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折々の歌詞

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2019年4月の記事一覧

折々の歌詞(102)

折々の歌詞(102)

そいつは立ってた。そして 突然現れた。/「オマエハナンダ? ココハドコダ?」吃驚したぜ。

 エレファントカシマシ

「生命賛歌」(2003)「俺」の前に出現した正体不明の「そいつ」は「バケモノと決まった」が、
実は「俺」と同じように、おのれの存在を持てあます孤独な「ヒト」であり、迷子のようにとまどっているばかりか、
「オマエ・デッケェナ」、「オ・レ・ニ・チ・カ・ラ・ヲ」「オ・レ・ニ・ユ・ウ・キ・

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折々の歌詞(101)

折々の歌詞(101)

くたびれた街、病まない雨が水たまりに落ちた衛星主婦/地下マンホールの底で俺はヨダレ垂らしギラつくカリスマ講演者

 MERRY

「バイオレットハレンチ」(2002) 「悪徳の栄え」的な倒錯、猥褻、露悪ではなく、冒頭の崩壊した構文が示すような錯乱のダダイズム。
「カリスマ講演者」「マドンナ的存在の君」が同時に
それぞれ「エログロヒーロー」「ママ」であることが矛盾なく成立するような、「くたびれた街」

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折々の歌詞(100)

折々の歌詞(100)

街の底 人間達/彷徨っている/街の底 人間達/生きている

 eastern youth

「街の底」(2015) 「朝 昼 夜 そして朝」「何度も入れ替わる絶望と希望」「音もなく去り行く日々」MVにおいて描かれているように、描かれているのはけっして落ち着くことのできない、過程、変化、移動、「夢は枯野をかけ廻る」のごとき人生観、人間観。居場所のない男は時間的にも、空間的にも永遠に「漂っている」。

折々の歌詞(99)

折々の歌詞(99)

やってる意味のない事が大切 僕なりにがんばってる/やってる意味のない事が退屈 訳など探さないで

 八十八ヶ所巡礼

「金土日」(2018)「大切」「退屈」を音韻のみで結合し、「月火水」「木曜日」「金土日」の営為に対する矛盾した価値判断、情緒を描破した。「迷宮」「永久」、「困った」「待った」の押韻も同様に巧妙。

折々の歌詞(98)

折々の歌詞(98)

宇宙で最も暗い夜明け前/パールをこぼしにハイウェイに飛び乗る

 THE YELLOW MONKEY

「パール」(2000)「夜明け前」から虚飾を排し、真珠、高速道路をそれぞれ「パール」「ハイウェイ」と吐き捨てたところにこの詞章の生命がある。「クズだし確信はない」「俺」の虚勢はほほえましく、せつない。

折々の歌詞(97)

折々の歌詞(97)

まちぼうけのピリオド/なみかぜはそわそわ/とぎれたてとてのせん/ウラノメトリア

 GRIMOIRE

「ウラノメトリア」(2017)寓話的世界のなかで、素朴で無造作な「そわそわ」が生きる。海と宇宙の対比による、この上ない深さ、広がり。ひとりきり。灯されたかすかな光。

折々の歌詞(96)

折々の歌詞(96)

どだば向ェの弥三郎[ヤサブラ]ァ からぽねやみで/昼間目覚め[オドガ]ってギターコ むたど弾いてばし/したっキャ蜻蛉[ダンブリ]後追[アドボ]って 見ねぐなったド

 人間椅子

「どだればち」(1995)なまけものの「弥三郎」が失踪したという内容にすぎないが、名付けようのない郷愁とともに津軽弁で語られる。日本的「文学のふるさと」に限りなく接近している稀有な詞章。「ギターコ」の「コ」は接尾語(太宰

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折々の歌詞(95)

折々の歌詞(95)

長く美しい指が動いてる/腐った猫の香り 息を殺して

 THE BACK HORN

「セレナーデ」(2001)「バレリーナ」「バイオリン」「音楽室」「ピアノ」「ワルツ」のような語彙とともに流れる音楽のイメージは、「ヒステリック」「引き裂きたい」「狂い咲く悲鳴」「娼婦」「血塗られた」などによって退廃的に彩られる。暴力性、漠然とした怒りではなく、「舞い上がる羽根 夢見て」いる不器用な祈り。

折々の歌詞(94)

折々の歌詞(94)

全然夜にならないね/破裂した歩道橋の上/センセイションが足らないね/凍てついた炎 凍狂で

 八十八ヶ所巡礼

「凍狂」(2017)当該詞章以外にも「二人が聴いていた夢語り」の抒情、「空が 飲み干した雲と眠って」の幻想、「今日が裂けてく/烏賊が割けるように」の奇想、秀逸である。きわめて巧妙なこの韻文のフレーズが二度とあらわれないのも、いさぎよい。

折々の歌詞(93)

折々の歌詞(93)

何も出来ないで 別れを見ていた俺は/まるで無力な俺は まるでまるで高木ブーのようじゃないか

 筋肉少女帯

「元祖高木ブー伝説」(1990) 「高木ブー」が「無力」で滑稽な道化の象徴として異彩を放つ。反発や抗議があったとのことだが、この「高木ブー」は経験的「高木友之助」とはなんの関係もない。

折々の歌詞(92)

折々の歌詞(92)

眠りの浅い朝の回路 埃にまみれてるカイト/フワフワの音が眠ってる

 ACIDMAN

「赤橙」(2002)軽く、浮遊する、夢うつつ、あるいは「太陽と月の間」のような、どこにも属さない自由な時間と空間。「少年」の心象世界。「夜明けまえに、楽しい歌を歌い聞かせて、/眠たげな土の下に埋められた/哀れなファウヌスを喜ばせてやろう。」(イェイツ「幸福な羊飼の歌」)

折々の歌詞(91)

折々の歌詞(91)

こんな小春日和の穏やかな日は/あなたの優しさが染みて来る/明日の嫁ぐ私に 苦労はしても/笑い話に時が変えるよ/心配いらないと 笑った

 さだまさし

「秋桜」(1978)情景、心理の描写、「あなた」と私の関係性、「穏やかな」時間の流れだけでなく、過去と未来にも開けた広大な展望。歌詞においてこれほどのストーリー性を実現することは凡手には不可能で、軽率に模倣してはならない。

折々の歌詞(90)

折々の歌詞(90)

頭、手、足、胴体/-バラバラニ-/内臓ハ浴槽へ…

 グリーヴァ

「操リ人間」(2015)Oedipus complex、Necrophiliaなどがモチーフか。90年代頃の語彙のみで構成している。ほとんどヴィジュアル系擬古文。「発狂した母が浴槽の中で美しい犀を飼いはじめる」(寺山修司)

折々の歌詞(89)

折々の歌詞(89)

「息を吸って吐き出せばそこに君の空間が出来てそれをまた吸ってくれる人達が居る。/それだけで何かを伝えられて居るの。誰かの呼吸になれ。君は誰かの酸素になれる。」

 MEJIBRAY

「メサイア」(2013)「呼吸にな」るという表現が清新。直後に「酸素」と具体化、実体化してやや印象が鈍る。