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陽はまた昇る エロじゃなくてごめん


銀座の個展で、僕は画商やプロ作家の名刺を何枚かもらった。
オーナーが言うには、それは画家にとって勲章と同じだって。
僕は画家としてのスタート地点に立ったらしい。

僕はそのまま、またポンコツに乗って大阪に向かった。
東京の成功を夢見て集まった人たちの張り詰めた空気に耐えられなかった。

深夜勤務・時給1500円・土日休み・・・僕は大手の鉄鋼会社に派遣で入った。
そこで一年間、何も考えずに働き、50万円貯めて空港に向かった。

二度目の放浪だ。
住処を出る時、腕時計を捨てた。

漠然とインドに行こうと思っていた。
もう日本に帰ってくる気はなかった。
未練は一切残っていなかった。

ただひとつ、頭の隅で、親友から借りた金のことが気になっていた。
今考えると、それが僕の命を守ってくれていたのかも知れない。

と、空港に着いた僕は、あることに気付いた。
パスポートもビザもない・・・・。常識が欠けていた・・・。

仕方なく発着ボードを見ていたら、沖縄行きの表示が目に入った。
僕はそのまま沖縄行きのチケットを買い、飛行機に乗った。

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タラップを降りると、ムッとした南国の空気が出迎えてくれた。
僕はその足で那覇港に向かった。

真っ青な空、全てを焼き尽くす灼熱の太陽、揺れる影・・・。

僕は小さなカバンを持って歩いた。
港の周囲には土産物屋が並んでいる。
人が誰もいない。まるでゴーストタウンのようだ。

乾いた空気、乾いた町、そして僕の心もカラカラに干からびていた。


僕には故郷が二つあった。
生まれ故郷の大阪、そして生まれ変わった第二の故郷、石垣島だ。

数年前、僕は最愛の彼女に振られ、それと同時に夢まで見失ってしまい、ぶらりと石垣島に寄った。
そこで生きる勇気をもらい、復活したのだ。


もう一度復活したかったのか・・・いや、違う。
そこで死にたかったのだ。

今思えば笑い話だが、その時は本気で思っていた。
鮫に食われて死のうと・・・・・。

石垣港に着いた僕は、バスに乗った。
拡がる青い海も僕の心を湧き立たせない。
海でさえ、乾いて見えた。

民宿に着き、久し振りにオーナーと会った。
じっと僕の目を見る。
一瞬、怖い顔をして僕を睨みつけた。

そしてパッと笑顔に戻り、僕の頬をバシッ!と平手打ち。
「よう来た。荷物を置いて、浜に行ってこい」

頬がジンジンと痺れ頭がくらくらする。
僕は、泣きそうになった・・・・。

ここのオーナーは、人の心を見抜く。
死にに来たやつを追い返すところを何回も見てきた。
「空いてるのに何故?」と聞くと、
「あいつは死にに来やがった。だから他所へ行ってもらったさ」

僕は受け入れられた。
と言うことは、生きる望みがあると言う意味なのだ。

そして恒例の平手打ち。
よう来たな、パシッ! 挨拶代わりだ。

しかし今回のは相当痛かった。
本気で叩いてくれたのだ。
まるで親のように本気で・・・・。

僕は当てがわれた部屋に荷物を置き、すぐに浜に向かった。


乾いていた。
アスファルトの道も鬱蒼と茂るジャングルも眩しい空も。

アスファルトが砂地に変わり、そして青々とした緑の割れ目に海が見えた。
真っ白な砂浜に立ち、海を眺める。

帰ってきた・・・やっと帰って来たんだ・・・そんな実感が湧く。

タオルを投げ捨て、そのまま海に入る。
ジーンズが隠れる深さまで入った。

涙が溢れた。
感動ではない。
長い間、母に見捨てられたと思っていた子供が、母に抱き締められたような・・・・。

僕は泣いた。
声を出さずに、静かに号泣した。

僕の中に詰まった苦しいモノが全て溶けだしてゆく。
僕の中から海へ流れ出してゆく。

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涙と共に全てのモノを流した僕は、海に向かって言った。
「ただいま」


