ストーリーの種類-08

UXデザインにおけるストーリー

こんにちは、デザイナーのSasaki(@toshiyassk)です。

学生のときにストーリーテリングのワークショップに参加してから、ストーリーって面白いなと思うようになりました。(ストーリーテリングはストーリーを言葉、音声、イメージなどで伝えるための技法です。)
UXデザインのプロセスのなかで、シナリオ手法やストーリーボードなどのツールを使うことがありますが、そもそもシナリオやストーリーとは何なのか、UXデザインにおいてどう活用できるのかということについて、研究されてきた内容をもとに整理したいと思います。


【目次】
1. ストーリーとは?
2. ストーリーの要素
3. ストーリーの構造(The Hero's journey:英雄構造)
4. ストーリーの伝え方
5. おわりに


1. ストーリーとは?

ストーリーは、出来事、コンテクストやキャラクターの内面の変化が、時間軸に沿って動機と結果のつながりとなることでつくられる物語です。
ストーリーには以下のような種類があり、幅広い意味で使われます。

【ストーリーの種類】
・Anecdote:アネクドート
・Scenario:シナリオ
・Journey:ジャーニー
・Narrative:ナラティブ


Anecdote:アネクドート

事実に基づいた注目すべき出来事。エピソードや逸話などと訳される。

【アネクドートの例】
・Sさんは金曜日の夜にみんなでクラフトビールのお店に行きました。
・お店には40種類以上のクラフトビールがありました。
・クラフトビールよりもテキーラを飲んで盛り上がりました。


Scenario:シナリオ

出来事の連続した流れ。

【シナリオの例】
ビールが好きなSさんは40種類以上のクラフトビールがあるお店を見つけたので、金曜日の夜にみんなでクラフトビールのお店に行きました。
テーブルにはテキーラ専用ベルが置いてあり、みんなでベルを押すのが楽しくなってしまい、クラフトビールよりもテキーラを飲んで盛り上がりました。


Journey:ジャーニー

ある特定のキャラクターの内面の変化に着目した物語のこと。

【ジャーニーの例】
ビールが好きなSさんは40種類以上のクラフトビールがあるお店を見つけ、「いろんなビールが飲めて楽しそう!今度みんなで行ってみよう!」と思い、金曜日の夜にみんなでクラフトビールのお店に行きました。
Sさんたちは気になるビールを注文していくなかで、売り切れていて飲めないビールもあり少し残念なこともありましたが、テーブルに置いてあるテキーラ専用ベルを押すと店員さんがすぐに押された回数分のテキーラをもってきてくれるので楽しくなってしまい、クラフトビールよりもテキーラを飲んで盛り上がりました。
Sさんは「クラフトビールを飲みにきたはずだけど、盛り上がったからまあいっか!」と思い、またクラフトビールを飲みに来ようと思いました。


Narrative:ナラティブ

ある特定のキャラクターの一人称視点の能動的な体験をあらわすもの。完結したストーリーに対して、各キャラクターの視点や行動によってストーリーを変化させるアプローチとして使われることがある。「ナレーション」と同じ語源をもつ。

【ナラティブの例】(Sさん視点)
僕は気になるクラフトビールのお店を見つけた。「このお店には40種類以上のビールがあるのか。今度みんなで行ってみよう!」
金曜日の夜、僕たちはクラフトビールのお店に行った。「たくさん種類があって迷うなー。」「え、このビールはもうないのか、残念だな。じゃあこっちのビールにしよう。」
このお店のテーブルにはテキーラ専用ベルが置いてあった。ベルを押すとすぐに店員さんがテキーラをもってきてくれる。「このベル、押した回数だけテキーラが運ばれてきてやばいな。」
僕たちは最終的に29杯ものテキーラを飲んでいた。「クラフトビールを飲みにきたはずだけど、盛り上がったからまあいっか!またクラフトビールを飲みに来よう。」


2. ストーリーの要素

【ストーリーの要素】
構造:「起承転結」のようなストーリーの骨格。
コンテクスト:ストーリーが展開される環境。物理的、知覚的、歴史的、情緒的コンテクストなどの種類がある。
キャラクター:ストーリーの登場人物。
視点:ストーリーが語られる視点。
言葉づかい:キャラクターの話し方を含めた語りのスタイル。


3. ストーリーの構造(The Hero's journey:英雄構造)

ストーリーの構造にはさまざまなものがありますが、UXをデザインするときに視点を変える構造の一つとして「英雄構造」があります。

英雄構造は、どこにでもいるようなありきたりの存在だった主人公が、冒険へのきっかけを境に試練を乗り越え、目的を達成して日常の世界へ帰還するという構造です。アメリカの神話学者のジョーゼフ・キャンベルさんが世界中の神話を研究し、共通のパターンがあることを発見しました。


英雄構造には大まかに「冒険へのきっかけ」「試練」「目的の達成」「帰還」というステージがあり、このステージごとのコンテクスト、キャラクターの感情、行動などを紡ぐことで、ユーザーが試練を乗り越え、目的を達成するような体験を検討しやすくなります。


4. ストーリーの伝え方

ストーリーを伝える手段には、言葉、写真、スケッチ、動画などがあり、オーディエンス(聞き手)が誰なのかを考慮したうえで、アウトプットする労力や情報量の軸でストーリーの伝え方を検討します。
例えば、調査で撮影した写真を使ったり、重要なポイントを強調したスケッチで表現したり、動画は制作する労力がかかるかもしれませんが、力強くストーリーを伝えられます。


5. おわりに

今回は主にUXデザインにおけるストーリーの概念的なことについて切り取って整理してみました。ストーリーの面白いところは、さまざまな出来事、コンテクスト、キャラクターの感情などの要素がつながり、全体としてどのような価値があるのかを伝えられるところだと思います。
今後もUXデザインにおけるストーリーの活用の可能性を探りながら、プロジェクトに応じて使いこなせるようにしていきたいです。


【参考文献】
・『ユーザエクスペリエンスのためのストーリーテリング -よりよいデザインを生み出すストーリーの作り方と伝え方 -
・『ビジュアル・ストーリーテリング -インフォグラフィックが切り拓くビジネスコミュニケーションの未来
・『Global UX: Design and Research in a Connected World
・『ストーリーとしての競争戦略 —優れた戦略の条件



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