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平成東京大学物語 第7話 〜35歳無職元東大生、勉強はできても悶々としていた高校時代を語る〜

 学校で試験を受けるようになってから、自分の内に、選民意識のようなものが芽生え出した。とくに高校で進学校に入ってからは、だれもが良い大学に入るためにあくせく勉強していたので、なおさらだった。ぼくはみんなが必死に求めている栄誉をなんの苦労もなく手に入れていた。成績のおかげでなにもしなくても褒められた。それで終始、心が満たされた。

 ぼくは怠惰になった。自分を認めてもらうためになんらかの努力をしたり、なにかを訴えたりということをしなくなった。だれに対しても、自分を認めさせようとせず、自分の意見を通そうとせず、衝突を避け、あらゆる意見に賛同し、いつも穏健に接していた。頭の中でなにかが引っかかるような問答があっても、あいまいに笑顔で返した。ぼくはだれからも好かれた。繰り返される試験と閉鎖的な人間関係を両輪にして進む学校生活は、なんの苦労もない幸福な時代で、ぬるい風呂につかっているようだった。

 たけど、男女関係についてだけはからっきしだった。ぼくは童貞をとても長く貫いた。純潔を守るつもりなんてまったくなかったのに、女性を腕に抱くための行動力を、いつまでももち得なかったのだ。しかしぼく自身の名誉のために付け加えておくと、中年にさしかかった今でもぼくにはこの行動力というものが決定的に欠けているが、いつの間にかぼくは、自分から行動を起こすことなく、まるで誇らしげにその蜜で蝶を誘惑する花々のように、女たちを自然と自分の周りに吸いつけることができるようになった。いっぱしの人間となるには、いかんともしがたい欠損を、別の方法で補わないといけないこともあると思う。

 偏差値の女神のほほえみをほしいままにしていたものの、悪魔によって劣情の業火に焼かれていたという点では、ぼくは脂ぎった面の同級生たちとまったく変わるところがなかった。女の子たちをこの手で好き放題にしたくて毎晩悶々とした。でもとてもかなしいことに、甘い花の香りをぷんぷんさせている女子高生たちは、テストの出来になど鼻水もひっかけなかった。ぼくの唯一にして無二の武器は大人たちをとても喜ばせたものだが、同年代の生娘たちにとってはほとんど無価値だった。いったいなにをどうすればいいのか分からなかった。目の前に大きく開いた大樹の股に、薄紅色した花弁がしっとりと露に濡れていても、ただ試験の出来しか取り柄がないぼくは、それを指を加えて眺めるだけのことだった。悪魔たちに性の快楽へとたきつけられ、気が狂わんばかりだった。

 一方で、野球部だの、テニス部だの、また、なにをやっているのかよく分からないしみったれた級友たちですらも、女の子たちと男と女の交友関係になり、性的な快楽を享受していた。ぼくは、今でも苦々しく思い出す。彼らの満たされた、勝ち誇った顔を。教室でふざけて交際相手の腹を殴る女と、それを甘んじて受ける男のにやけた顔。映画館で鉢合わせた隣のクラスのカップルが、ずっと頭をくっつけあって映画を見ていたこと。同級生の誰かが、ショッピングモールの多目的トイレで行為したという噂。カラオケボックスで行為して退学処分になったという先輩の伝説。小柄で愛らしく、純情に見えた女の子が、放課後は特殊な宿泊施設の常連で、男の指技により、股間の部分がいつも天地創造状態だったとかいう噂。好き放題にもみしだれたにちがいない、彼女の豊かな乳房…。

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