その夜、中庭で僕を歓迎する宴会が開かれた。
グラスボードの船長、ダイバーズショップの店長、そして常連・・・懐かしい人たち。

土産物屋兼何でも屋のオバサンが言った。
「あんたが来ないと、夏が来ないさ」

満点の星空の下、笑い声が響き渡った。

そして僕は、いつの間にか、喉の渇きを忘れていた。


翌日、早朝から僕は海に向かった。
宿泊客数名を連れて。

ここでは僕は、単独での自由行動が許されない。
常にだれかを引き連れている。

「白石、今日は○○浜へ行ってこい。送って行ってやるさ」
「白石さん、今日はどこ行くの?」
僕が朝食を済ませるのを待ちきれずに、何人にも声を掛けられる。

多い時は20人以上、引き連れて僕は海に出る。
危険がないよう、常に周囲を注意深く監視する。

金をもらっているわけでもない。
ただ常連が僕をそうしてくれたように、僕も新しく来た客を海に案内しているだけだ。
言わば、民宿に対する恩返しだ。


その日は、朝早くから海に出た。
グラスボートが動き出す前には、様々な生物が入り江に入り込んでいる。
ウミガメ、エイ、浪人アジ、ナポレオン、そして・・・。

サンゴ伝いにアウトリーフに出る。
そこで僕はを見つけた。

恐怖はなかった。
それより、その流線型の美しさに見とれた。

ナイフを持ち、全力で泳ぎ始める。
が、向こうが驚いて逃げて行く。
あっと言う間に置いてかれた。

客を守るため、鮫と戦って死ぬ・・・僕のシナリオは崩れた・・・・。


「急にナイフを持って鮫を追いかけるんだもん、おかしくなったって思っちゃった」
「イカレてるね、彼は」
「戦うつもりだったのかよ、マジかよ」

海から上がった客たちは楽しそうに言った。
本当はマジだったんだけど・・・そうは言えなかった・・・。

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僕は死ぬのを諦めた。
まだ死んではいけないような気がした。

でも、心や身体に染み付いた悲しみが抜けない。

朝はみんなを引き連れ、海に出る。
そして昼からは、浅い所で大きな浮き輪に寝転んでぷかぷかと波に揺られる。
これが僕の日課となった。

昼からは誰も僕に声をかけなかった。
声をかけられる雰囲気ではなかったそうだ。

時間をかけ、ゆっくりとゆっくりと悲しみを心から追い出す。
染みついた孤独をゆっくりと海に溶かしてゆく。

海外3位-1


それから・・・死ぬほどもてた。
多い時には10人以上の女の子に追いかけられた。
自分の部屋には常に女の子がいて、帰れない状態だった。

バツイチであったのと、陽に灼けた真っ黒な肌と白い歯がもてたのだと思うw

お節介な友達が気を利かして夜のデートを段取ってくれた。
仕方なく、夜の浜辺を散歩する。
流木に腰を掛ける。

やっぱ、ここはキスでしょう・・・そう誰かが囁く。
僕は乾いた唇を、彼女の潤んだ唇に重ねた・・・・。


それからひと月、そんな僕も恋をした。
相手は、千葉から来た高校3年生・・・・。

最後の夜、一晩中語り明かし、夜明け近く、唇を重ねた。
胸に手を当てる。
何の抵抗もなく、全てを僕に委ねているのが伝わってきた。

高校生! その魔除けの札を僕は剥がすことが出来なかった。
18歳、だけど高校生!

もしあの時、手を出していたら、僕の人生は今とはかなり違っていたと思う。
もしあの時・・・リセットが効かないのが人生なのだ。


それから、20人近くの女の子の団体を連れて海に出たことがある。
振り返ると40個のオッパイが!!
その荘厳な眺めに何回も振り返った。

そしてその中に、僕の運命の女性がいるとは、その時の僕は気付かなかった・・・・。


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