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Izumi Booksの本棚 セルロイドの記憶ⅳ LittleStory

幼い頃おままごと遊びが苦手だった。
お母さん役にもお父さん役にも子供の役にもなりたくなかった。
誰の何かにもなりたくなかったんだろう。

お店ごっこが好きだった。
お店に並べるのは、道端で見つけた奇妙な形の石ころ。光にあてるとキラキラと魔法のように乱反射するガラスの欠片。原色の細いビニールの紐で編んだ腕輪。駄菓子屋のクジで当てた、特賞の安っぽい赤い飾りのついたおもちゃの指輪。
店主もお客もわたし。一人二役なお店ごっこは一人よがりなヒトリガタリ。
妄想なのかどこかで見た映像の欠片だったのか。

わたしの言葉はここから始まった。
ひとり遊びの好きな子は大人になってもひとり遊びの楽しさを忘れない。

ただ綺麗で美しいだけの言葉は紡げない。
ふわふわの淡色な恋物語も書けない。

それは…たぶん…

わたしの胸の奥深いところに小さな傷アトがあるから。
文字を並べるたびに、塞がったはずの小さな傷アトからじんわりと血が滲んで、かすかに痛みが走るから。

春物語

夏物語

秋物語

冬物語








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