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不登校先生 (5)


辛うじて、命を放り投げる前に踏みとどまれたことで、15年前と同じにならぬように、どのようにして「守る」か、考えた。

しなくてはならないことは、

管理職(校長先生)への相談と報告。

心療内科、もしくは精神科への受診。

この二つを確実に行うこと。

まずはそこからだ。

僕と同じタイミングで異動・昇進されたばかりの校長先生は、

温和で、でも行動力の在りそうな人柄だった。

前任校の校務員さんが『先生が次行くとこの校長先生。昔担任されていた時に一緒に働いたんだけど、とっても元気があって明るい、良い人だよ。』

と教えてくれていたこともあり、四面楚歌な職員室の中で、校長先生とあいさつを交わすときだけは、ほっとできていた。

その校長先生が、絶妙なタイミングで連絡先を全職員にお伝えしてくれたのは、僕が飛び込むことになった日の、終礼の時。

「みんなでやっていく、だからきついときには相談してください。皆さん何かあったらいつでも相談してください。私の携帯番号をお配りしていますので、ご確認ください。」

多分、あのタイミングで、校長先生の電話番号を教えてもらっていなければ、僕は誰にも連絡できぬまま、絶望のままに、月曜日出勤をしていたかもしれない。あるいは、かろうじて残った勇気を振り絞り、月曜日、休む旨を朝一で学校に電話できただろうか。

あらゆる違う分岐点はあったかもしれないけれど、あの日、金曜日の終礼の後、校長先生の携帯番号を自分の携帯に、即時に登録していたのは、色々な危険信号が、自分自身にそうさせていたように思えた。

校長先生に土曜の朝から電話を入れる。自分が昨日ホームに飛び込みそうになったこと。異動してからの日々がその原因になっていること。月曜日は年休を出すこと。そして月曜の夕方までに病院に受診する事。などを伝えた。

「まずは先生の健康が一番ですから、そうされてください。学校のことは、気にしないでと言っても、先生なら気になるでしょうけど、なるべく考えないようにして、まずは病院の受診の結果の連絡を待ってます。」

1時間ちかく、自分のきつい思いも混ざって校長先生に話をしたが、その間一言も、責められる言葉はなく、話を聞いてくださり、こちらの心中に気を配ってお話してもらったことが、一つ、自分の安心になれた。

「校長先生、すみません。最後にもう一つお願いがあるのですが、学校への連絡は、これから校長先生への携帯への連絡一本に絞らせてもらっていいですか?学校にはもう電話をかける勇気が出なくて」

「いいですよ。もし仕事でとれない時にも着信を見たらこちらから連絡入れますので。私の携帯にかけてきてください。」

ありがたい。本当にありがたい。自分が追い込まれたときに、追い込まれた場所への連絡は、本当に恐怖である。だからこそ、そこへの要望を了承してもらえたことは、ありがたかった。

↓次話




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