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非同期セルオートマトンの宇宙

非同期セルオートマトンを実装してみました。これまであまり扱ってこなかったセルオートマトンの種類なのですが、理由はランダム性が生まれてしまうからです。ただ、試してみるといくつか面白い発見はありました。

ぼくが認識している非同期セルオートマトンというモデルは、ネットワーク(脳神経や人間社会、蟻の生態系など)において個々のノードの自律的な動作であるミクロが、ネットワーク全体であるマクロに与える影響度の小さいことを確認できるオートマトンです。ミクロでのルールはとても大事だけど、細かなノイズはマクロには現れない、自己修復される、というイメージですね。

そして、実際に実装して実験してみて、認識に間違いはなかった、と感じました。数学的な証明ができたわけではないのですが、いくつかの非同期セルオートマトンで自己組織化するルールでノイズ(セルが近傍セルの状態を勘違いするようなもの)を与えても、いくつかは形を変えた組織が残っていました。消滅してしまうようなルールもありました。ノイズがなくとも、自己組織化した個体に対しては非同期というランダム要素が発生するのに、壊れず残るようなルールもかなり多く見つかりました。初期状態からの変化はバタフライ効果といえる現象が起こりますが、それ以降はマクロ視点ではある程度予測可能な動きをする、バタフライ効果を感じないものでした。

では、この非同期セルオートマトンは宇宙なのでしょうか?ぼくの考えているセルオートマトンの宇宙について話したいと思います。

セルオートマトンの宇宙

量子的な物理法則がこのユニバース、もしくはマルチバースを構成しているのだろう、という古来からの物理学者が考えている自然な予測は、ぼくも同様に信じています。ぼくがセルオートマトンに魅了されている理由は、不思議な動きを眺める楽しさだけではなく、これが万物の物理法則であり膨大な記憶領域と演算速度があれば、我々の知っている宇宙とは別の宇宙が見えるのではないか、と思っているからです。

我々の宇宙には数多くの星々があり、その星の中には多様な生命体にあふれる地球があります。セルオートマトンの宇宙では、星はあるのでしょうか?とてつもないエネルギーを放ったビッグバンがもたらした宇宙は、量子的な状態(エネルギー?)が原子や分子・超分子を作り、万有引力により星が構成され、その中に集まった分子が自己組織化して機能を持ち、選択と淘汰により生命が生まれています。

ぼくが考えているセルオートマトンの宇宙はそれをシミュレートするものではありません。ただ単に多次元空間と、近傍から状態を得て自身の状態を変化させる量子セルが用意されているに過ぎません。

便宜上、2次元セルオートマトンを扱うことが多いのですが、それ以上の次元を扱っても良いわけです。コンピュータで表示することと計算速度の都合で2次元が扱いやすいからです。でも、例えば10次元セルオートマトンを作ったとしましょう。ルールは、まあ都合よく複雑系が生まれるものを採用しましょう。この宇宙は10次元ですが、そこから2次元の像を作ってみましょう。我々が我々の宇宙に対して視覚的に感じていることと全く同じです。この2次元の像には何が映るのでしょうか。見えない次元ではどんな複雑な事が起こっているかわかりません。とても複雑なことが行われているかもしれません。例えば、我々の宇宙では素粒子は相対的には移動していますが、このセルオートマトンの宇宙でも素粒子のように移動する物質があるとして、その素粒子が動く理由は、素粒子という像を組み立てるセルとそのルールがあることになります。セルオートマトンではこれ以上分解できない量子をセル、と呼んでいるわけですから、セルが移動するわけではなく、移動する『なにか』が現象されるということです。

身近なところでいうとコンウェイのライフゲームのグライダーは、素粒子なのかもしれません。ところが、我々の宇宙での素粒子は更にマクロレベルの物質を構成し(組織化)、元素や分子のような多様な性質を持つ『現象』をもっています。ライフゲームのグライダーがこの現象を起こすのだろうか?というのは疑問を持っています。ライフゲームの宇宙はマクロで見てもライフゲームです。ライフゲームは万能チューリングマシンになりうるらしいですが、初期状態はどうも意図的に設定する必要があるようですね。ライフゲームは機能を持つ組織が生まれても、それらが更に自動的に組織化することはない、限界のあるルールだろうと思います。

2次元だからなのか、それともルールが違うのか、それはわかりません。ただ言えることは自己組織化した個体が、自動的に次の段階に自己組織化する、という現象が再帰的に行われなければ多様な宇宙といえないということです。ライフゲームの宇宙はそれができないルールなんだと思います。

非同期セルオートマトンの宇宙

話を戻します。今日作った非同期セルオートマトンは、先に書いたとおり自己組織化の発生のしやすさと、外的要因やランダム要素に強いようです。この非同期セルオートマトンを宇宙だと例えると、先述のセルオートマトンの宇宙と同じことをもう一度説明することになるので要点だけ説明することにします。

あくまで非同期セルオートマトンの組織の安定性は最低段階での『現象』での話です。その現象が支える次の段階は、前の現象で得た自己組織化された『なにか』がさらに自己組織化したものです。そしてこれは何段階か繰り返されます。数段階あれば十分にランダム要素は隠れて見えなくなり、現象として確認できることは殆ど無くなるでしょう。それは自己組織化された『なにか』がそのノイズを丸め込むからです。

同期セルオートマトンであっても、非同期セルオートマトンであっても、もっと言えば、万物の理が何であろうとも、自己組織化が再帰的に行われることさえ確保できれば、計算機上で見たこともない宇宙を見ることができる、そう考えています。

宇宙は広く、行ったことも見たこともない場所がたくさんあります。でも、コンピュータ上の宇宙なら、それを見ることが叶うんじゃないか、なんて考えながら夢を語ってしまいました。

今日はこのへんで。

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