKEY JET CITY

「悪いひとたち」(1993)アメリカの歴史を小説的な詞章で描写する。単純な社会批判ではなく、人生の悲哀に達する陰影がこの歌の価値。たった一人の「かわいい女の子」への祈り。