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平成東京大学物語 第10話 〜35歳無職元東大生、初めて訪れた東京の街に圧倒されたことを語る〜

 ぼくは叔母の先導するままに空港からモノレールに乗った。その近代的な車両はしばらく東京湾岸の空港の施設やコンテナ埠頭や倉庫群の脇を走っていたが、いくつかの運河を超えて浜松町に近づいてきたころ、何本もの超高層ビルがあらわれだし、やがてそれらは林立してぼくの視界を閉ざした。モノレールは巨大なビルの谷間を縫うようにカーブしながら目的地へと近づいていった。そんな光景を現実に見るのは初めてだった。まるで20年先の未来へやってきたような気がした。それも人類の素朴な生活が終焉したあとの未来のように感じられた。

 山手線に乗ってからも、ぼくは窓から眺める東京という街の巨大さに圧倒され続けた。気がついたら、ぼくはホテルの部屋にいて、幅の広いベッドの白いシーツの端に腰掛けていた。傍らに叔母がいた。生き返ったような気分だった。リュックから財布を取り出して、ぼくらはホテルを出て、近くの大戸屋で夕食を食べた。そこで翌日の待ち合わせ時間を確認して叔母と別れた。ありがたいことに叔母はぼくを試験会場まで案内してくれる予定だった。ぼくは一目散にホテルへ帰った。このときは幸いに道順を覚えていた。ホテルは渋谷駅の外れの改札を出てすぐのところにあった。

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