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クラス全員で節分鬼祭り (10)

「いってぇ、一年生に嚙まれたぁ。」

「あ、あの青いセーターの子やろ、俺も噛まれた。」

「俺3人も持ち上げちゃったけどすごい泣いてたよ。大丈夫かな。」

「このお面全然見えんのだよ、もう。豆ぶつけられまくり。」

興奮冷めやらぬ鬼役たちのインターバル、鬼たちが話している間にも、

セコンドチームがてきぱきと動く。

もちろん一緒に観ていたのだから、会話は弾むのだけど、

「ちょっと、噛まれたとこ見せて。消毒だけしとくから」

「衣装の胸毛だいぶとれてる。ちょっと動かんでね。つけるから。」

「水分は大丈夫?しっかり飲んどいたほうがいいよ。」

「N君の優しい鬼で一年生安心してたね。良かったと。」

セコンドは鬼たちに、演技をほめる言葉も沢山言ってくれていた。

体力は1ターンで空っぽになるほど暴れていても、

休息とモチベーションを上げるための褒め言葉が、

鬼たちをしっかり回復させてくれている。

鴨川会長並みの、名セコンドたちだ。

その間も、タイムキーパーのO君は、しっかり時間の確認を怠らない。

校舎の端の階段のインターバルスペースは、

子ども達の自治だけで、何も助言の必要のない時間の過ぎ方ができていた。

教室の方に目をやると、片付け係がほぼ全員、

傍らに一年生をしがみつかせながら、仲には両脇にしがみつかせながら

箒で床を掃いたり、机を並べなおしたりと、

あっという間に教室を元の状態に戻していく。

泣きっぱなしでほったらかしの子がいないかをみんな、見まわしながら、

泣いていたり、固まっていた一年生たちに

「頑張ったね。」「怖かったね。」「しっかり闘ってたね。」

と頑張りのねぎらいの言葉をかけ続けている。

笑顔で一年生を慰める姿は、立派な最上級生の振る舞いだった。

「後、もう少し、修復しとこう。」

「絆創膏、保健室からもらってきておこうよ。」

「アクエリもう飲む人いない?」

鬼たちへのかいがいしいサポートはテンポよく次々と施されていく、

そうこうしているうちにあっという間にインターバルの5分が過ぎて

興奮と成功を思い返して、盛り上がっていた雰囲気は、

再び、拍子木の音でスイッチを切り替えていく。

カキーーーン、カキーン、カキーーーーン、カキーーン

次の学級に入るのを、まだかまだかと緊張して待つ

「鬼が来たぞー!」役のH君は

額に汗をたらし、こぶしを握り締め、

ぐっと体に力を入れているのが見て取れる。

次は僕の番だ、やってやるぞ!という気持ちが伝わってくるように、

H君の目は輝いていた。

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