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気がする屋 day.2|連載小説

生活において、『可愛い』はすごく重要なキーだと、ノブコは次女が体操教室でトランポリンを楽しげに跳ねるのを見ながら考える。

仕事に夢中になっていると、『可愛い』は二の次だ。
リモート勤務の日はノーメイク眼鏡だし、なんなら寝癖もついている。
机の上は埃まみれ。いつ届いたか覚えのない手紙が散乱し(そのうちのいつくかには、期日までに提出が必要な書類が含まれている)、買ったまま未だ手付かずの書籍が並ぶ。
パソコンのキーボードは手垢がこびりついている。
眼鏡は5年以上前に買ったものだ。付けた途端に鼻からずり落ちるが、直しもしない直す気もない。

なのだが。

なのだが。

生活を、大事にすると、決めたので。

可愛いは大事なキーなのである。

だって可愛いだけで、生活は潤うから。
気分が、上がるから。

ノブコは、決して美しい造詣の持ち主ではないし、かつてモテた事もないのだが、可愛いというのは、そういうことではないのだ。

自らが認める可愛さ。
自らが満足できれば、他者の評価は気にならない可愛さ。

歳をとって良かったかぁと思うことの一つに、この『可愛さの定義』があると、ノブコは思う。
若い頃は他者の評価と可愛さは比例していたし、切っても切れないものだったから。
今は、全くそんなことはない。


と、いうことで。


ノブコはまず、髪ゴムを買うことにした。
年齢にそぐわないリボンの。
でも年齢なりに合いそうなゴールドの。

髪も、肩まである長さはもっと伸ばそうと決意する。
ヘアマスクもヘアミルクも買った。
サラサラでいたいよね。

眼鏡も新調したい。
なんせ、結膜炎で今はコンタクトが出来ないし。
コンタクトは目が大きく見えるカラーコンタクトをするつもりだ。
でも今は、いかんせんコンタクトが結膜炎で出来ないので。

近頃は『おうちメガネ』やら『チークしてる風メガネ』やらがある。
ノブコが気になっているのはこの2つ。
でも、子連れで眼鏡屋は無理ゲーなんだよなぁ、って、次女がマットの上で可愛くポーズを決めたのを見ながら思う。

来週の土日に買いに行こう。
夫とは相変わらず口を聞いてないが、まぁ眼鏡を買いに行くことを独り言のように呟けば、数時間子供2人の面倒をみるくらい、夫には訳ないはずだ。


ふう。


夫のことを考えると、ノブコはちょっと憂鬱だ。
だから、気にしないことにする。
今日もぼんやり、気がする屋。

可愛いは、正義。
可愛いは、生活。


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